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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第六章 えげつない特産品で敵国を経済崩壊へ!  姫騎士を『魔王』呼ばわりした愚者たちへの容赦ない報復戦

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「人類保護機構には賢明な判断を期待したい」――国営放送を使った極悪な公開煽りと、焦った敵国の素早すぎる軍事報復

 一つの大木から切り出されたテーブルと、家畜からとった材料のみを使ったソファー。

 専門の博物館で厳重に保管されるべき家具たちが、ひとりの機械人間によって使用されていた。


「んふふなのです!」


 ワインのかわりに絞りたての牛乳が注がれたグラスを、小さな手が器用にまわす。


「向こうの銀河では特権階級専用のぜいたくなのです!」


 ふんすふんすと鼻息荒く、ギョーショーは両手でグラスを持ち上げる。

 俺にとっては脂肪が濃すぎる飲み物だが、ギョーショーにとっては『ちょうどいい』らしい。

 小さな口で、少しずつ口に含んでは、目を『きらっ』と光らせて楽しんでいた。


「既に始まっているがジャバウォック銀河帝国国営放送総合ニュースの時間だ。司会はそこのギョーショー。ゲストは皇帝の俺だ。よろしくな」


 俺は『カメラ』に向かって愛想良く挨拶してから、胃に優しい温度の白湯が入ったカップから水分補給した。


「ところでギョーショー。それが向こうでの特権階級専用ってのは本当か? センパイ大使から正規のルートで抗議が届いているんだが」


 俺のARメガネに、契約国連合全権大使から届いた外交文書が表示されている。

 関係は対等でも力の差は天文学的規模であっちが上だから、本当に心臓と胃に悪い。


「この番組は国営放送なので責任はポーターさんにあるのです!」


「全力で責任転嫁するんじゃねーよ。どうせ『嘘ではないが大げさ』なんだろ? 俺からセンパイ氏に謝罪しとくから、お前も後で頭を下げとけ」


「はいなのです……」


 非常に調子に乗っていたギョーショーが、少しだけ大人しくなる。

 まあ、調子に乗るのも仕方がない。

 例の『特産品』がアホみたいに売れまくっているんだ。


「内政部門からギョーショーに名指しで要請だ。これ以上溜め込むなら取り締まる、だ」


「おーぼーなのです! ギョーショーちゃんは合法的手段しか使ってないのです!」


「その法律には『常識的な範囲なら』って但し書きがあるだろ。ギョーショーが儲けるのは構わん。必要以上に周囲を振り回すなってことだ」


「ポーターさん、僕にも言い分があるのです」


 ギョーショーは、牛乳が半分ほどになったグラスを机に置く。

 足を組んで格好つけようとしたようだが、三頭身なのでうまくいかずにソファーの上で『ばたばた』する。


「ほらよ」


 俺から手を貸してやる。

 見た目より重いが、どこがどの程度重いか分かっているのでそれほど力は必要ない。

 少なくとも、腰痛になる程度ではない。


「ありがとうございますなのです!」


 ギョーショーは明るく返事をしてからソファーに座り直す。

 相変わらず人形っぽい見た目ではあるんだが、その小さな体から感じる気配と気合いは一般的な人間とは比べものにならないほど強い。


「帝国のみんなのお陰で儲かってるのです! もっと儲けさせて欲しいのです!」


 目の光りが通貨の色に光っている気がする。

 俺はドローンに白湯のお代わりを運ばせながら、胃薬を胸ポケットから取り出した。


「人類保護機構のニュースを流すか? 使用料の関係で要約版になるが」


 ギョーショーが小さな親指を立てたので、俺はARメガネを使って操作する。


 帝国の輸送艦隊を厳重に護衛する人類保護機構の正規艦隊。

 宇宙港に詰めかけている人類保護機構の有力企業関係者。

 俺たちは貧民を狙い撃ちにする予定だったのに、社会の下にはほとんど届かず中層以上で酷使される『特産品』。


 暴力的な場面は避けた編集にしているのに『熱気』と『狂気』が感じられるニュースばかりだった。


「自動調理器でできたものをさらに料理するとはな」


「予想より需要が多いのです。たぶん、まだ需要の三分の一も満たせてないのです!」


「これ以上の増産は帝国の他の産業に悪影響があるからやめて欲しいんだがな。望むなら限定的に自動工場を許可するぞ、ギョーショー」


「使用料が高い技術が必要なので自動工場は建てたくないのです。一通り需要が満たされたら今の生産力でも過剰なのです!」


「本当かー? 第四星系以降の星系や、共和国からも引き合いが来てるだろ」


「ポーターさん。それ言って良いのです? 僕と取り引きのある企業の株価が今すごく急騰しているのです!」


「人類保護機構が帝国との通商条約を飲めば落ち着くさ」


「通商条約が締結されたら、『特産品』の工場を人類保護機構にも建てるのです!」


 その『通商条約』の内容が、人類保護機構の無条件降伏に近い内容であることは、俺もギョーショーも口にしない。

 この総合ニュースだけ見れば、帝国もギョーショーも現地生産に前向きなのに、人類保護機構が拒否しているように見える。

 実際には経済侵略しながらの降伏勧告なのにな。


