強火のリゼ信者(エリートエルフ)は秒で買収され、契約国連合のコンテンツにハマった『若きハイエルフ』が現れる
人どころか人工物もなかった惑星に、星系国家の主力艦隊と第一星系の陸戦隊以上の戦力が集まっている。
それが自国の惑星なら心強く思うか戦力の無駄遣いを嘆くかのどちらかだろうが、その『ダンジョン惑星』の所属は銀河帝国であり、その惑星以外の星系の支配者である銀河共和国のものではない。
「ちょっとポーター! 少しは隠す努力をして頂戴!」
銀河共和国第四十七星系の地方総督(その星系においてほぼ独裁的な権力を持つ役職)であるエルザが、非公式な会談とはいえ銀河帝国皇帝である俺に暴言じみた発言をしている。
こいつ(エルザ)の忠誠はリゼにのみ向けられている。
故国である共和国すら『裏切るメリットがないから一応従っているだけ』な奴だ。
エルザ視点での俺は『リゼにまとわりつく悪い虫』なので、敵意がすごい。
「戦力は隠しているし、そもそも共和国を攻撃する意図も利益も皆無だ」
隣の銀河の超大国が求める寿命延長ポーション。
それを一つでも多く得るために、銀河帝国の戦力の大部分(残りは数はいても質は低い)を投入している。
ダンジョンからの収益(寿命延長ポーションの存在も売却益も共和国に対しては秘密にしている)の半分を共和国に渡すという不平等条約も『共和国と揉める余裕が今の帝国にはない』から継続しているのだ。
「そっちじゃないわよ。自称機械人間の可愛い三頭身さんのことよ」
「自称じゃないぞ?」
ギョーショーの人格も能力も人間扱いして良いと思う。
実際、契約国連合との国力差とは無関係に、銀河帝国内では『機械人間は人間』ってことに、法的にも文化的にもなっている。
「共和国ではアンドロイドだから、既に摩擦が起きているわ。……そのことでもないの、分かっているわよね?」
分かった上でとぼけているなら構わない。
本当に分かっていないなら、リゼの配偶者候補として不適格なので手段を選ばず殺す、とエルザの目が語っていた。
「それはもちろん」
契約国連合のことだ。
「リゼさまは大丈夫なの? ジャバウォック銀河帝国が支払い不能になって、リゼさまが連れ去られるなんてことになったら……」
先程の殺意など比較にならない敵意と怨念が、俺の神経と胃袋を痛めつける。
「確実に安全とは言えないが、そうなる前に俺と帝国が滅ぶはずだ。その後のことは姫さん次第だ」
「……いいでしょう。ひとまずそれで納得しておくわ」
エルザは一度深呼吸をする。
たったそれだけの動作で、リゼへの愛に狂ったエルフから、エリートエルフに変わった。
「食料生産の急激な拡大と、超光速通信の高性能化だけでも、この星系に限らず共和国の大部分に影響を与えているわ。ダンジョン惑星の『分け前』は膨大なのに、全て三頭身さんの商品を買うために使われているくらいよ」
ギョーショー単独で商売をしていたときと比べて、商品の技術水準も生産量も跳ね上がっている。
兵器や、特に高度な技術を買えるのは、この銀河においては銀河帝国のみだ。
それでも、民間用の商品だけでも社会に変化を強いるものが多く含まれている。
「お互い、なんとか変化に対応していくしかないだろ。帝国は帝国でぎりぎりで運営してるんだ」
「ダンジョン惑星に投入している戦力を見れば想像できるけど、保守派だけでなく共和国全体が帝国に対する警戒を強めているわよ。例外は、直接恩恵を受けている第四十七星系だけね」
「なんなら、この星系(共和国第四十七星系)ごと帝国に亡命してもいいぞ」
エルザは一瞬だけ考え、呆れたように俺を見る。
「住民投票をすれば七割の賛成で独立と帝国への従属が決まって、その直後に残りの三割が反乱を起こすわよ」
「その後は共和国正規艦隊やハイエルフの連中と、姫さんをはじめとする帝国軍の決戦か。ダンジョン惑星ごとなくなりそうだな」
『剣』をこの星系から持ち去っても同じこと(共和国と帝国の決戦)が起きると、リゼも軍事部門の専門家も断言していたことを思い出す。
