Log_30
たとえ過去がどのようなものだったにしろ、私たちは前を向かなければならない。
だが照井 穹は目を背けた。その事実を忘れ、いつかロウソクに火が灯るのを待ち続けた。
それは数ある選択肢の中で、最もやってはいけない事だ。根本を覆してしまえば、取り返しのつかない事になる。
でも、彼は"何とかなった"。過酷なハイリスクを乗り越え、ハイリターンを得たのだ。
では、彼はどうだ?
檻の中でその日を待つ。残り火を携え、既に冷たくなってしまった鉄格子に触れる。
彼は、いつか来る日をひたすらに待ち続けている。ひたすらに息を潜め、目的を達成した時。
彼は、どうなるのだろう。
……だったとしても、過去は過去だ。
『今』は違う。彼はこうして笑い、いつも通りの日常を過ごしていた。
照井だってそうだ、失われた過去を違う形で取り戻し。いつも通り、胡散臭く笑った。
そうして、彼らにとって何でもない日の記念日が幕を開ける。
とある委員会の日常である。そして尊いものである_│
「いっそげ、いっそげ!」
「ちこくちこく〜!!」
時空間調査委員会一行は目的地へと走る。
朝日が皆を照らす。こうして走っているのにはちゃんとした理由が存在する。
『穴』がやって来たからだ。彼等以外の全人類にとってはいつも通りではない出来事だが、彼等にとってはいつも通りの事である。
「先生達、普段何もしてないですよね?別に来なくて良いと思うんですけど」
走りながら諒は冷たい眼差しで意見を口にする。
彼がそんな言葉を口にした理由。普段の星煌と照井はそれはまあ酷いものである。
目的地に着いたら椅子を出して座り、後は終わるまでひたすら雑談。特に手助けする訳でもなく、事が終わったら何事も無かったかのように帰宅する。
"別に居ても居なくとも変わらない"のなら、"来なくて良い"。諒はそう言いたいのだ。
「いやいや諒くん。未来ってのは、何が起こるかわかんないんだよ?」
過去を象徴する者は反論した。
「もしかしたら超強力な敵が来るかもしれないし。その時僕が居たら助かるでしょ?」
昔の彼だったらそんな事は言わなかった。もし『今』強敵が現れたとしたら、彼は敵薙ぎ払い、殲滅し、なんとしてでも星煌達を助けるだろう。
「私達ならよゆーだけど?」
大剣を携えた心は言った。
時空間調査委員会の実力差。三位が諒で最下位が星煌なのは決まっている。
……が、心と照井どちらが強いのかは未だに分かっていない。どちらも実力が未知数であり、潜在能力が顕になっていない。
「そんなこと言っちゃダメだよ。不意打ちで死なれたら困るし」
一番戦いに不向きな者は言う。現に今も照井におぶられている。
彼女は戦いにおいて他人を助けれない。強いてできる事は助言の言葉を掛ける事位だ。
「それはこっちのセリフだ」
「まぁまぁ。いいからいつも通りに行こ、こうやって相手してあげるのも久しぶりなんだしさ」
ここ最近は凜々達との一件や、会議や色々が積み重なっていた為、こうしてまともに討伐をするのはなんだか久しぶりである。
「たった一日ですよ」
「……そうだっけ?」
……どうやら、久しぶりでは無かったようだ。記録していなかっただけで、会議に行く前日にも穴は出現していたらしい。
そうして無事に戦場へ着いた一行は、いつも通り、普段通りに敵を倒し、日常を続けるつもりだった。
本来ならここは、Logにまとめないつもりだった。だが、記載した。『いつも通り』では無い事が起こったからだ。
「なんでチェスしてるの!、?!?」
口は災いの元である。この場合は、フラグ回収と言った方が正しいだろう。
星煌は敵と戦いながら諒へと叫ぶ。訓練は毎日つけてもらってるが、実戦はまだほとんどした事が無い。剣を振るいながら星煌は汗を流した。
