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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『その言葉の真■と確かな芸術について』
10/21

Log_9

この世界で前に進む。

それは生きていくなら当たり前のことであり、後ろに進むことはできない。

未来はは暗闇で見えず、後ろは"思い出"とひとまとめにして、それは記憶になる。


変わらなすぎて逆に違和感を感じるほどの日々。


「私は、なぜここにいるのだろう」

日常とは、そういうものである。


「私は、何を目標にすればいいの?」

人生とは、無数の目標の積み重ねである。



星煌は悩んでいた。こんな日々は、意味があるものなのか?そう、朝食を作りながら。



普通の世界の人と このパラレルワールドの 次元/価値観の『ズレ』_│



―― 朝 7:00


「ふあ、……っ、はぁ〜……」

グリルで魚を焼きながら、星煌は大きく欠伸をする。

朝は明るいくせに、本質は憂鬱の概念そのものでもある。

( だから私は夜の方が好き…… )

自然に対して文句を垂れながら、グリルのタイマーをセットする。


そしてもう一人、星煌とは違いちゃんと朝に強い人物。

「今あるのは……水かお茶だな。どっちだ?」

「日本人たるもの、朝はお茶でしょ」

「分かった」

冷蔵庫の開く音がした。


人類はよく真面目か不真面目に分けられる。それに則り考えるとするならば、間違いなく彼は”真面目”に分類される側だ。

500mlのペットボトルのお茶を、コップと一緒に持ってこようとする。律儀に氷まで入れて。

( お茶の味が薄まるから、氷はなくていいんだけどな...... )

「うん、ありがとう」

そして彼女は無駄な争いを嫌う。

不必要なことは言いたくないし、いやな気持ちにはさせたくない。当たり前のことだ。

今この状況だって、わざわざお茶を持ってきてくれたのに「なんで氷が入ってるんだよ!!」なんて当たり散らかすのは短期の馬鹿がやることだ。

もしそんな小さいことで怒っていたのなら、今頃の彼女の人生は最悪だったろう。

コップに入ったお茶を一口飲む。出来上がるまで、まだ時間がかかる。


かばんに入った日記を読み返す。

その文は拙いながらも、記録としての役割を果たしていた。


だが、残して何の意味がある?

毎日読み返すわけでも、だれかと交換するわけでもないのに。

誰よりも継続が苦手な少女は自分自身に問いかける。

(「そもそも、書いてるのはお前じゃないだろ」

「いや?彼女()は自分の人生という物語を綴っているぞ?」

「記録に存在意義なんてないさ。だって、生きていれば意識せずとも過去は記録になってしまうからな」)

( ...... )

勝手に答えを見出そうとする人達(じぶん)に呆れ、日記帳を閉じた。


「おはよう〜!!」

めずらしく、二人が同時起きてきた。

……一人は半分寝ているが。

それと同時に音声案内が流れる。自己嫌悪を中断するのには丁度良い。ベストタイミングだ。

脳内会議を中断させ、鮭の塩焼きを食器に乗せていく。

「ご飯炊けてるから、順番によそってね」

そう声をかけ、席へ向かった。



「今日は穴出るかな?」

日常会話の一つ。もっとも、これをほかの人に話しても何もわからないだろうが。

「どうだか。前みたいな深夜に来るのは勘弁だが」

「あ~、心ちゃんが起きなくて星煌ちゃんが頑張ってたあれね」

「今思えばあれが初戦闘だったな」

三人は少し前のことを思い出す。


深夜三時に警報により叩き起こされた事件。

どれだけ揺さぶっても心は全く起きず、諦めて三人で討伐した。

パジャマ姿のまま外へ飛び出し、星煌は重たい体を叫ぶ事により無理やり動かしていた。

レイピアを両手で振るう暴挙。そしてその雄たけびに敵が恐怖を覚えて、奇跡的に星煌に攻撃は当たらなかった。


三人の冷ややかな視線が心に突き刺さる。

「私も、初めてだったから……許して、下さい......」

申し訳なさそうにしながら味噌汁を飲み干す心。

「全員初めてだ。まあ、何とかなったからよかったけど」

そうだ。結果的には勝利で終わり、その後何事もなくに寝れたのだ。


「……ねぇ、『時空間調査委員会』って、どのくらいの歴史なの?」

ふとした疑問を口にする。

『全員初めて……』そもそも、この委員会はどういう経緯でできたのか。そして、"なぜこんなにも人が少ない"のか。


「それなら、先生が詳しいよね!」

心は先の会話から気持ちを切り替え、歴が長い先輩に頼り始める。

「これでも一応顧問だからね」

可愛い後輩からの期待に寝起きの成人男性は半目で応える。


「照井さんは、どうして顧問に?」

心と諒はもう知ってるかもしれない。

「僕は、指導者さんに推薦されたんだよね。

『最初からここにいた訳じゃないよ』」

( 指導者さんって二重敬語じゃないのかな )

