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無題/日記  作者: 岸 星煌
序章 『とある日の運命と無数の世界線の始まりについて』
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3/58

Log_2



カッ。



「……?」


プロローグが強制的に中断される。

大きな、いや、実際は小さかったかもしれないけど、確かに音を立て、『ソレ』は現れた。


「……なにあれ」

私は小さく呟いた。

気配も、正気も生きてる雰囲気も何も無い。

何処から来たのか知らない、知るはずとも無い、とても人とは思えないナニカ。



腕、足、顔、構成するパーツは全て人間のそれだ。なのに、手首や関節が180°逆に折れていていた。

目の焦点はバラバラで、それが余計に不気味さを演出させた。それが歩く度に骨が折れる音がする。


けど、確かにソレはこちらを補足していて、一歩、確実に地面に足を踏みつけて歩いてくる。足取りは重く、鈍い。

本能が感じる。一歩ずつ近づいて来るのは、人ではなく"死"だと。


突如現れたモンスター。私はどうして良いかも分からずに、方向転換して走り出す。

体力がないとか、朝にしては全然人がいないとか考えている場合ではなかった。


(走るのは苦手だけど、まだ家出て数分だから、来た道を戻って家に帰れば良いか)

楽観的とも取れる意見を脳内で出し合って、ひたすらに来た道を戻る。あぁ、自転車があったらどんだけ楽だった事か。



そもそも、この事態にも遭遇してなかったのでは……なんて、考えても仕方がない。



とりあえず重たいカバンを捨てて、相手の反応を見ようと後ろをちらりと振り返ると、相手は歩いて私の所に来ようとしていた。


近くの木を丸ごと一本抜こうとしているのか、力を込めてそれ抜き始めた。小さな、ってか、皮膚がダルダルな身体にそんな力があるのかは知らないが。


目は見えているのか、不思議だった。明らかに焦点があっていない。

だとしたら、音に反応しているのか? とも思ったが、そんな事を検証している暇はないし、頭脳もない。


ゾンビ的な何かだと思ったが、それはNoといえる。なぜなら肌色が緑では無いからだ。あと太陽の下で歩いてるし。

そんな事を考えながら走った。私が全力で走っているのにも関わらず、相手は一歩踏み出すだけで私との距離を縮めた。




あと気になることといえば、空に浮かんでいる不思議な


…………?



「なに、あれ」


思わず、逃げていた足を止めてしまう。


あんな黒(・)い(・)穴(・)、いや、なんだ?あれは本当に……。



空に浮かぶ、不自然で異質な黒い穴。空が青くて澄んでいるせいで、はっきりと目に映ってしまう。


今、やっと理解した。恐らく"ソレ"はこの穴から来て、こうして、この世界に来ているということ。いや、消去法でそうとしか考えられない。


穴では無く目なのでは? それとも変形可能? なんて考察が思考の邪魔をするが、今はそんなことを考えている暇がない。


「っ!痛った……」

そうして顔を再びソレの方へ向けた時。そいつが投げた石の欠片が、私の頬を掠めた。




ー音と共に、だんだん近づいてくる。

先程とは違く、その目は、はっきりとこちらを捉えている。

いつの間にか相手は木を一本丸ごと抱え、こちらへ攻撃を仕掛けてくる。

やはり、人ではない。モンスターとか、エネミーとか……そういった類の者だろう。なんで居るんだよ、まじで。


やはり、一般人が到底叶うはずもなく。私が頑張って逃げても、きっと追いつかれていただろう。



死ぬ間際まで、そんな事を考える。



……でも初めての被害者って特別じゃない?


きっとニュースにもなるだろう。『岸 星煌』の名前が堂々とテレビに乗り、世間はその話題で持ちきり。


あぁ、嬉しいな。私が、"私"が日の目を浴びるなんて。




『いいよ、大丈夫』『安心して、私は平気だから』『心配しないで、いつも通りだよ』



いつも言ってたセリフだ。どうしてこんな時に流れ込んでくるのだろう。


……


『誤魔化すのにちょうど良いから。"本音"を隠すのには、嘘が必要だから』



(走馬灯ってのは、傷が深い時に流れ込むんじゃないのか )

