Log_15
私の意識は常に半醒であり、痛みだけが私を目覚めさせる。
半分機械の体に、制御チップを入れられている。それはマスターに逆らうことを許されず、絶対従順しなければならない。
そのせいで思考はぼやけ、常にloading状態だ。
99.9%から進まない更新。最後の少しが、いつも届かない。
でも、命令を受ければ別だ。
体は私の意思に関係なくその命に従い動き、思考は命令で埋め尽くされる。
腕が音を立てて変形する。
さあ、潜在意識を呼び起こせ。
その隠微を打ち破れ、人よ_│
「手加減は不要ですね」
機械に成り代わっている左手は、金属音を響かせる。
その手は変形して大きな刃に変わる。
江汐は常人にはできない速度で間合いを一気に詰め、その左手を勢いよく振るう。
「っ、あぶな……」
突然の襲撃に諒は金属バットでそれを受け止め、攻撃を逸らす。
攻撃は続く。江汐は剣を振るうだけではない。足技を繰り出し、負傷を覚悟し突っ込んでいく。
諒はそれをバット一本で受け止める。攻撃をしっかり防ぐ、実に慎重な戦い方だ。
彼のスタイル的に、状況を分析してから着実にやる方が得意なのだ。
「そもそも、なんでこんな状況になってるわけ!?」
木陰に隠れながら星煌は叫ぶ。かなり高レベルな戦闘をしているため、前に出る理由も勇気も無かった。
「こっちが聞きたい。お前が急にいなくなったかと思ったら、玄関から先生がいきなり飛び出してどっか行くから、追いかけたらこれだよ」
そうだ。三人は先程まで訓練をしていて、途中で星煌が消えたのである。どちらかと言うと、状況を知りたいのは諒の方だった。
「『照井穹』並び『時空間調査委員会』を壊滅させるためにやって来ました」
相手がその疑問を解消してくれる。
「なんでぇ!?」
受け入れられるかとどうかは別として。
江汐の手のひらから銃が飛び出し、それを四方八方に乱射させる。
「……そんなもの、隠し持ってたんですね」
「それは、こっちが言いたいけどな」
諒はコートの中から盾を取り出し、素早く防いだ。彼が防いでなければ、星煌にも被害が及んでいただろう。
「『なんで』と言われましても。今日が最適な日だったからです」
先程の星煌の反応に、江汐は納得のいく答えを示す。
「あなた達にとってはほんの数ヶ月でも、マスターは数十年待ったんです。『あの日』から」
「あの日?」
星煌が疑問を口にする。そんな前から存在した、重要な日があったのかと。
「……真実は、あなたたちの先生の口から聞いてください」
回答をはぐらかされた。
江汐は近接戦闘が得意なのか、傷なんてお構い無しで突っ込んでくる。恐く、チャームのせいでもあると思うが。
「あいつのチャームは?」
諒は星煌が何か知っていると見た。
Log_14にて星煌は江汐が出てきた際、知り合いと思えるような反応を見せていたからだ。
「えぇっと『神経痛』って言ってた。痛みをある程度感じない、みたいな」
星煌は記憶を辿り、数週間前に話した会話の内容を思い出す。
『神経痛』
その才能を宿した者は、あらゆる痛みに鈍くなる。完全に感じない訳では無いが、大抵の事では気付かない。
江汐は元々、『外の人』だった。
倒れていた所を研究者に拾われ、体を半分ロボットに改造された。
「そうか。……痛みに鈍いだけで、傷はつくんだな」
諒は江汐の身体に出来た打痕を見ながら呟く。先程、右手に持ったナイフを落とすためにバットで殴った時のものだ。
「だが、なるべく穏便に済ませたい……」
それは星煌の願いだった。諒は相手が死のうときっと正当防衛でも何でも付くからどうでも良いが、星煌はそうはいかないらしい。
「うん。そうだな」
諒は覚悟を決めたように頷く。
「根比べだ」
そう言って威嚇射撃を何発か打ち、相手に距離を取らせる。
「相手がシャットダウンをするまで、それか電池切れを起こすまでひたすら耐える」
星煌にだけ聴こえるように囁き、作戦内容を決める。
「そんなんでいいの?」
「それが一番だからな」
