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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『何もない、起きやしない日常の大切さについて』
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規則とは。

守らなければならないもの。そのラインを踏み外すと、地獄が待っている。

私達は常日頃から規則を正しく守り、守ることが、当たり前となっている。


だが、この世界ではどうだ?

ちょっとやそっとじゃ犯罪にはならない。たとえ他人の車を何台ぶっ壊そうと、死者さえ出さなければどうってことはない。弁償すれば良いだけだ。


まあ、普通の人ならそんなことをしようという発送には至らない。規則は、守らなければいけないものとなっているからだ。

捕まりたくないし、他人を傷付けるのは良くないこと。日本にはその考えが、根源から根付いている。


それにそうしないと、『公安連盟』が出張って来る事になってしまうからね!



嘘を付かなかったその先で、真実から逃げ出した結果_│




長い会議が終了し、会議室から出ようとした時空間調査委員会一行。

「あ、そうだ。帰る前にこれだった」

照井はある事を思い出し、自身の服の中……シャツの前ボタンを開け、中に手を入れ漁り始めた。


「みゃう」

そこから出てきたのは、一匹のねこ。

「え、ずっと服の中に隠し持ってたんですか?」

突然現れたねこに三人は驚きが隠せない。

てっきり車内にでも置いているのかと、皆そう思っていた。

「だからずっと腕組んでたんだ!カッコつけてるのかと思ってた!!」

会議中の照井の姿勢を思い出す。彼はずっと両腕を組み、常に前傾姿勢だった。

あれは格好を付けている訳ではなく、ただ猫を抱えているだけだった。

「先生はカッコつけるならピースをするよ」

「ねこともお別れかー。元気にやるんだぞ、ねこ!」

先生の戯言ピースを華麗にスルーし、心は彼の腕に抱かれているねこに別れの挨拶をした。

「にゃー」

それに答えるようにねこは小さく鳴き、心にわしゃわしゃされた。

「寂しくなるな。こんなかわい子ちゃんが離れちゃうなんて……」

星煌はもみくちゃにされるねこを見つめる。たった数日であったのにも関わらず、こんなにも満足感を得られた。やはりねことは素晴らしい生き物である。


「そんな悲しくならなくても大丈夫だよ。星煌ちゃんにあんま懐いてなかったし」



「痛い痛い足蹴らないで」

星煌は無言でニコニコ笑う照井の足を蹴った。

「しかもスネ」

「ノンデリだね、先生」

残念だが擁護は出来ない。それは中々鋭い剣となって星煌の心を突き刺した。


「心とどっちが懐いてるように見えました?」

血を吐き出しながらも負けじと星煌は抵抗した。岸星煌が最下位なわけがないと、自分自身に言い聞かせた。

「うーんいい勝負。心ちゃんは猫パンチ喰らってたからね」

「しかも顔面」

「あれ、地味に痛かったんだよ?」

心が顔面にパンチを喰らい、「痛い……」呆けた表情でこちらを見つめてきたことを思い出す。

あの出来事は後世まで語り継がれるだろう。その写真が皆の画像フォルダの中に存在している。


「どうしたらそんな懐かれるの?」

「?俺に聞いてるのか、それ」

「うん。現に今腕の中に居るし」

「みゃー」

さりげなくねこが照井の腕から諒の腕に移っている。拾った本人である諒に、ねこは一番懐いていた。

ことある事に諒の膝へ乗り、そのまま昼寝をしていたのを簡単に思い出せる。

「体からマタタビの匂いがするんじゃない?」

「んな訳ないでしょう。ただの体質ですよ」

適当なことを言うと本当になってしまうため、諒はいつぞやの凜々を真似て疑似看破をする。

動物に懐かれやすい体質は紛れもなく希少である。

照井はそんな彼の体質を少し疑問視したが、彼はきっと気にしていないだろう。


「そっかぁ。おーい連盟長ー」

「?どうしたの、照井。わざわざ戻ってきて」

照井は踵を返して、諒の腕からねこを取り上げる。そして皆にそのねこを見せびらかした。

「はいこれ、ねこ」

「猫!?」

じゃじゃーんという効果音とともに、ねこが管の前へと姿を現す。

「うん。猫たくさん飼ってるでしょ?追加で引き取って」

「なんで急に……飼うのは別に構わないけど」

少し困惑しながらも、彼女は肯定の意を示した。

「うちじゃ戦いに巻き込んじゃうから。面倒見れないんだよ」

もしいつかの未来で、敵が拠点に乗り込むような真似をしたら大変だ。

ぶっちゃけ照井はそうなっても嬉しいなと思っているが、これを言ったら殺されそうなので大人しくする事にした。


