第26話
周りから遠巻きにされながら、ベルーゼたちはどうにか入学式を終えた。
式の間ペルたちが別の場所に隔離されていたことは気にくわないが、多くの生徒がいる中では我が儘を言う訳にもいかず、黙って我慢する。
そうして一時間ほど教師たちの面白くも無い話を聞き、漸く解放されたところで、ベルーゼたちは教室へと移動することになった。
この学園でもテイマーはあまり人数がいないため、一学年に一クラスしかない。
送られて来たクラス分けの名簿によると、ベルーゼの学年には、彼を含めて15人しかテイマー学科の生徒はいないようだ。
人数が少ないのは寂しいが、その分、教師が個人へ気を配ってくれる割合も増えるだろう。
それならば、寧ろこちらの方が良かったかもしれない。
そんな甘い幻想を抱いていた時期がベルーゼにもあった。
しかし、どうやら現実はそれほど楽なものではなかったらしい。
(なんというか、先生も人間だってことを忘れてたよね)
そう苦笑いをしてしまうくらいには、現在の状況はベルーゼにとって良くないものだった。
運が悪いことに、ベルーゼの担任となった教師は、人間至上主義だったのだ。
彼曰わく、人間こそがこの世界を支配するために神によって生み出された至高の存在。
だから、君臨者たる人間には調教出来ない動物などいないという考えらしい。
そんな彼にとっては、ドワーフやエルフなどの高位の亜人も動物に分類されるらしく、悪魔とドワーフのハーフであるベルーゼは彼からとても見下されていた。
まず、彼の第一声からして「そこにいる化け物も、私にかかればただの奴隷だ」と、ベルーゼを指して言い放ったのだから、よっぽどである。
この時にはベルーゼも開いた口が塞がらなかった。ドワーフの王族、それも国王の一人息子であるベルーゼを馬鹿にする発言をするということは、ドワーフ王国へ喧嘩を売っていると取られてもおかしくない。
まさか、そんな行動を教師自らが行うとは思ってもおらず、ベルーゼとしては信じられないといった気持ちの方が強い。
しかし、ベルーゼが何も発言をしなかったことで調子に乗った教師は、満足そうにベルーゼへ高慢な笑みを向けると、そのまま授業へと移ってしまった。
これにより反論の機会を失ったベルーゼは、今更盾突いても騒ぎを大きくする恐れがあると考え、その場は教師の発言の意味を理解したペルとホルスが殺気立つのを宥めた。
それからというもの、連日続く教師からのイジメじみた発言に耐える日々が続いている。これには流石のベルーゼも参っていた。
そのうえ、初めはペルたちのことを怖がっていたクラスメイトたちも教師の言葉に影響を受けたのか、次第に馬鹿にしたような顔で彼らを見るようになった。
一部の、元から従魔を連れていたような動物を愛する者はそのような反応をすることは無かったが、教師から差別されているベルーゼにわざわざ味方をするような勇気の有る者はいなかった。
(うーん、これは結構キツいな)
クラスでの現状を考えると昼を食堂で取る気になれなかったベルーゼは、入学式の日から毎日、購買でパンなどの軽い物を購入し、裏庭でペルたちと食事を取っていた。
勿論、ペルたちの食事の肉などだけはきちんと食堂へ受け取りに行っている。
この時に生徒たちから向けられる視線だけでも、割とベルーゼには応える。
故郷でも、魔族とのハーフであるベルーゼやその従魔のペルたちへ不快感を露わにする者は少なからずいる。
しかし、その人数よりも彼へ行為を寄せてくれる者の方が多いし、何より、彼の側には常に無償の愛を与えてくれる最愛の父が居たのだ。
ただでさえダスターと離れたことに寂しさを感じているというのに、こんな針の筵へ放り込まれたような状況では、精神的な負担はかなり大きい。
今も、裏庭にベルーゼたちが姿を現した途端、人が蜘蛛の子を散らすように去って行く姿を見て、ベルーゼは思わずため息を吐いてしまった。
テイマー学科の者以外はまだペルたちのことを怖がっているため、仕方が無いとは思う。
