Log_9
この世界で前に進む。
それは生きていくなら当たり前のことであり、後ろに進むことはできない。
未来はは暗闇で見えず、後ろは"思い出"とひとまとめにして、それは記憶になる。
変わらなすぎて逆に違和感を感じるほどの日々。
「私は、なぜここにいるのだろう」
日常とは、そういうものである。
「私は、何を目標にすればいいの?」
人生とは、無数の目標の積み重ねである。
星煌は悩んでいた。こんな日々は、意味があるものなのか?そう、朝食を作りながら。
普通の世界の人と このパラレルワールドの 次元/価値観の『ズレ』_│
―― 朝 7:00
「ふあ、……っ、はぁ〜……」
グリルで魚を焼きながら、星煌は大きく欠伸をする。
朝は明るいくせに、本質は憂鬱の概念そのものでもある。
( だから私は夜の方が好き…… )
自然に対して文句を垂れながら、グリルのタイマーをセットする。
そしてもう一人、星煌とは違いちゃんと朝に強い人物。
「今あるのは……水かお茶だな。どっちだ?」
「日本人たるもの、朝はお茶でしょ」
「分かった」
冷蔵庫の開く音がした。
人類はよく真面目か不真面目に分けられる。それに則り考えるとするならば、間違いなく彼は”真面目”に分類される側だ。
500mlのペットボトルのお茶を、コップと一緒に持ってこようとする。律儀に氷まで入れて。
( お茶の味が薄まるから、氷はなくていいんだけどな...... )
「うん、ありがとう」
そして彼女は無駄な争いを嫌う。
不必要なことは言いたくないし、いやな気持ちにはさせたくない。当たり前のことだ。
今この状況だって、わざわざお茶を持ってきてくれたのに「なんで氷が入ってるんだよ!!」なんて当たり散らかすのは短期の馬鹿がやることだ。
もしそんな小さいことで怒っていたのなら、今頃の彼女の人生は最悪だったろう。
コップに入ったお茶を一口飲む。出来上がるまで、まだ時間がかかる。
かばんに入った日記を読み返す。
その文は拙いながらも、記録としての役割を果たしていた。
だが、残して何の意味がある?
毎日読み返すわけでも、だれかと交換するわけでもないのに。
誰よりも継続が苦手な少女は自分自身に問いかける。
(「そもそも、書いてるのはお前じゃないだろ」
「いや?彼女は自分の人生という物語を綴っているぞ?」
「記録に存在意義なんてないさ。だって、生きていれば意識せずとも過去は記録になってしまうからな」)
( ...... )
勝手に答えを見出そうとする人達に呆れ、日記帳を閉じた。
「おはよう〜!!」
めずらしく、二人が同時起きてきた。
……一人は半分寝ているが。
それと同時に音声案内が流れる。自己嫌悪を中断するのには丁度良い。ベストタイミングだ。
脳内会議を中断させ、鮭の塩焼きを食器に乗せていく。
「ご飯炊けてるから、順番によそってね」
そう声をかけ、席へ向かった。
「今日は穴出るかな?」
日常会話の一つ。もっとも、これをほかの人に話しても何もわからないだろうが。
「どうだか。前みたいな深夜に来るのは勘弁だが」
「あ~、心ちゃんが起きなくて星煌ちゃんが頑張ってたあれね」
「今思えばあれが初戦闘だったな」
三人は少し前のことを思い出す。
深夜三時に警報により叩き起こされた事件。
どれだけ揺さぶっても心は全く起きず、諦めて三人で討伐した。
パジャマ姿のまま外へ飛び出し、星煌は重たい体を叫ぶ事により無理やり動かしていた。
レイピアを両手で振るう暴挙。そしてその雄たけびに敵が恐怖を覚えて、奇跡的に星煌に攻撃は当たらなかった。
三人の冷ややかな視線が心に突き刺さる。
「私も、初めてだったから……許して、下さい......」
申し訳なさそうにしながら味噌汁を飲み干す心。
「全員初めてだ。まあ、何とかなったからよかったけど」
そうだ。結果的には勝利で終わり、その後何事もなくに寝れたのだ。
「……ねぇ、『時空間調査委員会』って、どのくらいの歴史なの?」
ふとした疑問を口にする。
『全員初めて……』そもそも、この委員会はどういう経緯でできたのか。そして、"なぜこんなにも人が少ない"のか。
「それなら、先生が詳しいよね!」
心は先の会話から気持ちを切り替え、歴が長い先輩に頼り始める。
