Log_5
――大通り
家の周りは草木しか無かったのに、少し歩いたら街の方に出た。
決して都会とは言えないが、車が走り、自転車が通り、人が歩いていた。
「そこの信号を右折したらすぐだ。色んな所に店を構えてるから、見つけやすいんだ」
だから、なんの店なのか教えて欲しかったけど、ここまで来たらもう見た方が早いから
「へぇ、有名なんですね」
とだけ返しておいた。
――鍛造委員会 神奈川県支部店
小さな店の扉を開けると、出てきたのは一人の女性。
「やあ、久しぶり! 何か買うかい?」
「そのつもりで来ました。今日は造ってないんですね。いっつも表にいないのに」
「ついさっきいいものが出来たんだ。今は休憩タイム、というやつでね」
そう話し込んでる二人を横目に、店内を見渡す。
眩しいほどの金属でいっぱいだった。刀、剣、ナイフ等、刃が付いたもので溢れ返っていた。
中には自分の背よりも高くて大きい大剣もあり、値段どうこうより扱える人がいないのでは?と、心配になった。
「やあ!キミが星煌ちゃん?」
「!?は、はい」
そうしていたら突然、諒と話してた相手に話しかけられた。
「うちの宝物、沢山見てくれてありがと」
「話は聞いたよ?武器が欲しいんだって? そしたら、うちを頼るのは大正解! オマケも付けてあげちゃう!」
「あ、ありがとうございます……」
左手をピースして堂々紹介してくれる。昨日も見たな。
随分情熱的な人だ。武器を宝物、と言っている辺り、相当大切にしているのだろう。さっき諒が言ってた言葉的にも、きっと手作りなんだろうな。
「私の名前は名河 染よろしくね!」
「よろしくお願いします。名河さん」
手を差し出されたので、それに答えるよう、固い握手をした。
ツナギを着た、背の高い女の人。少し赤くなっている髪でお団子を作っている。
「なあ、どう思う?こいつでも扱えそうなやつ。ある?」
「う〜ん。まあ、力が強くないんでしょ?なら、"振る"よりは、"刺す"方がいいかもね」
そう議論しながら、染さんは私の手に何かを差し出した。
「これ、持ってみて。重いから気を付けて」
そう手に載せられたのは、20Kgと書かれたボールだった。
「、ほんとに重いですね。これ」
ペットボトルの箱より少し重い程度だろうか。何に例えたとしても、重いのには変わりなかった。少なくとも、私には。
「うん。その程度だったら持てるね。握力はあんまりって聞いたけど、持つ力がある程度あれば平気だ」
「ごめんね、急に乗せちゃって」
そう私の両手に乗ったボールを、染さんは片手で軽々持ち上げ、レジ横の物置へしまった。
刀を鍛造する人だから、力あるんだな……。
いや、それくらいは持てないと話にならないか。
「うん、じゃあこれかな」
戻ってきた染さんの手には、一つの剣が握られていた。
「あぁ、これレイピア?決闘とかで使う」
「そう、これなら他に比べて軽いし、扱いやすい。それに細いから、刺すのにも向いてる」
そう言って手渡された白銀に輝くレイピアは、他の武器よりも輝いて見えた。
「そして何より、星煌ちゃんによく似合ってる! ほら、このシルエット完璧だと思わない?! さすがウチ、センスがいい!」
「どうだ?持ってみた感想」
一人でキャッキャ騒いでいる染さんを無視し、諒は話しかけてくる。
「うーん、想像通りかな。思ったより剣先が長かったけど」
「そうだな。でも、相手からのリーチもとりやすいし、これは持ち手は重いが剣先の方は軽いから、ある程度防御もできるかもな」
「そうね! 相手の力に対応する、ってよりかは攻撃を受け流したり、弾いたりする方がいいかも」
一通り興奮し終えたのか、また諒と会話をし始めた。私にはついていけない話題を。
突き刺す、受け流す、弾く。
よくイメージはできないけど、心に留めておこう。
……この世界の人達はみな戦闘経験に長けているのか?不思議だ。
諒は戦ってるからある……名河さんも客の立場を考えたりするからある……のか?
「いや〜助かるよ。実はそれ、全然売れなくてさ、溶かして他のに再利用しようかなって思ってたから」
そう唸っていたら、相手がまたこっちへ話題を振ってくる。
「そうなんですか?こんなかっこいいのに?」
「! うん、かっこいいのにみ〜んな買ってくれなくてさぁ!」
意外だ。こういった武器は飛ぶように売れるのかと思っていたが、そうではないらしい。
「だから、それタダでいいよ。諒くんにはいつもお世話になってるから、お礼」
「え、いいんですか!?」
「へぇ?いらない武器を処理、じゃなくてか?」
「 違うし!! 私は、どの武器も心の底から愛してる!!」
「冗談だ。貴方の情熱は疑ったことない」
冗談とか言うんだ……じゃなくて。
本当に良い方だ。心の底から感謝を送ろう。文字通り、心の中で。
「じゃ、またなんかあったら」
「はい。グリップのおまけも、ありがとうございました」
持つのが苦手なら、常に縛っておけば良いと言われて渡された手袋とグリップ。これで巻けば完璧だと言われた。
たしかに、理にかなっている。強いて欠点をあげるとするならば、ずっと手袋をしていると手が痒くなることだ。
「いいっていいって!じゃ、二人ともまたねぇ〜」
染さんに手を振って、帰路に着く。
専用の鞘も貰って、至れり尽くせりだ。
まあ、これを実戦で使う日なんて来ない方がいいが、練習で振るう程度なら使っても大丈夫だろう。
「わざわざありがとね、諒」
「別に。死なれるのはごめんだからな。帰ったら扱い方位は教えてやるよ」
「それに、俺が教えるんだから。絶対に上手くいく」
気づけばもう、お昼時になっていた。
――時空間調査委員会本部/自宅
「ただい……」
「あーーずるい!! やっぱお出かけしてたんだ!」
「抜け駆けして仲良くなるなんて!! ずるいずるいずるいずるい……」
ダッシュで玄関に来たかと思ったら、すぐに諒の肩を持ちブンブン揺らし始める心。
「別に抜け駆けはしてねぇ。それに仲良くなるためじゃない。武器の調達に行ってただけだ」
「えー!! でも行きたかった! 悔しい!」
「お前朝起きてただろ!!喚くな!!」
(悔しいなんだ……悲しいとじゃなくて)
それよりもお腹がすいた、朝ごはんも食べてないし。訓練なんかする前になにか食べたい気分だ。
とりあえず貰った剣を椅子に掛け、キッチンに行く。
「あー、ねぇなにかご飯ある?担当は照井さんって聞いたけど……」
……
謎の沈黙が訪れる。まさか、何もないなんて言わないよね?