こういったイレギュラーが起こるため、星煌達は一応必要なのである。もっとも、出勤したのは照井ではなく星煌だが。
「盤を差し出されたからな。一局付き合ってるんだ」
この現状の原因である諒は真剣に戦い相手とチェスを続けていた。敵と戦いながら遊ぶ事が出来るのは、きっと諒以外存在しないだろう。
「そんな場合じゃないんですけどぉ〜??」
そんな、ほぼ戦闘不能状態の諒の代わりに星煌が駆り出された。
諒は正座をしながら真剣にコマを動かす。照井はそれを見て爆笑し、星煌は諒を恨んた。
「後ろから首、切っていい?」
それでも通常通りに敵と戦い続ける心。振るった剣は確実に敵の首を落とした。
彼女一人でもどうにでもなるので気にしていなかったが、星煌が不満な様子を見て助け舟を出しに来た。
「ダメだ。こいつは中々のやり手だから、もう少しやらせろ」
諒はその提案を断り、頭脳戦をする事を選んだ。
敵はどう見てもアンデットなのに、あーあー言いながら的確にコマを動かした。きっとチェス戦が主流な世界から来たのだろう。
「はーい。諒ってばチェスも出来たんだ」
「いや?ルールを何となく知っているだけだ」
「あー?」
「え?」
「今回が初めてってコト!?」
衝撃の事実に総ツッコミが入る。
つまり、諒はチェスの"ルール"は知っているが"対局"した事はなく、あまつさえそのルールも何となくで知っている状態という事だ。
「あぁ」
自分のやる事は何もおかしくないだろうスタンスである。諒はさも当然かのように頷いた。
「なのに『こいつは中々のやり手だ』とか言ってたの!?諒って面白いね」
返り血を浴びながら心は笑った。傍から見るとサイコパスであるが、委員会内では普通の女の子である。
「黙れ。集中させろ」
「酷い!!ねぇ諒が酷いよ星煌ぁ〜」
心はある程度敵を片付けた後、星煌に助けを求め抱きつこうとした。
「うおぉそれどころじゃないぃ死ぬぅ」
チェスとかそれどころではなかった。星煌へっぴり腰になりながら敵の攻撃を抑える。あまりの惨憺さに敵の方が手加減してくれそうな程酷い有様だ。
「……お前こそ、なんで鞘を付けたままなんだ」
「えー、だって折角の綺麗な武器に傷がついたらやだし……」
謎に革製の鞘を付けたまま防御を続ける星煌。鋭利な剣が鈍器にグレードダウンしている。名河がその言葉を聞いたら泣いて喜ぶだろう。
「傷が付いてこそ、カッコよくなるんだよ!星煌!」
ボロボロの大剣を抱えた人物が言う。説得力が段違いだ。
「じゃいいか。うおおおぉ喰らえぇ」
「星煌って面白いね、リーチ長いのに全く当たってないよ?」
声を上げて誤魔化しているだけであり、実際は刃先の少ししか当たっていない。
「死ぬの怖いんだもん。心、代わりにやって?」
敵の攻撃は一撃必殺ではないが、傷を負いたくないのだろう。確かに、未知のウイルスが入り込んだりしたら大変だ。
「ふふん、その言葉を待ってたよ!まっかせて星煌!!」
「はー…………おもしろ」
照井は未だに原因不明の病に犯されている。写真を撮る手が止まらない。録画時間がどんどん長くなっていく。
昔サボっている間はずっと空を眺めていたのに、最近はこうやって会話を眺めている。いつから、自然より人を追い求めるようになったのだろう。
だが、人も自然である。照井はそう結論付けて、カメラを構えた。
心の活躍により、ほぼ全ての敵が殲滅された。
誰も怪我を負うことなく、完勝。
「……諒くんって、こんなにかまってちゃんだったっけ」
だが、諒は未だに敵とチェスを続けていた。照井でもさすがに苦笑いをしてしまう。
「かまちょじゃないです辞めてください」
目の前に座る敵以外全てが惨殺されても尚チェスを続ける諒。