単純な理由。まあ、大人になったら使えなくなるチャームで推薦されているのは、この世界ではすごいことなのだろうと星煌は思う。


「一番新しい委員会で、えっと……まだ十年くらいかな。連盟とかでも二十五年程度だから」

思ったよりも新しい。まあ、チャームが発現されてからまだ歴が浅いので当然のことだとは思うが……

「前居た人たちが居なくなったから、引き継ぎって形で僕が。資料とかも何も無かったね」

穴ができて十数年。その間の情報も、それ以前のきっかけも何もないのは、不気味ではある。


「先輩方……とかもいないですもんね」

「そうだな。俺らが入った時は先生しかいなかった」

時空間調査委員会の歴史は、半分以上が空白になっている。

不在の先輩と、入ってきた理由も不明の後輩達。とても不安定な委員会だ。まあ、上からあまり気にされてないので、その不安定さも当然とも言える。


「最初は大変だったな〜。僕が戦ってたからね」


......


「えっ先生が?」

「先生って戦えるんですね……」

少しの沈黙の後に判明した、二人も知らなかった事実。穴埋めは彼が一人で担当してたらしい。

とてもそうとは思えない。全員の心境が一致した。

なんせ、彼はサボり魔だ。戦闘に参加したのは諒と心が来た初日の一回だけ。そんな人間が、一人で敵を倒せるとは到底思えなかった。



※ 会話文が丸々抜けている。『人員について』とメモが書いてある。



再び気まずくなった空気に、星煌は話題を変える。

他に聞きたいことなんていくらでもある。

「他に、なんの委員会があるの?」

「鍛造なんちゃらは知ってるけど。この前行ったから」

彼女はここに来た時にあったことを思い出す。

名河さんにもらった剣と、初日にたっっくさん説明されたこと。

指導者、連盟 委員会 派閥……それは明確に分離されており、資本主義の序列となっていることを。


( それに対して一番詳しいのはきっと諒のはず! )と頑張って目配せをする。

最初に頼ろうとした照井の口は、リスのようにご飯でいっぱいになっていたので、急遽路線変更した。

「あぁ、それは……」

諒はその意をしっかりと受け取り、指を折りながら解説を始めようとする。

昔はチャームが無かったと考えるならば、途中までは"元の世界と地続き"になっているのだろう。

彼女はそう考えた。だって、今言ったものは明らかに仕事であり、私の世界にもあるからだ。きっと仕事がそのまま委員会にでもなっているのだろう。この委員会は別として。


「全部サイトに乗ってるからそれを見ろ、っていえば一発だけど……」

諒はリモコンを操作しテレビの電源をつける。


『続いてのニュースです。現在、指導者本部では新たな……』


「これは、放送委員会の本部がやってるニュース」


「まあ、いろいろあるが、こういった『日常』への影響が大きい。それがなきゃ、この社会は"成立しなかった"ろう」

「へぇ......」


"社会が成立しない"その制度はそれほどまでにこの世界では重要で、基本的なもの。

星煌がいた世界にはそれがない。が、それでいて成立していた。

やはり、お隣の世界といえど『チャーム』の有無は大きいものだ。星煌は改めてそれを認識した。

嚙んでいた小骨をみそ汁と一緒に飲み干した後に、星煌はさらに問いを投げかける。


「……というか、委員会と連盟て、何が違うの?」

「あ、でた。小学校で習うやつ」

ずっと口を動かして食べるのに夢中だった心が口を出す。結構常識問題らしい。

見れば、既に手元の魚はきれいに食べられていた。

「まあ、委員会は日常生活の安定だったり、一般人に尽くすためが目的となっているものが多い。対して連盟は、指導者や国をよりよくするためにあるのものだな」

「研究や、治安維持……決闘なんかも連盟だな」

「決闘……?そんなのもあるんだ」

決闘が成立するほど不満者がいるのか、はたまたこの委員会を置くことで威圧感を出しているのか......