そう言った間にも江汐が接近してくる。その脚力は凄まじく、瞬きひとつしたらもう目の前にいた。
間合いを詰められ、攻撃されると思った諒が反射的にバットを振るう。だが、狙いは外れた。
江汐はその行動を予測していたのか、流れるように下へ潜り込み、そのまま諒の足を払う。
諒は倒れる前に地面に手をつき、足技を繰り出しそのままバックフリップすることで何とか体勢を持ち直した。
江汐は戦いながらに思考する。
岸星煌。江汐とって数少ない理解者にして、初手で打ち解けた半分知り合いで、半分友達。
そして江汐は思う。こんな、恩を仇で返すようなことをして良いのか?と。
それは彼女の命令に入り込んだノイズ。
普段はこんな事にはならない。戦闘中に命令以外のことを考えるのは、初めての事態だった。
( ……いえ、マスターの命に集中しなくては )
機械の手は命令に沿って動き、迷う右手はそえることしか出来ない。
「大丈夫?」
少し考え込む諒を見て心配になった星煌は後ろから声をかける。
「大丈夫だが……次の手が読みにくい。色んな武器を使ってくるからな」
攻撃を盾で押し返し、少し距離を取る。
( それあなたもでは? ) 星煌は心の声を疑問顔で表現した。
「あなたもですよ、篠原諒」
「特に、そのチャームはとても厄介です」
星煌が言いたかった事を江汐が代弁する。
江汐にとってもその才能は好ましくないようだ。
「俺の頭とお前の頭じゃ回転の速さがちげぇだろ」
「俺が何出そうにも、即座に対応してるじゃねぇか」
ため息を吐きながら足技を受け流し、次の連撃をバットで受け止める。
「というか、何故それを知っている?」
「どうにも、こっちの情報が筒抜けてるな」
諒は戦いながらも疑問を口にする。それは独り言であり、相手への問でもある。
「それはきっと、…………」
「きっと?何か知ってるのか?」
それと同時に、仲間との会話でもあり。
「私が、色々……話したから……」
その仲間が、原因であった。
後半に連れて声がデクレッシェンドのように小さくなっている。余程罪悪感があったのだろう。
「誰に?」
「あなたが今戦ってる人……」
「いつ?」
諒は容赦なく質問責めをする。こういった時には飴ではなく鞭が必要なのだと彼は理解していた。
「あの時迷子になった時に出会って……」
「あぁ、前に言ってた奴か?」
「そうだよ!!」
星煌はヤケになって叫び、それを終えると共に座り込む。
木にズルズルともたれ掛かり、剣を抱いたままガックリと項垂れる。
「うぅ……せっかく友達ができたと思ったとに! あの時メアドでもなんでも交換しておけば!!」
確かに、星煌にとっては委員会以外で初めてできた友達である。
「……その感情に寄り添ってあげたいところですが、私のプロットにそれは許可されていません」
だが、彼女は違うようだった。
ロボットはロボットらしく、冷たい反応をする。星煌と話した、あの時の彼女とは別人のようだ。
「……じゃあ、マスター権限を乗っ取ればそのプロットとやらを書き換えれる?」
星煌はすぐに代替え案を提案する。
直ぐに相手を探る時間に切り替え、なるべく多くの答えを引き出そうとする。
「……回答を拒否します」
数刻待ったあと、半人間は拒否権を使用した。
答えは引き出せなかった。だが、その質問の答えは星煌達にとって吉の兆しだった。
こういった時の勘は良いのか、私は愚か本人も知らないが、星煌はその言葉に目を輝かせる。
「きた! つまり、人間状態に戻せばいい!!」
星煌は立ち上がって諒に叫ぶ。
ここで言う人間状態とは、恐らく命令されていない、星煌が出会った時の自然体の江汐のことだろう。
「なんかない!?緊急停止ボタンとか!」
「星煌、お前が見ろ! 俺が抑えておく!」
防戦一方だった諒が自ら仕掛ける。
星煌は敵と接触しないよう大回りに走って、敵の裏手側へ回りこもうとする。
「っ、そもそも、私を倒したところでマスターには勝てません!」
先の回答拒否は、残念ながら誤答だった。
