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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第六章 えげつない特産品で敵国を経済崩壊へ!  姫騎士を『魔王』呼ばわりした愚者たちへの容赦ない報復戦

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「存在しない方がいいんだよ」――姫騎士の飯テロ映像から閃く、最高に悪辣な経済侵略

「これが試作品なのです!」


 ギョーショーが自信満々に持ってきたのは、一抱えはある『カートリッジ』と小さな『簡易3Dプリンタ』だ。

 『簡易3Dプリンタ』は簡単な操作で『カートリッジ』に接続可能になっている。


「機能はすぐに決まったのですけど、どの形にするか考えるのが大変だったのです……」


「陛下ぁ! 俺も協力しやしたぜぇ!」


 ギョーショーは予想外の人間を連れていた。

 最初は自称自警団の宇宙海賊として俺やリゼの前に現れ、色々あった後にランス級『巡洋艦』の艦長になった奴だ。


「ほんっとーに助かったのです! よければ僕の会社に移ります? エリート肉人間さんの待遇にするのです!」


「俺は姫騎士さまと戦えるところで働きますぜぇ!」


「残念なのです……」


 ギョーショーは三頭身の体で落胆を表現してから、『簡易3Dプリンタ』に『カートリッジ』をはめ込んだ。


「うおっ」


 鼻を刺激する臭いに、俺は無意識に一歩下がってしまう。

 ギョーショーとランス級艦長は、臭いにも俺のような反応にも慣れているのか、面白そうに俺を眺めている。


 『簡易3Dプリンタ』の上部から濃厚な泡が吐き出されていく。

 その泡は吹き飛びもせず、転がり落ちもせず、ひとかたまりになってから、ゆっくりと色を変えた。


「……パン?」


「そのまま食べられるのです!」


「陛下ぁ! 是非食べてくだせぇ!」


 ギョーショーとランス級艦長がいたずらっ子のような態度でにやにやしている。

 銀河帝国最大の商人としての態度でも、リゼという例外を除けば銀河帝国内外で名を知られた軍人の態度でもないが、妙に似合っていた。


「まあいいがな」


 さすがに毒殺はないだろうと考え、パンにしては不格好な『もの』に手を伸ばす。

 感触はパンだ。

 ちぎったときの感触もパン……いや、安いパンだな。


「口に入れるのに勇気がいるな」


 最初の臭いは消えていて、薄くはあるがパンの匂いを感じる。

 俺は指で小さくちぎって、舌の上に載せる。

 異臭や命の危険を感じる刺激がないことを確かめてから、普通に噛んで味わい、飲み込んだ。


「……うん。普通? こればかり食べたら確実に飽きる味だが、金がないなら我慢できる味だ」


「ポーターさん、めちゃくちゃぜいたいなのです」


「陛下ぁ、結構よいところの生まれですなぁ!」


 俺はふたりの発言には構わず、残りのパンを食べていく。

 だが、妙に気が進まない。

 最後の一欠片を咀嚼して嚥下するのには、かなりの精神力が必要だった。


「何か薬でも入れたのか?」


 ランス級艦長が真顔になった後、沈痛な表情で首を左右に振った。

 どういう反応だよ。


「この自動調理器を銀河帝国の特産物として売り込むのです!」


「……自動調理器?」


 俺は『簡易3Dプリンタ』を凝視する。

 ギョーショーが売っていた自動調理器は、煮たり焼いたり揚げたりするためにも、もっと大きくて複雑な形をしていた気がする。


「値段を下げるために、自動調理器で作れるメニューを、そのパンだけにしたのです!」


「まぁ、要するにぃ、既にある自動調理器は金持ち向けすぎるんでぇ」


 社会の下の下には、料理の習慣どころか知識すらない層がある。

