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無題/日記  作者: 岸 星煌
序章 『とある日の運命と無数の世界線の始まりについて』
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Log_3


逃げた先。辿ってきた道のり、その後ろには何が残る?


少なくとも、"アイツが逃げた"という情報は残る。


それがどのように影響を及ぼすかは、私は知らないけど。

知りたくも、なかったし。


でも、この世界の事はこれから知ることになる。こんな、非現実的な異世界の事を。



新しい出会い、あるいは一時の別れ_│





今日は空が青く澄んでいる。太陽が地面の草木を輝かせている。生暖かい風に当たって、自然と体が暖かくなる。

鳥のさえずりも聞こえ、今日のような日は穏やかな気持ちに……。


「……」

「あ、おはよ~う」

おーい、と、こちらに話しかける心の声を無視することも出来ず、「ありがとうございます」と一言い、抱えられていた腕から抜け出した。そっと、地に足をつける。


一瞬の出来事であったが、何だか超次元的な移動法に自分は着いて来れなかったのか、意識はあったが、自我喪失していたらしい。

目の前にいる二人……


一人は、心さん。さっき自分を助けてくれた恩人で、何やらもう一人の人と話し合っている。相手の人は……まあ男だろう。背は平均くらいのイメージだ。少なくとも、めちゃくちゃ高くは無いだろう。


二人と自己紹介をかわす前に、少しだけ周囲を見渡す。


( なんか、見覚えのある場所だな )