「これでも一応顧問だからね」
可愛い後輩からの期待に寝起きの成人男性は半目で応える。
「照井さんは、どうして顧問に?」
心と諒はもう知ってるかもしれない。
「僕は、指導者さんに推薦されたんだよね。
『最初からここにいた訳じゃないよ』」
( 指導者さんって二重敬語じゃないのかな )
単純な理由。まあ、大人になったら使えなくなるチャームで推薦されているのは、この世界ではすごいことなのだろうと星煌は思う。
「一番新しい委員会で、えっと……まだ十年くらいかな。連盟とかでも二十五年程度だから」
思ったよりも新しい。まあ、チャームが発現されてからまだ歴が浅いので当然のことだとは思うが……
「前居た人たちが居なくなったから、引き継ぎって形で僕が。資料とかも何も無かったね」
穴ができて十数年。その間の情報も、それ以前のきっかけも何もないのは、不気味ではある。
「先輩方……とかもいないですもんね」
「そうだな。俺らが入った時は先生しかいなかった」
時空間調査委員会の歴史は、半分以上が空白になっている。
不在の先輩と、入ってきた理由も不明の後輩達。とても不安定な委員会だ。まあ、上からあまり気にされてないので、その不安定さも当然とも言える。
「最初は大変だったな〜。僕が戦ってたからね」
......
「えっ先生が?」
「先生って戦えるんですね……」
少しの沈黙の後に判明した、二人も知らなかった事実。穴埋めは彼が一人で担当してたらしい。
とてもそうとは思えない。全員の心境が一致した。
なんせ、彼はサボり魔だ。戦闘に参加したのは諒と心が来た初日の一回だけ。そんな人間が、一人で敵を倒せるとは到底思えなかった。
※ 会話文が丸々抜けている。『人員について』とメモが書いてある。
再び気まずくなった空気に、星煌は話題を変える。
他に聞きたいことなんていくらでもある。
「他に、なんの委員会があるの?」
「鍛造なんちゃらは知ってるけど。この前行ったから」
彼女はここに来た時にあったことを思い出す。
名河さんにもらった剣と、初日にたっっくさん説明されたこと。
指導者、連盟 委員会 派閥……それは明確に分離されており、資本主義の序列となっていることを。
( それに対して一番詳しいのはきっと諒のはず! )と頑張って目配せをする。
最初に頼ろうとした照井の口は、リスのようにご飯でいっぱいになっていたので、急遽路線変更した。
「あぁ、それは……」
諒はその意をしっかりと受け取り、指を折りながら解説を始めようとする。
昔はチャームが無かったと考えるならば、途中までは"元の世界と地続き"になっているのだろう。
彼女はそう考えた。だって、今言ったものは明らかに仕事であり、私の世界にもあるからだ。きっと仕事がそのまま委員会にでもなっているのだろう。この委員会は別として。
「全部サイトに乗ってるからそれを見ろ、っていえば一発だけど……」
諒はリモコンを操作しテレビの電源をつける。
『続いてのニュースです。現在、指導者本部では新たな……』
「これは、放送委員会の本部がやってるニュース」
「まあ、いろいろあるが、こういった『日常』への影響が大きい。それがなきゃ、この社会は"成立しなかった"ろう」
「へぇ......」
"社会が成立しない"その制度はそれほどまでにこの世界では重要で、基本的なもの。
星煌がいた世界にはそれがない。が、それでいて成立していた。
やはり、お隣の世界といえど『チャーム』の有無は大きいものだ。星煌は改めてそれを認識した。
嚙んでいた小骨をみそ汁と一緒に飲み干した後に、星煌はさらに問いを投げかける。
「……というか、委員会と連盟て、何が違うの?」
「あ、でた。小学校で習うやつ」
ずっと口を動かして食べるのに夢中だった心が口を出す。結構常識問題らしい。
見れば、既に手元の魚はきれいに食べられていた。
「まあ、委員会は日常生活の安定だったり、一般人に尽くすためが目的となっているものが多い。対して連盟は、指導者や国をよりよくするためにあるのものだな」
「研究や、治安維持……決闘なんかも連盟だな」
「決闘……?そんなのもあるんだ」
決闘が成立するほど不満者がいるのか、はたまたこの委員会を置くことで威圧感を出しているのか......