 そんな層まで行き渡らせるつもりなら『極限まで扱いが簡単な食料』にするのが一番、という結論にギョーショーともども至ったらしい。


「最初は、これだと毎日同じ味で、すぐに売れなくなるかと思ってたのです!」


「あのときはぁ、ギョーショーさんもぉ、かなりよい所の出と思いましたねぇ。どんな味でもぉ、安くて腹にたまるならぁ、文字通り『死ぬほど』売れますぜぇ!」


 ギョーショーは、産まれも何もかも違うランス級艦長の言葉を、興味深く聞いている。


「しかし、理屈は分かるが思い切った『特産品』にしたな。……こいつで人類保護機構のパン業界を壊滅させるのか?」


「ポーターさん、違うのです。食料生産を壊滅させるのです!」


 ギョーショーは心底楽しそうに、魔王リゼのことではないでも言わなそうなことを言う。

 ランス級艦長も、銃があるなら簡単に勝てそうなギョーショー相手に怯えを隠せていない。


「実際に輸出するのは、自動調理器と、カートリッジの中身の『材料のもと』なのです。カートリッジはすごい田舎の低技術星系でも生産可能なはずですし、空のカートリッジに『材料のもと』と水を入れたらそのまま使えるのです!」


「パンとぉ、肉とぉ、野菜がぁ、輸送艦何隻ぶんも生産済みですぜぇ!」


 パンだけ、焼いた肉だけ、茹でた野菜だけを生産する自動調理器のことらしい。

 ギョーショーが具体的な数字をデータで送信してくる。

 俺のARメガネに表示させると、ランス級艦長が言った数以上が既に生産され、加速度的に生産数が増えているのが分かった。


「試作品じゃなかったのか? だがいい判断だ。圧倒的安価でパンと肉と野菜が作れる自動調理器を輸出して人類保護機構の食料生産を弱体化させる。弱体化前に人類保護機構の政府が禁輸なりなんなりするだろうが……」


「禁輸したら生活費がとっても増えるのです!」


「そのままだと暴動でさぁ!」


 俺が大枠を決めた計画とはいえ、俺自身『ちょっとこれは邪悪すぎるのでは』という計画になっている。

 だが、銀河帝国の象徴であるリゼをディスる国を放置するのは論外だ。

 馬鹿にされても何もできないヘタレという評判は、国でも組織でも個人でも、高確率で悲惨な結末を招く。


「素晴らしい。……が、もう少し工夫したいな」


 人類保護機構も馬鹿ではないはずだ。

 ギョーショーというより、契約国連合の圧倒的技術力を利用して作った特産品に対抗するのは難しいだろうが、対抗手段を生み出し実行はするはずだ。

 その対抗手段を機能させなくする策があれば……。


「姫さんからだ」


 俺の思考を着信音が中断させる。

 いつの間にか定時連絡の時間になっていたらしい。

 俺が設定したわけではないのに、敵国からの宣戦布告と同レベルの、最重要の通信の扱いだ。


 ランス級艦長が直立不動の姿勢になる。

 ギョーショーは気にせずに試作品に近づき『簡易3Dプリンタ』部分を弄り始める。


「艦長。定時連絡だが時間は問題ないか」


 画面に映ったのはリゼだけではなかった。

 文字通り山のように積み上げられた無数の宝箱と、『ミミズ』ほどではないが馬鹿でかい『イノシシ』だ。

 体のあちこちにレーザーが直撃したようなというか、実際にレーザーが直撃したとしか思えない焼け焦げがあり、文字通り死んだ目をして力なく横たわっている。


「問題ないが、そりゃなんなんだ?」


 俺は『イノシシ』の実物を見たことはない。

 少なくとも、小型の宇宙船サイズではなかったと思う。


「うむ。周回を『待ち伏せによる狩り』に切り替えてモンスターを大量に狩っていたら、理由は分からぬが死体が一つそのまま残ったのだ」


「……それは珍しいのか?」


「うむ! 極めて珍しい! 私が石化される前に何度か経験はしたが、数え切れないほど殺しても『何度か』しかなかった。毒虫やゴーレムの死体が残っても意味がなかったがな」