「それはそうかもしれないな。……いや、俺たちの先生が倒してるかもしれないぞ?」
「それが、一番無いんですよ!!」
1歩踏み込んで薙ぎ払う。その斬撃は諒の顔面をスレスレで通り過ぎた。
その雄たけびは、ロボットとは程遠く。
少し荒ぶれた様も、感情が浮き彫りになっていた。
息を荒らげながらも江汐は理由を述べる。
「っ……マスターと照井穹は相性が最悪です」
「『偽造』と『看破』......そのチャームを使おうと、その噓はマスターにとって意味のないものです」
諒に刃を向けながら少し後退し、距離を取る。
「……?」
それに、星煌は疑問を覚えた。
その疑問はきっと、彼女しか覚えられない。
「え、チャームって大人になったら使えなくなるんじゃないの」
「た、しかに…………っ!」
諒も直ぐにハッとし、今まで認識していた常識に疑問を持つ。
だが、それと同時に頭痛が諒を襲った。頭が割れそうなほど痛く、耳鳴りが酷い。
あまりの痛みに頭を抑えるが、数秒すればその痛みはすぐに引いた。
( なんだ、今のは…… )
きっと、現実を直視した代償だろう。
星煌の言葉に江汐は少し目を見開き、直ぐにその答えを口にする。
「巨大な"嘘"で覆われてるんですよ。この世は」
「『大人になったらチャームが使えなくなる』という巨大な認識阻害を掛けられてるんです。実際には、使えるのにも関わらず」
「え…………」
(というか、照井さんのチャームって偽造だったんだ…… )
認識阻害。真実に触れようとすると、嘘という壁がそれを阻む。
その先は、その嘘を真実だと思い込むか、真実を探求するのを忘れるかの二択だ。
「認識阻害をかけられているのにも関わらず、なぜ岸 星煌がそれに気付けたのかは不明ですが」
そうだ。現状、この真実に気付いているのは再生の三人と照井だけとなっている。
凜々は初めからそれが嘘だとわかっていたため、そもそも阻害に掛からなかった。
蒼穹と江汐はまだ幼い時に凜々に教えてもらったため、真実に触れることに成功している。
照井はいつの日か凜々に襲撃された時に教えられている。
彼のことだ、きっと前から気付いていたという線もあるが。
ではなぜ、星煌だけがその疑問に気付けたのか。
それは、…………
※いや、彼女の口から言ってもらおう。
「つまり、先生はまだ『偽造』のチャームが使えるということか?」
「そうなりますね」
諒は知っていた。先生のチャームが偽造であると。所属した当初に質問したことがあったし、あわよくばそれを利用したいとも考えていたからだ。
「なぜ俺らはわかりやすい矛盾があることに気付かなかった?」
そうだ。普通は目の前で大人がチャームを発動でもしたら、何もしなくとも一発で解るはずだ。
なのに、人類は生きててずっとそれを本当だと思い込み、おかしな点もスルーして生きていた。
「使えるのにも関わらず、他人の前でそれを見せても何とも思わない。大人になったらチャームを使えなくなるのに、チャームを使う大人を見ても何も思わない」
「大きな矛盾を抱えている」
ロボットは明確な答えを残さない。
「それは、誰がやったんだ?」
「不明です。それを問うなら、先の質問にも答えましょう」
「発動者が不明だからこそ、原因がわからないのです」
誰が何をしてやったのか。その方法が分からない以上、対処法も、打つ手もない。
裏でこっそりやっているかもしれないし、一人一人着実に広めているのかもしれない。
「……じゃあ、先生のチャーム『偽造』と、この世界に覆われた嘘に関連性は?」
諒が真っ先に思いついたひとつの考察。
『偽造』
嘘を本当にする才能。
使い方は多種多様に及ぶ。使用例を見ると、彼は自身の記憶を上書きしたり、『この剣は絶対に壊れない』とエンチャントをかけたりと様々だ。
そして星煌の生命証明書もこのチャームによって作られた。
また、その言葉の嘘を判定するのは発言者本人の意思ではなく、世界。
その才能を使えば、きっと上書きなど用意だろう。