「人類保護機構には賢明な判断を期待したい」


「期待したいのです!」


 この映像が人類保護機構に届き、人類保護機構指導層がぶち切れるのを、俺もギョーショーも心から願っていた。



  ☆



「艦長。あれが賊か?」


 ギョーショーが敷設した超光速通信網よりも早く、リゼが敵の位置を特定した。


「無人警戒機が配置されてない宙域だな。姫さん、それ以上詳しく調べないで良い。生身で『見る』のも疲れるだろ? 今から無人警戒機を送り込む」


 『フリーキャッスル』の甲板に『みっしり』固定されているコンテナの群れから十個ほどのコンテナが離れて行く。

 コンテナという殻を割って姿を現したのは、真っ白な翼が生えた、濁った単眼だ。


「相変わらずすげえな、あっちの銀河のデザインは」


 国民向けに放送されているわけでもなく、他国人と外交をしているわけでもないので、俺の顔は神経質に引きつって声もうわずっていた。


「ポーターさん。デザインも重視するならお金がもっと必要なのです」


「ギョーショーの出身地の人間は本当に人間か? ギョーショーの言う肉人間も機械人間も、この種の設計はしないと思うのだが」


 リゼの顔には疑念と懸念が浮かんでいる。

 背中から少しだけ顔を出している光の翼も『ほんとうなの?』と敵意はないが疑う動きをしていた。


「人間かどうかあやしいひとは結構いるのです! 僕はそういうひとを謎生物って呼んでるのです!」


 無人警戒機が翼を上下させて姿を消した。

 原型機は位相跳躍機関だが、現在搭載されているのは超光速機関だ。

 超光速移動としては『遅い』速度しか出ないし、無人警戒機に搭載されている簡易AIの性能が低いので戦闘にも弱いが、見た目と戦力を除く性能はかなり良い。


「艦長。隣の銀河ではなく、魔界か天界か地獄の可能性はあるのだろうか」


「隣の銀河は物理的には存在するはずだぞ? 魔界や天界や地獄が実在するかについてはノーコメントだ」


 皇帝という立場で複雑な問題についてコメントしたくはない。

 個人としては「俺に害がないなら好きにしてくれ」だ。


「食糧事情は地獄かもしれないのです。味をあんまり気にしないギョーショーちゃんでも、あっちでの食生活に耐えられるか、ちょっと自信がないのです」


 ギョーショーの目の光は、珍しく弱々しかった。


「ふむ」


 リゼが自分のARメガネを操作している。

 相変わらずの姫騎士装束なのに、この銀河のこの時代の最新装備を問題なく使いこなしている。

 知識や経験が偏っている(俺から見れば超古代のファンタジーな知識や常識ばかりある)だけで、頭の良さと柔軟さを兼ね備えているのだろう。


「まどろっこしくはあるが、実用には耐えるか。数は私が『見た』通り。……人類保護機構の遊撃艦隊に近い編成、か?」


「姫さん、画面に出すぞ」


 複数の無人警戒機からの情報を統合して一つの画面に映し出す。

 現実の光景ではなく簡易AIが推測した映像になるが、現実との差異はそれほどない、はずだ。


「強そうなのです!」


 『巡洋艦』と『駆逐艦』で構成された艦隊なのだが、どれも『太い』。

 ランス級やスピア級は『巡洋艦』や『駆逐艦』として一般的な装備を超効率でまとめた艦で、性能はともかく部分部分は普通だ。

 対してこの艦隊は、高性能な大型パーツを惜しみなく使っている。


「たぶん、ランス級の倍以上のコストなのです! 『巡洋艦』はもっと高いのです!」


「進行方向にある星系に、ランス級艦隊を急行させている。現地のスピア級艦隊と合流すれば勝てる……よな?」


「艦長。勝負には運も影響する。全力を尽くしても万が一はある」


 経験した戦闘の回数では俺を圧倒しているリゼの言葉だ。

 説得力はとんでもない。


「ポーターさん。今から向かえば、戦闘が終わる前に間に合うかもなのです!」


「……いや、今から向かいはするが無理な速度は出さない。新装甲を使っている『フリーキャッスル』は帝国軍の中でも貴重な戦力だ。一つの戦場で酷使して整備が必要になるのはまずい」


 俺は決断した。


「敵は所属を隠して帝国の第三星系に接近中だ。帝国は敵艦隊を第三星系で迎撃する。目的は第三星系の防衛。最悪の場合は時間を稼げ。姫さんと『フリーキャッスル』が増援として向かう」


「うむ。常時全力を出せば、人も国も途中で倒れる。よい判断だと思うぞ」


 リゼは素直に頷いている。

 ただ、リゼの背中の光翼は、『頑張って羽ばたけば間に合うんだけどな』という感じで力が余っている感じだった。



  ☆



 結局、間に合ってしまった。

 長い射程を活かして攻撃を行う敵艦隊に対し、ランス級とスピア級で構成された迎撃艦隊が有効打を与えられない。

 『シールド』が回復が間に合わずにすり減って、艦隊の装甲は既に三割ほど失われてしまっている。


「いいぞ。素晴らしい!」


 俺は心からの称賛を送る。

 強引に敵艦隊に対して突撃すれば、敵艦隊への攻撃は可能だった。

 だが、その場合は敵艦が加速力にものをいわせて迎撃艦隊を振り切り、第三星系に打撃を与えていたかもしれない。


「姫さん、いいか?」


「無論だ! 久々の艦隊戦だ。腕が鳴るぞ!」


 リゼの背中に全開になった翼が、神々しく輝いていた。

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