「なるほど……そういう事なら、うちで引き取りましょう」

管がそのねこを受け取り、静かに下顎を撫でた。ねこは嬉しそうにその身を預け、早くも懐いてしまった。

「ありがと、助かるよ。じゃ、おつかれ」

「お疲れ様。次からは委員長のみしてね」

その言葉を残して、照井達は会議室を出た。まだ中に残ってる人も居たが、時に帰るであろう。

「はーい。……諒くん、次からよろしくね♡」

「甘ったるい言い方をしないでください先生」

照井は自分の両手で恋人繋ぎをして、乙女のように諒に擦り寄った。その顔面を適当に突き飛ばし、帰り道に足を進めた。

「それに、そんな事しないでも着いていきますよ。先生だけじゃ不安なんで」

「それはそうだね、諒」

「ひどーい」

三人から見た照井の仕事の出来はだいぶ悲惨だ。初めてでもフォローを入れたくなる位には。



「どうした、副委員長。取材に行かないのか?」

「いや……」

そんな彼らを横目に見ながら、帰りの支度をしていた放送委員会副委員長、谷崎は疑問に思う。


「今思ったんです。あの委員会に、『あんな方(岸星煌)居ましたっけ』」

彼の眼差しは、岸星煌ただ一人を捉えていた。

「さあ?興味ないから知らね。それより次の放送さぁ――」

「いやいや、あなた機械ダメなんですから大人しく――」

だが、その鋭い思考はすぐにトラブルメイカーである顧問によって掻き回されることになる。

いつもそうだ。彼は何時だって、あと一歩が届かない。



視点は戻って時空間調査委員会。彼らは車を目指して廊下へと出た。

「てか、どこ行くんです?」

「なんか、超大型ショッピングモールに行きたいらしい」

「ショッピングモール……」

彼女の事だから、女々しいコスメショップやよく分からないポップアップストアにでも行きたがると思っていた諒は、予想外だという反応を見せた。

「『超大型』だよ!?東京ドーム三十個分くらいあるかもしれない!!」

「東京ドームをなんだと思ってるんだよ」

それはもはや超大型という枠では収まりきらない。どれだけ大きかったとしても、精々三〜四個分程度が限界であろう。諒は心の思考に呆れを見せた。


「いいじゃん。服買おうぜ服」

星煌はそんな心と肩を組んで自主の意見を発言する。

「そうだよ!もう六月なのに星煌ずっと長袖だし」

適当に発言し、肯定されると思っていなかった星煌は内心驚いて、正直な感想を口にした。

「これ以外服がないんだよね。正直超暑い」

自身の着ている長袖シャツに文句を言いながらため息をついた。もう七月に入ると言うのに、彼女だけずっと長袖を着ていた。

「そういう事はさっさと言え」

てっきり趣味で長袖を着ているのかと思っていた諒は、衝撃の事実に顔を青くしてしまう。


「袖捲らないの?」

「すぐずり落ちるから面倒で」

星煌は自身の袖を捲るが、ぶかぶかファッションな為折ってもそこまで涼しくならない。

「じゃあクリップとかで止めろよ。丁度ここにあるし」

「天才か?」

そう言って諒は照井のエプロンに付いていた金属製のクリップを星煌の捲った袖に留めた。少々不格好だが、これなら暑くなることもないだろう。

「あぁ、僕の留め具が……」

「ダメだよ!可愛くなくなっちゃう!」

星煌本人は乗り気だが、周りはそうではない。照井のエプロンは留め具を失ったことで下に伸び、心は無駄に追加された装飾品に怒っていた。



「いや別に」「今なら無料で人体実験に参加できるキャンペーンやってまーすいかがでしょうかー」

そんな話し合いをしている最中。諒の発言は、知らない声が割り込んで来たことにより中断された。

その人物からはまだ遠く離れているのに、ここまでハッキリと声が聞こえて来た。


「これ飲んでいただけるだけでお菓子貰えまーすゴミ箱ではありませんのでゴミを投げないでくださーい」

ずいぶんと声がでかいのだろう。その前を通る人は耳を塞ぐかお菓子の包み紙を投げ捨てている。


「あ、そこのお兄さんいかがでしょう!」

「おー。科学者にしては元気っすね。俺の愛車のエンジンみたいだ」

「????」

「なにあれ」

意味不明な脊髄会話が聞こえて来た。これに三人は興味を示し、照井へと質問を投げかけた。


「あれは連盟の人達だね。関わると時間取られるからさっさと行こ「あ、見つけた」……」

「……見つかってますよ、先生」

早歩きをした照井の努力虚しく、その人物は彼に目を付けてしまった。


「ちょいちょい、実験体になる気は無いかい?」

椅子に座っていたその人物に左手で手招きをされる。逆らった方が面倒なので、照井達は大人しくその手に導かれ、人体実験の被験者になりに来た。

「『研究連盟』の方が、ここで何やってるんです?」


首から社員証がぶら下がっている。そうだ、彼は『研究連盟』の社員である。

名前は『高城 昇(たかしろ のぼり)

