Log_49?
この国には、英雄がいる。
混乱した国民を宥め、この国の未来を先頭で引っ張っていくと約束した人が。
積極的に表に顔を出し、破った約束など一つも無い。
だからきっと、我らは救われる。
この人に着いて行けば、絶対、絶対に。
『指導者』
チャームに関する法を提案し、才能に頼ることなく"実力"でそこまでのし上がった真のトップであり、この国を代表する人である。
『五線譜』
そんな指導者をすぐ横で支え、この世に関するありとあらゆる物事に関与する人達。
そんな、完璧である彼ら。
何の欠陥もなく、長所と長所が重なり合って生まれたハーモニー。
そんな、才能を持った彼らが。
……まあ、日常を過ごす話である。
閑話:『道草を食う暇があるなら、少しでも働け』……との事。
美しく伸びる黒髪は細めのおさげに。
雰囲気で着ている胸当と、両腰に携わる剣。
口角を上げて歩くその表情からは、溢れ出る自信が見て取れる。
彼女がひとたび口を開けば、周りからは歓声が溢れ出るだろう。
「ふんふんふ〜ん♪」
買ったタバコをポケットに入れ、『門番』はウキウキで仕事場へ向かう。
『関係者以外立ち入り禁止』の扉を足で開き、関係者は中へと入る。
「ちぃーす。やってる〜?」
うきうきで入室した門番の目に映ったのは、、パソコンを動かす"側近"とそれを見守る"指揮官"。
そして奥ではソファーでうたた寝をする"決闘者"。
「ほらな、来るって言っただろ?」
「はぁ……」
門番がやって来たことに、指揮官は何やら喜んでいるが、側近は門番の顔を見るなりため息をつく。
「?」
「よ、門番。賭けしてたんだよ、こいつと」
内容はわからなくとも、その結果は火を見るより明らかだった。
「賭け? 何の賭けしてたの?」
指揮官の隣に座り、事の詳細を伺う。
「次に仕事場に来るのは『門番』だってな」
結果は見事的中。指揮官はドヤ顔で語った。
「はぁ……結果は私の負け。ほらよ、くれてやる」
「やりぃ」
そう言って側近は指揮官に何かを手渡す。彼はそれの包み紙を剥がした。
「何それ」
「十円チョコ。うま」
「要らな! ほんで懐かし!」
賭けなんていうからもっと壮大なものかと思っていた門番は思わずツッコんでしまう。だが指揮官は満足そうにそのチョコを舌で転がした。
「てか門番はなんでここに来ている。 仕事を易々と放棄するな、"指導者"に何かあったらどうするんだ」
側近は門番のデコに指を指し詰め寄る。最初の方は彼女を見逃してくれたが、最近はずっとこんな感じの喧嘩ばかりしていた。
「うわぁ出たよ。別にいいじゃん〜こんなへんてこりんな所に入る物好きいないんだし」
門番は毎回その言い訳を使って仕事をサボっている。
「そう言ってるが門番、この前ビル爆破されたの覚えてないのか」
「あぁ〜……まあそんな事もあったね」
会話をしていた三人は先月起こった事件を思い出す。
何らかの恨みを持ったのか、『自爆』のチャームを保持していた人物がサボった門番の隙をついて侵入。そのままビルの三階あたりでチャーム発動からの死亡。
いつも通り隠蔽したが、結果として三階辺りの部屋は全滅。建築支部を呼んで修理してもらう事になったのだ。
それを聞いた指導者はあまりの愚かさに大爆笑。というか、側近と司書以外の人物は全員大笑いしていた。
そんな事もあったが、まあ気にするのは野暮ってものだ。
「まぁまぁそうカッカなさんな」
そう言ってポケットから買いたてのタバコを一本取りだし、口に咥える。
「タバコを吸うな」
「あぁ取られたぁ! ひどぃ!」
側近は門番の口に咥えられたタバコを取り上げる。
「妥当だな。俺未成年だし」
十円チョコを食べ終えた指揮官は口を開く。
「そーいやそうだった!」
なははと門番は笑い、改めて自分が最年長という事実に直面する事となった。
「喫煙ルームがあるんだから吸うならそこで吸う事だ、ここは指導者も使うんだから……」
側近はそう言って取り上げたタバコを返却する。
「はーい。ほんとあの人好きだよねぇ」
タバコを受け取り、それを戻す。手持ち無沙汰な門番は頬ずえをつきながら言った。
「違う。側近としての役目を果たしてるだけだ。それに私は仕事に私利私欲を持ち込まない」
好きな事は否定しないらしい。てか私利私欲言うてもうてるし。
「真面目だねぇほんとに。……そこで寝てる人は良いの?」
門番は窓辺でうたた寝をし、明らかにサボっている人物に指を指す。
青緑色の髪を耳辺りでサイドポニーテールにし、もう半分を普通のポニーテールで結んでいる、少しおかしな髪型。
雪結晶のピアスを付け、軍服らしき羽織りを身にまとった、彼女。
「私か? 私はただ息抜きをしているだけだ」
座って寝ていた『決闘者』は、そう言って今度はスリッパをほっぽってソファーに横たわる。
