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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『何もない、起きやしない日常の大切さについて』
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諒はよく『雑』だと言われる。

だが実際には、誰かの世話を焼いたり、その人の面倒を見たりする。

そこだけを見れば、雑なんかではなくただの良い人だ。


……だが、『やり方』がとりわけ雑なのだ。

掃除をしたかと思えば物の位置を移動するだけで終わり。料理を作る時は大抵目分量。

世話は焼くが、上手に焼き上げるとは言っていない。そんな育て方なのだ。


彼の性格は、雑と言うには少し違う。雑ではなく、『手を抜いている』のだ。



彼は既に諦めていたのだ。幸せになる事を。

復讐(それ)』が済んだらどうせ全て失われる。だから、執着なんかはしない。したら、余計に辛くなるから。

だから、生きる事に手を抜く。



それに手を抜いた所で、大抵は何とかなってしまうのだ。

彼は、そういう『才能』を持っていたから。



「なんであんな適当な服で、ここまで完璧に仕上がるの!?」

「まあ、そういう『チャーム』だからな」




コーディネートはスタイル次第? _│





「服を買おう!!」

朝ごはんに手を付け始めた心が言う。二番目に遅くに起きてきたというのに、その場の誰よりも元気だった。

「……あぁ、この前行けなかったから?」

星煌は諒から借りた本を読みながら会話を始める。現在八十七頁。エンドロールまでまだまだ先である。

「でも今日雨だぞ」

隣で昨日の野球ゲームの続きをしながら諒は言った。

リビングの大きな窓には水滴が滴り落ち、雨音が響く。次の日には雑草が抜きやすくなっているだろう。

「雨だからこそだよ !!」

「雨。つまり人が少ない。とても良いね」

心が叫ぶ言葉に同意する。確かに雨の日は外出する人が減り、建物は比較的空く傾向にある。

「くそ、星煌も乗り気なのか……」

諒は顔を顰め、いつも少数派になってしまう自分の才能を恨んだ。

「いや流石に暑すぎるから服買いたいだけ」

「?……そうか、長袖か」

諒は少し前に繰り広げられた会話を思い出す。

諒はただの日焼け対策だと勝手に思い込んでいたが、そうではない。現に今も星煌は長袖のTシャツを着、腕を捲っている。


「うん。ここに来る時、もっと荷物持ってくればよかったな」

星煌がそうボヤき、紙を捲る。会話をしながら読んでいるため、頭の中には二つの光景が繰り広げられている。

「お前、最低限の荷物は持ってきてたよな」

星煌の私物は結構存在する。歯ブラシも今着ている洋服も、全て彼女の世界のものだ。


「そうだよ、……私が家まで運んであげたんだからね?」

ご飯を味噌汁で流し込み、心は渾身のドヤ顔をした。

ここでご飯を口に含ませながら喋っていたら、諒と星煌、どちらからも叩かれていただろう。

「あぁ、そうなのか?」

諒は視線を心へやり、答えた。


「うん。星煌と穴に入る前に、『一回家に帰りたい』って言うから急いで家に連れて帰ったんだぁ」

心は星煌と出会った時の事を思い出す。

星煌を抱えた瞬間に『あ、待ってください』と言われ、そのまま自宅に案内されリュックパンパンに荷物を詰め込んで来たのだ。

「へぇ。そうなんだ」

当の本人は興味が無さそうに言った。

「忘れないで!?」

星煌の記憶は常に新しいものでいっぱいである。

今日の朝も、ベットの上で『どっちの足から降りようか』と悩み、 『前にもこんなことあったな』とデジャヴを感じていた。実に面白くだらない事を"観測"している。

前の世界なんて『くだらないもの』に割く脳のリソースはないのである。


「よく間に合ったな」

「私の脚力舐めないでよね!」

心はさらに大きな声を出し、自身の能力をアピールした。

「あーそうだそうだ。そんでとりあえず必要になりそうな荷物詰め込んだんだ」

「何を入れたんだ?」

「えー……ぬいぐるみ、スマホ、モバ充、財布、服、歯ブラシ非常食その他諸々」

星煌が指を折りながら次々と物を数える。

「ラインナップが旅行すぎるね」

「自分でツッコムな。てかぬいぐるみってお前……」

「可愛いでしょ?そこに置いてあるやつ」

星煌は本を閉じ、テレビ台に居座る猫のマスコットを指さした。

「あれお前が持ち込んだのかよ!」

知らぬ間に増えた事には気付いていたが、まさか犯人が彼女である事に諒は驚きを隠せなかった。



「まぁまぁいいじゃんそんな事はさ。早く行こうよ」

「そうだよぅ! ついでにお昼も食べてこよ!」

今朝食を食べ終わったばかりというのに、心は既に次のご飯を楽しみにしている。

「心引っ張んな服が伸びる。まずは先生を起こせよ」

「たしかに。部屋覗いてこよ」

「えー !! ずるい私も行く!」

「おい待て!」

三人はドタバタと足を響かせ、照井の部屋に続くスライドドアに手を付けた。



そのドアが開かれるのと同時に、三人は奇妙な光景を目にした。

「…………」

照井が無表情のまま壁を見つめて立っている。目線の先には何も無く、ただ真っ白な壁のみが広がっていた。