 リゼは当時のことを思い出したらしく、懐かしさと不愉快さが渾然一体となった表情を浮かべる。


「ポーションと革装備の革で食いつないでいたあの頃、普通の肉にどれほど焦がれたことか」


「姫さまー! このまま解体しちまっていいんですかい?」


「内臓を傷つけぬよう注意しろ! 研究者に渡す資料は少量で良い。第一星系まで新鮮なまま運ぶ容器は限られているからな」


「了解です! おいお前ら! 我らの姫騎士さまがお望みだ! ばらすぞ!」


「「「おおーっ!」」」


 誇り高き帝国軍のはずなのに、賊にしか見えなかった。



  ☆



「みっ」


 ギョーショーが固まっている。

 目からは完全に光が消えていて、まるで三頭身の人形だ。


「陛下ぁ。いきなり残虐シーンが始まりやしたねぇ」


「ああ。なかなか強烈だな」


 俺もランス級艦長も、リアルタイム通信越しの光景に視線を釘付けにされている。

 巨大な肉が切り出され、リゼ用のヒートソードの予備で焼かれていく。

 肉と脂が熱せられ、煙を出しながら色と形が変わっている光景は、俺たち船乗りには馴染みのない光景なのに、本能をくすぐる刺激的な光景だ。


「うむ。品種改良済みの家畜を専門の施設で解体した肉には劣るが、懐かしい味だ」


 リゼは上機嫌だ。

 背中の翼は、いつもより荒々しく『ばっさばっさ』と上下している。


「腹が減ってきた」


「陛下ぁ、俺もですぜぇ」


 腹が減ったからではないが、食欲が刺激されても満たされない感覚が、俺に新たな発想をもたらした。

 満たされない欲。

 楽しげに食べようとする俺以外。

 つまり……。


「腹が減ってるだけなら耐えられるかもしれん。だが、そのとき、誰かが旨いものをたっぷり食ってたらどうなる?」


「相手がリゼさまじゃなけりゃぁ、ぶっ殺しますねぇ!」


「だろう? だったら、特産品が人類保護機構へ行き渡って、あの味にうんざりした後で、『特別なカートリッジを使って旨いものを食ってる』奴がいるって情報を流せばいい」


「はっ!? あの、ポーターさん? 特別なカートリッジなんてないのです! 一定以上の味にならない代わりに一定以下の味にもならない設計なのです!」


 気絶から回復したギョーショーが、解体と調理から目を逸らしながら発言する。


「存在しない方がいいんだよ。人類保護機構の上流社会が隠し持っているとでも宣伝すれば、怒り狂った人類保護機構の庶民を宥める手段がなくなる」


「うーん。それだと結局僕が悪いってことにされません?」


「人類保護機構がギョーショーを狙うなら、ジャバウォック銀河帝国は盟友を守るために堂々参戦するさ。……人類保護機構に攻め込むより、ギョーショーやギョーショーの工場を狙って進軍してきた人類保護機構の艦隊を倒す方が簡単だろう?」


「悪辣なのです!」


「戦争についてなら最高の褒め言葉だな!」


 ギョーショーと俺は、人類保護機構相手の戦勝を確信して嫌らしく笑う。


「まあ、艦隊を潰すまではいいが、理想は星系攻略戦をせずに降伏させたいな。無駄に犠牲を増やしても後が面倒なだけだ」


「ポーターさんは欲張りなのです!」


「欲張りだから姫さんを口説いてるんだろ」


 人類保護機構に対してギョーショーがセールを開始する、前日の出来事だった。

※次回の更新は、少し時間を変えて2026/03/29 15:10に公開予定です!

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― 新着の感想 ―
食料を敵国に握られるとかお国崩壊の危機待ったなしw ( ゜∀ ゜)ハッ! この食糧生産品を使って作者を部屋に閉じ込めてこの作品の話をいっぱい書かせて、他の事は読者みんなで分担し作者のマッサージとかア…
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