デジャヴを感じる。

そう、完全に先程までいた場所ではなくとも、なんだか、どこかで見た事のある場所なのだ。

木、石、人の少ない道路。多少の違いはあれど、先程の場所とさほど変わりがないように見えた。

自然相手にそんなことを考えていたら、


「初めまして」

相手から話しかけてくれた。

先程の考えをまとめている暇もなく、その声に思考が遮られる。


「あ、初めまして」

顔立ちは好青年。

やはり背はそれほど高くは無いが、コートを着ていたため全体的にスラッとした印象を受ける。

男にしては長めのウルフカットをし、左上に雀のしっぽと同程度に小さいサイドテールを作っている。

心と同じ様な服を着ているため、恐らく制服かなにかだろう。

こちらは右腕に腕章が付いているが、何故か裏返しでつけている。間違えたのだろうか。


「俺は篠原(しのはら) 諒(ゆう)。諒でいいよ」

「岸 星煌です。好きなように呼んでください」

「了解。……あー、なんだ、悪かったな、うちのが」

「なんだぁ!保護者面して!」

諒さんの肩をポコポコ叩いて抗議している。さも自分は悪くないかのように。

「いえ、全然。助けてもらいましたし……」

本当のことだ。現に心があの場に居なければ、私の命は無く、周りに被害が及んでいた。

ここに連れてこられたのも、その救世の代価みたいなものだし。


そして心さんの顔はドヤ顔に変わっている。これは、自分は悪くないというより、良い事をしたと、言いたかったのだろう。

「その顔ウザイからやめろ」

「なんだと!?」

対して諒さんは塩対応。感情の落差が激しい。


「まさか、人を連れてくるとはな」

「ダメだった?」

「別に。こいつがどう思ってるのかは知らんが」

「私も別に平気ですよ」

なんなら学校をサボれてラッキー位だ。

……この人達、まだ学生だよな。こんな朝から何をしてるんだ。



「で、お前何の『委員会』所属なんだ?腕章が見えないな」


「?、委員会?」

突然言われた言葉に困惑する。


「……じゃあ、学生?」

「まあ、一応」


場の空気が少し凍る。どうやら、この人達は社会人らしい。




「……委員会ってなにか知ってるか?」

「え?学校の委員会ですか?」


「……」

先程から話が噛み合わない。どういうことだ。諒さんもなんだこいつという顔をしている。

心さんが何だか戦ってたのは知ってるが、それ以外は何も知らない。委員会という言葉は、学校でしか使われないはずだ。


「今が何年かわかるか?」

「えっと、2025年5月……何日だっけ」

「いや、そこまで分かれば良い」

相手の反応を見るに、少なくともここは江戸時代ではなさそうだ。


諒さんが少し考える素振りを見せた後、いくつか質問をして来る。

「お前、チ(・)ャ(・)ー(・)ム(・)って知ってるか?」

「え、? なんですかそれ」

「…………成程な」

この噛み合わない会話で、相手はおおよその事を把握したらしい。私は何が何だかさっぱりだが。

チャーム……魅力?本当に何かわからない私は、ただただ困惑することしか出来なかった。



「ひとまず家に案内しよう。こっちだ」

そんなやり取りを終えて、道案内をしてくれる。

"帰る"と言っていたので、おそらく拠点か、学校か、まあ何かしらスペースがあるのだろう。

警戒心を露わにしても、帰ってくるのは疑いなので、ここは有難く「はい」と言って着いていくことにした。

(まあ、他に行く宛ても無いし)

(突然振り向いて銃でも突きつけられなければ良いな……)

なんて、高校生なのに中学生がやりがちである妄想をしながら大人しく、二人の後について行くのであった。


ちなみに、心さんがずっとなんかを喋って、諒さんとギャーギャー口喧嘩をしていた。かなり怖い。




――回想、終わり




その拠点は住宅街から少し離れた空き地に建っていた。

周りには雑草が生い茂り、門は錆び付いて、建物も少し古臭かった。その見た目のせいか、清掃がされていない印象を受けた。


「ここが俺たちの……拠点?住処?みたいなとこ。とりあえず、入ってよ」

必要なこと以外話したくないのだろう。足早に話を進める。

それもそうか。私は部外者なわけだし。

一足先に鍵を開き門を開けている心。

その門はがたがたと揺れ、ギギギ、と鉄鉄がが擦り合う、決して心地よくはない音が聞こえてくる。


だが、それでも一応家?は家なので、

「お邪魔します」とだけ呟いて、その地に足を踏み入れた。


そして、その玄関に心さんが鍵を差し込み、その扉が開く。


「ただいまー!」

そう言って差し込んだ光は、思っていたよりも、綺麗だった。

「さ!上がって上がって!」

心が手招きしながらこちらへ誘い込む。

「お邪魔します」そう言い中に入ると、見えるのは思っていたよりも学校らしくなく、普通に綺麗な家だった。どうやら、外があれなだけで、中はまともにやっているらしい。


靴を揃え、フローリングに足を出す。

廊下を少し歩いた先の扉を開けた先には、おおよそ一般家庭と変わらない程度の設備があった。

ただ、先程見た建物サイズは縦にそこそこ大きく見えたため、この他にも部屋があると思われる。


「色々説明するから、適当に座れ」

諒さんがそう言うと、ホワイトボードを引っ張り出して、ペンを手に取る。

どうやら、ようやくこの世界について説明してくれるらしい。聞き逃してはいけないと思い、カバンから持ってきたノートとペンを取りだし、メモの準備を始めた。


「はぁ……俺でも、異(・)世(・)界(・)人(・)を連れてくるとは思わなかったよ」

どうやらこの世界では、私は異世界人の判定らしい。

それもそうか。私は推定、あの穴を通ってきた人だから。


「おい、お前の世界では、これをなんと呼ぶ?」

手に持ったマーカーペンをトントン指さす諒。

「?ペンですか?」


「……じゃあ、これは?」

「え?スマートフォンですよね…………あ、携帯の方が良いですか?」

至極当然のことを聞いてくる。

( もしかして、この世界では名称が違うのか? )

油断していたが、一応ここは異世界で、私の世界とは違うのだ。

普段と風景が変わらないので深いことを考えていなかった。ひらがなも漢字も使い、名前も日本式だったのでただ戦闘経験が豊富なんだなと思っていたが冷静に考えればそんなはずがなかった。


