Log_4
頭の中で小さな物語が紡がれる。
登場人物は全員私で、
その物語は、ただの日常である。
思考するのが好きだ。
議題はなんでも良い。漫画の考察、給料計算、脳内会議。
ただ……「……あれ、何考えてたんだっけ」
壊滅的に、記憶力が悪いだけ。
とある日の始まり、ただの一節_│
side 星煌
ジリリリリと、スマホから機械音が鳴り響く
カーテンの隙間から漏れ出る光と、横から鳴り響く不快な音で、目を覚ました
目に映った天井が見慣れていないのは、私が謎の地に連れ去られているのが現実だと教えてくれるには十分な証拠だった。
ここに来て大体一日とちょっと。
昨日は何もない、素晴らしい一日だった、と日記をつけるのが丸いくらいの、特に何もない……いや、私は証拠隠滅のため連れ去られたのだが。
まぁとにかく、そんな事を忘れるくらいには私の頭の中は眠い だるい 起きたくない その感情……いや、人間の本能ででいっぱいであった。
どうやら時空間なんたら委員会のメンバーはここで暮らしているらしく、昨日私は無駄にでかいくせに何も無い空き部屋を与えられた。
部屋の壁は白く、床はフローリングになっている、一般的な部屋、という感じだ。外見は学校っぽいのに
何も無い......と言っても、そこには木製の長机と椅子、それと申し訳程度の収納スペースが添えられていた。まぁ、ないよりマシ。というやつだ。使うかどうかはさておき、ね。
昨日は疲れからか、押し入れから引っ張りだした古い敷布団にくるまってすぐに寝た記憶がある。
だから今こうして起きたくない身体と起きなければならない頭が葛藤しているのである。そんな身体を気合いで起こす。
やはり人間、布団の力に抗うのは難しい……けど、やらなきゃいけないこともある。
その勢いのままドアを開け、部屋から出る。ドアノブがひんやりしている。少し目が覚めた。
まだ、時刻は6:45
朝と呼ぶのにふさわしい時間帯だ。
健康的に睡眠をとっているのか、それとも夜更かしからか、人の気配は無い。夜更かしと長すぎる睡眠は子供の特権であるからね。まあ、生活音が聞こえないだけで実際は起きているのかもしれないが……
隣の心さんの部屋を通り過ぎ、顔を洗うために下にある洗面所へ向かう
私が与えられた自室は二階で、隣に心さん、諒さんの部屋に続いている。照井さんの部屋は一階にあるらしい。
(寝る時二階まで行くの、めんどくさいな……)
……そんな脳内会話を永遠と繰り返えせるのは、もう目が覚めている証拠だった。
無駄に幅の狭い階段を下り、リビングを抜けた先はもう目的地である。
一般的な家に付属している、何の変哲もない白い洗面台。
冷たい銀の蛇口は、ドアノブで冷えた手に追い討ちを加えるようだ。冷たい水を貯め、顔に浴びせる。髪まで濡れるのは、いつもの事だ。
顔を拭き終わったら、後は皆が起きてくるのを待つだけだ。
なんせ、昨日は身の上話をしただけで、重要なことは何一つ話さなかったから、何をしていいのか分からないのである。
洗面所からリビングに移動し、ソファーに腰掛け、ぼーっとする。
......壁にかかった当番表を見て思い出した。そういえば、昨日諒から聞いた話によれば、家事は当番が決まっている、と。