「……起きてたんですか」

諒が境界線越しに恐る恐る話しかける。星煌と心はズカズカと中に入り、ペンやスケッチブックで乱雑に散らばった床を歩いた。

「じゃあ、今の聞いてたよね?先生!」

「……?」

心は照井の前に立ち、下から顔を覗き込む。彼は理解していない表情で壁を一直線に見つめた。

「おーい先生?生きてる?」

彼の前で手を振り、生存確認を行う。照明のせいか目にはどこか光がなく薄暗い雰囲気を感じさせた。

「生きてる……?」

「なんで疑問形なんですか。ほら部屋から出ますよ」

諒はレール越しに照井の手を捕み、自室から引き摺り出そうとする。

「うん……うん? あぁ諒くんか……」

「そうですよ篠原諒ですよ」

ようやく目が覚めたのか、照井は視線を壁から諒へと移し、納得したかのように何度も頷いた。


「諒任せた。心、昼何にするか考えない? マップ一緒に見ようよ」

星煌はそう言い残してリビングへと撤退し、すぐにソファーに腰を下ろした。

「みるみる!」

「あいつら……」

心もそれに続いた。部屋の中は既に二人しか残っていない。諒は微かな怒りを抱えて照井を引き摺った。


「…………」「寝ないでください!!」

照井は頷いていたのではなく、眠くて首がカクカクしていただけかもしれない。

結局の所、出掛けるのは昼頃になってしまった。三人がかりで世話を焼こうと、大型赤ちゃんには叶わないのである。




「ファッションショーだ!!」

向かったのはいつもと同じショッピングモールである。星煌目線では数回しか訪れていないが、頻度が高すぎてもはや常連客の気分であった。

「ねぇどこから見る?やっぱ今流行りの……」

心はテンションが最高峰まで高まる。うきうきで振り返り、三人に案を出そうとした。


「試着めんどくさ。サイズあってれば良いや」

「マネキンのコーディネート真似するんじゃダメなのか?」

「とりあえず目に付いたもの全部買うね」

「……」


「ど、どうしてこんなに……服に関心がないの……?」

心のテンションが一気に最底辺まで落ちる。その惨状に彼女は頭を抱え、困惑した表情で問いかけた。

「私はあるよ。ほらこれ可愛い、買わないけど」

「まだ俺の方があるな。少なくとも上下を揃えようとしてる」

「僕が一番買う意欲高いよ?」

「そうじゃなくて!!」

三人の発する言葉全てが心にとってアウトである。ファッションのフの字も理解しようとしていない。誰も関心がない。


「もー! 私がみんなの見繕うから!とりあえずここのブランドはダメ。ほら行くよ!!」

三人まとめて張り切った心に引き摺られる。中々の筋力だ。普段から大剣を振り回しているだけの事はある。



「えー先生はいいよ……しかもなんでトップバッター……」

最初の被害者は照井であった。

彼の着る服はだいたい同じものだ。毎回考えるのが面倒なので同じ服を何度も買って着回しているが、心はそれが気に入らないようだ。

「なら新しいエプロン買えば良いじゃないですか。それだいぶオーバーサイズですよね」

諒は照井の着るエプロンに着眼した。そのエプロンの丈は長く、照井の膝下まで伸びていた。

「これはお下がりだからなぁ」

送る相手が自分の事を嫌いになってしまった為、仕方なく照井がそれを着ている。

「思い出の品ってやつなんですね」

先生にそんな相手が存在するのか疑問に思ったが、諒はその理由に一応納得しておいた。


「だとしてもだよ!」

「先生いっつも同じ系統の服じゃん!」

心が高らかに叫び、照井の肩をベシベシと何度も叩く。

「いやーこれには訳が」「わけとかじゃない!ほらこれとか似合うよ!」

手当り次第に掻っ攫った服を照井に押し付け、心は彼の顔面を埋もれさせる。

照井の言い訳虚しく。しかも顔を塞がれたため言葉を発することすら不可能になってしまった。


「先生スタイル良いんだから!」

心は両手をはたき、埋もれている自身の先生を見て何度か笑った。

「そう?背は諒くんとほぼ変わんないよ?」

照井は顔をひょっこり横に出すことでその問題を解決した。

「何cmですか?俺は百六十八(168)です」

「ほら、僕ギリギリ百七十(170)だもん」

各々の身長を公開する。ちなみに、樺澤凜々は百七十五(175)cmである。

「え!なんか意外と普通!」

「失礼だな。じゃあお前は?」

百六十二(162)!」

平均身長の意地虚しく、目の前に立つ破壊神は女子の中では結構背の高い方だ。諒の方が高いのに彼は負けた気分になり、一人で勝手に落ち込んだ。

「おー意外と高いね。星煌ちゃんは?」

百五十五(155)です」

こちらも随分と意地を張っている。足先を震わせつま先立ちをし、星煌はドヤ顔をした。

「おーちっちゃいね」

「小さくはないですよ?私の周りが高いだけなんで」

「えー嘘だぁ」

「私の周り私より小さい人めっちゃ居ましたからね!?」

「矛盾しているぞ星煌」

先程言った事と真反対の事を言う星煌。諒はその言い訳を見逃しくれなかった。

「くそっ言葉の綾が!!」

彼女が言った『私の周り』について、恐らく最初に使ったそれは"ここの世界"の事を言っており、後に使ったそれは"元の世界"の事について言いたかったのだろう。言葉の綾というよりかは、ただの表現不足である。


