エリート艦長たちが地位を捨てて姫様ガチ勢に!? ――そして始まる、泥臭すぎるダンジョン深層『ミミズ』狩り
ジャバウォック銀河帝国から輸送艦隊が到着すると、人類保護機構の混乱はその日のうちに終息した。
新しい『カートリッジ』や新しい『自動調理器』が行き渡ったわけではない。
『美味い料理』がいつでも手に入るという宣伝が人類保護機構全域で行われ、膨大な『カートリッジ』や『自動調理器』が到着したというニュースが繰り返し放送された結果だ。
「やりとげたのです!」
宣伝もニュースも、黒幕がギョーショーであることは言うまでもない。
銀河帝国の国営放送と情報部門だけでなく、無条件降伏に近い『条約』を受け入れた人類保護機構の一部も協力した情報工作は、俺の予想以上にうまくいった。
共和国と交戦中の人類保護機構艦隊複数が戦意をなくして撤退し、戦争が自然休戦状態になったという朗報も届いた。
しかし良いことばかりではない。
「陛下。金を使いすぎでは?」
帝国の内政部門の長が、歯に衣着せずに文句を言ってくる。
不味い水が前提の自動調理器を改造して、ある程度まともな水を使うのが前提の新型調理器を設計し量産し届けるのにかなりの金を使った。
具体的には『隣の銀河の超技術で作られた大型輸送船数隻分』の金がかかっている。
「今は時間と人が優先だ。『徴兵』の進行状況はどうなっている」
「うむ。ダンジョンに向いた人間の割合は予想通り非常に低い。人類保護機構の人口は帝国の数倍とはいえ、ダンジョンに連れていける人数は多くても万は越えぬだろう」
俺の問いに答えたのはリゼだ。
彼女は今、人類保護機構の第一星系で情報収集に当たっている。
なお、対象は軍事部門や内政部門の中枢であり、国民の遺伝子情報などの門外不出のデータ全ての開示を強制中だ。
「それは、少ないのか?」
「艦長。ダンジョンの奥まで侵入するのに必要な人数と、ダンジョンの奥でモンスターを乱獲するのに必要な人数は根本的に違う。中継拠点の維持と防衛にも兵が必要なのだ。多ければ多いほど良い」
「……今さらの話になるが、姫さんがダンジョンを都合よく加工とかするのは無理なのか? 火力に特化した艦の前に、目当てのモンスターを出現させるとか」
俺の提案に、リゼは静かに首を左右に振った。
「私はダンジョンの主ではない。『剣』を使って出入り口の開閉と移動はできるが、それ以上のことは手探りでできることを調べている状況だ。正直なところ、私ひとりでやるより、この時代の専門家に任せられる部分は任せた方が効率が良いはずだ」
「リゼさんがハカセみたいなこと言ってます! 謎生物の謎能力に全部任せるより、代替できないとこだけを任せた方が『長持ち』するって、あっちの銀河のニュースで言ってた気がするのです!」
「おいギョーショー。それは、姫さんの言ってることとはかなり違う気がするぞ。……そのハカセってのはかなり畜生な性格だな」
「かなりじゃなくてすっごくひどい性格なのです! そんなのが契約国連合の研究部門のトップだから、研究職機械人間の性格は基本的に最悪なのです!」
俺は無意識に胃薬を一つ、口の中に入れていた。
「ふむ。技術先進国でのやり方と同じなら、軍事部門としては現状の計画のまま進めるべきと判断する」
「了解だ、姫さん」
俺はリゼに頷いてから、会議室全体を見渡す。
帝国全土から集まった、人種も前歴も何もかもがばらばらな連中だ。
今はまだ、利害の一致や、リゼの強烈なカリスマでなんとかまとまっているだけの集団でしかない。
「計画通り、姫さんは新人を実地で鍛えながら浅層から攻略する。俺とランス級艦長たちは深層で『ミミズ』狩りだ。姫さんには出入り口二箇所の維持も並行して行ってもらう。……どの程度続けられる?」
「深層で戦いながらならともかく、浅層や中層で戦いながら負担にもならぬ」
少し背中から出ている光の翼が、明らかに俺を意識した動きをしている。
惚れているとかそういう『意識』ではない。
『別行動してだいじょうぶなのかな』という感じだ。
「ランス級の中から最精鋭を連れて行く。姫さんと最精鋭が抜けた分は、ランス級とスピア級の増産と警戒網で対応する。……異論があれば今言ってくれ」
本当に時間がないんだ。
帝国から『徴兵』した分は、既に一定の訓練を施した上で、陸戦隊と共にダンジョン浅層で活動させている。
「ポーターさん。これ以上を、現実的な予算でするのはむりとおもうのです」
「艦長。私も同意見だ」
帝国の最大の同盟者であるギョーショーと、帝国最大の権威と戦力を持つリゼが同意した後では、異論が出るわけがない。
と、思っていた。
「陛下ぁ。艦長辞めますんでぇ」
「私もっす!」
俺がダンジョン深層に連れて行くつもりだった艦長たちの中で、特に優れた連中が『反旗』を翻した。
正確には、ランス級艦長という給料も任される戦力も大きな立場を投げ捨ててでも、『徴兵』された連中と共に鍛えられて強くなるつもり、ということを書いた申請がARメガネに表示されていた。