途中で対局を辞めたって良いのに、彼はそれに縋り付いている。
星煌と心はそれを眺めているが、如何せんルールが分からないので何も理解出来ていない。
そしてそれを見た心が、ある結論を出した。
「はっはーん。もしかして諒ってば、『構って貰えなくて寂しかった』の?」
腕に手を当て、自信満々に答える。
そんな心が言った、ただの一言。いつもなら『んなわけ無い』と冷たくあしらって、駒を手に取るはずだった。
だが、諒はその陰に。ふいに存在していた姉を重ねてしまった。
顔を上げ、呆然とした顔で心の表情をを見つめる。
ホログラムが光る。何の変哲もない顔面に一瞬だけ、昔の面影が透過された。
優しい、その顔が。
「......お前、マジでやめろ」
頭を撫でようとする心の手を払い除け、今までよりずっと冷たくあしらった。すぐに顔を背け、白と黒の駒に集中した。
「えーーしょうがないなぁ。じゃあ星煌にやーろうっと」
他三人は変わった諒の様子に気付く事なく会話をする。
「ふむ。中々良い撫で心地ですな」
「ボサボサになっちゃう……」
心は両手で星煌の頭をわさわさと撫で回す。星煌はそんなことを言いつつも、なんだか満足気な顔をしていた。
「星煌ちゃんは元々ボサボサじゃない?」
「私は髪が跳ねてるだけです」
「先生がそれ言う?」
心は照井のなんとも奇抜な髪を見る。後ろ髪を首辺りで一つに纏めてるのに、そこから上は短髪になっている。しかもボサボサ。
「先生は癖っ毛だから」
「ただの寝癖でしょ?」
「……」
その通りである。照井は『直さない方が自然!』と言い張り適当に櫛を一、二回とかすだけで朝を終わりにしている。
「癖っ毛の人に謝って下さい」
「……ごめんね、星煌ちゃん」
「私は癖っ毛じゃないですよ」
星煌は癖っ毛ではなく、肩のラインに沿って髪が跳ねてしまってるだけである。謎に照井に気を遣われ、星煌は誤解を解こうとした。
「……はぁ。もういい、チェックメイトだ」
そんな会話が耳に入り、集中力を乱された諒は長く対局に終止符を打った。
「おお!……これは勝ったの、負けたの?」
「勝ったんだ。おら死ね」
無惨にも対局相手の頭を銃で撃ち抜く。相手は負けたんだ、容赦は無い。
「最初からそうすればよかったんじゃない?」
「うるさいですよ、先生」
「えぇーー」
今日の諒はとことん変だ。
でも雑なのはいつも通りなので、四人はさっさと帰路についた。
「これを機にチェス始めようかな」
「いいじゃん!」
帰宅時の会話。星煌はエアーで駒を動かす動作をし、右手を握った。
心はそれに賛同する。皆がやるなら自分もやりたいと思っているのだろう。
「他のはやらないのか?」
「やらないってか、知らないんだよね。経験した事あるのはのはオセロのみ」
やる相手がいなかったのだろう。可哀想。
「将棋は?」
「マジでルール知らない。相手の駒を奪える事ぐらい」
『飛車』『歩』等の駒の名前『王手』等の単語を知っているくらいだ。
「私もわかんない!」
「囲碁は?」
諒はさらに提案する。きっと一緒にやりたいのだろう。照井はそう確信付けた。
「五目並べならやった事ある」
「五目炒飯?」
「違う」
美味しそうな単語を口にする心にチョップをお見舞いする。諒は心にだけ当たりが強く、暴力的である。
「うーん、カードゲームなら極めてた時期があるけどなぁ」
星煌は腕を組み、自信が覚えている数少ない過去の記憶の中から一つを取り出す。
「何のだ?ババ抜き必勝法?」
「それもあるけど、スピードかな」
ババ抜き必勝法については誰もツッコまないのである。
『スピード』
トランプでは珍しく、二人組専用のゲームである。反射神経と頭の回転の速さが重要なのだが、彼女がそれを?