シャツの上にシャツを着るという独特なファッションをしている。前髪も後ろ髪もパッツンとしており、極度の猫背である。

連盟長からの指示で、現在ここで実験体を募集している。ここに来るのは副連盟長でも良かったが、「連盟長が行かないなら行かない!!」との事。そのため彼が派遣された。

「俺が優秀すぎるからだな、きっと」

高飛車ナルシスト……というよりかは、自己肯定感が高いのだ。彼は自身を天才だと信じてやまないし、失敗という言葉は辞書にはない性格だ。


「いやぁ、チャームを介して作った薬の被験者になって欲しくて」

明らかに怪しい色の液体がビーカーの中で蠢いている。高城はニコニコと怪しい顔をしているが、四人は微妙な表情でそれを見つめた。

「えー嫌ですよ。また縮んだりするんでしょう?」

「いや?成功なら体がビカビカ発光するだけだ」

「どういう原理ですか、それ……」

「言っただろ?『チャームを介して作った』ってな」

照井は過去の出来事を思い出す。彼だけではない、委員会の人間はだいたいこの連盟の被害を受けていた。

「もっと嫌です。てか用事あるんですよ僕達」

珍しく嫌な表情をして照井は逃げようとする。そんな彼のエプロンの裾を掴み、高城は強引にこちらへ引き戻した。

「はぁーあ。お前なら『え〜おもしろそ〜それくださ〜い』とか言うと思ったのに」

「僕の解像度低すぎないですか?」

高城は適当でバカにしたような声真似をする。ビーカーを強制的に持たせようと、照井の腕を力強く握りしめた。

「結構似てますよ」

「そっくり!」

「ひ、はは……、声、スカスカすぎる、『おもしろそ〜』だってよ、ひー苦しい……」

似てなかったのにも関わらず、子供達の顔はニコニコである。星煌に関しては照井の背中をバシバシ叩いて大爆笑している。


「ということだ。ほら、グビっといってみな」

ビーカーが照井の前へと押し出される。

「……拒否権は?」

「無い」

との事だ。照井は少し躊躇ったが、仕方なくそのガラス器具を掴んだ。

仕方がない。早く終わらせて、さっさと次の目的地へと行く方が良い。



照井はそれを手に持つ。中に入った液体を見つめ、思考を巡らせた。その結果。

この時、彼の中の"加虐心"や"キュートアグレッション"と呼ばれる物が少し疼いた。



「あーっと手が滑ったー!!!」

「!?!?」

そのグラスを手に取ったかと思えば、ツボから抜け出したばかりの星煌の口に思いっきり流し込む。

わざとらしい口調。しかもノールックであったため誰も反応ができなかった。


「うぇ、げほ、ごほっ……」

星煌は律儀に全て飲み干し、気管に入らなかった事を幸運に思った。まあ、ここで吐き出して廊下を汚す訳にはいかない。


「照井、お前がこんなに酷いやつだとは思わかったよ……」

高城はありえないと、軽蔑した目で照井を見つめた。

「そう?ちょっと面白そうだったから」

