Log_8
――朝7:00
side 岸 星煌 (私だから!!と、横に殴り書いてある)
「ねぇ!!!」
朝起きてすぐ、起きているであろう諒に話しかける。
「びっ……くりした。どうした? そんな急いで」
ソファーに座ってた相手は驚いた様子でこちらに振り返る。いつも通り、乱雑に本を置いて。
……まて、その前にとりあえず、昨日の出来事で、分かるを先に記そう。
・私は、あの穴を通じて他の世界線に来た。
・もう一人の自分(長いのでアイツと呼称する)は、この世界の私?で、なんかよくわかんないことを色々知ってる
・私にも能力がある←ここ重要!!
簡潔にまとめると、こう。考察は後回しだ。
話題を元に戻そう。
「諒ってさ、「才能は生まれながらに持つ物」って言ってたよね?」
「じゃあその『万能』って、どうやって分かったの?」
だいたい何でも出来るやつは、私の世界にだって稀に居る。
気付かないで一生を終える……なんてことになってないなら、何か気付くきっかけがあったはずだ。
「あぁ、俺の場合はそれ専用の病院に行って診断してもらった」
「ほら、証明書にも書いてあるだろ?」
諒がポケットから証明書を取り出した。そこには、誕生日の下、名前の上に、はっきりと『万能』の文字が刻まれていた。
「まあ、人によって違うけどな。俺はこの名前、診断してから初めて知った。
診断しなくても分かるやつは居るし、亡くなった後に判明する…………
……どうした?そんな自分の証明書見つめて」
「あ、ああ、あ、…、……」
カードを持つ手が震える。偽造されたそれは、本物と同じ効果を持って、輝きを放っている。
「そんな薄ら笑いして何があっ、た……」
隣に来て覗き込んだ諒も思わず息を止める。
誕生日の下、名前の上に、空白に、はっきり刻み込まれた文字がある。
『観測』
その日の輝きを、一生忘れることは無い。
……
「わ〜お、ほんとだ。どうしてだろうね?"コレ"」
「俺にもさっぱりです。確かにこの年代じゃチャームを持つのは当たり前だが……どうして異世界人も?」
二人は私の証明書を持って話し合いをしてる。照井さんが作ってくれたそれにも刻み込まれていた通り、私はちゃんとチャームを、才能を持っていたのだ。
「私が作ったやつだから、偽物ではない……いや、偽物なんだけどさ」
「……星煌、お前チャーム使った事あるか?」
「…………星煌?」
ふふ、ふふふ。なんて、なんて素晴らしい日なんだ!
いや〜ついに平凡から抜け出す時が来ちゃったか!確率は収束するってやつ?今まで右肩下がりだった運勢が、右肩上がり!素晴らしい逆三角形だ!
『才能』『観測』だってよ。キャーかっこいい!! 夢であった天体観測を叶える時が来ちゃったって感じかな〜!!!!
「おい」
「あっはい、すいませんなんでしょうか」
「……話聞いてなかっだろ。まあいい」
諒につつかれて正気を取り戻す。
本当にごめんなさい。内なる自分がはしゃいでました。
「チャーム、使ったことあるか?」
「今までよく見てなかったけど、星煌ちゃん、今も目が光ってるから、無意識に使ってるんじゃない?」
「あぁ、本当だ。昼だから太陽光と混じって余計わかりにくい……」
「色々話すと長くなるんですけど、昨日…………」
……
「……お前、それ絶対騙されてるぞ」
昨日の夜起きた出来事をかくかくしかじかで話した。自分に会ったことと、その時才能を初めて使ったこと。
「えぇ!? だって、顔もそっくりだったし……」
「う〜ん、写真とかも無い?」
「スマホ置いて行ったので……」
沈黙が場を支配する。確かに、今思えばスマホを持って行っておけば良かったと、今更後悔する。
「……怪しい」
「いや……たしかに怪しくはあったけど!」
すごく怪しかった。なんなら、今でさえ信じる材料が顔しかない。
「"もう一人の自分に会った"かぁ……」
「まあ、その星煌ちゃん(二人目)の事は置いておいて、チャーム、使った感じどうだった?」
「なんか、記憶が流れてきたんです。でも、それには全然見覚えが無くて……」
あの一枚画を思い出す。それは簡単に表面まで浮き上がってきて、すぐに言葉にできた。
「私と、照井さん。あと、知らない女の人がいました」
「声とかは何も聞こえなかったんですけどね」
「あれ、私もいたのか」
「そうなんです」
そうだ、照井さんが居たんだ。私の横に立ってて、女の人の方を見てた。
「その女はどんな感じだった?」
諒が問いかける。
「え〜っと、"サイドテール"の、"背が高い"女の人……」
距離が遠くて全部は見えなかったが、その位は覚えている。
「あぁ、あと、インナーカラー……"オレンジ色のインナーカラー"が入ってました」
「う〜ん、先生その人見覚えないな……でも、私と一緒にその場にいたんでしょ?」
「そうですね、向かい合って……あぁ、場所は、家の前のすぐ近くの森辺りでした」
「なるほどな……」
……照井さんも知らないとなると、完全に手詰まりだ。
『観測』した結果がこんな意味不明だったら、やる意味が無い。やる気も下がるし……
「そもそも、それは何時の出来事なんだ?」