それが最後の記憶として流れてくるのは、何だか不快であった。


頬の血が滴り落ちる。口に入って、形容し難い味が舌を介して口の中広がった。




相手がその大きな木を振りかぶるのを見た。やはり人ならざるものは、力が強いのだろう。

たとえ致命傷には至らないとしても、人間にとっては相当痛いものである。

近づく死の感覚と共に、後ろに倒れ込み、ゆっくりと目を閉じた。



それは、諦めとも言えた。

無理だと感じたら、それ以上の『努力』はしない。それが彼女の、私のモットーというやつだ。





世界が黒に染まる。






__Log より 一部抜粋




『だからあの時、星煌が無事で、本当に良かったんだ』___





「こらー!!!!」

その声と共に、世界が色付いていく。

目を開けて感じたのが、音。さっきと違って、確実に大きい、いや、大きすぎる音。


次に見たのが、割れる地面。吹き荒れる木々、そして、剣を持った人が一人。

その人に(多分)倒されている、ソレ。


完膚無きまでに潰されてる。血が飛び散ったグロい光景を見て出た感想は特にないが、折れ曲がった足も散らばった目も、さらに歪んで……もう動いていなかった。


(なんか知らないけど、助かってる)

死に損ねてガッカリしたのか、生き残った事に安心したのか……どちらの感情を抱いているのかは、よく分からなかった。



そうして呆然としてたら、その人がこちらに気づいた。


「あ、生きてる!?」


……どうやら、死んでいたと思われていたらしい。大の字で倒れていたからかな。


「あ、はい一応」

そう言って、手を引っ張って倒れてた体を持ち上げる。強く打ち付けたせいで、背中が痛い。


「いや〜倒れてたから死んでるのかと思った!ごめんごめん!」

あははと笑いながら近づいてくる、少しテンションの高い、長髪ポニーテールの女の子。髪色が明るく、恐らく焦げ茶色である。

前髪は切りそろえ、長い三つ編みと触角を出している。制服らしき物を着てるので、おそらく学生。

左腕には腕章をがついているが、服で隠れて文字がよく読めない。



「大丈夫?」

わざわざ伸ばしてくれた手に「ありがとうございます」と返し、起き上がる。


「あ、怪我してる。ちょっと待ってね」

彼女は自身のポケットを漁り出した。恐らく、先程ついた頬の傷の事だろう。


「?いや、このくらい別に」「はい!これ!」

彼女はそれを私の頬へ貼り付けた。


「無事でよかった!」

そう言って笑って、歴戦のアイドルも及ばないくらい、眩しい笑顔で私の手を握った。


太陽というか、星みたいな人だと思った。

こんな性格の人は、言っちゃえば何処にだっている。

でも、それでも……なんだか、特別性がある。カリスマとか、目を奪われるとかはちょっと違うけど。



多分、彼女は夜空に一番目立つ所に立つのだろう。それは月にも劣らずに、有り得なくとも、何色にも輝いて。

そして、私がそれを見上げる人物である。



「初めまして!私の名前は水凪 心(ミナギ ココロ)貴方の名前は?」

「初めまして。岸 星煌(キシ セイカ)です」

「せいか! いい名前!」

目がキラキラしてる。こんなんじゃ、本当にアニメの世界みたいだ。


「いや〜ごめんね?急に。何が起こってるのかわかんなかったでしょ」

「まあ、そうですね」

(ホントだよ……) と、言いたくなる気持ちをグッとこらえる。何が何だか理解出来ていないし、内心は冷や汗ダラダラだし、心臓がバクバクしてる。

正直、絆創膏を渡してくれるまでは、ソレを殺った勢いのまま殺されるかと思ったし。


この人はこんな、バケモンを倒す事を仕事にしているのか? そもそも、これはなんなんだ?