しかも高額の違約金を支払い済みだ。
止める手段がない。
「分かった分かった。姫さんに迷惑かけるなよ。諸君の尽力を期待する。では解散!」
大国相手に勝利しても、戦力が拡大しても、銀河帝国に余裕は存在しなかった。
☆
「僕が撃破すればぜんぶ僕のものなのです!」
ダンジョン深層への一番乗りはギョーショーだった。
センパイ大使が乗っていた艦よりは常識的な外見の、こっちの銀河の価値観では異形のセンスに溢れている艦で、超出力レーザーを撃ちまくる。
異様な大きさと異様な頑丈さを誇る『ミミズ』が、体の三分の一ほどを消し炭にされて、しかしそれでも息絶えない。
「ギョーショー! 一旦下がれ!」
俺が追いついたときは既に遅かった。
斜め後ろからギョーショー艦に忍び寄った無傷の『ミミズ』が、ギョーショー艦に飛びかかって、超光速機関でもある『羽』を食いちぎる。
「ぎゃー! 高かったのにひどいのですー!」
「早く脱出しろ馬鹿野郎!」
艦の半分以上が『食われ』た艦から、脱出艇としても機能する操縦室が飛び出してくる。
俺は『フリーキャッスル』に新しく搭載した大型トラクタービームで操縦室を捕獲して、『フリーキャッスル』の船倉に移動させてから安堵の息を吐いた。
「ポーターさん。もうちょっと早く来てほしかったのです」
「こっちの制止を振り切って飛び出したのはギョーショーだろうが。……しかし速いなこいつ。姫さんが戦っていたのより強い個体か?」
大型トラクタービームを逆に使って『ミミズ』を『押しのけ』ながら、新装甲の上に載せられるだけ載せた質量兵器で狙う。
レールで磁力を使って加速させた弾丸を打ち込むだけの、ある意味原始的な兵器だが設計が契約国連合だ。
亜光速まで加速した質量弾を連続で打ち込まれた『ミミズ』がのたうち、しかしその勢いはあまり変わらない。
「リゼさんに怯えて実力を発揮できなかったのかもです! また来るのです!」
別の『ミミズ』が遠くから飛んでくる。
トラクタービームまで使って戦っているので躱しようがない。
並の装甲よりも固そうな牙が、『フリーキャッスル』の装甲へめり込んだ。
「新装甲だぞ!?」
「すぐには壊れないのです! ポーターさん、今のうちに脱出するのです!」
まるで『脱出できないギョーショーが俺に脱出を勧めている』ようなセリフだが、実際のギョーショーは自分の脱出艇(操縦室)で『フリーキャッスル』から離れようとしている。
「超光速出せそうな奴相手に逃げても無駄だ。後五秒だ。衝撃がくるぞ!」
「えっ」
『フリーキャッスル』に噛みついた『ミミズ』が眩しく光る。
はるか遠くにある、ダンジョンの外とダンジョンの深層を繋ぐ『出入り口』から少しだけ離れた場所で、三十隻近いランス級が隊列を作ってレーザーを照射し続けているからだ。
「ちょっとポーターさん! レーザーがこの艦にも当たってるのです!」
「仕方ないだろ。他にやり方を思いつかなかったんだから」
新装甲は凹んだだけで壊れはしない。
しかしそれは外見だけだ。
『ミミズ』の圧倒的頑丈さと筋力により、新装甲の状態は急激に悪くなっていっているし、ランス級による『流れ弾』の被害も深刻だ。
「新装甲、もうあんまりもたないのです!」
「一匹倒せば撤退する。それまではもつだろ」
推進機を酷使し、噛みつこうとしてくる別の『ミミズ』を躱す。
噛みついたままの『ミミズ』に別の角度からレーザーが照射されるようになり、黒焦げの部分が表面から芯にまで到達した。
発光。
そして宝箱への変化。
俺はトラクタービームで宝箱を回収しながら、『ミミズ』一匹分の質量が消えて急加速した『フリーキャッスル』を制御する。
「ランス級は全艦撤退しろ。『フリーキャッスル』もすぐに後を追う!」
追撃してくる『ミミズ』を押し返していたトラクタービームの発生装置が火を吹いて停止する。
無傷の『ミミズ』がみるみる近づき、俺の顔面が『ひくり』と強張った。
「出入り口なのです!」
『フリーキャッスル』が出入り口を通過する。
宇宙に近いダンジョン深層から、惑星表面へ一瞬で切り替わる。
モンスターは追って来れない。
俺とギョーショーは、同じタイミングで大きなため息を吐いた。
「深層の宝箱ひとつと引き換えに、『フリーキャッスル』の装甲を全部張り替える必要がある大ダメージか」
「リゼさん抜きで倒せたのは大戦果なのです! でもコストかかりすぎなのです……」
なお、宝箱から出てきたのは『マジックバッグ』であり、寿命延長ポーションではなかった。
「ぎ、銀河間交易には使えるのです……」
「今後は、生産した新装甲を全部この惑星に持ち込ませる。新装甲の張り替え施設もここに移設だ。こうなりゃとことんやってやる!」
まだ、諦めるには早すぎる。
俺は、俺自身とギョーショーにそういい聞かせながら仕事を続けるのだった。