「「……」」

焦りで汗をかき始める私と、そんな目を睨みつける諒さん。


「……不思議だな。こういうのはもっと、話が通じないか何もかも違うパターンなのに」

「え?」

ボソリと呟いたその声は、私の耳に届いた。

「あぁ、気にするな。少なくともお前は敵では無いことがわかった」

「え、敵って……」

質問をする暇もなく、私は別の答えを受け取ることになる。


「お前は、恐らく違(・)う(・)世(・)界(・)から来たんだ」

「だから、この世界のことを説明してやる。まず、この世界はーー」



そこからはまあ、長かった。

いちいち日記に全部書く訳にも行かないので、メモを参考に、一部を抜粋し簡潔に、かつ箇条書きでまとめた。



そこにあったのは、受け入れ難い事実。

世界はコピペしたようにそっくりなのに、内容は全く違かった。



【メモ】


・ここの世界では一時を境に、何かしらの特別な才(・)能(・)を持った人間が産まれているということ。

・その才能は、チ(・)ャ(・)ー(・)ム(・)と呼ばれ、内容は人によって様々らしい。


端的に言って、羨ましい。

私が来たこの世界には、言わば魔法のような存在が実現しているのだ。


・ただ、その才能を持てるのは子供のみ。つまり、『二十までの人間となる』それ以降は徐々に力が薄れ、ただの一般人に戻る。

これについてはどうにかして延命できないのか、と偉い人?が考えているらしい。


「才能。チャーム。持ってないやつもいるが、最近生まれたヤツらなら大抵持っている。内容も幅広く、この世界のバランスを壊しかねない内容のチャームを持ったやつも居る」


・そのため、上に立つ者の概念が変わりつつある。(総理大臣は、昔の呼び名らしい)ただ、能力が直接職に関連しない裁判官や、一般の会社?等は昔(恐らく現の私の世界)と同じように大人が働いているらしい。



・この社会は権力を持った組織順に、『指導者→連盟→委員会→派閥』となっている。


指導者がこの国のトップであり、委員会までが国に認められた公式のもの。

派閥は、例えるのならデモ組織のようなものらしい。


「この世界のバランスは、"彼女"が保っている。俺らは逆らえず、ただそれに従うしかない。俺はそれに不満も賞賛もないが、他の奴らは違うらしい」



えっと、つまり。

この世界には特別な才能『チャーム』があって、それはいずれ、というか大人になったら無くなって


……?