※『どちらにしろ、正解を知るにはまだ早い』と書かれている。下には修正テープの跡もあるようだ。



「あぁ。まあ、ある程度の戦い方は義務教育で習うからな。

優秀な奴は、委員会側からの推薦が来たりもするし」

「え、戦うってそんなことまで?」

義務教育のレベルをはるかに超えている気がする。そんなことまで習うのなら、星煌の世界でならプロにでもなれるだろう。


「逆に習わないのか?そんなんじゃ自分の身を守れないぞ」

我々の差は、無いように見えて結構溝が深いようだ。

「いや、そんなチャームなんて無いので……平和ですよ、我が国は」

少なくとも彼女が生きていた時代は、争いのない平和な世界だ。


そう言って彼女は最後の一滴を飲み干し、茶碗をシンクの水につけた。



――――


「あと説明すること......まあ、これはあんまり覚えなくていいが、規模が大きい委員会や連盟は、支部があったりする」

ソファーに移動した諒は先ほどまでの会話を続ける。



※『世界観は崩れるが、多少は説明を入れないとな。読者が困惑してしまう』と、付箋が張られている



「基本的には、指導者の本部、及び連盟は都心部の東京に詰まっている」

「支部は各県に散らばっている。そうしないと、対応ができないからな」

「へ〜」

まあ、それはそうだ。

警察官が東京だけにしかなかったら、この国は犯罪率は最悪だったろう。

「そういえば、時空間調査委員会は神奈川なんだね」

神奈川県の大体中心部に位置するこの委員会。東京ではない。

「そうだな。あとは放送委員会の記者支部もここにあるな」


この委員会には、支部がない。まあ、ここ周辺でしか穴は出現しないし、人はいないが実力はあるので支部なんかなくてもよいだろう。


それにしても。

「委員会の日常が、こんなサボりっぱなしでいいの?」

そう、椅子の上で二度寝をしている心を指さし、扇風機を回しながら掛け布団を羽織る諒を見て星煌は言う。

諒は訓練してるときのほうが多いとはいえ、心に関してはほぼ毎日遊びに出かけている。

「まあ、俺らの目的は穴の調査だからな」

「それに最悪死ぬ可能性だってある。それ相応の対価ってやつだ」

( それなら、もっと金をくれてもいいのでは…… )とも思ったが、星煌はそもそも正式加入していないことを思い出した。


「……このシステムは全部、指導者って人が作ったの?」


「そうだよ!!」

心が突然大きな声と共に立ち上がる。今まで寝ていたと思われていたが、それは違った。

先程は、平行世界(ここ)出身のはずなのになぜか星煌以上に会話を真面目に聞いていた。どうやら、この話題は譲れないらしい。


「指導者って、どんな人?」

「指導者さんはね!すっごいかっこいいんだよ!!」

アニメのように目をキラキラさせ、心は答える。実際には光っていないし、キラキラなんて音もついていないが、そう錯覚させるほどの熱量だった。

「心は、その人が好きなの?」

「うん!だって、こんなに生きやすい世界なのは、指導者さんのおかげだからね!!」

「まぁ、それについては否定しない。それと、五名の補佐がいるな」

諒は手をパーにして指を折りながら解説をする。

「その補佐をまとめて『五線譜』と呼ぶ」

「後は……」

「おっほん!」

心は分かりやすく咳をし、席を立つ。余程自分が解説をしたいようだ。

諒はその役を譲り、また本を読み始めた。


指導者(しどうしゃ)。頂点に立つ者にして、我らがTOPの超偉い人!

そして、側近(そっきん) 門番(もんばん) 指揮官(しきかん) 決闘者(けっとうしゃ) 司書(ししょ)

その名前を冠した人達が、五人合わせて、合計六人体制で動いてるよ!」


「……TOPは一人じゃなかったんだ」

「正確には独りだ。独裁国家にならないよう、こうして周りの人物がサポートしてるんだ」

指導者がTOPだけど実際は六人ででもやっぱり頂点は一人で……

非常にややこしい。もう少しわかりやすい体制に出来なかったのか。

「まあ、僕たちみたいなチャームを扱う人間が生きやすくなったのは事実かもね」

この中で唯一過去を生きた者は言う。過去はかなり殺伐としていたらしい。


( こうして聞くと、私まだこの世界のこと知らないな…… )