「はーもういいんですよ、私の話は……ほら、心がカゴに服めっちゃ入れてますよ」

そんな脱線した話をしていたら心が暴走している。照井が金持ちなのをいい事に普通ならありえない量の服が入っていた。

「あらーほんとだ。んーじゃあそれで」

「適当……諒にも勝るほど雑」

「俺は雑じゃねぇよ」

「じゃあ面倒屋?」

「……間違っては無い」

心を除く三人の共通点は"ちょっと面倒くさがり屋は所がある"かもしれない。

そんな三人ははしゃぐ心を遠目で見つめ、重たそうな照井の荷物を分け合って持った。


「ねぇ、あそこの画材屋さん見てきて良い?」

照井がそわそわした様子で諒の袖を引っ張る。彼が指差した先には、如何にも彼が好みそうな美術用品専門店があった。

「良いですけど……まだそれ新品ですよね」

諒は照井のエプロンポケットに入った輝く画材を見る。それで戦っていたのにも関わらず、それには傷一つ付いていなかった。

「見るだけだから! 増やさない増やさない!」

照井は笑みを浮かべてうきうきで走って行ってしまった。感性はおかしいが、彼も普通の芸術家である。

「これは盛大なフラグだね」

「俺もそう思う。百円賭けたって良い」

「競技相手居ないからハイリスクノーリターンになるよそれ」

二人は会計を済ませた心の荷物を持ちながら小さな賭けをした。まあ、どちらも同じ側に着いているので賭ている意味が無いが。



「じゃあ次星煌ね!」

大量の荷物を男共に預けた心はステップを踏みながら次の店へ向かった。次は念願の星煌である。

「よし、心任せた!」

「任せられた!」

またもや心が全て決めようとしている。星煌は某有名モンスターのトレーナーように指示を出した。

本人が提案した事で、ノリノリであるから良いが普通の人なら相手にバチギレするだろう。


「女の子は分からないな。あそこにガチャガチャあるから見に行かない?」

手に大量の美術用品を抱えた照井は更に荷物を増やそうとする。

「いいですね」

同じく買った服を持った諒が照井の後ろに着いて行く。こういう時の男子の価値観は一致しがちである。

「ちょっと男子!?勝手に行かないで!」

心の説得虚しく、既に男共はよく分からないマスコットのガチャを回している。もちろん照井のポケットマネーで。


「これはあまりにもオーバーサイズだなぁ、背ちっちゃいもんね星煌」

「さっきちっちゃくないって弁明したはずなのに!」

また身長の話に戻ってしまった。不覚を取った星煌は悲しい表情を見せる。

「私から見たらちっちゃいよ〜」

心は星煌のつむじをうりうりと撫で回した。さらに縮ませようとしている。


「えーー……心、私はこう見えて平均身長だし、」


「平均体重『以下』!!! だよ」

星煌は自分が唯一威張れるアドバンテージを提示した。ちなみにもう切り札は残されていない。


「〜〜!!な、なんだ、と…………」

だが、女子相手にそれはボスをも仕留めるラストアタックであった。

心は驚愕した表情で後退りし、思わず手に持っていた服を落としそうになってしまった。


「星煌、裏切ったね!?!?」

すぐに星煌の胸ぐらを掴み、彼女を前後に揺らす。涙目でわんわん喚き、心は悲劇のヒロインを演じた。

(百五十五(155)は平均以下……)

何故か高一女子の平均身長を暗記している諒は体重ではなく身長の方を気にした。

「ちなみに聞くけど何kgくらい?」

心は堂々と女子に体重を聞く。デリカシーはゼロあるが、この委員会はそんな事を1mmたりとも気にしない人間で構成されているので問題ない。ノンデリ集団である。


「-一kg」

(一kgだけかよ)

