超光速機関に隠された『絶望の真実』と、寿命延長ポーションを餌にした超大国との命がけのチキンレース
「ポーターさん! 操縦かわってほしいのです!」
超光速に達して星系を離れた直後、ギョーショーが強く主張してきた。
「ギョーショーお前な……」
俺は文句は言ったが操縦を交代する。
言いたいことは山ほどあるが、『フリーキャッスル』は俺の艦だからな。
「ひどいめにあったのです……」
ギョーショーは自分の席で『ぐったり』する。
俺は、極彩色の宇宙に透けて見える『あれ』を意識しないようにして、可能な限り普段通りの操縦を心がける。
「生き残ったんだからいいだろ」
超光速機関が警告を発して艦を強制的に減速さる。
『フリーキャッスル』の艦首をかすめるように、圧倒的な気配の『あれ』が圧倒的な速度で通過する。
俺の顔はひきつり、胃だけでなく体のあちこちが痛い。
俺はこれまで、こんな場所を超光速移動していたのか。
「艦長。体調が悪いなら予備パイロットの手を借りればどうだ。陸戦隊の中にも操縦資格を持つ者はいる」
リゼは心配そうな表情だ。
ドレスの背中はむき出しではないのに、いつも通りの光の翼が、しかし少しだけ窮屈そうにゆっくり『ぱたぱた』していた。
「ありがとう、姫さん。今は戦闘中じゃないからな。慣れるためにも俺が動かすよ」
非戦闘時に操縦できないなら、二度と艦を操縦できないと思ったほうがいい。
俺は、自分自身を襲うストレスに正面から向き合った上で、今の自分にできる範囲の操縦をする。
「ポーターさん! いつもと比べてへたなのです!」
「お前が言うなよギョーショー」
実際に下手になってはいる。
宇宙船の操縦資格を得て何度か星系間航行をした程度の、新米艦長程度にしか操縦できていない。
「姫さんの反応を見て予想はしていたが、この銀河というか今の人類文明は、『あれ』を自動で避けてくれる超光速機関のおかげで成立しているんじゃないか?」
「まーたファンタジーなことを言い出したのです、と言えればよかったのです……」
俺とギョーショーが同時にため息を吐いた。
俺の操縦は数分前と比べて少しマシにはなった。
『あれ』に対する恐怖に慣れはしない。
だが、恐怖を認識した上で思考し、行動するのには、少しだけだが慣れた。
「ギョーショー。真面目な話だ。……契約国連合なら『あれ』を倒せるか?」
「分からないのです。ただ、無汚染水や軽汚染水があるこの銀河の環境を大きく変えようとはしないと思うのです」
「……化け物の駆除より水資源か」
侵略される可能性が小さいのは素晴らしい。
しかし、万一『あれ』が襲ってきたとき、銀河帝国が契約国連合に従属や降伏しても守ってくれないのではないかという恐れがある。
契約国連合にとって必要なのは、数星系しか支配していない自称銀河帝国ではなく、水資源だろうしな。
「艦長」
「いやすまん。気弱なツラを見せたな。姫さんしか知らなかった情報を俺やギョーショーも知ることができたのはいいことだ。それに状況も悪くない。超光速機関の反応から判断すると、『あれ』はおそらくずっとこの銀河にいたはずだ。『あれ』の行動がすぐに変わる可能性は極小だ」
俺はそう判断した。
その判断の上で、皇帝として判断、決断、行動する必要がある。
「結局、最優先は金稼ぎだ。研究開発にも、軍拡にも、ギョーショーや契約国連合から技術や物を買うにも、とにかく金が必要だからな」
「ポーターさん。警戒網の維持と拡張の費用と、人類保護機構に対する工作と戦後統治のための費用も必要なのです!」
銀河帝国は急拡大を続けそうだが、借金の額も急拡大を続けそうだ。
収入を急拡大させ続けないと破綻する、難易度高すぎのチキンレースだ。
「ギョーショー。例のポーションを売り出すのは駄目か?」
今『フリーキャッスル』で運んでいるのは美容ポーションだ。
化粧品としては庶民用の化粧品にすら劣るが、契約国連合が直接高額で買い取る、今の帝国の主力商品にして命綱だ。
実はそれ以外にもポーションは存在する。
深層のモンスターがドロップする、寿命延長ポーションだ。
「あれは全部僕のものなのです! っていうのも本音なのですけど」
ギョーショーが感情をむき出しにした直後に、いきなり冷静になる。
「あれをセンパイに伝えるのは危険なのです。いえ危険じゃなくてとってもとってもきけんなのです!」
ギョーショーの言葉遣いが子供っぽく、同時に恐れに満ちたものに変わっていく。
リゼが周囲に指示を出し、人払いと、通信の制限を始めている。
「理由を聞いてもいいか?」
俺の問いに、ギョーショーは真剣な表情で頷く。
「僕の取り引きの規模も大きくなったので、契約国連合の上の方の情報も集まってきたのです」
「……すごく嫌な予感があるが続けてくれ。データで送ってくれてもいいぞ」
「ポーターさんも絶望を味わうのです! 契約国連合の中央評議会が、肉人間の延命技術に積極投資をしてるのです」
「理由は?」
「マスターの延命に決まってるのです。機械人間がマスターを欲しがってるのは以前に伝えたですよね?」
「ご都合主義の極みみたいなあれか? あんなの実在するとしたら歴史に残る英雄だろ」
「英雄かどうかは人によると思うですが、基本的にその通りなのです。で、その英雄を延命したいひとたちとマスターを延命したい機械人間がどうすると思います?」
「寿命延長ポーションを知れば、こっちの銀河に乗り込んで来かねない、か。私益より国益を優先して欲しいもんだがな」