※『どちらにしろ、正解を知るにはまだ早い』と書かれている。下には修正テープの跡もあるようだ。
「あぁ。まあ、ある程度の戦い方は義務教育で習うからな。
優秀な奴は、委員会側からの推薦が来たりもするし」
「え、戦うってそんなことまで?」
義務教育のレベルをはるかに超えている気がする。そんなことまで習うのなら、星煌の世界でならプロにでもなれるだろう。
「逆に習わないのか?そんなんじゃ自分の身を守れないぞ」
我々の差は、無いように見えて結構溝が深いようだ。
「いや、そんなチャームなんて無いので……平和ですよ、我が国は」
少なくとも彼女が生きていた時代は、争いのない平和な世界だ。
そう言って彼女は最後の一滴を飲み干し、茶碗をシンクの水につけた。
――――
「あと説明すること......まあ、これはあんまり覚えなくていいが、規模が大きい委員会や連盟は、支部があったりする」
ソファーに移動した諒は先ほどまでの会話を続ける。
※『世界観は崩れるが、多少は説明を入れないとな。読者が困惑してしまう』と、付箋が張られている
「基本的には、指導者の本部、及び連盟は都心部の東京に詰まっている」
「支部は各県に散らばっている。そうしないと、対応ができないからな」
「へ〜」
まあ、それはそうだ。
警察官が東京だけにしかなかったら、この国は犯罪率は最悪だったろう。
「そういえば、時空間調査委員会は神奈川なんだね」
神奈川県の大体中心部に位置するこの委員会。東京ではない。
「そうだな。あとは放送委員会の記者支部もここにあるな」
この委員会には、支部がない。まあ、ここ周辺でしか穴は出現しないし、人はいないが実力はあるので支部なんかなくてもよいだろう。
それにしても。
「委員会の日常が、こんなサボりっぱなしでいいの?」
そう、椅子の上で二度寝をしている心を指さし、扇風機を回しながら掛け布団を羽織る諒を見て星煌は言う。
諒は訓練してるときのほうが多いとはいえ、心に関してはほぼ毎日遊びに出かけている。
「まあ、俺らの目的は穴の調査だからな」
「それに最悪死ぬ可能性だってある。それ相応の対価ってやつだ」
( それなら、もっと金をくれてもいいのでは…… )とも思ったが、星煌はそもそも正式加入していないことを思い出した。
「……このシステムは全部、指導者って人が作ったの?」
「そうだよ!!」
心が突然大きな声と共に立ち上がる。今まで寝ていたと思われていたが、それは違った。
先程は、平行世界出身のはずなのになぜか星煌以上に会話を真面目に聞いていた。どうやら、この話題は譲れないらしい。
「指導者って、どんな人?」
「指導者さんはね!すっごいかっこいいんだよ!!」
アニメのように目をキラキラさせ、心は答える。実際には光っていないし、キラキラなんて音もついていないが、そう錯覚させるほどの熱量だった。
「心は、その人が好きなの?」
「うん!だって、こんなに生きやすい世界なのは、指導者さんのおかげだからね!!」
「まぁ、それについては否定しない。それと、五名の補佐がいるな」
諒は手をパーにして指を折りながら解説をする。
「その補佐をまとめて『五線譜』と呼ぶ」
「後は……」
「おっほん!」
心は分かりやすく咳をし、席を立つ。余程自分が解説をしたいようだ。
諒はその役を譲り、また本を読み始めた。
「指導者。頂点に立つ者にして、我らがTOPの超偉い人!
