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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『その言葉の真■と確かな芸術について』
22/24

Log_21


「ありがとう」「こんにちは」「おはよう」「またね」「ありがとう」


言葉、というのは偉大なものだ。

それ一つでその時の感情を表し、それを使うことで様々なコミュニケーションが取れる。

時には刃になり、相手を傷付けてしまうのが少々玉に瑕だが。


……だが、言葉なんて無くとも、感情を伝える手段はいくらでもある。


このように、握手なんてしてな。



そして、またすべてが元通り_│




「はあ……やっと帰ってきた」

「帰ってきたね。まあ、星煌ちゃんの本当の家じゃないけど」

「この世界ではちゃんと家ですよ」

鍵のかかってないドアを開いて、星煌はようやく見慣れてきた家へと帰宅した。


「はーいただい「っ〜!!星煌ぁ〜!!」ぐあぇ」「っ、心、痛いっいたい……」

心が星煌へと飛びつく。その勢いは凄まじく、後ろに照井がいなければ盛大に倒れていただろう。

抱きしめる力があまりにも強い。星煌は心の背中を力無く叩き、辞めるように促した。


「おかえり」

諒の声がリビングの方から届いた。足音も響かせているので、もう時期星煌達の方へ来るだろう。

彼の事だから心配はあまりしてないだろうと星煌は考察していたが、それは見事当たった。

星煌目線では。


「大丈夫!?なんか変なことされてない!?」

「この通り、五体満足ですよ」

「そうだよ。約束通り、僕がちゃんと迎えに行ったから」

( だから心配してんだよ )

不正解の理由である。そもそも心配してたのもそうだが、乱闘が起きた原因が迎えに行くのが一番不味いのではと、諒は考えていた。


「よかったぁ。もう居なくなんないでね」

「うん。いなくなんないから一旦離してもらっていいかな?」

「腕だけなら……」

「それ全部だよ」

こんなやり取りをしているが、居なくなったのは精々二、三日である。たったそれだけで心は寂しい夜を過ごし、諒は朝食を抜いた。


「それより、ちゃんとご飯はたべ、た……」


星煌の目線。まず諒が見えた。足音からこちらへ向かってきているのは分かっていた。



そして見えた、絶対にそこに存在してはいけない人達。


「お、お邪魔してます」

「???」

まず現れた、自前のエプロンを着た蒼穹。


「勝手に帰るなんて、ひどいよ。星煌」

「???」

そしてその隣に、味噌汁の味見をする江汐。


「空き部屋が多いから、掃除を怠らない方が良いぞ」

「??????」

最後に、ホウキと雑巾を持った凜々。


「あの〜……、何故ここに?」

星煌は少し呆れた声で理由を聞いた。三人と会った回数は少ないのに、不思議と見慣れた感じがした。


「あぁ、それはだ「普通に玄関から入ってきたぞこいつら」」

諒は凜々の言葉を遮り、先に主張をする。

「俺は反対したぞ。襲いかかってきた上に、星煌も連れ去った。そんな奴らがのうのうとやってきて、なにかないはずないだろ」

もっともだ。凜々達の性格が正しいものであると星煌は知っていたが、心と諒はそうではない。昨日の敵は今日の友と言えど、それとこれとは別の問題だ。


( そもそも、鍵を付ければいいのでは? )

星煌はそう思ったが、口には出さないようにした。面倒だったから。

「けど、武器持ってなかったじゃん!」

心はその時の事を思い出す。

彼女らを玄関で見た時、武器は不携帯だと言って両手を上げくれた。

「それとこれとは……はぁ、まあいい。結局上げたのは俺らだからな」

諒が再生メンバーが家に居ると気付いたのは、昼過ぎであった。彼は不貞寝していた。


「それより、蒼穹って料理上手なんだね!」

「星煌、どんなの食べてきた?」

「そうだな。凜々さんの包丁さばきも参考になった」

( なんか懐いてるし…… )