そんなことを思っていたら、急に距離を詰められる。

それは好奇心が中心ではない。理由がある詰め方だ。

「で、さ」

顔は笑ってるけど、表情は真剣。先程とは明らかに雰囲気が違う。

こちらも思わず表情が硬くなる。


「これ、私達のミスも……まあ、あるけど、でも、『目撃者』に君はなっちゃったんだよね」

ふむ、証拠隠滅か?先程思ったことがこう現実になるのは少々早すぎる気もするが。

まあ、どう考えても相手には勝てない。力の差が現れてすぎている。地面抉る程の怪物とまともに戦えるわけない。


「ええっと、だからさ……」

手をもじもじさせて、申し訳なさそうな顔をしながら頼み込んでくる。


「一緒に、着いてきてくれないかな〜って……」

驚いた。思っていた事とは違う言葉に、思わず頭に星が落ちる。

証拠隠滅のために閉じ込められるのか。確かに、外に出さなければ知られる必要も無い。


「あぁ、はぁ、良いですよ……」

どこについて行くのかも聞き忘れるほどには、ね。二つ返事でそれを了承した。

でも、相手からしたらその返事は良好であったようで。


「ほ、ほんとに!?」

目を輝かせながらさらに強く手を握ってくる。

「やった〜!!丁度人手が……」


「、嬉しい〜!」

そのまま腕を上下にブンブン振り始める。

これは一種の筋トレ方法ですと言われても違和感がないほど、勢いが凄かった。



「あー、ところで、ついて行くとは言ったんですが」

「ん?」

そう、肝心な事を聞いてなかった。


「どこに、なにで行くんですか?」

移動方法と、目的地である。

肝心な心さんが来る時に目を瞑っていた為、何も見えなかったのである。


「あの穴に~」

心さんは空に浮かぶ原因不明の穴に指を指す。

「はい」


「飛んで行く!」


「?」


「そして私たちの家に行く!」

「……ありがとうございます」


ふむ。意味不明だがどうやら飛ぶらしい。

飛ぶ?それは鳥のように羽ばたいて?それとも擬似的に?結構な距離があったと思うが。

そうなると問題なのが、まず高いところが苦手。そして降りる時の位置。

高いところから落ちるのは、どうしても苦痛だ。まあ、普通の人間だから仕方の無いことだ。



「よ~し、しっかり捕まってね!」

気づいたらもう目的地の真下に着いていたし、いつの間にやらお姫様抱っこされていた。行動が速い。思考する暇がない位には。


上を見ると、やはり空高くに浮かんでいた、黒い謎の穴。彼女は何か知っているのだろうか。


だが、何かを考える隙すら与えずに、

「行くよ〜!!」



「え、あー、あの」

返事をしようと口を開いた次の瞬間。





私の体は、まるで映画のポスターのように浮いていた。






記録 記入:星煌






side __/視線



――同時刻 ? にて




「あいつ、おっせーな……」

辺りに散らばった敵と青い空、そしていつまでも閉じることの無い穴が、それを意味している。


水凪があっちに行ってから、早三十分。

『あっちのやつ! 飛び込んで殺ってくる!』なんて言って、そもそも移動できるかも知らんのに、駆け出して。あいつなら、そこら辺の雑魚敵一体ちょちょいのちょいなのに、なにをしてるのやら。

いつも通り委員会の仕事をこなしていただけだった。


ただ、ちょっと量が多く、二人では捌ききれなかっただけ。

だから、二つ目に出てきた穴に入った個体がいたから、帰るのか?と思っていたが……そうしたら、一人になっちまったって訳だ。出入り仕様だろ。普通。



……まあ、目を離した俺も悪かった。

穴が二個同時に開くなんてこと、今まで無かったから、穴から出た敵が、別の穴に入ったらどうなるのかなんて、考えたことはあってもどうなるのかなんて知らなかったし。

まあ、俺がやったから上手くいったが。

(今回でどうなるのかは判ったか……)


そんな仮定ばっかの考察をしながら、律儀に待っていた。まだ暑さが本格化する前で良かったと、心底思う。

これで真夏だったら汗びっしょりで流石に帰っていた。当たり前だ。

あの人(先生)も変わらず戦闘には参加せず、俺が迎えにでも行ってやろうかと考えていた時。




盛大な音を立ててそれが来た。



上から降ってくるのは、見慣れた姿と……

その脇に抱えられる……知らない人。



「ただいまー!!」

周囲に豪快な音を撒き散らしながら、派手に着地。オマケに声もでかい。

「いやぁ〜聞いてよ実はさ〜……」

なんて呑気に話し始めるから俺は思わず

「お前、帰ってる来るのが遅いんだ!」「よ!!」

頭にドスン、と一発ぶち込む。


「いったぁ~い!」

なんて思ってても思ってもなさそうな顔と声で心は答える。

はぁ、と、短く息を吐く。既に疲労感はMAXだった。

これはまた、面倒くさそうなことだな…と、抱え込まれてる奴をみて思う。

「……おかえり。で、誰?そいつ」

「拾った!!!」

と、大人も騙せる純粋な顔でそいつは答える。

「……」

何か死んでそうだけど。





……ここからだった、『全ての始まり』は。



俺と、こいつ。それと、この、星煌。




昼間に、星は映らない。だが、消えている訳ではない。

もしかしたらこの世界に生きる全(・)て(・)の(・)人(・)は、ここから人生が変わったのかもしれない。





記録:__

記入:星煌

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