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借金まみれの輸送艦長、最強姫騎士の勘違いで銀河皇帝にされる ~俺のために勝手に宇宙を征服してきて、維持費と胃痛が限界突破  作者: 星灯ゆらり
第五章 ハズレドロップがもたらした空前のバブル景気と、新型艦が引き寄せた『仇敵』からの発注書

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31/50

人型ゴブリンからは全力で逃げ、ドラゴンは笑顔で狩る。おじさん達がダンジョン浅層で得たレベルアップの恩恵は『肩こりと腰痛の改善』でした

 別銀河の超大国の最新鋭艦(ギョーショーが知っている中ではだ。正規軍がそれ以上の艦を運用している可能性はある)の残骸の回収はランス級の半数に任せ、俺たちは第一星系の宇宙港へ帰還した。

 やるべきことが山のようにあるのだ。


「ギョーショー。無人警戒機による警戒網はどうなっている」


「今回開いた『穴』は予備の警戒機で埋めたのです。無人警戒機の工場は第一星系のすみっこにあるのです!」


 ギョーショーは画面に表示させたのは、星系外縁にある小惑星の一つだ。

 使われている技術は隠されていない。

 別銀河では『長期間使われ続けてノウハウが溜まりきった技術』のようで、こちらの銀河でもなんとか生産できているようだ。


「工場の従業員は新規の移民か。技術が外部に漏れないか?」


「基本的に事故防止のための技術なので、この銀河全体に広めたいくらいです。事故で水資源が大規模汚染とかされたら、あっちの銀河から個人ではなく正規軍の主力艦隊が、環境保護のために乗り込んでくるかもなのです! 僕の、市場に!」


「ギョーショーだけの市場じゃないだろ」


 俺はギョーショーに反論しながら、胃に痛みを感じる。

 契約国連合の逆鱗は『水』だ。

 距離という特大のコスト増要素があるとはいえ、こっちの銀河への侵攻『は』可能らしい。

 それでも侵略ではなく平和と通商を志向してるのは、倫理が理由でも善意が理由でもなく、『万が一にも水が汚染されないようするため』だ。


 会議室にいるのは俺とリゼとギョーショーを除けば数人だが、その十倍以上の人数が超光速回線を介して会議に参加している。

 必死の形相で情報の分析を行い報告書を作成中の奴が大勢見えていた。


「艦長。軍としては、正面戦力の拡張速度を落としてでも、広範囲の警戒網の整備が急務と考えている」


 リゼが軍事部門を代表して発言する。

 ARメガネを着用しているのは、リアルタイムで送られてくる報告書に目を通しながら話しているからだ。

 俺はリゼに対して頷いてから、内政部門の責任者に目を向ける


「いくらかかって、いつできる?」


「銀河帝国単独では不可能です。ギョーショー殿次第であります」


 忠誠心と能力が高い代わりに、愛想皆無の態度だ。

 ほんの少しでも愛想があれば銀河共和国やそれ以上の規模の星間国家で高官になっていただろう人材だから、この態度を責めることはできない。

 「来てくれてありがとう!」と感謝で涙目になりながら俺が直接出迎えた奴でもあるしな。


「ギョーショー」


「雑に聞かないで欲しいのです。僕が使っている警戒網を帝国が使って、帝国が僕に使用料を払うというのはどうです? ほんとは警戒網を買い取って欲しいですけど、帝国のお財布だと買えないのです」