「ポーター。あなたの性格なら積極的に戦乱を広げたりはしないでしょうけど、ストレスが限界を超えて破滅的な選択をすることは有り得る、と共和国の情報部門は評価しているわ」
俺は言い返せなかった。
心当たりがありすぎるからだ。
「ストレス解消に努力する。他に何かあるか?」
「これ以上は監査局に怪しまれるから終わりにするわ。リゼさまの扱いについての文句なら何日でも言えるけれど……」
エルザが何かを言いかけたが、それより早く扉が勢いよく開かれた。
機械的にも警備的にも厳重なセキュリティがあるはずだが、技術的にも立場的にも歯が立たない相手が来たのだ。
「ポーターさん! エルザさんも!? はっ、密会、浮気!?」
ギョーショーの目が『ぴかー』と光っている。
これは、本気でそう思っているときの光り方だ。
「ねえギョーショーさん? 私がこの男となんて、勘違いにしても酷いのではないかしら。リゼさま相手ならともかく!」
エルザの『笑顔』は殺意と敵意が強すぎて、俺とギョーショーは互いを盾として利用しようとしてダンスじみた動きをしていた。
☆
「ひどいめにあったのです……」
「酷い侮辱を受けたのはこちらの方よ」
「侮辱されたのは俺の方じゃ……いやなんでもない」
俺はエルザに睨まれて沈黙した。
「ポーターさん。他の国の人がダンジョンに入りたいって言ってるのです!」
「ギョーショーがわざわざ伝えにくるほどのことか?」
俺やリゼとは気安く付き合ってはいるが、ギョーショーは新しい超光速通信網や星間国家規模の通販会社を経営する大商人だ。
「大口顧客なので断り辛いのです! 契約国連合のコンテンツがいっぱい売れてうはうはなのです!」
リゼが瞬きをする。
俺は胃に痛みを感じる。
「契約国連合、なのね」
「今のは忘れて欲しいのです! リゼさんの情報をサービスするのです!」
「忘れたわ」
「どうぞなのです!」
いとも容易く行われる贈収賄に、俺は頭まで痛くなった。
「これは独り言だけど、別の機会に私がその情報に触れたら、忘れることはできないわよ?」
「僕以外が情報をもらしてもしらないのです!」
「……で、どんな奴がダンジョンに入りたがっているんだ」
「守秘義務なのです!」
「ダンジョンに入る許可を出すのは帝国だぞ」
俺は胃薬を二回分まとめて嚥下した。
「……怒らないで欲しいのです」
ギョーショーは、データチップを直接近くの画面に突き刺す。
『みゅん』と奇妙な音を立てて、画面に一人の少女の姿が映し出された。
「んんっ!?」
エルザが目を剥いて呼吸を乱す。
「超光速の攻撃魔法をぶっ放したハイエルフに似てるな。姉か?」
あれは、リゼがいなければ『現時点の』帝国艦隊全部で立ち向かっても、勝てるかどうか分からない相手だ。
画面に映っているのは、リゼと戦い敗れたハイエルフよりは外見年齢が上で、体格も良い。
それでも、人間に換算すれば十代半ばから後半の少女にしか見えない。
「ちょっと調べてみるのです。んー、共和国の第一星系の中枢データベースにあったのです! 名前はエイルで、一番若いハイエルフ? 今年で五十才なのです!」
「ギョーショーさん。共和国人の目の前で重犯罪をしないで……私は何も見なかったわ」
ギョーショーによる『買収』が再度行われた。
「強さはどんな感じだ? あのハイエルフ……ソールより強いなら、ダンジョンへ入る許可は出せないぞ」
このエイルというハイエルフ、お付きや護衛は伴わず、単独でダンジョン惑星へ向かっているらしい。
リゼよりは露出度が低い装束と軽鎧を身につけ、実用品には見えない『細剣』を携えた……あえて言うなら『現代版姫騎士』だ。
「そこは大丈夫なのです! 生身で音速程度しか出せないよわよわ戦士さんなのです!」
「生身で音速出せるなら、その人種の優位を宣伝する絶好の人材になるはずなんだがな」
「超光速で戦うリゼさんと比べると、一般的な人間とあまり変わらないのです!」
このときの俺たちは、リゼの圧倒的な力があればたいした問題は起こらないと楽観視していた。
最近のリゼが『ミミズ』や艦相手の戦いばかりをして、まともな対人戦を全くしていないことに、気付いていなかったんだ……。