二人もまた、凜々達の優しさに気付いたのだろう。照井穹さえいなければ、その場は平和である。


「……納得いかなくてな。決着をつけに来た」

言葉を遮られた凜々が、改めて口にする。

「本当は全員揃った状態で会いに来たかったんだが……まさか、帰ってきてないのは想定外だったな」

「あ〜…、はは、少し寄り道をねぇ?先生」

「うんうん。そうだよね、星煌ちゃん」

星煌と照井がニコニコ笑う。

「すっごい怪しいですよ、今の二人」

蒼穹はそんな二人を訝しみ、何かあったのではと推測を立てた。

Log_20の終わってる会話を正直に話す訳にはいかない。照井もさすがに危惧し、良い感じに誤魔化そうとした。


「てか、話し死あいってまたさっきみたいな乱闘を……」

「いや、あくまでも"話し合い"で、だ」


「話をしよう。照井穹」

そう言って凜々は、椅子に座った。

昔とおなじ位置の、誕生日席に。




「えっ、と……なぜ私が仲裁役を?」

御盆を抱えながら星煌言った。目の前には湯のみに入っているにも関わらず冷たいお茶が二つ。そして正面ではなく、机の角を挟んで並ぶ照井と凜々。


「他の奴らだと私情が入りそうだからな」

「それなら諒とかでも……」

「奴が一番ダメだ」

凜々は冷たいお茶を飲みながら言った。市販のお茶だとは到底言えない。


「対談って言っても、何を話せばいいのかな?凜々ちゃん」

「いや。私が勝手に質問し、勝手に見定めさせてもらう」

「……この前、聞きたいことは全部聞いたって言ってなかった?」

「それとこれとは別の話だ」


( そこで覗いている四人に関しては、突っ込まなくて良いのか…… )

勝手に話してる二人を横目に、星煌は扉の奥に追いやられた四人を凝視する。

心は口に人差し指を立て、必死にアピールをさせる。同じことを蒼穹もしていた。

四人が段々に積み重なっている様は、どこかの落ちゲーを連想させた。


「私は結局、お前について何一つ知らない」


「ただ、能天気で人が死ぬ姿に魅せられる芸術バカ。頭が冴えてよく芸能人に間違われたりこう見えて意外とお坊ちゃまで誕生日は四月十日結構大食いであり頻繁に外出する癖が「結構知ってますね」……そうか?」

昔どのくらい一緒にいたのか星煌達は知らないが、それでも相手のことを事細かに知っているのはかなり難しい。本人は気にしていない様子だ。


「そして、嘘つきだ」

「なぜそんな頻繁に嘘をつく?」

「そのせいで私は、照井穹という存在の十分の一しか知らない」

(五分の四程度は知ってるんじゃないかな……)

凜々以外の全員が思った。今の発言を聞いて、知らないと主張するのは逆に失礼である。


「う〜ん、なぜって言われても……」

「嘘をついてる自覚はあんまりないからなぁ……それでも嘘をつく時は、大抵『偽造』目的だよ」

照井だからこそできる芸当。彼は嘘を自覚している時と、そうでない時がある。

「後、そっちの方が楽なんだよね」

「あぁ、わかりますそれ」

「ほんと? だよね〜」

皮肉なことに、星煌とは分かり合えるみたいだ。


「……」

ただ、凜々は一切理解できないようだ。何故わざわざ嘘をつく必要がある?何故本当のことを話さない?