不意に視線をやった先には、スクランブル交差点を映し出す定点カメラの映像。

「……?」

平日とはいえ、やけに少ない人々。

星煌はその違和感を、(今は平日の朝過ぎなのだから、当然か)と結論付けた。

紅茶を一口飲んで、思考を奥のほうに流し込んだ。



――昼 14:30



「諒はさ、その才能嫌いなんでしょ?」

訓練中に突如発せられた一言。星煌のその発言は、的を得ている。

「……よく、わかったな」

「そりゃあ、見てればわかるよ、そのくらい。わかりやすいもん」

諒はそれを聞いて剣の動きを止めてしまう。

彼はチャームの話になると明らかに嫌そうな顔をするし、敵との戦闘以外でチャームを使っているのを星煌は見たことがない。万能なのに。


「なんで嫌いの?」

故に彼女は、どうしてそんなに嫌うのか、不思議で仕方なかった。

「……俺は、チャーム(これ)がないと何もできないからな。全部、この才能のおかげなんだ」

諒は持っていた剣を強く握りしめる。

彼は、チャームを抜いた自分はただの一般人だと語っている。

銃がうまく扱えるのも、手先が器用なのも、全部、それのおかげ。

彼は、生まれながらにして全てを手にしていながら、それを手放そうと必死なのだ。


「なんでそんな、ネガティブに捉えちゃうの?」

星煌はその発言に一歩踏み出す。

「ネガティブって、だって「何でもできるんでしょ?」


「何もできないなら、使えよ。それが諒の才能でしょ?

弱い部分を隠して、相手を騙し通せよ」

「プライドとか、そんなもんは二の次」


なんだか、前にもこんな会話をした気がする。絶対に、したことがないのに。

デジャヴだ。

( もう一人の私が言うには、別の世界線の私を観測して、その分岐点で感じるデジャヴ……

となると、私がここに来る前、日常生活で感じていたデジャヴは他の私に見られていたのか? でもそうしたら過去現在未来全ての…… )

相手のことを無視して別のことを考え始める星煌。地面に図を作って考察を進めている。


先程の発言が相手の心を滅茶苦茶にしたのに気づいていない。


諒はそれが真理だと理解している。

目を見開いたまま、星煌を見つめる。

そして、何かから解き放たれたように、少し笑った。


( 単純な、ことだったな )

風が強く吹いた。砂が目に入ったのが痛くて、少し目を擦った。



以上。昼~ここまで、ページ■■から一部引用。

※ これは未来の出来事です。ここだけ抜き取らないと、少しおかしくなってしまうからね。


____夜 自室にて



......が、あった。


「まあ、これでいいか」

それは、なんだかんだ習慣になっている日記帳。記憶力が悪い彼女にとっては、それは過去を思い出すためのキーになるだろう。


一枚、恐る恐るページをめくり、過去を思い出す。

「……はぁ」

やはりそこには、一枚、一日ごとににびっしりと文章が詰め込まれていた。


だが、■■前のとある日の一ページだけ、空白の部分があった。

それは、星煌の目標であり、この世界で生きるための希望。

「……?私、この時『やりたい事』書いたんだけど……」


「まぁ、いいや。もう一回ここに……」

ペンをとって、上から書き始める。少し狭いが、簡単な一文だけなら―――


※修正テープで上塗りされている。編集者はここを見せたくないようだ。



「……よし、これでいいか」



※ 文が抜けている。作者は酷く錯乱状態のようだ。



―――――


「随分と仲良くなって、何よりだ」

自然と仲良くなる。友達とは、そういうものだ。

……いや、家族のほうが表現的には正しいかもしれない。

「どうした、星煌。今日は機嫌が悪いな」

ノック音共に校正が部屋に入ってくる。

「いや……今日は少し、疲れてな。修正は任せた」

そう言うと彼女はキーボードを手放しそのまま横になってしまった。



「説明回とはいえ、こんな話を作らなければならないなんて……

それにしても、『各シーンを切り取って集める』ってのは、こんなにも大変なんだな」

「これじゃ、観測者じゃなくて編集者だよ」

「後半はほぼ会話文だな……そんなに嫌だったのか」

そう言って、編集者は愚痴をこぼしながら記入を終え、記録者は電源を切った。



※ 映像は、ここで途切れている。



記録 記入 : 星煌

Q.じゃあチャームってどうやって意識的に発動させるの?

A.感覚。まだ研究途中だし。

まあ、自身の才能を相手に主張するのだと、覚悟を決めればできるとされている。

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