「厳しいがやるしかないか」


「陛下ぁ。アホみたいに金がかかると思いますぜぇ。第一と第二を守るだけならぁ、小規模な警戒網でいいんじゃないですかねぇ?」


 オブザーバー的立場で参加していたランス級艦長のひとりが、許可を得た上で発言する。

 賛同する声はないが、賛同する気配は多い。

 現在ギョーショーが展開している警戒網は、性能は高いが維持コストが壮絶だ。

 全額を銀河帝国が負担すれば、数日で銀河帝国は破綻して『フリーキャッスル』も俺も借金のカタとして差し押さえられる。


「ギョーショー。今回『食われた』艦は、あっちの銀河で最速の艦なのか?」


「銀河間連絡船は遠くまで行ける代わりにとっても遅い艦なのです! 減速を考えなくていいなら、あれより速い艦はとってもいっぱいあるのです!」


「だそうだ。高速艦での奇襲攻撃に対抗するためにも、ある程度の警戒網の規模は必要だ。コストを考えると頭と胃が痛いがな」


 冗談のつもりではなく、実際に痛い。


「陛下ぁ。無理はぁ……」


 艦長を映した画面から「強制的に休ませた方がいいんじゃ」「でも今陸戦隊が行くとクーデターになるんじゃね?」という声が聞こえた。


「薬は飲んでいる。警戒網についてはこれで決定だ。で、次は警戒網維持のための金稼ぎについてなんだが」


 皆、リゼまで、そっと俺から目を逸らした。


「誰か案はないか? ダンジョン以外でだ。なあおい、何か言ってくれよ」


 銀河帝国で一番偉いはずの俺の言葉に返事はない。

 閉会予定時間が過ぎて解散するまで、良い案どころか案が全く出なかった。



  ☆



「全員ひどくないか?」


「艦長。皇帝におもねり虚言を吐くような臣下はいないのだ。喜ぶべきだぞ」


 リゼは真顔だ。

 ギョーショーも「うんうん」と頷いている。


「そう言われると否定はできないが……。まあいい。研究者連中に情報は送ったな? ダンジョンについての何か分かったか?」


「ポーターさん。それですぐに分かる程度のことなら、リゼさんか僕が解決策をみつけているのです!」


 ギョーショーから馬鹿を見る目を向けられる。

 胃が痛いぜ。


「そりゃそうか」


 俺は今抱えている仕事を脳内で列記する。

 銀河間連絡船の残骸の回収は慎重にやらせているから時間がかかる。

 ダンジョンの研究もそうだ。

 銀河帝国の内政や通商路の維持のために俺の決断が必要はことはあるが、即座に必要なことは『少なくとも今は』ほとんどない。


「一度、俺がダンジョンに行くか」


「む。組織の長が現場を知ることは良いことではあるが……」


 リゼは『言うべきことがあるのに言いたくない』表情と態度だ。


「ポーターさん。少数のドロップ手に入らないのに『フリーキャッスル』がいても無駄なのです。内部が知りたいなら、無編集の記録データで十分なのです!」


 ギョーショーは遠慮なく事実を言う。

 俺は肩を落とす。


「ギョーショー、言い過ぎだ。……出入り口を浅層に繋げ直し、ランス級の艦長たちに生身で戦闘経験を積ませるという案も出ている。艦長も参加するか?」


 リゼは最大限言葉を選んでいる。

 艦長連中と比べると、俺は明らかに体力がないからな……。


「ポーターさん、艦が使えるのはダンジョン深層からみたいですけど、生身でだいじょうぶです? 疲労でも肉人間は死んじゃうですよ?」


 ギョーショーは悪意はないが容赦もない。

 俺はレーザーガンは扱えるし賊を殺したこともあるんだが、通路や洞窟(ダンジョン浅層はそんなものだと以前リゼが言っていた)を延々移動した後にまともに戦う自信は皆無だ。