食事は穹さん、買い物や洗濯を心さん、そしてゴミ出しや掃除機を諒さんがやっている、だっけか。
......まぁ、そんなことを思い出したが、あいにく私、は善の精神に駆られて何かをするような人間ではない。
今日が火曜だからと燃えるゴミをまとめて出してあげるような、ね。
「なんだ。もう起きてたのか」
ガチャリ。玄関の開く音がした。
どうやらもう諒さんはゴミ出しに行っていたらしい。(私が率先してやる必要もなかったな)
その気持ちは、少しの後悔と、安心感だった。
「はい。、諒さんも、朝はやいですね。ゴミ出しですか?」
「あぁ。面倒なのは先に片付けた方がいい」
そう歩きながら向かいのソファーに座る。
「名前、呼び捨てでいいぞ。同い年だろ。あと敬語も外せ」
彼は指をさして私へと言ってきた。命令形だが、内容は優しいものだった。
「あ、あぁ。わかったよ。りょ……し、篠原」
「なんでそうなる……諒でいいから、わざわざ言わせんな。こんなこと」
「すみま……ご、めん」
名前呼びだと馴れ馴れしいかな、と思ったが、そんなことは気にしてなかった。
「……」
「……」
……会話が続かない。切り出すカードも、盛り上げる人も、気遣いの心も、ない。
普段は沈黙状態になっても気にしないが、それはあくまで知り合いや友達だけ。相手は出会って一日で屋根の下で暮らすことになった、ほぼ赤の他人だ。
「おい」
どうしたらいいか、とダラダラ汗を流して緊張してることに気づいたのか、あるいはただの気まぐれか。相手から話してくれた。
「は、はい」
「今、暇だろ?昨日は何も話せずに終わっちまったから。少し説明したいことがある」
「……助かります。ありがとう」
時刻は7:06 おはようと会話を始めるには、丁度いい時刻だった。
「昨日、俺達が所属しているのが時空間調査委員会だって話をしたよな?」
「その肝心な活動内容を話してなかった」
たしかに。だから朝何をしようか迷ってたのか、私は。
自覚するのが遅くなった。あの日はとりあえず流されるまま過ごして、聞きたいことはほとんど聞けていなかった。
「分かりやすく言えば、穴についてだ。お前、あの穴を通ってきただろ?」
「あーはい。心さんに運ばれました」
まあ、出来ればもう二度と通りたくないが。
「あの穴についてわかっているのは、正直ない」
「ないって、何も?」
「何もだ。穴は、現れる時間は不規則で、大きさも違う。強いて言うなら、出てくる個数は基本的に一つ。あと……あの穴からは……そうだな、お前、ゲームはやるか?」
「まあ、人並み程度には……」
「よし。あの穴からは、敵が出てくる」
どうして急にゲームかとも思ったが、説明を聞けば、こちらの方が数倍分かりやすい。うん……
「……敵?」
「あぁ。アンデット 兵士 スライムといった魔物……そういえば、ロボットの時もあったな」
「つまり。時空間調査委員会の活動内容は、そういった敵を討伐。そして、穴の調査だ」
「あぁ、そうだ。穴はなるべく民間人にバレないよう」
「…………どうした?私はいかにも絶望していますみたいな顔をして」
諒が私の顔を事細かに説明してくれる。お陰で猫を被るのも諦められた。
「…………た」
「終わった」
岸 星煌死亡RTAのスタートか?敵と戦う、って、こっちは体育の評定三のたかがの一般人だぞ?
