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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第六章 えげつない特産品で敵国を経済崩壊へ!  姫騎士を『魔王』呼ばわりした愚者たちへの容赦ない報復戦

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命がけで持ち帰った『軍事機密』が、不味いパンの地獄を加速させる。――最強の武力と最悪の知略が交差する防衛戦

 リゼが甲板を蹴って飛び立った。

 急速に熱を帯びていくヒートソードを手に、光の翼を羽ばたかせて極太『巡洋艦』に亜光速で接近する。


「姫さん! 誰何と降伏勧告はこっちでする! 艦隊ち陸戦隊の指揮は任せた!」


 リゼに蹴られた側の『フリーキャッスル』の操縦室で、俺は衝撃で揺れる艦を必死で操作しながらそれだけ伝える。


「ポーターさん! 艦を揺らさないで欲しいのです!」


「仕方ねーだろ! 姫さんの蹴りは最低でも亜光速質量弾級の威力なんだ!」


 リゼが甲板を蹴ったときの衝撃で、『フリーキャッスル』は揺れながら高速回転している。

 質量制御を酷使して乗組員へのダメージを最小限にして、推進器をフル活用して明後日の方向へ飛ばないよう制御しても、『フリーキャッスル』はなかなか安定しない。


「ふふ。単騎で蹂躙というのも悪くないが、軍の長として配下に利益を与えねばな」


 リゼの剣に、熱以外に由来する光が灯る。

 リゼの進路が『敵艦に直撃』から『敵艦の脇をすりぬける』に変わり、すりぬける瞬間にヒートソードが何度も振るわれ、光の線が敵艦(巡洋艦)の超光速機関を貫いた。


「何重にも予備回路がある超光速機関を、一度の攻撃で機能停止に追い込むのかよ」


「うーん……。リゼさんは相変わらず速すぎて、うまく撮影できないのです」


 ギョーショーは本当に久々に『フリーキャッスル』の中にいて、勝手に艦の装備を使っている。

 ARメガネの端にギョーショーがいる席の状態を表示させると、『フリーキャッスル』に残っている無人警戒機も使ってリゼ個人を観測しているようだった。


「おいギョーショー。姫さんのデータを商品にでもするつもりか?」


 敵艦隊からミサイルが飛んでくる。

 大量の無人警戒機を運ぶために兵器はほとんど下ろしているので、迎撃手段は威力も射程も貧弱な対デブリレーザー砲しかない。

 俺はある程度の被害は仕方ないと割りきる。

 簡易AIが最も『脅威』と判断した順に三つ、俺が最も『嫌』と感じた順から三つ、重複があるので合計して四つを対デブリレーザー砲で狙う。


 簡易AIが低『脅威』と判断したミサイルが、通常の倍以上の範囲に凶悪な破壊力をばらまき、妨害用の爆発でもないのに『フリーキャッスル』のセンサーを乱れさせた。


「ポーターさん! 今の結構すごかったのです! この銀河のわりには!」