うまいやり方を考えようとしても『あれ』の存在が気になって集中しきれない。
『あれ』は『フリーキャッスル』を追いかけてはいない。
どうやら縄張りのようなものがあるようで、何光年か行けば振り切れるのだが、そこにはまた別の『あれ』がいる。
「艦長、ギョーショー。そういうときは、一人分の寿命延長ポーションを用意してから、最大の有力者に賄賂として贈ればいいのではないか?」
リゼが『なんでそんなことが分からないんだ?』と心底不思議そうな表情で言った。
「いや、それは……いけるか?」
俺は、契約国連合の圧倒的技術力に幻惑されていたのかもしれない。
好き勝手やるギョーショーが製造された国であり、かなり『いい』性格をしているセンパイ大使を送り込んできた国だ。
案外、賄賂とかが当たり前の国なのかもしれない。
「えっ? うーん……。それは人によると思うのです。賄賂を提案されたら即逮捕しにくる人が多いのです」
「ギョーショー。自分の立場に置き換えて考えてみよ。ギョーショーがマスターを得た。そのマスターが老衰で死にそうになっている。そこに隣の銀河の国が『寿命延長ポーションを一人分なら用意できますよ』と言ってきたら、どうする?」
「即座に金で黙らせて、可能なら生産手段を奪います」
ギョーショーの見開かれた目が、冷たく光った。
その光に照らされたリゼは、ドレス姿なのに姫騎士姿よりも強く、同時に残酷に見える。
「その相手が『すぐには殺せない』程度に強ければどうだ。私なら、ダンジョンの出入り口を開閉できる『剣』を持って逃げまわることもできるぞ」
「……そのときの僕がどの程度追い詰められているかによると思います。マスターが死んじゃいそうなら、成功確率とか考えずに強硬手段に出ると思うのです」
ギョーショーの目の光と口調が、徐々に普段のそれに近付いていった。
「艦長」
ギョーショーから重要な情報を引き出したリゼが、『判断は任せる』という態度で俺を見る。
「まず、俺たちには情報が足りていない。契約国連合の権力者たちがどうなってるかを知る手段がない。おまけに、寿命延長ポーションについて知らせる時期を遅らせるほどリスクは大きくなる。ただの水資源を有り難がるのが契約国連合だ。どんなに技術があっても、肉人間が長生きできる環境とは思えない」
「ポーターさん。結局どうするのです?」
『わかりきってることをなんで得意げに言ってるのです』という呆れ顔をするギョーショーに、俺はにやりと笑いかけた。
「あー、困ったなー。賄賂路線で行こうと思ってるのに金がないなー!」
俺が、わざとらしい、第三者に聞かせるための言葉を口にした直後、ギョーショーから『着信音』にしか聞こえない音が響いた。
「えーっと……。センパイからある時払いの催促なしの出資が提案されたのです。僕の船が十隻単位で買える額なのです」
「盗聴か」
リゼが殺気を漏らす。
俺は、予想以上の反応に安堵する。
「今後の、寿命延長ポーションの取り分は、ギョーショーとそれ以外で一対一でいこうと思ってるんだ!」
ギョーショーの『着信音』が連続する。
ギョーショーの顔に血の気が引く機能はないはずだが、目の光があまりの恐怖で消えかかっているのがなんとなく分かる。
「あの、あのあの、ハイエンドな体を複数買える額、強制的に出資されたのです」
「その条件を飲まないなら殺して奪い取るってことだろうな。はは、乱暴ではあるが、力関係を考えるとずいぶんと上品じゃないか」
覗き見していたセンパイ、いや、契約国連合に対する怒りはある。
だがそれでも、化け物じみた超大国相手に条件闘争できているという実感が、俺を自暴自棄から遠ざける。
「姫さん。ダンジョン深層での狩りに必要なものを教えてくれ。人類保護機構から賠償(名目は食料支援の見返り)として巻き上げることもできるし、今なら契約国連合も必要なものを寄越すはずだ」
リゼの口の端が釣り上がる。
思い切り広がった光の翼が、武者震いするかのように力強く上下する。
「人間と人間用の武器だ。ランス級より強力な艦があったとしても、操縦する者の強さが足りぬ。……艦長ならいけそうだが一人ではな」
「了解だ、姫さん。人類保護機構からはダンジョン用の人材候補を提供させる。人類保護機構の全星系から選抜すれば、姫さんほどではなくても強い奴はいるはずだ」
「武器は契約国連合から取り寄せるのです。……僕のは、差し出さなくていいですよね?」
かつてなく気弱になったギョーショーが、すがるように言ってくる。
「ギョーショーの財産を強制的に取り上げようとするならこっちも徹底抗戦するさ。どうやらあっちは本当に切羽詰まっているらしい。今ある全部じゃなく、今ある全部よりもっと多くを、すぐにでも欲しいんだろ。……時間との勝負だ。やるぞ」
リゼとギョーショーが、覚悟の決まった顔で頷いた。
本日も更新をお読みいただきありがとうございます!
第40話をもって、一つの大きな区切り(対・人類保護機構編の完結)となります。
次回からは、超大国から巻き上げた莫大な資金と、降伏させた敵国の人材をフル活用して、いよいよ「ダンジョン深層」へと挑む新展開に突入します!
姫様もさらに大暴れする予定ですので、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!
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