「一kgも!?!?!?」

「……」

どうやら一kgは女子にとって重要なものであるらしい。諒は思った事を安易に口に出さなくて良かったと心の底から思った。

「ふっふーん。反応を見るに君は平均超えだね。まあ、これが努力(してない)の成果だよ!」

「おー星煌だけに?」


「いたいよ諒くん無言で横腹を叩かないで」

少し内省していた諒の気持ちなんて知るはずもなくギャグをかました照井を叩く。

「BMIは?」

諒は吹っ切れた。いや、元からこうなので吹っ切れるもどうもないか。やはりノンデリ集団である。

「は?ふつうに決まってんだろ雑魚が」

「雑魚なのは星煌ちゃんじゃ……」

照井は思った事をすぐに口に出してしまうタイプなので、たまにこういったツッコミが成立してしまう。そしてこの中で一番雑魚なのは星煌なので正論である。

「良かった〜〜」

心は胸に手を当て安心したように息を吐いた。

「良かったって何?心……」

「いややせ型だったらちょっと叩いてたかも」

心は本音を口にする。平均体重をギリギリ超えている彼女にとって、BMIまで痩せ型だったら絶交までいっていたかもしれない。

「酷い!」

痩せている側に太っている側の気持ちは分からないものである。まあ、全人類を平均的に見れば彼女たちはどちらも痩せている方であるが。


「へー。ちなみに僕はやせ型だよ」

「!?!?!?」

衝撃の事実が明らかになる。道理でもやしみたいなフォルムな訳だ。男子でやせ型とは、これまた珍しいものである。

「あんだけ食べてるのに!?」

普段の照井はそれはまあよく食べる。余ったら明日出そうと星煌が作った大量の副菜を、彼は一人で半分食べた。

「うん。まー体質かな?」

そして全く動いていないのにも関わらずその細さ。体質というのはなんとも残酷なものである。


「心ちゃん、お腹殴らないで、痛いから」

先程から腹ばかりを狙われている照井。

「くそ……負けた悔しい……」

心は悔しがって照井の薄い腹を何度も平手打ちする。確かに骨が浮き出そうなほど痩せていると感じた。

「諒は!?!?」

「俺も大体平均だよ……」

心はバッと顔を上げ神妙な面持ちとでかい声で諒に問い掛けたが、彼もまあ普通体型である。

「体脂肪率は?」

「知らないです。まあ筋肉はそこそこありますけど」

諒は日頃行っているトレーニングを振り返る。最近は星煌と共に行っているため信憑性はかなり高い。


「え、シックスパックってやつ?」

「ほんと!?見せて!!!」

「ここで見せるバカが居るか。んなバキバキじゃねぇよ」

勝手にシャツを捲ろうとする心の手を諒ははたいた。ノンデリというよりかは変態である。

「心ちゃんといい勝負かもね」

「たしかに!今度腕相撲しよ!」

そこそこ鍛えている男VS筋肉女。果たして勝負したらどちらが勝つのか。心はうきうきで腕を捲った。

「そうだな。てかさっきから喋ってばっかで何一つ進んでないぞ」

「そうだった!!ファッションショーしてるんだった!」

「ショーはしてないかな、心」

心はドタバタと星煌の服を漁りに行き、何着かを取って持って帰って来た。


「これとか良くない!?ほら着てみてよ!」

「えーやだよ。普段使いバツだから」

心に押し付けられた服を返却する。そこには普段着ない様な可愛らしい服が何着かあった。

「そんなことないよ!」

「えーだって着る機会ないもん」

「今日みたいな日があるじゃん!」

「でもどうせ着るのは委員会の制服じゃん」

「……」

最近は何度かお出かけしているが、このような場合でも『穴』が来たら大変なため時空間調査委員会……というか、委員会連盟全部勤務中は絶対に制服を着る決まりとなっている。