 ギョーショーにとっては最上級の褒め言葉なんだろうが、相変わらずの上から目線だ。


「姫さんを狙っても無駄だと判断して、姫さんの移動手段を狙ったな。まあ無駄なんだが」


「装甲だけはあっちの銀河基準なのです!」


 あっちの銀河基準で『最も安価な装甲』の一つらしい。

 それでもミサイルの直撃を受けてもびくともしない。

 『交換推奨時期』は短くなるがな。


「よし、『フリーキャッスル』が安定した」


 リゼの攻撃は続いている。

 敵艦隊の最後尾にいた『最も重装備』の『巡洋艦』が四隻、超光速機関に甚大な被害を受けている。

 戦闘継続は可能でも、超光速移動は不可能。

 つまり、リゼに確実に狩られる立場になったということだ。


「やっぱりリゼさん強くなってるのです!」


 ギョーショーがはしゃいでいる。


「勝手に装備を使うな。お前の船はどうしたんだよ」


「例の『あれ』を刺激する可能性があるから乗るなと言われてるのです……」


「センパイ氏からか? マジ?」


 ひゅっ、と俺の口から恐怖たっぷりの息が漏れた。

 俺は、極彩色の宇宙の奥にいるものを知覚できない。

 それでも、リゼがあれだけ恐れ、極めて高度な技術で作られた重武装銀河間連絡船があっさり潰されたことを知っているので、その恐怖は嫌というほど『感じて』いる。


「センパイの考えすぎなのです」


「おいこらギョーショー。俺の目を見て話せ」


 ギョーショーは明後日の方向を向いて、俺と目をあわせようとしない。

 俺は舌打ちして、敵艦隊が後ろ向きに放つミサイルの迎撃と、戦場全体の把握を優先する。


「敵艦の質が異様に高いな。姫さんがいなけりゃ、『フリーキャッスル』がいても負けてたぞこれ」


「どれどれなのです。……ポーターさんよりクラッキングがうまい人がいるのです! 第三星系にある僕の工場が、クラックされる寸前なのです!」


「外部と繋がっているが、ギョーショーから買ったセキュリティ機材を組み込んでるんだぞ!?」


「エリート肉人間さんは、結構どこにでもいるのです。甘くみちゃ駄目なのです!」


 機械人間であるギョーショーが肉人間を擁護する発言をするのは、俺が冷静なときなら面白く感じたかもしれない。


「ええい、こっちから反撃……いや待て。ギョーショー、美味い料理が作れる『カートリッジ』のデータ、でっち上げられるか? 概要はアクセスできても詳細までは見れないか、詳細を見ようとしたら自動で消去される感じにしたい」


「ポーターさん。性格悪いって言われません?」


 ギョーショーは口ではそう言うが、俺のARメガネに『本物にしか見えない偽物の商品データ』を送ってくる。

 通常の『カートリッジ』なら『食べ続けるのが苦痛なパン』が出てくるのに、架空の高級『カートリッジ』を使えば『焼き立ての絶品パン』を食べられる、と事情を知る俺でも勘違いしてしまいそうになる宣伝映像だ。