ま、まぁ良い。無くなって、なんか色々指導者が居たり、働く場所が増えたりしたって事。



……


まあ、今大雑把に説明されたのはこんなところだ。

ある程度のメモを終えたら、前で説明してくれていた諒が突然隣に座り、面と向かい話しかけてきた。


「お前はこの世界と、似て非なる所から来たんだな」

異世界と呼ぶにはあまりにも共通点が多すぎる。未知の言語ではない。ここは日本で、平仮名やカタカナを使っている。

「多分そうですね。チャームとか、そういうのは全然ないですけど」

「でも、私がいた世界も日本です。そこではたくさんの人が日々を過ごしてます」

私はカバンからカメラを取り出して、とある写真を見せた。私もそこに住んでいたという、証明。


「あー、えっと、これ私の家の近くにある公園です」

その写真には小さな公園がポツンと姿を現しており、辺りには桜が舞い散っている。

もしここが私の世界と同じ地形ならば、近くに同じ公園があるはずだ。


「……これ、名前は"なつめ公園"か?」

諒さんは腕を組んで、体を前のめりにした。

「そうです。春にそこで撮った写真ですね」

「……本当に不思議だ」

「見せて見せて!」

心が体を乗り出して、私の手元にあるカメラを覗き見る。興味津々なようだ。


「お前の世界は……俺たちの世界から、『チャーム』という要素だけ抜き取った結果、みたいなものか」

「わ! 分かりやすい!」


確かに分かりやすくはある。

逆でも同じだ。この世界は、私の世界から『チャームという要素を付け足した世界』なのだろう。


「連れて帰ってきたのは良い判断だ。お前にしては珍しく、な」

「もっと褒めたっていいんだよ?」

「今褒めただろ」

迫ってくる心さんの顔面に軽めのアイアンクローをかましている。中々怖い人だ。

心さんはニコニコしてるけど。耐久力◎だ。


「じゃあ、決まりだな」

諒さんは立ち上がって、スマホで誰かに連絡をとった。何が決まったのだろう。

「おい、この世界の仕組みは覚えられただろ?」

「はい、一応」

全然覚えられてないけどとりあえずそう答えた。

「まぁお前が知りたいのはこの世界の事じゃなくて連れてこられた理由の方だろうな」

返事も、思考もする間もなく、相手は淡々と説明を続ける。


「さっき、序列の話をしただろ?俺らが所属しているのは連盟から公式に指名されている"委員会"だ」


委員会。

上から三番目の委員会までは、国に認められた公式の組織であり、そこから下は非公式でやっている、公認されていない組織だと。まぁ、その組織が何をしているのかもさっぱりわからない訳だが……

返事を待っているのか、相手は先程と変わらず、鋭い目付きでこちらを見ている。

相手の言葉に頷きで返すと、また口を開いた。




「そして、委員会の名前は『時空間調査委員会』お前が今(・)か(・)ら(・)入(・)る(・)、人数二名、顧問一名の委員会だ」


「……は?」


腕章の文字が、ようやく見えた。


たった今判明したことだ。どうやら、私はその委員会とやらに確定で入らなければいけないらしく、「拒否権は無い。なぜなら、お前に帰る手段は残されていないからな」

……帰れない、という新事実も今明らかになった。


「ごめんね!何せこんなイレギュラー初めてだし、あんまり目撃者を手放す訳にもいかなくてさ~……」

と、手のひらを合わせ謝ってくる心がこちらに近づいてくる。


「まあ別に、どうせ帰れないなら、いいですけど……」

実際、その通りであった。宛もなく彷徨う訳にも、そこら辺で野垂れ死ぬ訳にもいかなかったのだ。

まあ、そうか。帰れないか。『仕方ない』か。


「だってさ、心」

よほど嬉しかったのか、心さんは先程以上に目をキラキラ輝かせている。


「やったね!人手が増えたよ!!」

(……やっぱりただの人手不足じゃないのか?)