つまり、普段はずっと制服なため着る場面はほとんど無いのである。


「あー、実は『これ着て下さい』みたいな正式な服は無いんだよね」

見かねた照井は入社日に言い忘れていた事を今伝える。

「無いんですか!?」

「諒がツッコムんだ」

つまり諒も知らない。彼は大声で叫んだ。今の今まで、三人は知らない規則に従っていたのである。

「うん。"シャツ"を着て、"腕章"付けてれば基本的になんでも認められるよ。色も問われない」

との事である。その二つに従ってさえいれば、どんな服装でも大歓迎であるらしい。たとえビリビリに破れたシャツであっても奇抜なレインボーカラーでも問題は無いだろう。

「じゃあなんで二人は似たような服なの?高校生が着る制服みたいな……」

星煌は二人の服装を交互に見る。今は夏服であるが、当初の二人は高校の制服の様なブレザーを着ていた。

「ふふ、たまたま被っただけだね!」

「いーや俺にはコートがあるね」

「夏に着るもんじゃないでしょ」

そのため半袖である。

『似たような服装』と星煌は言ったが、彼女が気にしてないだけでよく見なくとも二人の服装は全然違う。


「じゃあ着る機会あるね!買お買お!」

「え〜だってこれ、はぁぁぁたっっっっっっ……危ない。高いって言いそうになった」

値札をめくり星煌は驚愕した。こんなのをいくつも買ったら彼女のポケットマネーはゼロになってしまう。

「言ってるよ、星煌ちゃん」

「これで高いって、いつもどこで買ってるの?」

少しお金に余裕がある家庭なら、この程度は出せるであろう値段だ。心は不思議に思って星煌へと問いかけた。


「(暮らしに癒しと幸せをお届けするタイプの激安店)」

「まじであり得ない。星煌ってほんとに女?」

即座に心はドン引きした。一度も聞いた事の無い低い声で。

恐らく女にとってのプライド等は星煌に存在しないのだろう。

「(某激安ネット通販)とか」

「おばあちゃんかな?」

年齢の高い人が着るような芋服を着ていたらどうしようと心は不安になる。

「安けりゃいいんだよ何でもよ」

星煌の中でセールされていない品は高いという認識である。実際間違ってはいないが、それでも安いものは沢山ある。一般的に見れば。


「……貧乏なのか?」

その話を聞いていた諒は恐る恐る問い掛ける。流石にケチという域を超えている気がした。

「いや?そんな事ないと思うけど。節約してるだけ」

実際星煌の家庭はめちゃくちゃ貧乏と言うわけではない。ごく普通の一般家庭だ。でなきゃこんなに捻じ曲がらない。

ただ、贅沢するのなら貯金をしたいような人達が集まっており、星煌もそれに準じているだけだ。

「僕が買うから値段は気にしなくて良いのに」

四桁の服なんか照井が小さい頃は一度も着る事は無かっただろう。

「えぇー……じゃあ心に任せた」

「脱線しすぎただけで、最初から心に任せてたろ」

「そうだっけ?まあなんでも良いや」

「……お前、俺よりも大概雑だぞ」

「そう?」

諒は雑。照井は放任主義。星煌は面倒なだけ。雑にも色んな種類があるのである。



「最後に諒ね!」

「本当にどうでも良い」

荷物持ちで疲れ果てた諒はよくある丸いソファーに座ったまま動かない。

「言っとくけど、諒も人の事言えないからね?同じような服しかないじゃん」

