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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第五章 ハズレドロップがもたらした空前のバブル景気と、新型艦が引き寄せた『仇敵』からの発注書

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別銀河の『肉塊と眼球のゲテモノ艦』は流石に却下。超光速機関を外したコスパ最強の防衛艦で海賊を無双していたら、仇敵(人類保護機構)の星系からまさかの注文が入りました

「艦長。袋を使え」


 リゼが差し出した袋を感謝して受け取り、俺はこみ上げてきたものを袋の中に吐き出した。

 俺の背中をリゼがさすってくれる。

 物理的な癒しの効果はないが、酷いものを見て混乱した心が少し安定した気がした。


「ポーターさん、大丈夫です?」


「ですから刺激が強いと申し上げました」


 ギョーショーが気楽に、センパイが穏やかではあるが強い口調で俺に言ってくる。

 その背後では、シミュレーター上で完成した『新型艦』の一つが表示されていた。

 ぬらつく肉塊めいた艦体から、血走った眼球にしか見えない多用途レーザー砲が突き出した、冒涜的な見た目の『新型艦』だ。


「ここまでとは予測できるかよ。銀河間連絡船より酷いだろうが」


 俺の声は、いつもと比べて弱々しい。


「うむ。見たものにダメージを与えるという意味では強力だが、ここまで強力すぎると政治的な悪影響があるのではないか?」


 リゼは帝国の外交部門責任者……ではなく、何故か会議に参加しているエルザに目を向ける。

 リゼに介抱されている俺に対する嫉妬だけで『耐えた』エルザは、『新型艦』を直視しないよう画面から目を逸らしている。


「銀河帝国の評判を下げる宣伝工作が極めて容易になります。個人的にも極めて遺憾ですが、魔王とジャバウォック銀河帝国を同一視させようとする共和国保守派の工作が成功してしまうでしょう」


 エルフ族なエルザだが、エルフ族に対する帰属意識よりリゼに対する忠誠心の方が桁外れに強い。

 だから嘘は言っていないし、この会議の内容も『リゼの不利にならない範囲でしか』共和国に流さないはずだ。

 デメリットを承知の上で利用せざるを得ないほどに、エルザは有能で帝国の外交部門は弱い。


「性能は飛び抜けてるんだがな」


 サイズは『駆逐艦』未満。

 技術使用料は高いが、それを含めても運用コストは『駆逐艦』程度。

 それでいて性能はランス級に肉薄し、銀河帝国で生産可能という、契約国連合の技術力の高さの証明のような艦だ。


「ポーターさん。これ以外だとめちゃくちゃ高いのです! 向こうでもすっごく不人気だから、設計図も技術も投げ売り価格で使えるのです!」


 ギョーショーの押しが強い。

 これが一番儲けになるんだろうか。


「全面戦争でなら使えるか?」


「艦長。勝っても負けても敵が増えていくなら確実に破滅する。私がその実例だ」


 背中から翼が小さく現れて『へにょん』と垂れていた。


「仕方がないか。分かった。この案は不採用だ。他の案は?」


 会議室の壁全体を使った画面に、大量の『新型艦』が表示される。

 俺はまず、どう考えても金がかかりすぎる『新型艦』を消去する。


「ポーターさん! 僕の案を全部消すのはおーぼーなのです!」


「ランス級未満の性能でランス級の倍のコストがかかる艦なんて採用できるか! ランス級を設計したのはお前だろうがギョーショー」


「ランス級ではサービスしすぎたのです。反省してしっかり技術料をとることにしたのです!」


「極端すぎる! あとランス級は本当にありがとう!」


「どういたしましてなのです! バージョンアップ版からは普通の額にするのです!」


 ランス級を、非常に長い間続けることが確定した瞬間だった。


「艦長。ギョーショー。数を揃えられる艦は必要だ。理想はランス級の性能だが、無理か?」


「リゼさん。無茶言わないでください。あれってほぼ最高効率なのです」


 ふたりの会話を聞きながら、俺は画面に所狭しと並ぶ『新型艦』の情報を閲覧している。

 ときどき『性能を盛ってるだろ』という艦もあるが、基本的に真面目に設計されてはいる。

 しかし、別銀河の技術は使っていないが別銀河の機械人間ギョーショーのことだが設計した超高効率『巡洋艦』であるランス級や、別銀河で設計された肉塊艦と比べると、あまりにも出来が悪い。


「ふふふふ。大人しく僕の商品を買うといいのです!」


 ギョーショーの態度は相変わらず軽い。


「ギョーショーだけから買い続けたら経済植民地へ一直線だろ。……ランス級の改造でなんとかならないか? 超光速機関を外して予備の推進剤を積めば、星系内戦闘最強にならないか?」