ただ、こういった人間は一定数存在する。

まあ、無理に同じ土俵に立たなくても良い。彼女はそう思って、照井とはなす星煌を見つめた。彼女が照井と同じタイプの人間だとは、思わなかった。


「まあいい。このために、聞きたいことリストを作ってきた」

凜々は羽織の下から分厚い書類を取り出した。一目見ただけで、それが莫大な量であることが察せられた。


「まずひとつ。1998年、貴様がサラダを作った時に使用した野菜はレタスではなくキャベツか?」

「……ん?うん、たぶん……」

全くもって予想外の質問。あまりの脈略のなさに、照井は戸惑い、とりあえず適当に返事をした。

「そうか」

幸い、間違ってなかったようだ。

凜々は書類をパラパラ捲り、次の項目を探している。


「次は「……ちょっと待って貰ってもいいですか?」?ああ、いいぞ」

「それ全部やると埒が明かないんで、重要なものだけ抜粋してくれないですかね」

さすがの星煌も許容できない範囲だ。この何百ページもありそうな質問を全て行うと考えたら……時間がいくらあっても足りない。

「ふむ……全部重要だが……良いだろう」

凜々は書類を横にやり、質問内容を考えた。そこから使いはしないのかと、星煌は心の中でツッコミをした。


「例えば、どんな偽造をしてるんだ」


「例えば、かぁ……」

「自分の記憶操作、武器のエンチャント、印象操作、……度が過ぎたのは、出来ないけど」

「……今言ったことは、全て本当だな」

基本的に照井は、総合的に見て自分が楽になるような嘘の使い方をする。一応倫理観は持ち合わせているので、そこまで危ない使い方はしていない。


「あの、私からもいいですか?」

「もちろんだ。丸裸にしてやれ」

応じるのは照井ではなく凜々。芸人なら「いやお前が答えるんかーい」とツッコミが入っていただろう。あいにく、そういったやり取りができるようになるのはもう少し先だ。


「そんな大したことじゃないんですけど……よく、凜々さん達の家がわかったなって」

「GPSですか?」

「いや?優しい人が道案内してくれたんだ」

「……嘘では無いな」


照井はその時のことを思い出す。

「突然話しかけられたよ。『樺澤の家へ行きたいのか』ってね」

「顔は隠れて分かんなかったけどね。眼鏡はかかってたな」

昼間なのにやけに暗い顔。フードを深く被り、ボイスチェンジャーもしていた。

その人に住所を教えられ、無事に照井は星煌の元へと行き着いた。


「だから、凜々ちゃんの知り合いかな?」

「いや、私の知人で家まで知ってる者はいない」

「……ストーカー」

「やめろ。変な想像をするな。多方、政府関係の者だろ」

凜々はその話題に興味が無いようだ。照井が道案内をしてもらったという事実だけで、彼女達は満足だった。



「で、他にはなんかないの?」

「そうお望みなら、いくらでも言ってやる」

照井は挑発をかけた訳ではなかったが、好戦的な彼女はそれを挑発とみなした。


「お前の名前は?」

「穹だよ。照井、そら」

「……今は本当かもしれないな」

その返答に凜々は少し呆れ、足を組んだ。

「だが私は、それが"嘘"なことを知っている。初対面の時に見抜いたからな」

凜々は机をトントンし、過去についた嘘についても分かってますよ、とアピールした。

「へぇ。その時に看破しなかったんだね」

「はぁ……本当の呼び方は?」


「『……(きゅう)だよ。照井、きゅう』」

その言葉は嘘だ。それはつまり、先程のそらという呼び名が、既に本当になったことの裏付けでたる。

『偽造』は、嘘を本当にしてしまう。彼のきゅうという呼び名は、既に嘘になってしまった。


「何故、わざわざ呼び名を変えた?」

「自然が好きだからだよ。空というものは、美しいものだろう?」

当然のことである。芸術家に関わらず、この世に生きる全ての人間なら"空は美しい"と一度は思うだろう。