心は照井に言った事と全く同じセリフを諒にも吐く。どうにも男は気に入った服をなんとも買い溜めする性質にあるのだ。

「代わり映えしなくて悪かったな」

諒は手をしっしと振り払い、早く買いに行けと目線を送った。とても選んでもらっている側の態度ではない。


諒を除く二人は大人しく心へ着いていく。荷物を全て諒に預けたお陰で、馬鹿みたいに肩を組んで歩くことが出来た。


「んーどれにしよっかなー諒の服……似合いそうな服……」

心は他人の服を選ぶ事は結構好きであり、自身のセンスを信じている。


だが、この時はそうはいかなかったようだ。

「……ねぇ、星煌」

少し離れた所で心は星煌に小声で話しかける。

「?どしたの」

辺りの靴を物色していた星煌が顔をあげる。そこには悪いことを考えていそうな心が居た。

「これどう思う?」

その手には男子が着るには少し可愛めな秋服が握られていた。

「……嫌がらせ?」

「うん」

心は口角をこれ以上無い位に上げ顔をにやにやさせている。

「……試しに着せてみな」

星煌は少し躊躇ったが、どうせ責任は全て心に行くのだから問題ないと判断しOKサインを出した。

「だよね!おーい諒!これ抱えて試着室行ってきて!」

心は諒に服を突き出し、試着室の方に指を差す。

「わかった」

彼はなんの疑いもせず、ましてや渡された服に一瞥もくれず試着室へと入って行った。

早く終わらせたいのだろう。たった一分で彼は試着室のカーテンを開けた。


「はい、これで良いだろ」

大きめの白シャツにチェック柄のニットベスト。掛けられた丸い眼鏡が知的を上乗せしている。

完全に秋服であるが、それさえもどうでも良くなるほどの纏まり。謎の輝きさえ見えてくる。

「……なんか、似合うのちょっとヤダ」

自分で選んだ服だが、嫌がらせが失敗した心は愛想笑いで嫌悪感を示した。

「なんでだよ!お前が決めたんだろ!」

暑いのを我慢して来たというのにこの反応をされれば、誰でも顔色を無くすだろう。よく見れば顔が少し赤くなっている。


「可愛い路線も行けるんだね、諒って」

「かわ……?」

既に飽きたのかそこら辺の帽子を物色する星煌。彼女が放った言葉に困惑する諒。その言葉の真意を聞こうにも彼女は既にその事を覚えていない。

「あ店員さん?あれ、試着してるやつ全部下さい。着て帰るんで」

「やめてください着て来た服はどうするんですか」

大声で店員を呼ぶ照井を諒は咎める。この光景を見れば誰もが彼が委員長であると推測できるだろう。




「はー面白かった」

「こんなに大量の服買ったの初めて」

時刻は既に五を回っている。買ってきた服を机に広げ、整理を始めた。

「諒!タグ切って!」

「なんでだよ。自分でやれ」

「えーー!!ハサミ持ってるじゃん!」

心は諒のハサミに手を伸ばし、腕を上下に振るう。

「しょうがねぇな」

諒は危ないと心の腕をどかし、仕方なく長いワンピースのタグを切ろうとする。



「わーい!…………え、切り方やば。ネームタグごと?」

「いいだろ別に。見えないんだから」

「良くないよ……」


訂正しよう。やはり少々雑であるかもしれない。




記録:記入 時空間調査委員会

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