「うわ」


「文化の違いとはいえ、これは」


 ギョーショーが露骨に呆れ、センパイが控えめではあるが明確に驚きを表明する。


「超光速戦闘できないですよ? ほんとにそれでいいのです?」


 ギョーショーは目を『ぴかぴか』させながら、俺に思いとどまるように言う。


「契約国連合のパイロット出身者にとって、亜光速しか出ない『もの』は船でも艦でもありません」


 まるで、俺が肉塊や目玉でできた艦を見たときのような反応だ。

 文化どころか体の構造も違うのだから、この程度の差異は当然といえば当然なんだが……。


「機械人間はなんでもできるというイメージを持っていたが、苦手なものもあるんだな」


「艦長。契約国連合の文化では、艦は武器であり鎧のようだ。私に置き換えれば、実戦用の装備から、玩具の剣と鎧に切り替えるようなものだ。自分自身のことでないとしても、愉快なことではあるまい」


「……失礼な発言だったか。先程の発言を撤回し、謝罪する」


 俺はセンパイとギョーショーに丁寧に頭を下げた。


「ポーターさん。これは苦手というより……あれ? 僕、苦手に感じてたのでしょうか」


「謝罪を受け取ります」


 機械人間ふたりの機嫌が、もとに戻ったように感じられた。


「話を戻すが、超光速機関がない『玩具』を設計できるか、ギョーショー」


「最初から『玩具』を作るつもりなら……あんまりだいじょうぶじゃないのです」


「そうか」


 ランス級の設計者の手を借りられなくなったことを理解した上で、俺はにやりと笑う。


「なら、肉人間が頑張らないとな」


 ジャバウォック銀河帝国研究部門および軍事部門の、地獄の数ヶ月が始まった。



  ☆



「ランス級はいないって話だったのにぃっ」


 宇宙海賊の断末魔が急に途絶えた。

 人命救助のためなら制限を緩めてくれる超光速機関も、『積極的に攻撃していた艦』がピンチに陥ったときは制限を緩めるタイミングが遅くなる。


 だから殺される。

 ランス級と比べて一回り小さな、槍の形をした『駆逐艦』を振り切れず、レーザーと質量弾を延々打ち込まれ、爆発四散した。


「相変わらずひどい設計なのです!」


 超光速回線越しに見ているギョーショーは、ご機嫌斜めだ。

 ギョーショーの会心の設計であり、銀河帝国のみならず周辺星系や銀河共和国でも絶賛されているランス級が、徹底的に『改悪』された結果がこのスピア級『駆逐艦』だからだ。


「現場では好評だぜ?」


「うむ。賊を『軍の敵』ではなく『警察の敵』にする素晴らしい艦だ。組み立て、運用、修理の全てを一星系で完結させねばならぬのが欠点だがな」


 リゼと筆頭とする帝国軍は大満足だ。

 なお、内政部門での評価は功罪半ばだ。

 基本構造が『巡洋艦』であるランス級なので一隻あたりの建造コストが『駆逐艦』としては高いのだ。

 その分、星系内戦闘では優れた加速力を活かし、多数で賊を捕捉しぶち殺すことが出来ている。


「うーん、異文化なのです」


 眼球レーザー砲や肉塊装甲なんてゲテモノを平気で運用する国の、機械人間の言葉だった。


「今後、第三星系以降は、星系外縁に建設した宇宙港を拠点にする。既に配送の拠点になっている宇宙港に、スピア級の組み立て工場と整備工場を増設する形になる予定だ」


「これで、帝国への参加を望む星系を受け入れることが可能になるか。……長かったな」


「いや姫さん。帝国は異様な速度で拡大してるからな? そりゃ、姫さんの実力を考えれば遅いかもしれんが」


「何を言う艦長! 艦長の器とギョーショーやエルザの助力、そして帝国の民たちの支持があればこの程度できて当然なのだ! 自身の力不足をこれほど悔やむ日がまた来るとは……」


 リゼは本気で悔しがっている。

 過去最大級に広がっている光の翼が『もっともっとがんばるよ!』をいう雰囲気で強い光を放っている。


「ところでポーターさん! 人類保護機構の第十三から第十八星系の企業から注文が入ってるですけど、普通の商売していいのです?」


「……え?」


 俺は混乱した。


「拡大した! 僕の! 市場が! なんか人類保護機構の辺境星域まで届いたみたいなのです」


「ふむ。一撃で制圧してしまうのも悪くないが、敢えて平和的に接して人類保護機構の第一星系の情報を集めるのもいいな。わくわくしてきたぞ!」


「うひょー! 新たな市場なのです!」


 やる気十分のふたりに挟まれた俺は、胃に強い痛みを感じていた。

第五章完結です!

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