カバンの中から持ってきた自分のスマホを取りだしながら、そんな事を思ってた。


監禁されるよりはマシだ。ここで働けば、それ相応の対価はいつか得られるだろう。

元の世界に帰れないと分かっても、不思議と絶望や不安を感じたりはしなかった。強いて言うなら、バイト先が人手不足なので、急にいなくなって申し訳ない気持ちがある。

……でももう私には関係ないので、やはり大したことではなかった。

なんて、宛先のない思いを垂らしながら、ちょっとした、いやかなり大事なお話しが終了した。



【結論】

・色んな委員会があって、それで国を回している。

・この国が変わった、その原因がチャームであり、それはまあ……魔法みたいなもの。

・なんか色々あるけど、とりあえず帰れない。あと委員会に入った。




ーー同時空 数分後


少しの歓談を楽しんだ後、ガチャッと、鍵の開く音、それに扉の開く音も聞こえてくる。

「あ、先生帰ってきた」

心がそう言うと、スマホを弄っていた手を止め、椅子から立ち上がる。

"先生''。と言っていることから、まあ先程の顧問の人であろう。

リビングのドアを開けると同時に、見慣れない人がそこに立っていた。


「ただいま~「おかえり!!」っと、お〜心ちゃんありがと、ね……」

その者が中に入ってくる……と、同時に目が合う。


「……?」

「……」

……一応、こんにちはの意でぺこりと会釈をしたが、相手は何も分かっていない様子だ。

いや、初めましてとでも言えば良いのだが、横の二人が何か言ってくれるのを待った方が早いのだ。しかも今の状態で下手な事を言ったら空気を悪くしかねないし……。


「あ!先生気づいた?」

そんなことを思っていたら目を輝かせた心さんが間に入ってきてくれた。流石にこのまま一生睨めっこしてる状態にならなくて安心だ。

「流石の先生でもこれは気づくかな〜」

と、その先生とやらはゆるーく言葉を返してこちらへ歩いてくる。

私は慌てて席から立ち、伸ばしてくる手にそっと自分の手を重ねる。

「初めまして、お嬢さん。……君、見た事ないけど、外の人?」

「?え、あ初めまして。外の…?」

「あぁ、ごめん。俺が説明するよ」

重ねた手を離す。また知らない単語が出たが、ここは諒さんに全てを任せるしかない。

知らない人がどうこう話しても、逆な怪しまれるだけだ。

心さんも一緒に説明してくれてるから、とりあえずは大丈夫だろう……相手はとても驚いているが。


「ごめんね、なんか随分とややこしい事になってるけど、とりあえず自己紹介するね」

一通りの説明を終えたのか、相手がこちらに話しかけてきた。

「星煌ちゃん、だよね?私は照井 穹(てるい そら)まあ、呼び方はなんでもいいよ」

「よろしくお願いします。照井……さん」


一瞬、先生と呼ぶかどうか迷ったが、それは関係が深まってからでいいと判断した。第一、委員会所属が説明されてなかったら戸惑うだろうし。


「ここの『顧問』をしてるから、困ったらなんでも聞いてね」

そう言って照井さんは左手でピースをした。右目を隠した白髪な見た目にそぐわずお茶目な人だ。

サイズの合わないエプロンを着ており、ポケットには美術用品が沢山入っている。

(というか、先生っぽくないな)