「……なら、私のいない間に看破されないよう本名を偽造すれば良かっただろ」

「う〜ん……ノーコメントで」

照井は頬杖を付いてはぐらかす。


そもそも、しっかりフルネームを人に言ったのは凜々が初めてだった。

それまで苗字に囚われた生活をしてたので、下の名前の読み方は書き方以外忘れていた、など言ったら、彼女はさらに呆れてしまうだろう。

それを彼女に明かす理由は、今はない。



「僕からも質問いい?」

「勝手にしろ」

"空がきれいだから"だというあまりにも適当な理由だったため、凜々は少し呆れていた。



いや、油断していた。


「僕の、どんなところが好きだったの?」


「は」

「え?」

二人が、普段聞かないような声を出すのと同時に、凜々の後ろのドアからものすごい音が響いた。多方、江汐と蒼穹が暴れたところか。

星煌含む委員会メンバーは驚きが隠せていない。最初はあんなに殺伐としていたのに、それより前は甘々だったという事実に、情報を処理しきれていない。


「嘘は嫌いなんでしょ?正直にお願いね」

「も、黙秘権を……」

「え〜、聞きたいなぁ〜。ねぇ?凜々」

こんな時だけ顔を使ってあざとく見せている。

「あぁ〜刺された右目が痛いなぁ〜」

必死にアピールをして、なんとしてでも初恋を引き出そうとしている。

理由は、"その方がなんとなく面白そうだから"といった適当なものだが。


「は、初めて、会った時……」

「会った時?」

「……」

「……?」


「え、一目惚れ?」

「だああああ!!うるさい!!!!」

そう言って彼女は照井のモノクルを手に取り、それを思いっきり床へ投げ捨ててしまった。その衝撃で机の上のお茶が少し零れている。


「あぁ伊達メガネが……」

「伊達ならいいだろ!!!」

そう言ってそのモノクルを踏み潰す。そして後ろから、更に轟音が鳴り響いた。もっと暴れだしたのだろう。


「はぁ……落ち着け、樺澤凜々……」

彼女はぶつくさ言いながら心を落ち着かせている。ついでに次にする質問も考えているのだろう、顔つきは焦りから真面目へと変わっていた。


「お茶入れますね……」

顔を赤くした凜々を気遣い、星煌は氷を多めに入れた。



「てかさ」

そんな三人を遠くから覗く四人の内二人。心は諒へと問いかける。

その更に後ろで暴れている二人は気にしないことにした。抑えようとしても無駄だった。

「凜々さんはともかく、なんで先生も照れてるの?」

「……さあ、そういう年頃じゃないか?」

「今更?」

「さぁ。俺に聞くな」

凜々は自分の顔を鎮めるのに必死で、微妙に照れている照井に気付いていなかった。



「はぁ……結局、だ」

一悶着あった後、元の話題へと戻った。

「お前は、この子達をどうするつもりだ?」

「犠牲になった子と同じく、殺す気か?」

先程とは違い、その眼差しは真剣だ。


「う〜ん……」

「悩むということは、そうする気があるということか」

「いやいや、ちょっと待っててね」

「今、自分の中で結論を出してるから」

照井は腕を組んで、目を閉じる。考え事を始めたようだ。

その右目が珍しく顕になっている。星煌達は彼がモノクルを外す姿を見たことがなかった。妙に長いまつ毛が、主張を強めていた。



「安心して」

「もう、見殺しにするようなことはないよ」


その言葉は、自然と口から出た。ハッキリと言ったと表現するより、口からこぼれたの方が正しいだろう。声量も、少し小さかった。その言葉に自信が無いのだろう。

「……は?」

凜々は自分から言っておいて、その返答を予想していなかった。


「凜々に言われて思い出した(気付いた)よ」

「日々があってからこそ、散り際は美しいんだってね」


彼が新しく入ってきたメンバーを見殺しにした時、記憶が蘇るほど心を焼かれなかった訳は?