「え、私それやった事ないかも」
心はこの中で唯一、それを知り得ない者だった。
「あ本当。じゃあ教えてあげるよ」
「もしかしたら昔やった事あるけど、記憶喪失で忘れちゃってるかもしれないね」
記憶喪失なぞ、ここの中では軽い話題の一つである。なんせ、経験者が二人いるのだから。
「確かに!体は覚えてるかも!」
「うーん、言い方気を付けようね」
女が言うから尚更である。本人はなんとも思っていないが、周りの男共が動揺してしまう。
「じゃあ、帰ったらやろうか」
「やりたい!あそぼあそぼ!!」
心は分かりやすくはしゃぎ、後ろを歩いていた星煌へと飛び付く。
「四六時中遊んでるだろ」
歩みが中断された。諒はそれを呆れた目で見つめた。
距離が近いのはいつもの事なので誰も気にしないが、そのテンションは彼に取って鬱陶しいものだった。
「諒くんは『四六時中遊んでるんだから今更そんなはしゃがなくて良いだろ。家族なんだから』って言いたいんだよね」
照井は人差し指を立てて指摘した。その言葉に、視線が諒へと集中する。
「ちょっと、無言で蹴り飛ばさいで」
そんな諒が取った行動は『暴力』だ。振り向いて照井のスネあたりを蹴り飛ばし、言葉ではなく行動で抗議をした。
「諒ってイケ男だったんだ。雑なのに」
「雑イケDV男じゃない?」
諒を象徴する言葉が全て入っている。
星煌はLog序盤ら辺で、『諒は優しい』的な事を連呼していたが、この中に優しい成分は一滴も含まれていない。
「わは!ウケる〜!」
心はそれに賛同し、星煌の背中をぺしぺしと叩いた。
「へぇ。星煌も蹴り飛ばされたいのか」
ターゲットが星煌へと変更される。諒は右足で蹴り飛ばす動作をし威嚇をした。
「冗談ですよ」
(否定はしないんだ)
照井はそう思ったが、『きっと言ったらまた蹴り飛ばさるんだろうな』と結末が見えたので言うのを辞めた。
「ほら!先生が買ったのこれ!一緒にやろ!」
帰ったらカードゲームをやるという話題は何処へいってしまったのだろう。
飛び跳ねる心が両手に持っているのは最新型ゲーム機の人気シリーズの一つであるすごろくゲームだ。
カードゲームではなくただのゲームへとなってしまった。シャワーを浴びたら『カード』部分が洗い流されてしまったのだろう。
「……何やってんの」
目を輝かせていた心のテンションは一瞬で地へと落ちる。肝心のゲーム機本体を諒が使っていたからだ。
「(某野球ゲームソフト)」
「え、野球?」
「あぁ。野球」
某選手を最強に育成して甲子園を連覇しまくるゲームだ。諒は慣れた手つきでコントローラーを操作する。
「……全部ホームラン打てば最強の?」
心は画面を覗き込み、諒の隣に座っていた星煌の頭に顎を乗せた。席は広いのにまとまっているせいでぎゅうぎゅうである。
「んな訳ねぇだろ」
「え!?!?違うの!?」
「違う」
諒はバッサリと否定し、迫る顔面を片手で押し退けた。
「心、ホームランより満塁ホームランの方が強いよ」
星煌はちょっとズレた理論を提示する。間違ってはいないが、正しいかと言われれば少し違う。
「確かに!じゃあ満塁ホームラン量産すれば最強って事だね!!」
「その通り」
女子二人は『いえーい』とグータッチした。
「何が『その通り』だ。理屈は間違ってないが現実性に欠ける。それができたら苦労しない」
諒はそれも否定する。けれども心の時の様な暴力は振るわない。
「いいかこのゲームはな、『転がせ』を極めれば勝てる」
極める (それしか打たない)という事である。
「転がせって何。バント?」
「スクイズってやつでしょ!」
「適当に知ってる単語を並べるな」
三人はいいかげんで適当な会話を繰り返し、ついでに諒はコールド勝ちをした。
「って違う!」
心は本来の目的を思い出す。和気あいあいと話す空気に当てられ記憶喪失となってしまっていた。
「ねぇーそれよりもこれやろうよぉー」
彼女は駄々を捏ねてパッケージを星煌の顔面へと押し当てる。
「どんなゲーム?」
パッケージ近過ぎて何も見えない星煌。視界が黒一色に染まってしまった。
「ぱーてぃーすごろく!」
「いいね。やろうぜ最高だ盛り上がってきた」
ボードゲームやカードゲームが好きな彼女にとって、すごろくを出されれば絶対にYESと答えてしまう。