初めて抱いた印象は、それだった。


「よ~し! これで全員揃ったね!」

気まずく見つめ合う空気が変わった。

心がそう言うと、私の方に近付いてくる。


「ま~まだまだ説明しなきゃいけない事はあるけどさ! とりあえず委員会入ろ! ね!」

「でも、こいつ生命証明書持ってないだろ。そもそもここの世界の人じゃないのに、そうポンポン入れて良いものなのか?」

「ま~そこは先生が偽造して何とかしてあげるよ。そうすれば、買い物とかにも色々便利だしね」


さらっとやってはいけないことをしようとしているが、そこはスルーでいこう。

そしてこの反応を見るに、もう私のことは全部説明してくれたのだろう。


「……あ、お嬢……星煌ちゃんにも、教えてあげるね」

みかねた照井さんが話しかけてくる。

「これは生命証明書。これは私のだけど、みんな色や形は同じ」

白いカードには顔写真と共に個人情報が書いてあり、それは学生証や、現代風ならマイナンバーカードを思い出させる。サイズもそれにあてはまりそう。


「これは特殊な事情でもない限り、生まれてからすぐに登録される」

「これには情報が埋め込まれていてね、なにか複雑な登録や、本人確認。その人の生死判定にも使われたりするよ。あぁ、もちろん年齢確認もこれで一発だよ」

「これを専用の機械にかざせば、ここに書いてある誕生日だけじゃなく、その人の体重、身長血液型とかもわかるらしいよ。まあ、ここにはそんなの置いてないけどね」


「そうなんですね。だいたい分かりました」

要は、絶対に無くしてはいけない個人情報丸わかりカードという訳だ。聞けば聞くほど、そんなもを偽造して大丈夫なのかという気持ちになるが……


「じゃあ、案内してあげるね!」

心が勢いよくこちらの手を掴み、引っ張り始める。ついでに心さんの隣に居た諒さんも。

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」

「なんで俺も……いや、やっぱお前だけじゃ不安だ」

「よし、そうと決まればまずは部屋から……安心しろ、俺がやるんだから上手くいく」

「諒!?先に行かないでよぉ!」

そう言って彼は勝手に行動し始めてしまった。




……

窓から流れてくる風は、先程よりも穏やかに感じた。




side 照井 穹/視線



「……まあ、偽造するのは簡単か」


この国は、生まれてすぐに"生命証明書"を作る。これは才能の診断をしたり、学校に入ったり、委員会に所属したり……そういった時に使用する、欠かせないものだ。


それを持っていない者は、主に『外の人』だ。

生まれが貧しく、作る余裕が無い者や、上に見られたくないからと、わざと作らない者。まあ、ここは████てるから、外の人はあまりいない███████が。

この証明書は、造られてから上に情報が行くため、逆説的に上が下のことを把握できるのだ。


……だから、上から確認されたら少し怪しまれるが、そもそも"偽造"なんて滅多にないから、まあ大丈夫だろう。

(……別の世界から来た人、ね)


この委員会は上から直接作られたが、上はあまり干渉してこない。悪く言えば、放置されている。まあ、あまり興味が無いのだろう。

だから、星煌ちゃんの情報を登録しなくても、そもそも気付かないので問題ないのだ。

実際、私たちは『何も分かっていない』

継続的に出現する黒い穴も、そこから出てくる敵も。

(今回の事件で、何か変わればいいんだけどね)


そんな事を考えていたら、証明書が作り終えた。パッと見では分からないし、中の情報も作りはしたので、あの機械で読み取らない限りは、大丈夫であろう。

「はぁ、バレたらやだな」

珍しく、口からは本音が漏れ出た。


ドタドタと、二階から階段を駆け下りる音がする。

この足音は、心だ。相変わらず全てがうるさい。

ドタドタとリビングに突っ込んでくるそれは大きな荷物を抱えていた。


「見て!先生!使ってない倉庫から色々見つけたの!!」

「お〜、凄いね、たくさんだ。わざわざ持ってこなくても、呼んだら先生行ったのに」

「だって先生忙しそうだったからさ〜……あ!見て!これ!」


「うるさい心。星煌(こいつ)に必要な物を探すって話だったろ?」

「まあ別に私は、私物もありますし」

人数が増えたからか、心なしか二人が明るくなった気がする。来た子(異世界人)は知らないが。


まあ、少しでも上手くいったら良いな、の意を込めてケースに入れた証明書を渡す。

「はい、これ。無くさないようにね」

「ありがとうございます。大切にします」

( こういったものは勝手に作って大丈夫なのか? )

星煌は一瞬だけそう思ったが、直ぐにその考えを進めるのを諦めた。この世界では、この程度どうってことはないのだろう。


「おーすごい!完璧だ!!」

「おーすげー」

「諒すっごい棒読みだよ」

……なんて、わちゃわちゃ騒いでいる声を背に、珈琲を入れ始める。

他のことは、まあ明日説明すればいいし、とりあえず今日は……


「……ねぇみんな、歓迎会でもする?」

「え!?する!する!!」

真っ先に食いついたのは心ちゃん。発言してから三秒しか経ってないのに、もう既に一人で盛りあがっている。

「……まあ、別になんでもいいよ」

諒くんが"雑"なのはいつものことである。

スマホで出前を取る準備をながら、また席に着く。

探検したからか、先程より明るい空気になっている。ブラックのコーヒーも甘く感じる程度には。

「何にする?私はなんでもいいから、みんなで決めていいよ」



side ?



記録 一日目



こ█、███ █████?

書███出し、███ ███


『「これは、私 岸(キシ) 星煌(セイカ)が体験した

今のところ、8割が非現実的で、2割が現実的な

ただの日記。あるいは遺書である」』



……とかね。どう█合っ██でし██?



記録:編集 星煌

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