「サボりだぁ」
「今日の相手は、連盟長である私が出るまでもないんでな」
こちらも毎回その言い訳を使っている。
それもそうだ。決闘を挑む者は、彼女が出ずとも連盟に所属する人物で大体片付いてしまうのである。
実力者である彼女が出張ってくる時は、相手が強い時か人がいない時の二択である。
「じゃあ指揮官は?」
「俺のところは休み。良い兵士を育てるには、適度な休息が必要なんだよ」
軍隊だというのに随分とホワイトだ。……恐らく、今は戦う相手が居ないからだろう。
「もう毎日自主練でいいんじゃない?」
「部活じゃねぇんだよ。んなお気楽気分じゃ腕どころか心までなまっちまう」
「へぇ〜大変だね」
「食べながら喋るな」
チームワークが苦手な門番は置いてあったせんべいを貪りながら言った。
「話し相手が欲しいなら『司書』でも呼んでくるか?」
「……指揮官は、"あの"司書がこの空間で何もせず長時間佇めると思うか?」
パソコンをタイピングしながら側近は言う。
その言葉を聞いた全員が『あ〜』と言って思案した。
「無理だな。私は鳩を出すに一票」
話は聞いているようだ。決闘者はそう言って人差し指を立てる。
「じゃあ〜ウチはその鳩に芸を仕込むに一票!」
「口から国旗出しそうだからやめとくか」
見事に満場一致である。
彼がここに来てしまえば、仕事場は会場と化し、立ち入り禁止はOPEN☆となってしまうだろう。
「はぁ〜あ暇だな。側近君は仕事?」
せんべいを食べ終えた門番は伸びをし、机に横たわる。
「君達と違って暇じゃないんでな」
彼は先程からパソコンを動かし何かを打ち込んでいる。
「俺まで暇人扱い!?」
「うぇ〜いサボり仲間〜」
門番は仲間の証だと言わんばかりにグータッチをしようと拳を上げる。
「サボりじゃない休暇だ!」
休暇なのに仕事場に来ているのはどういう事なのだろうか。そう言って伸ばされた拳を叩き落とした。
「……今は会議中でな。ミュートしてないのでこの会話は相手に聞かれている」
側近は唐突な爆弾発言をする。
つまり、今までの他愛ない会話が他の誰かに聞かれているという事だ。
「え?」
「は!?」
自身達のイメージが失われる事を恐れた門番は驚いて顔を上げ、指揮官は勢いよく立ち上がった。
「冗談だ」
「冗談かよふざけんな!!」
勢いよく立ち上がってしまったのが恥ずかしかったのか、今度は落ち着いて座る指揮官。
ただの冗談であり、誰かさんとは違って人間味のある彼の一面であった。
「びびった〜、じゃあ何? 普通に事務?」
完璧なイメージが損なわれなくて何よりである。その中でも一番表裏が無い門番はまだマシだが、指揮官や決闘者は話がまた違くなるのだろう。
「そうだ。各委員会の報告書を読んで添削している。君達と違ってちゃんと提出されているからな」
先程から打ち込んでいるのはそういった理由なのだろう。主に報告書を提出しない門番に向けて言った。
「へぇ〜ちょっと見せてよ」
門番は立ち上がって側近の席へと向かう。
「わぁ! 文字が沢山! …………もういいや」
覗いた画面には文字がびっしりと詰め込まれており、普段書かない報告書を見た門番はこれからも書かないことを永劫決意した。
「だろうな」
見てもなんの面白みもない、ただの仕事である。彼女がすぐに飽きるのも予測出来た結果だ。
「ちぇ〜、せっかくサボりに来たのに、面白いことがなんも無いや」
「なら門番の仕事をしろ」
「それとこれとはまた違うじゃん?」
「はぁ……」
もはや門番が門番の仕事をするのは諦めている。側近は大人しく名称を決闘者に譲ったら良いとずっと思っていた。
タバコは吸いたいが、ここを離れたら一人になってしまう。雑談をしたいが、一人は仕事をし、一人は寝ている。だがしかし仕事は面倒。
暇すぎる門番が悩んでいた時の事。
「……暇なのか?」
寝ていた決闘者が目を覚ます。怠そうに起き上がり、門番へと問いかけた。
「うん。超暇」
暇すぎて折り紙しかできない程に。
「なら、手合わせ願おう」
そう言って決闘者は銃剣を執る。
「は」
「いいねぇ! その言葉を待ってたよ!」
門番は両腰にぶら下がった剣に手を当てる。
「おい」
「レギュレーションはどうする」
シャツの襟を緩め、決闘者は自身のコンディションを確認する。
「いつも通り、降参待ちね!」
ストレッチを終えた門番は剣を抜く。
「了解した」
「勝手に話を進めるな」
側近の声は二人の耳に入っていない。既に二人の世界になってしまっていた。
「チャームの使用は?」
「はっ、それを聞くか。無論、お前の『開花』したチャームを見るために決まってるだろう」
門番にとって見るのは今回で二度目であるが、あの時の高揚感を今日まで忘れてはいなかった。