「それでも一度は行くべきだろう。帝国にとって極めて重要なものを間接的にしか知らないってのは怖いぜ」


「さすが艦長だ。護衛は任せておけ!」


 リゼの表情が楽しげなものになり、リゼの背中から『にゅんっ』と生えた翼が『任せろ!』とジェスチャーで主張していた。



  ☆



「総員撤退!」


「陛下に続けぇ!」


「やべーっすよあれは!」


 その日、リゼが「健康な子供なら勝てる」と断言したモンスター一匹を相手に、俺たちは敗走した。

 俺みたいにパワードスーツ機能がある宇宙服を着た船乗りたちが、一生懸命に走る。


「艦長!? レッサードラゴンをレーザーで撃ち殺した勇士が何故逃げるっ!?」


「人間かどうか分からないものを問答無用で撃ち殺せるかっ!」


「どう見てもモンスターのゴブリンだろう! 気配も魔力も明らかにモンスターだ!」


 リゼは追って来る緑色の人型生物をヒートソードで切り倒す。


「ちょっ」


「リゼさまぁっ!?」


 俺だけでなく、姫騎士リゼに心酔している艦長まで悲鳴をあげる。

 皇帝や帝国軍人が『人間かもしれない』ものを無警告で殺すのはまずいんだ。

 一応警告は最初にしてはいるんだが、どう見てもこちらの言葉を理解できていない反応だったからな。


「だからモンスターだと言っている!」


 リゼがほんの少しだけ苛立っている。

 熱を帯びていないヒートソードで、両断された死体があるはずの場所を示す。

 そこには死体も、死体からこぼれた血や内臓も、死体が発するはずの臭気すらなかった。

 ……生き物ではない、のか。


「マジか」


「立体映像ぉ?」


「違うっす。盾で攻撃を受けたときに重さを感じたっす!」


 俺たちは、完全に混乱してしまっていた。


「まさかこうなるとはな。……出口近くにドラゴンが移動してきている。私が処理してもいいが、ゴブリン相手に防戦は可能か?」


「ドラゴンは俺に任せてくれ」


「水くさいですぜぇ、陛下ぁ! あいつらならぁ、ただの猛獣駆除で済みますからねぇ!」


「俺もドラゴンと戦うっす! 人権がない相手なら撃ち放題っすよ!」


 リゼが、俺たち全員を呆れた目で見る。

 仕方がないだろ。

 ダンジョンの浅層にこんな『モンスター』がいるなんて、リゼから聞かされてはいたが実感できていなかったんだよ!


「陛下ぁ!」


「おらよ!」


 角から顔だけ出した『口の中に炎が渦巻いていた』ドラゴンの目を一つ焼き潰す。


「死ねぇ!」


「まるでゲームっす!」


 既に駆け出していた艦長たちが、ドラゴンの口からブレスが吐き出される前にドラゴンの顎にアッパーカットを食らわせ、ドリル状の凶悪な武器で鱗と肉を貫き心臓を破壊する。


「死ぬまで暴れるかもしれん。油断するな。増援も警戒しろよ」


 俺の命令を全員聞いてはいるが、行動は変わらない。

 その程度命令されなくても分かる程度に、戦闘に慣れているのだ。


「ゴブリンを恐れるのにドラゴンを獲物にする、か。これが価値観の違いか……」


 リゼは視線だけでゴブリンの集団を怯えさせて逃走させながら、頭痛を堪えるように眉間に指をあてている。


「うおっ!?」


「ドラゴンが消えたっす!」


「宝箱ぉ!」


 俺と艦長たちが興奮する。

 対照的に、リゼはつまらなそうな表情で宝箱の表面を文字通りに消滅させる。

 中から出てきたのは、『剣』とは比較対象にならないほどみすぼらしい、体積だけは同程度の『鉄の剣』だった。


「あの時代なら一財産だったが、今では子供の小遣い程度の額にしかならぬ」


「買い取り可能な店も少ないだろうしな」


「資料として回収するっす!」


 モンスターに見えないモンスターなら、俺たちででも戦える。

 ただ、ここは浅層だ。

 ダンジョンの中で最も『低難易度』な場所なので、自慢にはならない。


「艦長。ドラゴンを倒せば生物としての位階が確実に上がるはずだ。何か変化はあるか?」


 リゼもリゼの翼も、興味と興奮を隠せていない。

 俺は何度か手足を屈伸させ、五感を研ぎ澄ませてみた。


「強いていえば、肩こりが軽くなっている?」


「こっちは関節痛が軽くなってますぜぇ!」


「こっちは腰痛が軽くなったっす!」


「……うむ。良かったな」


 リゼもリゼの翼も、落胆を隠せていない。


「こうなれば、『ミミズ』相手に生身で戦わせるしか……」


 リゼが極めて物騒なことを言っていたが、健康の改善にはしゃぐ俺たちは、気づけなかった。

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