「これで頼む」


「こうやって見せてー、中身がからっぽと気づかれる前に、消去したのです!」


 帝国最大の企業のオーナーなのに、いたずら小僧(こいつの性別はよく分からん)そのものの態度だ。


「よくやったギョーショー! 後は敵艦隊だが……」


 状況的にどう考えても人類保護機構の艦隊のはずで、実際にそれを示す状況証拠は集まりつつあるが『外交で使える物証』はない。


「手強いな。姫さんまで戦場に出て、姫さんの参戦前にはランス級に被害まで出ている。もう少し利益を得たい」


 良い考えが浮かばないので、敵艦同士の通信を傍受して得た情報をリゼに送信していく。

 どの艦にどんな人材が乗っているか、どの艦とどの艦がどんな量の情報を送受信しているかの情報くらいしか送れないが、リゼは素早く攻撃目標と攻撃手段を変えていく。


「艦長! 今から指定する艦に陸戦隊を送り込んでくれ! 装備が豪華な割に人間の気配が少ない」


「承知した。俺とギョーショーがクラッキングを担当するから他への支援は薄くなるぞ」


「うむ。私がこれ以上戦っても虐殺にしかならぬ。適当に戦ってから戻る」


 リゼはそう言うとヒートソードへのエネルギー供給を止めて、中破したランス級の前に移動して『盾』を出現させる。

 ランス級一隻を覆えるほど大きく、その代わりに以前見たときよりも非常に薄い。

 ミサイルや質量弾の残骸だけでも破れそうだと思ったのは俺だけのようで、敵『巡洋艦』が数隻がかりでレーザーを集中したときも、どこからも不安の声は聞こえない。


「まずいな。姫さんが頼りになりすぎて姫さんが前提の軍になっちまいそうだ」


「ポーターさん! 遊んでないでそっちのデータくださいなのです!」


「おう、悪い」


 星間国家の艦隊相手に、艦の制御を奪うようなクラッキングは不可能だ。

 それでも、敵艦のセンサーを『ほんの少しだけ』ごまかすのは可能だ。


「陛下」


「おう、行ってこい」


 陸戦隊が出撃する。

 リゼのように生身で超光速や亜光速を出すことは無理なので、使い捨ての小型推進機を使っての突撃だ。

 俺とギョーショーのクラッキング……というより電子妨害があっても敵艦に気づかれ、対デブリレーザー砲を向けられる。


「うまくいってくれよ」


「ギョーショーちゃんの商品を信じてほしいのです!」


 柄にもなく祈る俺と、心配など欠片もしていないギョーショーが見ている中、陸戦隊の連中が掲げる、新装甲製の盾がうっすら光る。

 それ以上の変化はない。

 対デブリレーザーでは絶望的に威力が足りないのだ。


「よし!」


「今、敵艦にとりついたのです!」


 たどり着いてしまえば後は簡単だ。

 個人としての戦力はリゼと比べて万分の一未満でも、リゼに憧れリゼから学んだ最精鋭だ。

 しかも、新装甲なんていかれた性能の素材でできた盾まである。


 要するに、個人で携帯できる『戦艦』級の装甲だ。

 時間はそれなりにかかっても、戦死者どころか負傷者もなく敵艦を制圧していく。


「ポーターさん。勝利も撤退も不可能と判断して、最後に強力なデータ通信をするつもりなのです!」


「よし、その通信は邪魔しないでやれ。これで特別な高級『カートリッジ』の情報に、『艦隊と引き換えに得た』という説得力が加わる。人類保護機構の連中には、存在しないものを探し求めてもらおう」


 性格の悪い笑い声が響いている。

 それが俺自身の声と気付いて、俺は誤魔化すように咳払いをするのだった。



  ☆



 最近、リゼの機嫌が悪い。

 あの戦いで『駆逐艦』が十隻近くとほぼ無傷の『巡洋艦』一隻を鹵獲して、戦いに参加した将兵やその遺族に手厚い保障と報酬を与えることはできた。

 ただ、リゼにとっては不満が残る戦いだったようだ。


「むう。不完全燃焼だ」


「姫さん、またダンジョン深層への遠征に行くつもりか? もう少し式典に顔を出してもらえると有り難いんだが」


 皇帝の俺より権威も人気も上なのがリゼだ。

 来賓が俺だけだと露骨に落胆されるのも珍しくない。


「あれは狩りですらない作業だ。持参金を稼ぐという目的がなければやる気も起きぬ」


「姫さん個人に価値がありすぎて、持参金がゼロでも巨額でも誤差にしかならないと思うぞ」


 俺とリゼが気の抜けた会話をしていると、優先度が極めて高い通信が届いて、大きな画面にギョーショーの顔面が映る。


「ポーターさん! 始まったのです! 人類保護機構第一星系で大規模なデモが発生したのです!」


 ギョーショーの背後に映っているのは、現地の放送局が流しているらしい映像だ。

 デモ隊と治安部隊の交戦はないようだが、人数も膨大で気配も荒々しい。


「ポーターさんの予想通りに、味に飽きたのです?」


「毎日一食程度なら飽きないだろうが、毎食あれならノイローゼになる奴も多いだろうぜ」


「艦長。攻めるか?」


「攻めるのが戦後統治にプラスに影響するなら、だな。占領に成功しても戦後統治で大損ってのは避けたいぞ」


「ふふ。勝利できて、勝利に意味があるというのが、これほど心踊るものとはな……」


 リゼがまた、過去のクソみたいな労働環境を思い出して泣きそうになっている。


「姫さん、ギョーショー。そろそろ仕上げだ。派手にいこうぜ」


 うまいことやれば、銀河帝国が銀河共和国に匹敵する勢力まで成り上がれる。

 俺は、過去最大級に調子に乗ろうとする俺自身を自覚し、なんとか冷静になろうとしていた。

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