しかし、それで納得が出来るかと言えば、話は別だ。
彼らがこうして裏庭に来るようになってからは、昼休憩の時間にここを訪れる者は当初に比べてだいぶ少なくなってしまった。
ベルーゼたちが居ても気にすること無く裏庭を訪れるような者は、自分の力に自信のある上級生か、彼らの存在を知らずに偶々通りかかってしまった生徒のみだ。
そして、通りすがりの生徒は先ほどのように走り去り、自分の力に自身のある者たちは、睨みつけるように見てくるか、全く関心が無いとばかりに無視を決め込むかのどちらかである。
いずれにしても、話しかけて来るような者がいないため、ベルーゼは現在完全に学園内で孤立してしまっていた。
これは早急に手を打たなくてはかなり不味い。
現在はドワーフ王国からやって来ている生徒はベルーゼだけであるから良いが、来年には財務省長官を務めている伯爵の三男が入学して来る。
城でベルーゼの取り巻きのようになっている伯爵もさることながら、彼の息子たちも全員ベルーゼのファンなのだ。
三男は幼いながらにベルーゼに淡い恋心を抱いているようで、毎回真っ赤になりながら何くれとプレゼントを贈ってきている。
そんな彼がベルーゼの現状を知れば、まず間違いなくダスターたちに報告を行うはずだ。
そうすればベルーゼは学校を辞めさせられるであろうし、最悪の場合、人間の国との戦争にまで発展しかねない。
それだけは何としてでも避けなければならなかった。
自分のせいで父や国民が傷つくことになるなど、ベルーゼにはとても耐えられないことだからだ。
しかし、かと言って何か現状を打開するための策があるわけでもない。
これからどうしたら良いものか。そう思い悩むベルーゼを心配そうにペルとホルスが見つめていた。
あまり空気が読めない他二匹とは違い、知性も気配り能力も高いペルたちとしては、学園に入学してから元気が無いベルーゼのことが心配で仕方が無いのだ。
だが、自分たちがベルーゼのことを苛めている人間を排除しようとすると、何時もベルーゼ本人に止められてしまう。
そのため、二匹はどうしたら良いのか分からず、ベルーゼへ声をかけかねていた。
しかし、このままベルーゼを放っておくわけにもいかないと決意を固めたペルは、出来る限りベルーゼの関心を誘えるようにと、至極悲しそうな顔を作って主の体へと擦り寄った。
「ベルーゼ、ゲンキ、ダシテ」
「ぺ、ペル」
「アルジヨ、ワタシモペルトオナジキモチデス。アルジ、ベルーゼニゲンキガナイト、ワレワレモカナシクナッテシマイマス」
ペルがベルーゼの関心を引くことが出来たところで、ホルスもペルに倣い、ベルーゼの罪悪感を誘うような悲しそうな表情でベルーゼへと詰め寄る。
彼の場合には、ペルと違って演技は欠片も入っていない分、その表情はよりベルーゼの心へ響いた。
「ごめんね二人とも。そうだよね、オレにはお前たちがいるんだから、寂しがる必要なんて無かったんだよね」
ベルーゼは悲しそうな二匹を抱き寄せると、ぎゅっと強く抱きしめた。
そんな彼らの姿を不思議そうに見ていたケインも、何か楽しそうだとベルーゼへとのしかかる。
「ぐえ」
「ケイン‼」
ケインの重さに耐えられなかったベルーゼが苦しそうな声を上げると、それに慌てたペルが、急いでケインへ詰め寄って行く。
そして、そのまま何時ものじゃれあいに発展する二匹を見たベルーゼは、城に居た頃と同じ、心からの笑みを浮かべた
ここまで閲覧していただき、ありがとうございます。
投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。
私事で申し訳無いのですが、仕事がそろそろ忙しい時期に入るので、投稿ペースが何時も以上に遅くなるかと思われますのがご了承ください。
話は変わりますが、今回の話で出てこなかったマシロはひっそりベルーゼへ近づこうとしていたところで、ケインに踏みつぶされたという裏話があったりします。
その辺入れようとしたら変な感じになってしまったので、ここへ書かせていただきます。