「わーい!!」
これで状況は二対一だ。彼女達はゲーム機を独占する諒へ視線をやり、『早く交代しろ』と圧を送った。
「……俺今これやってるんですけど」
諒は『嫌だ』と言わんばかりに身体を一歩引き、コントローラーを抱きしめた。
「……ノリ悪い!!」
「悪いんじゃない気分じゃないだけだ」
「それをノリが悪いと言うのでは……」
二人はギャーギャー騒いで喧嘩を始めた。星煌がその間に挟まれるのは風物詩である。
「もう一台買おうか?」
たった今風呂から上がってきた照井が顔を出し、仲裁をする。大人はこういった時に出動するべきである。
「金持ちの発想だ」「データ引き継ぎ出来ないですよ」「頭良い!!!」
だが総ツッコミが入る。擁護してくれたのは心ただ一人だ。
「そっかー。じゃあそのすごろくゲームやろっか」
照井は机にあった画面を持ち上げ、勝手にテレビへと接続した。最初から仲裁という名目でゲームを起動するのが目的だったのかもしれない。自分が買ったやつなので一回はやりたいのだろう。
「三対一か……仕方ない。ほら貸せ、さっさと設定するぞ」
諒は大人しく諦め、初期設定をしようと席を立った。
「うわーい!やったね!!」
心ははしゃいでソフトを手渡す。そこそこ大画面のテレビに接続され、オープニング曲が響き渡った。
「うわ、コントローラーめっちゃある。なにこれ」
星煌がコントローラーを探し求め、机の下の棚を開ける。そこには普通の家族で使うならありえない数のコントローラーがカゴの中にまとまっていた。
「いつか使うと思ってね」
「だとしても十台は要らないでしょうに。新型でたらどうするんですか」
その時はまた買えば良いのである。照井はこう見ても結構な金持ちであるので、この程度なら一括払いだ。
「ほら、紡もやるよー」
「?わたしも?」
呼ばれると思っていなかった紡が顔と体を出す。首を傾げ、星煌の後頭部を見つめた。
「あ、そっちか」
星煌は虚空に向けてコントローラーを突き出していた。紡に顔を合わせ、もう一度コントローラーを差し出した。
「もっちろん!安心して紡ちゃん。容赦はしないよ!」
心はバットを振るう動作をし、紡に威嚇をした。握っていないのに風圧が飛んできそうな勢いだ。
「ひでぇ。……まあ一回死んだからって情けを掛けるつもりは無いけどな」
「諒の方が酷くない?」
人が人なら地雷を踏む発言だ。この男共は揃って他人への気遣いがバツである。
「任せて。君の美しい姿を完璧に描いてみせる」
「何キャンバス用意してるんですか」
わざわざ部屋からイーゼルとキャンバスを取り出し、照井はそれを設置した。
「幽霊を描けるだなんて、貴重体験だからね!!カメラには映らないかもしれないから、絵に残そうとね」
興奮気味で照井は答える。ウキウキで準備をして、自然への美しさを語り始めた。
「プレイしながら?」
「もちろん。もしかしたらコントローラーベチャベチャになっちゃうかもね」
「それは辞めてください」
『それはそれで芸術だよ!』と照井なら言うだろう。
「ほら、早く持って。……ああ、大丈夫。これは最大八人プレイに対応してるらしいから」
星煌は紡へ笑いかけ、疎外感を感じてないかと遠回しに心配する。
「……ふふ、そんなに人を呼んだら、一回のプレイ時間が長くなっちゃうよ」
彼女はそんな星煌を見て小さく笑い、コントローラーを手に取った。
彼女は既に、過去を乗り越えている。
幽霊だからだろうか。忘れられるのも、忘れるのも得意だった。
辛かったという事実は消えない。けども彼女は、既に別の道を選んだのだ。
ここにいる間は過去をフィルムに閉じ込め、楽しい今を保存していた。
(ねぇ、星煌お姉ちゃん)
(私、こう見えてちゃんと感謝してるんだよ?)
星煌の膝の上に乗る。彼女は小さく笑って、いつか来たる自分の番を待った。
……あぁ、『すごろくゲームの自分の番を待った』である。
記録:記入 星煌 紡
結果: 一位諒 /二位紡 /三位星煌 /四位照井 /五位心
「妥当な結果だな」
「ほんとに容赦されなかった」
「まあこんなもんか」
「それよりも、見てよこの絵!」「白紙じゃないですか」「それが幽霊ってものだよ」
「なぜ!!!!」「現実では強いのに、ゲームは弱いんだね、心」