諒がまた疑問を出す。
確かに、結果が知らない物だった。までならまだいいけど、それがいつか来るものだとしたら……
「う〜ん、どっちかと言うと、『未来視』に近いのかな」
照井さんが答える。
「星煌ちゃんも、私も誰も知らない出来事。
だとしたらそれは過去や今ではなく"未来"で起こりうる結果なんじゃない?」
「あぁ、なるほど。それは確かに……」
諒も、私も納得した。
「"いつかくる出来事"を切り取って観測する」
照井さんが立ち上がってホワイトボードに図を書きはじめる。
「それがいつおこるのか。その結末は変わるのか」
キュッキュ。黒いペンが擦れる音が響く。
「そういった類の事は分からないけど、とりあえずの仮説はこうかな」
「いつかくる未来の一つを、先に観測する」
ホワイトボードに、黒い字で書かれたそれは、ほかの図より、よく目立っていた。
「俺もそう思います。星煌、さっき観測した結果のやつ、忘れるなよ」
「うん。覚えておく」
だって、私が現像したんだから。忘れるわけが無いよ。
時刻は、いつの間にか10:00になっていた。
「え!? 星煌も才能あった!?」
「も〜ちょっと早く連絡してよ!!見せて見せて!!」
午後13時。早めに帰ってきた心に報告したら、自分より飛び跳ねて喜んでいる。
諒と先生は遅めの昼食を取って、私は心に抱きつかれた。
「うわ〜すっご〜い!!」
とはしゃいでいる心を横目に、(そんなに喜ばしい事だったとは……)と、逆に冷静になる。
そういえばあの二人とも、どちらも(「おめでとう」)なんて言ってくれなかった。
他人の幸運を喜べるなんて、いい人だ。
ふと、気になった。そういえば、心にも星があるなら、チャームがあるはずだ。
「心にも、あるの?才能」
興味津々にカード見つめていた顔がこっちを向く。
「あるよ! けど、忘れた!!」
「え、忘れた?」
「うん!!」
……底なしの明るさだ。自分の才能を忘れているのなんか気にしてませんよと、言われているようだった。
それにしても、忘れた?忘れてるのに、チャームは使えている?
なぜ忘れたのか……記憶喪失、或いはただ単に記憶力が悪いのか……
いや、それないか。私じゃないんだし。
「ほら、ここのチャーム欄」
そう言って心は自分の証明書をを手に取って見せてくれる。
「ちゃんと枠があるんだけど、黒塗りになっちゃってるの」
「ほんとだ……」
文字が、黒い███で隠されていた。
これは、心が忘れたから黒い塗りになっているのか。それとも、忘れさせるように黒塗りにしているのか。前後が分からなかった。
そもそも誰がやったのかすら、分からないのに。
「でも、ちょっとならわかるよ!敵と戦う時に使えるから、私のチャームは戦闘向きって事!」
「あ〜たしかに。使えるなら、いいのか……」
「そう! いいのいいの! て、言うか『観測』ってカッコイイ!」
……本当に気にしていないようだ。
自分より私の才能の方が気になってるし、使えない訳では無いのだから。
まあ、本人がいいなら、よしとしよう。
そう言って、私は久しぶりに心とお喋りをした。
時間は、おやつタイムを忘れさせる程短かった。
――夜、18:20
「わ、これ凄い美味しい」
「まじ!? 一口ちょうだい!」
「いいよ、ほらここの部分」
「…………本当だ!私も次それ頼も!」
ご飯の時間になると、必然と会話が盛り上がる。
……まあ、一人を除き。
「ごちそうさま。じゃ、先生寝るね」
「おやすみ! 先生!」
「「おやすみ!」なさい」
そう言って照井さんは2階へと階段を登る。
……早い。あまりに食べるのが早すぎる。
早食いでもこんなすぐ食えねぇよ。一口で食ってんのか?とツッコミたくなる現象。
でももう慣れた。こういうのは適応力が大事だから。
そんな事を思いながらもう一口齧る。昨日とは違うお店のハンバーガーだった。
「は、あぁ〜」
自室で大きな欠伸をする。なんだか今日……いや、昨日の夜……は、怒涛の一日だった。
疲れからか興奮からか知らないが、今横になれば直ぐに寝れそうな気がした。
まあ、無理もない。むしろ、今までこんな馴染んでた方がおかしかったのだ。
ここは、"違う世界線"
他の世界も、行けるのだろうか……。
まあ、またあの穴に入るのはごめんだから、私にはもう無理だろう。
日記を閉じて、席を立つ。
静かに、眠りに入る。
……
『目的、目標を探せ』だって?しかも無駄に煽られてるし。
今は、ただ協力してるだけ。行くあても無いし、帰れもしないから。
才能もわかった。委員会にも所属して、そこそこ馴染み始めた。
ただ、目標がない。わたしは、隠蔽のために連れてこられて、ここにいる。
私はこの日記を、なぜ書いている?
ただの義務感だ。彼の、彼女達の気持ちを裏切るわけにはいかない。
「目標なんて……そんなの、叶うことならなくていいよ」
心の中でつぶやいた一文は、誰にも聞かれることなく闇へ消えていった。
記入 記録 : 星煌
かくして、『特別』への独白が終わる。
始まりというには少し長く、終わりというには短すぎる。
そんな、序章。