「いいねいいね、そう来なくっちゃ!」
盛り上がってきた門番はその目を白く輝かせる。
「次はその目も躓かせてやろう」
既に空気は一触即発。彼女達の手合わせはいつだって死と隣り合わせであった。
「はぁ……おい、待て」
見かけた側近が立ち上がり、二人の間に入る。
「こんな狭い所でやるんじゃない。やるなら外でやる事だ」
側近は扉の外に指を指し、そう説得する。事件でもないのにこの部屋が破壊されたらたまったもんじゃない。
「それもそうだな。ここでは狭くて身動きが取れん」
「ここじゃあ物が多すぎて剣が振るえないしね!」
二人は納得して扉の外に出る。恐らくいつも使っている庭先でタイマンを行うのだろう。
「俺もついて行こ。どっちに賭ける?」
指揮官はそう言って立ち上がり、事の行く末を見守ろうとした。
「……門番」
「ほんと安定択しか選ばねぇよな!」
「行くなら、さっさと行かないと終わるぞ」
そんな事を言う指揮官をしっしと追い払い、側近は仕事を開始した。
「はいはーい」
指揮官は二人を追い、外に出た。
扉の閉まる音がしただけで、その後は何も続かなかった。
「……」
賑やかし担当である三人が消えた事により、この仕事場には側近ただ一人だけになってしまった。
「静かになったな」
そちらの方が集中出来るが……気持ち的には、うるさい位が丁度良いのである。
毎日あのうるさい声を聞いていたらこうなってしまうのも致し方ない。
『コンコン』
「? どうぞ」
そんな中、一つのノックが鳴り響いた。
関係者以外は入れないので、消去法で辿り着いた答えは……。
「『そう言って扉が開かれる。入って来たのは五線譜に所属する"司書"であり、いつもは来ない来客に側近は目を丸くしている』」
「『それもそうだ。司書は普段図書館に籠りきりであるため、顔を見る事自体珍しいのである』」
「部屋にいらっしゃらなかったので。これ、報告書です」
「『彼はそう言って、茶封筒に入れられた紙媒体を側近へ手渡す。側近は』」
「ありがとう。いつも早くて助かる」
「『と言い、貰った封筒を引き出しの中に仕舞った。報告書は出さず、仕事はサボるのが五線譜のモットーである中で、こうして報告書を提出するのは希薄な存在である』」
「……そんな事ないぞ」
「『側近はその現状を改革しようと試みた事が過去にあったが……結果こうして、ほぼ全員の仕事を抱え込む事になってしまった』」
「お疲れ様です。それでは」
「『あいにく、司書にはどうする事もできない。用はそれだけであったようだ、彼はそう言って来た道を戻り、静かにこの部屋を退室した』」
『司書』
藍白い髪で左目を隠し、帽子を被った男性。
寡黙で真面目な人物。図書委員会とは別の"資料"をまとめており、その情報を管理する人物。
……ずっと本と共に育った為、『この世は本と同じである』と勘違いし、この場の状況、自身と相手の心情を小説のようにつらつらと喋る癖がある。改善不可。
そしてそのせいで静かなのが苦手である。もしかしたらこちらも賑やかし担当なのかもしれない。
「……」
「引き止めた方が良かったか……?」
再び静かになった空間。彼がいれば少しはましになったのだろうかと、側近は見送った事を後悔した。
……
「指導者様」
扉の前に佇むのは、恐らく報告書を提出しに来たのであろう人物。
「お前か。遅くまでご苦労なことだな」
「あなたの側近ですので」
彼は顔を少し下げたまま、答える。
「……この場には私達二人以外居ないってのに。お前、いつになったら敬語を外すんだ?」
指導者は腕を組み、髪から見え隠れする瞳を見つめる。
「あなたには出来ません」
側近は首を振る。
「他の奴らにはするのにか?」
「立場が違いますから」
「へぇ。……まあいい。お前のその性格は、今に始まった事じゃないからな」
指導者は彼を認めたが、彼はそれを拒否する。そんな難儀な性格である事は昔から変わらなかった。
「ご理解いただき光栄です」
側近はそう言って更に頭を下げた。
「報告書はあるか?」
「こちらに」
側近はクリップでまとめられた紙束を提出する。
「一、二……全員分揃ってるな。後は私がまとめておく。下がっていいぞ」
「かしこまりました。失礼いたします」
そう言って彼は自室へと戻って行った。
「……」
小さくなる背中を見送って、指導者は自身の部屋へと入室した。
「全く、どいつもこいつも」
「くだらない」
「どうせ"読む気など無い"と、アイツも分かっているだろうに」
既に焼かれ、塵となった報告書を見た。
それをゴミ箱に捨て、指導者は席へと戻る。
唯一残った一枚を手に取る。
彼女は火を消し、満足そうに微笑んだ。
『本日のチャーム利用数……』
『争い…………』
『洗脳人数 □□……今後の…………』
記録:記入 星煌