この男は芸術を優先しすぎた結果人を見殺しにした事があるので、この位は全然やる。認識の違いだ。

「星煌、美味しい?」

「形容し難い味がする」

「強いて言うなら?」

「……百味ビーンズの中にありそうな味」

「これまた分かりにくい物を選んだな」

当たりかハズレか分からない。そんなような味だ。


「でも、光ってないよね。いつも通りだよ?」

「?おかしいな……遅効性は入ってないはずなのに……」

照井と高城は星煌の周りをうろちょろし、身体の至る所を検査した。

その隣では心が手を出そうとしているのを諒が必死に止めている。

無理もない。傍から見たら女性の体をジロジロ見るのなんてただの変態行為だ。

当の本人は気にしてない様子で籠の中に入ったお菓子を取って食べた。


「?……いやこれ、目光ってますよね」

そんな中、洞察力に長けた諒がある異変を見つけた。

星煌の目が、有り得ない程『光っている』ことに。

「ほんとだ。しかもキラキラタイプじゃなくてビカビカタイプ。ビーム出そうウケる」

「ウケる!!」

「ウケるな」

ウケた心は星煌とツーショットを撮った。なんだかんだノリノリである。

照井も混ざってもう一枚撮った。ついでに諒も巻き込んで。


「チャームを介した結果、チャーム部分を強調するようになっちまったか」

高城は研究成果をボードにメモしている。猫背なため机との距離が極端に近い。

「だんだん光強くなってきてる。もっとビーム出そうになってるよ」

自身が出した光で目を悪くしそうな程ビカビカに光っている。だが、星煌視点だとちょっと視界が明るい程度だ。

「星煌、出すなよ?」

「人間にそんな機能は備わってませーん」

諒に心配されるが、あいにく彼女は一般人であるため、期待されているような事は出来ない。


「これを飲めばチャーム発動タイミングがより分かりやすくなるっと」

「それデメリットですよね」

「……囮には使えるな!」

「デメリットじゃないですか」

デメリットである。

この薬は身体を発光させる物から、チャームを発動した際に発する『光』を強調する物となった。

本来ならば、チャーム発動時のみこの効果が発揮されるのだが……星煌のチャームは常に発動しているため、このような結果となっている。


「まあ、改良する余地が見つかったのは良い実験成果だ。ご褒美に飴ちゃんをやろう」

そう言って、彼は籠をゴソゴソと漁り始める。何故か飴玉が消えていることに少し疑問を感じたが、すぐに代わりのものを用意した。

「知らない人からのお菓子はちょっと……」

なんて言っているが、既に何個か窃盗している。ポケットにはチョコレートや飴玉が沢山入っていた。


「じゃあ現ナマだ」

「あざっす!!」

突如財布から出された万札を、星煌はありがたく頂戴した。ちょっとした冗談で受け取ったつもりだったが、周りからもなんも言われなかったため、良いのであろう。星煌はそれをポケットに突っ込んだ。