「あ〜……冷蔵庫、開けてみな」
「?う、うんわかった」
そう言われ開けた冷蔵庫は
おおよそ、"食べ物"と呼ばれる物は入ってなかった。
誰かの飲みかけのジュースや、一個だけ食べられた三個入りのヨーグルトは、あったが。
「……こんな何も無いことある? 電気代の無駄でしょ。これ」
「いや〜私たち、誰も料理できないからさ! 基本先生の金で来るデリバリーか、買い溜めしてるインスタント麺しかないよ!」
「私はそれが嫌だから、基本食事は外でするんだ、経費で落ちるし。仕事判定だから」
(……落ちるんだ)
もはや出たた感想はそれしか無かった。
いや、たしかに私も昼はインスタントで済ませたり、親が忙しい時は買って帰ってきたりするけど……さすがに毎日はなかったかな。私が作る日も多かったし。
なにか作ろうとも思ったけど、食材もないし、もうここまで来たらあるのに縋った方がよかった。めんどくさいし。
そう言って私は適当な棚を開ける。
そこには大量のインスタント食品があった。
「……どれが誰のとか、ある?」
「ない」
諦めが肝心だ、と意見が透けて聞こえそうな声色で返事をしてくれた諒、ありがとう。
「じゃあ、このカップ麺貰うね」
そう言って、私はケトルのお湯を沸かし始めた。
その後は、おやつ時に諒が剣の振るい方を教えてくれた。
やっぱり剣は重くて、疲れるけど。疲労困憊の最中最後に思いっきり振るった一撃は、「中々良い」
「遠慮するな、今の、覚えておけ」
と、褒めてくれた。やっぱり態度は冷たいけど、棘が無くなった。
心も付き合ってくれた。でも、中々相性が悪い。なぜなら心は見た目に削ぐわず大剣を振るい、細かな動きを中心としたこちらを全て蹴散らす勢いで来たからだ。
でも、「楽しい!」と、笑顔で言っていた。まあ、楽しそうで、なによりだった。
そんなこんなで怒涛の二日目が終了した。今日は結局穴は出現しなかった。
でも、貴重な体験ができた。継続するのは苦手だが、自分の生死を分けるかもしれないので、さすがに真面目にやることにしよう。
(今日の日記は、こんなものか)
貰ったノートを閉じる。名前の無いそのノートは、日記というよりかは、遺書に近い。
だから、書き出しを
『これは、私 岸 星煌が体験した
今のところ、8割が非現実的で、2割が現実的な
ただの日記。あるいは遺書である』
にした。名前もついでに書けるし、一石二鳥と言うやつだ。
もう深夜だ。結局夜は帰ってきた照井さんがハンバーガーを買ってきてくれた。まあ、美味しかったから良いのだが。
……
「やっぱり、覗けばするんだよね」
メッセージや呟きを投稿するSNS。閲覧はできるが、書き込もうとするとエラーが発生してしまう。
まあ、SOSも出す気ないし、異世界に来ましたなんて承認欲求もないが。
……
そういえば、やっばり街並みも気になるな。あまりにも、"既視感がありすぎる"
買ってきてくれたお店も私の世界にあるし、街に出てたアニメの広告も、なんだか見た事あるやつだった。
…………
まあ、いいや。そんな事気にしても、どうしようもないし。
みんなも、私がいた地球の話なんて、多分興味無いし。
寝よう。体のあちこちが痛い。
……もっと詳しいことを考えるのには、情報が必要だから。
side ?
「あぁ、寝た」
「でもちゃんと日記書いてくれたから、及第点かな」
次█ █████。あ██たちより先に会う必要があるから、こっちから█████を仕掛けないと。
「"穴"、出してもいいけど。
そしたら行きずらいんだよな……」
「じゃあ、俺が会いに行ってくる?」
隣の██が話しかけてくる。
「ダメ、絶対お前告白とかするだろ」
「うん! 思考だけでもこんなに美しいのに、会えたらもうそれは!」
「あ!もちろん君が一番だから安心してね」
相███ず調子のいいやつだ。
「……まあ、次に出かける時になったらついでに会いに行くよ。お前はお留守番な」
種明かしは ██先、だけどね。
記録 記入 : 星煌