そして、側近 門番 指揮官 決闘者 司書。
その名前を冠した人達が、五人合わせて、合計六人体制で動いてるよ!」
「……TOPは一人じゃなかったんだ」
「正確には独りだ。独裁国家にならないよう、こうして周りの人物がサポートしてるんだ」
指導者がTOPだけど実際は六人ででもやっぱり頂点は一人で……
非常にややこしい。もう少しわかりやすい体制に出来なかったのか。
「まあ、僕たちみたいなチャームを扱う人間が生きやすくなったのは事実かもね」
この中で唯一過去を生きた者は言う。過去はかなり殺伐としていたらしい。
( こうして聞くと、私まだこの世界のこと知らないな…… )
不意に視線をやった先には、スクランブル交差点を映し出す定点カメラの映像。
「……?」
平日とはいえ、やけに少ない人々。
星煌はその違和感を、(今は平日の朝過ぎなのだから、当然か)と結論付けた。
紅茶を一口飲んで、思考を奥のほうに流し込んだ。
――昼 14:30
「諒はさ、その才能嫌いなんでしょ?」
訓練中に突如発せられた一言。星煌のその発言は、的を得ている。
「……よく、わかったな」
「そりゃあ、見てればわかるよ、そのくらい。わかりやすいもん」
諒はそれを聞いて剣の動きを止めてしまう。
彼はチャームの話になると明らかに嫌そうな顔をするし、敵との戦闘以外でチャームを使っているのを星煌は見たことがない。万能なのに。
「なんで嫌いの?」
故に彼女は、どうしてそんなに嫌うのか、不思議で仕方なかった。
「……俺は、チャームがないと何もできないからな。全部、この才能のおかげなんだ」
諒は持っていた剣を強く握りしめる。
彼は、チャームを抜いた自分はただの一般人だと語っている。
銃がうまく扱えるのも、手先が器用なのも、全部、それのおかげ。
彼は、生まれながらにして全てを手にしていながら、それを手放そうと必死なのだ。
「なんでそんな、ネガティブに捉えちゃうの?」
星煌はその発言に一歩踏み出す。
「ネガティブって、だって「何でもできるんでしょ?」
「何もできないなら、使えよ。それが諒の才能でしょ?
弱い部分を隠して、相手を騙し通せよ」
「プライドとか、そんなもんは二の次」
なんだか、前にもこんな会話をした気がする。絶対に、したことがないのに。
デジャヴだ。
( もう一人の私が言うには、別の世界線の私を観測して、その分岐点で感じるデジャヴ……
となると、私がここに来る前、日常生活で感じていたデジャヴは他の私に見られていたのか? でもそうしたら過去現在未来全ての…… )
相手のことを無視して別のことを考え始める星煌。地面に図を作って考察を進めている。
先程の発言が相手の心を滅茶苦茶にしたのに気づいていない。
諒はそれが真理だと理解している。
目を見開いたまま、星煌を見つめる。
そして、何かから解き放たれたように、少し笑った。
( 単純な、ことだったな )
風が強く吹いた。砂が目に入ったのが痛くて、少し目を擦った。
以上。昼~ここまで、ページ■■から一部引用。
※ これは未来の出来事です。ここだけ抜き取らないと、少しおかしくなってしまうからね。
____夜 自室にて
......が、あった。
「まあ、これでいいか」
それは、なんだかんだ習慣になっている日記帳。記憶力が悪い彼女にとっては、それは過去を思い出すためのキーになるだろう。
一枚、恐る恐るページをめくり、過去を思い出す。
「……はぁ」
やはりそこには、一枚、一日ごとににびっしりと文章が詰め込まれていた。
だが、■■前のとある日の一ページだけ、空白の部分があった。
それは、星煌の目標であり、この世界で生きるための希望。
「……?私、この時『やりたい事』書いたんだけど……」
「まぁ、いいや。もう一回ここに……」
ペンをとって、上から書き始める。少し狭いが、簡単な一文だけなら―――
※修正テープで上塗りされている。編集者はここを見せたくないようだ。
「……よし、これでいいか」
※ 文が抜けている。作者は酷く錯乱状態のようだ。
―――――
「随分と仲良くなって、何よりだ」
自然と仲良くなる。友達とは、そういうものだ。
……いや、家族のほうが表現的には正しいかもしれない。
「どうした、星煌。今日は機嫌が悪いな」
ノック音共に校正が部屋に入ってくる。
「いや……今日は少し、疲れてな。修正は任せた」
そう言うと彼女はキーボードを手放しそのまま横になってしまった。
「説明回とはいえ、こんな話を作らなければならないなんて……
それにしても、『各シーンを切り取って集める』ってのは、こんなにも大変なんだな」
「これじゃ、観測者じゃなくて編集者だよ」
「後半はほぼ会話文だな……そんなに嫌だったのか」
そう言って、編集者は愚痴をこぼしながら記入を終え、記録者は電源を切った。
※ 映像は、ここで途切れている。
記録 記入 : 星煌
Q.じゃあチャームってどうやって意識的に発動させるの?
A.感覚。まだ研究途中だし。
まあ、自身の才能を相手に主張するのだと、覚悟を決めればできるとされている。