そうして一行は二階へと下ってきた。時間が無いのにも関わらず、わざわざ階段を使っていた。

「おい。そこの男」

「?、僕ですか?」

そしてすれ違い様に、照井はある男に話し掛けられた。

「お前は時空間調査委員会の顧問、照井穹で合ってるか?」

「そうですけど……どうしました?『公安連盟』の誰かさん」


その黄色い腕章には、公安連の文字が刻まれていた。

「『公安連盟チャーム調査支部』所属、神奈川県警刑事部捜査第三課の、『藤村(ふじむら)』だ」


公安連盟。簡単に言えば、警察組織である。

チャームが発見された当初、かつて存在した警察組織は、『チャームに関する事件を何とかしたい』と考えた。

それは指導者の考えと一致しており、何度かの会議の末合併して連盟となった。以降、それら機関をまとめて公安連盟と呼ばれるようになった。


もっと簡単に言えば、『警察』という名称がが『公安連盟』に変わっただけである。


この連盟には支部が存在する。

それは、『特殊チャーム対策支部』という名の支部。その名の通り、チャームに関する事件等を取り扱っている。

チャームの絡まない事故や事件は本部が担当し、チャームというイレギュラーが起きた時にこの支部が派遣されるようになっている。そして、彼もその支部所属である。


「お前に一つ、聞きたいことがあってだな」

「六月二十日。公共の場で、不正にチャーム使っただろ」

六月二十日。今日から大体一週間程前の日である。

「?」

「覚えてないか?お前がその……目が光ってる隣の女性と一緒に"美術館に居た時"だ」

藤村は目が光っていることの詳細は深堀しないようにした。階段で待ち伏せしている際、何度あの連盟に声を掛けられたことか。


「あ〜……」

「……」

心当たりがある。大いにある。

そして、確かにその時には人があまりいなかった記憶もある。

「え?二人で遊びに行ってたの!?」

「心、お口チャックでお願いね」

「!」

自身の中にそんな記憶は存在しない!と心は羨ましがったが、星煌の言葉に彼女は左手で口を覆い、大人しく右手でサムズアップをした。


「……冤罪です!」

「いや冤罪とかじゃなくて。心当たりがあるかって聞いてんの」

「あぁ、嘘はダメだぞ。お前のチャームが『偽造』ってことは知っているからな」

「……」

非常にまずい。もしこれで逮捕などされようものなら、時空間調査委員会の未来が危うい。

この世界、傷害罪や暴行罪などは結構緩めな判定だが、チャームに関する罪は取り分け厳しいのである。



「よし」

照井が覚悟を決めたように頷く。

エプロンのを整え、ネクタイを締める振りをした。




「逃げるよ!みんな!!!」


照井が叫んだのと同時に我先にと逃げ出した。撹乱のためとりあえずナイフを投げ窓ガラスを割っておいた。


「えっちょ、「星煌まっかせて!私が運んであげるから!」あぁうわ!」

突然走り出した照井に困惑していた星煌は、心によって運ばれる。お姫様抱っこ形式で。

諒は(まあこうなるよな)と内心思っていたので、逃げ出した背に直ぐに着いて行った。


「くそ、『こちら藤村、調査対象が逃げ出した。本部ビル二階に応援求む』」

「『了解。外の者と協力し、すぐに対象の確保を』」

彼は小さく舌打ちをして、逃げる四人の背を追いかけた。


「応援が来ますね。どうします?」

階段を駆け降りながら諒は拳銃を構える。

「絶対一階に人が居る。僕が指示を出す(責任を持つ)から、代わりに暴れて」

「分かりました」

なんだか楽しげな照井の言葉を受け取った諒は先頭に立ち、階段のドアを開けた。



「いたぞ!おい止まれ!時空間調「『邪魔です』」、は?」

なるべく人に当たらないよう、諒は誰も近付けさせないよう足元スレスレに銃を乱射する。

「んだよあれ、マシンピストルか?」

「こんな場で銃を乱射するやつが居るとはな」