特に日常を積み重ねた訳でもない、少し一緒にいただけの、ただの『他人』だったから。


あの時、照井が根源をねじ曲げるほど心惹かれたのは。

一緒に居たから。半年ほど一緒に過ごし、笑いあった『仲間』だったから。


「……」

星煌もびっくりした。先程(Log_20)あんな会話をしたのだ。てっきり芸術のためすぐ殺されるのかと思っていた。


「つまり、もうあのようなことは?」

凜々は過去のことを思い出す。何度も繰り返し再生された、あの言葉。その言葉だけが、唯一の後悔だった。


「きっと、起きないよ」

「大切に、大切にして……それから、ね」

モノクルを外した顔は、普段よりも幼く見えた。

昔と一緒の、その顔。


「……やはりまだ危ういな」

「潜在意識が無くなる訳じゃないよ。でも、きっとそれでいい。僕は、そういう人間なんだから」

照井はもう、ねじ曲がってしまった。一度捻ってしまった、汚れてしまったそれを綺麗にすることはできない。


「ごめんね」

「あの時、あそこにいたのが僕で」

そう言って、彼は初めて謝った。いつものような看破しがいのある、飄々とした顔をしながら。あくまでも、いつも通りを"装って"。違和感のあるいつも通りという矛盾で。

「……」

「あなた以外がいたら、2人とも死んでましたよ」

凜々が看破出来るのは、あくまでも対象者の発言のみ。その表情まで、剥がすことはできない。


「私たちは……地獄行きだから」

凜々は自身を共犯だと捉えている。この出来事が悪化してしまったのは、彼女のミスでもあった。

「死ぬ時は、一緒に償いましょ」

だから彼女もいつも通りに、正直に言うことにした。その発言は到底、いつも通りでは済まないけど。



「……いい雰囲気の中失礼するね。ずっと言いたかったことがあるんだけと」

唐突に幽霊が現れる。

星煌は内心助かったと思った。この状況でかける言葉が、見つからなかったから。


「あ、紡ちゃん」

「こんにちは。穹さん」

二人は手を振り合う。

「、そこのふたり、お知り合いだったんですね」

星煌は紡の事を誰も知らないと思っていた。現に今、心と諒がひっくり返っているから。


「この前、夜に廊下でばったり会ったからびっくりしたよ」

恐らく、星煌が寝ている時のことだろう。

「うん。固まってたね」

「……」

「ふむ、照井穹は怖いものが得意じゃ「それで、どうしたの紡ちゃん」……チッ」

グロいのが生き甲斐なくせして、ホラーは得意ではないらしい。凜々の照井穹リストに、新たに項目が加わった。



「私は、あなたたちの過去とかあんまり知らないけど……」

「あなたたちが言う、その三人って、今後ろにいる人?」


「は……」

振り向いても、誰もいない。だが紡はその空間を指さし、問いかけた。

「あ、黙ってのポーズしてる。言わない方が良かったか。じゃあ今の気にしないで」

そう言って紡はまた消えてしまった。空気を良くしようとしてくれたのだろうか。


だが、その発言は嘘じゃなかったことを、凜々は知っていた。

「、ずっと見られていたのか……」

「じゃあ、ちゃんと償ってるところ見せないとね」

照井は違和感のない、いつもの顔で笑って見せた。


「……」

「ね、星煌ちゃん」

「!?、あ、っはいそうですねいいと思います」

照井はどこかしんみりした空気に耐えられなくなり、星煌に同意を求めた。

だが星煌は謎に感情に移入をし、感動してた為急な同意に驚きで返すことになってしまった。


「じゃあ、はい」

そう言って星煌はどうぞとポーズをした。

「?」

「仲直りするんでしょう?握手ですよ」

彼女は自身の両手を使って握手をしてみせた。

「ほら、早く」

「な……」

照井は既に手を差し出している。凜々はしどろもどろになり、ゆっくりと左手を差し出そうとする。


「っ、仲直りではない!」

「停戦だ。貴様がその間、殺しをしないなら、こちらもその間は攻撃を辞めさせてもらう」

凜々は右手で指を指し、停戦条約を読み上げた。

「あくまでも、一時交戦を中止するという意思だ!照井(きゅう)!」

「何恥ずかしがってるんですか?」

「違う!」


そうして二人は手を繋いだ。凜々の勢いが良すぎて音が鳴り響く。手のひらが痛そうだ。


そうしてがっしり握った後、すぐに手を離してしまった。


「つ、つまり照井は悪い人じゃな「それは違うぞ蒼穹。こいつは本来存在してはいけない生き物だ」、そうなんですね……」

ふむ、四人が覗いていたことはバレていたらしい。まあ、星煌があんだけ視線をチラチラやっていたら、嫌でも気づいてしまうか。


「ここで殺したら、……」

「殺したら?」


「…………うるさい。死ね」

「え〜、今の僕が悪いかな?」

「どっちもどっちだと思いますよ」

偵察を諦めて出てきてしまった諒が言った。残りの三人も続々と後戸から現れた。



「とりあえず、解決っことで良いんですよね」

星煌は胸を撫で下ろす。この世界に来て初めてのちゃんとした事件だった。

「じゃあ、今まで通り委員会して……」

これでようやく日常が帰ってくる。星煌は自分も茶を飲もうと、手に持っていた御盆を机に置いた。



いや、この世界に来た時点で、もはや日常なんて呼べるものは存在しないかもしれない。



「そうだな。だが、それは物語構成の一部に過ぎない」

玄関のドアが開いた。鍵は掛かっていなかった。


「は」

「やあ。こんにちは」

新たな登場人物は皆堂々に挨拶し、廊下を堂々と歩いた。

「私の事は"岸 星煌"……あぁ、それだとこいつと判別がつかないか」


「お、お前……」


「改めて、私の事は『T√(Tルート)』とでも呼んでくれ」


そして彼女はは凜々の隣に堂々と座り、置いてあったお茶を勝手に一口飲んだ。




記録 : 記入 星煌(T√)

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