筋力も平均以下。もちろん銃なんておもちゃでも使ったことがないし、剣や刀なんて武士じゃないんだから。新聞紙での代用ならあるけと……
くそ、昨日心さんが明らかに敵をぶっ倒してるのを見て察せばよかった。
「お前、もしかして戦うのとか無理?」
(「無理に決まってるだろ! はいどーぞ分かりましたで敵をバカスカ倒せるように見えるか!?」)
と言ってやりたい気持ちをぐっとこらえ、「はい。私の世界ではそういうの犯罪なんで」と答える。当たり前だ。
「……まあ、私のことは肉盾だと思ってもらって」
「いや、そんな外道な扱い、さすがにしないぞ……」
「悪いな、勝手な思い込みしてた。なんせ、俺らも何も分かってない。今は俺らで捌ききれてるが、この先民間人にも被害が出たら、と考えたら……勝手に期待してた。すまん」
「あぁ、いいんです。私こそなにもお役にたてず……」
言葉に棘があるような気もする、そんな人なんだなと思い込んでいたが、どうやら、ちゃんと人を思える優しい人らしい。
(……でも、本当に何も出来ないんだよな。手助けしてあげたいけど、武力関係はどうにも……)
「あの、そっちはお力になれませんが、敵の解析とかなら、もしかしたら……」
「敵の?どうやって?」
「まあ簡単だけど、諒の後ろから写真撮ってプロファイリングして、なにか癖がないかとか観察して考察したり……まあ、守ってもらう前提の話ですけど」
「あぁ、なるほど。確かに、そっちの方には力入れたことなかったな。心は倒し終えたらすぐ遊びに戻るし、先生は見てるだけで何もしないし……」
「随分と楽観的だ……」
「だろ?でも良かった。星煌みたいな協力的な奴が来てくれて」
名前呼びになっている。
良かった。それぐらいしか力になれないが、無能だから家にいとけ、なんて言われなくて。
即興で編んだ█だったが、何とか上手くいって。
「じゃあ、ひとまずはそれで。写真は……あぁ、そうだ。昨日倉庫から見つけた、ノートがあるんだ。よかったら使ってくれ」
そういって五冊、ノートが棚から出てきた。
「ありがと、余ったら日記にでもするよ」
……日記なんて、付けた事ないけど。
まあ、この機に初めてみてもいいかもしれない。
「そうしてくれ。さっきも言ったが、穴は出てくる時間が不規則だ。一日に何個も出てくる日もあれば、一週間何も無い日もある。
今の所、出現した場合は連盟からのアラートがある。……この証明書に」
「え、そんな機能も?」
「そうだ。警報とともに、急に震え出す。原理は不明だ」
本当に不思議だ、この証明書……まあ、私のは不正に作られたやつだから、アラートなんて来ないと思うが。
「んで、そうして暇な日は自由にしてもらって構わない。もちろん、アラートが鳴ったら集まってもらうが」
「心はどっかに出かけてるし、穹先生はよく釣りに行ってる」
「へぇ〜……諒は?」
「まぁ、本読んだり、色々……外に出ることは少ないかな」
「なるほど。まあ、暇ってことね」
「否定はしない」
(もっと寝とけばよかったな……早起きはできるけど、好きな訳じゃないし)
そんな会話を続け、目を冷めてきたところでハッとする。
委員会のこと以外にも、知らないことが多すぎる。
なんせここは一応異世界だ。自分が適応しすぎているだけで、普通は情報収集をするものだ。
珍しく自主性を持ち、自分から問いかける。
「ねぇ、諒『ジリジリジリ!!』……」
時刻は、7:30になっていた。
残念ながら、聞きたかったことはその音が消し去ってしまった。
「おっはよーーー!!!!!」
「心うるせぇ!!」
……とても大きい、心さんと諒さんの声と共に。
「最低限は自分の身を守れるように、だ」
その発言は、先程から数分しか経っていなかった。先程まで心さんと口喧嘩をしてたとは思えないほど落ち着いた口調だ。
「いつあの穴が出てくるか分からない。だから、最低限の武器を買いに行くぞ」
こういうのは早ければ早いほどいいんだ。と、ひとりごとを言いながら支度をしている諒。
その姿になんだかデジャヴを覚える。不思議だ、彼の姿は数回しか見たことがないのに。
そもそも、武器はどこで買える?そういうの持ち歩いて、法律上大丈夫なの?とも思ったが、敵と戦うんだ。
そこら辺は、何かあるのだろう。と、聞くのはやめにした。
きっと、この世界のならでは常識なのだろう。武器屋が存在するのも、携帯しているのも。
「ええっと、お金は持って言った方がいい?」
「いや、先生の金があるから平気だ、安心しろ」
大丈夫らしい。こういうのって、結構値段張るんじゃないか?
(まあ、いいか)
「行ってきます」
返事は無いけど、そうして出た二度目の外は、前よりも緊張しなかった。
記録:記入 星煌
Q星煌さんのバイト先は?
A「スーパー。最近はセルフになって、やることが無くなって困る」
回答 : 星煌