これでは安易に近付けない。弾丸なんて何発でも喰らって良いが、相手の実力が未知数だ。至近距離で撃たれたり、顔面を狙ってきたらと考えると、慎重に動かざるを得ない。


「ち、ちょっと待ってよ、何ちゃっかり逃走補助まで付けてんの」

心に抱き抱えられながら星煌は汗を流した。こんな事、彼女の国で起こったら即刻逮捕だ。

「この程度は大丈夫だと思うよ。割とこんな事件日常茶飯事だし捕まんない捕まんない!」

圧倒的な楽観的思考。ケラケラ笑って筆をペン回ししている。

(だからあの人たちは忙しそうにしてなのか……)

会議中、ほとんどが死んだ目をしていた。こんなことが日常茶飯事に起こっていたら、そりゃあどの委員会も忙しくなる訳だ。


「先生ぇ私は行ってきちゃだめ?」

心が寂しそうに口にする。一人で暴れる諒が羨ましく、彼女はそれに混ざりたいのだろう。

「心ちゃんは、星煌ちゃんを大事にする役目があるからね」

「!!星煌、大舟に乗ったつもりでいてね!私が絶対に守るから!!」

「頼りにしてるから、犯罪者にはしないでね」

心は目を輝かせながら星煌を力強く抱きしめる。いつぞやの穴に入る時と同じ体制だ。

星煌は諦めたように口にして、ポケットからチョコを一つ取り出した。


「道が開けました。車まで行きます?」

「そうだね。とりあえず突っ切ろうか」

その言葉と共に、四人は一階のドアを割って外へと飛び出た。



「はぁ……ただ調査するつもりが、どうしてここまで……」

「どっちにしろ、ここで暴れた責任は取ってもらうぞ」

先程調査していた藤村が、同僚と思わしき人物と会話をする。

落胆する彼の背中を叩いて励ました。



彼らも外に出た照井を追って、外に出る。

「おい!門番そいつらを止めろ!!」

部署は違うが、一応同僚である門番に協力を要請した。

「んえ?あーこの人達ね。はーい」

片方はだるそうに返事をし、なんだか逃げ出している時空間調査委員会を視認した。

「わかりました。私が責任を持っ、て……」



その時、門番の片割れである真面目メガネくんは見た。確実に。

美少女が美少女をお姫様抱っこして、この地を駆け抜ける姿を!

「、…………」

彼は呆然としてしまう。固まってその場から動けなくなってしまった。

どうやら新たな扉が開けたようだ、多くは語らないようにしよう。



「『さーて、今日は何が出るかな?』」

対してもう一人の片割れは真面目の代わりに業務をこなそうとする。

右手をポケットに入れ、ガサゴソと物を漁り出した。

彼のチャーム『マジックハンド』

右手をポケットに突っ込むことで、『自身が触ったことのある物』をその場所から引っ張り出すことができる。取り出し可能なサイズはその時のポケットの大きさに準ずる。


尚、対象はランダム。つまり、こういった事故が起きる。

「だっはっは!笛が二個だってウケる!!」

彼は大爆笑し、諦めたように門へ寄りかかった。


「星煌、足屈めて思いっきり抱きついて」

その言葉に、星煌は腕を首に回す。

目の前にある門は、おおよそ学校サイズ。そこに向かって、三人はさらに速度を上げた。



そして、四人は一斉に飛び上がる。門を飛び越した。


「お前ら何やってるんだああああ!!!!」

「がんばー」

門番の一人はその場から動かず。もう一人は諦めて声援を送った。真面目に働く気が無い。


「じゃ、おっさき〜」

照井達は幸運なことに青かった信号を追い抜いて、無事に目的地である駐車場にまで辿り着いた。





「……、なるほど。だからあんな騒がしかったのか」

「では、私が向かおう。今は『司書』も『指揮官』も外出中だからな」


そうして一人、席から立ち上がる。

目を太陽のように輝かせる者が、目的までの道筋を見開いた。




さあ、楽しいカーチェイスのスタートである。




記録:記入 星煌

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