だが、直接『この世界は二十歳以上で才能が無くなる』とすると矛盾が生じてしまうの。
あるとしたら『この世界では二十歳以上で才能が無くなる。と、みな思い込んでいる』の方が自然だ。
「もちろん、それの調査も兼ねてます。けど、照井 穹が実行犯だと断定はできません」
そうだ。それが真実とは限らない。必要とあらば拷問をし、聞き終わったら殺せば良い。
「……じゃあ、今こうして襲われているのは、私たちに非があるってこと?」
「間接的には」
そう言って彼女は中断していた戦闘を不意打ちで再開させる。
ロングスカートからナイフを落とし、それを相手に素早く投げつける。
やはりこの二人の相性は悪い。
諒は何でも出来るが、自身の体格に直結する近接戦闘はあまりやりたくないのだ。
「というかこうなってるのは、お前が情報を漏らしたからじゃないか?」
そのナイフを剣で弾きながら諒は淡々と文句を言う。
やはり容赦がない、先程から星煌は鞭ばっかりを受けていた。
「うぐっ……申し訳ないとは思ってます」
正確には彼女がいなくとも時空間調査委員会は襲われていたが、照井以外のメンバーのことを教えたのは彼女である。
「お、穏便に解決したいの! お願い! 負けて!」
星煌は自身の非を認めつつ話題を逸らし、情けない願いを口にする。
争いたくない身からしたら、その願いは当然かもしれないが。
「……そうする訳には行きませんね。このままにしていたら、確実に死にます」
「へぇ、お前がか?世間の人々か?」
諒は少し挑発するように問をかける。
「……」
( ……? )
諒が思っていたのとは違う反応を見せた。先程までと同じように、直ぐに答えを提示するのだと。だが、違った。
江汐は武器を下ろし、少しの間考える。
はたして、真実を言うのか。それとも、隠した方が良いのか。
ロボットらしからぬ言動。口に手を当て考えるさまは、どちらかと言うと、アンドロイドの方が近かった。
そして、口を開く。
「あなた達です」
選んだのは、真実。
「……、俺たちが?」
諒はどこからその結論に行き着いたのか、通り道が分からなかった。
星煌は後ろで唖然としており、こちらも何も分かってい無さそうだった。
「重要なのは先程の情報ではありません。あなたたち、時空間調査委員会のことです」
戦闘が一時中断される。
江汐がナイフを説明資料に使う。ナイフをクルクルと回し、さらに答えを口にする。
「照井穹 は、実力を隠し持っていながら、あなた達に手を貸そうとしないでしょう?」
「先程の戦闘、ご覧になられました?少し見ただけでも分かりました。あの技術は、ただならぬものです」
「一般人、しかもまともな教育さえ受けていない、あの状態で」
先程、突如始まった殺し合いを思い出す。
凜々の攻撃を全て暗記したかのように正確に避けたあの余裕を。
殺気を向けられているのにも関わらず、照井は殺そうとしない、謎の感情を。
それはたしかに、今まで見てきた気だるげな態度とは明らかに異なる姿だった。
「センスが良いのかまでは判りませんが、その技術を持ってしてでも、何もしようとしない」
「このままにしておけば、あなたたちはいずれ敵に殺られ死にます」
握っていたナイフに力が入る。
その感情は分からなかった。彼女達を生かしたいと、江汐は少しだけ願った。
『それはダメだ』『死んではいけない』と、マスターは判断した。
かつて被害を受けたのか、二度とそれ繰り返したくないのか、心の内は分からなかった。彼女は過去を、何も言わなかった。
それでも、二人は着いてきた。
その必死さをはじめて見た。
言えなくとも、きっと大事なんだろうと。
「自身が死ぬのを認め、もうこれ以上足掻かないと決めたのなら、わたしは投降しましょう」
ロボットは答えを待つ。まあ、無理に傷付けずに拘束出来るのなら、マスターの意思にも沿っていると考えたのだろう。
「え、ぇ……」
星煌は( それ反則では? )と思いながら諒に視線をやる。回答を全て任せたいと思っていた、が。
その答えを聞いた諒の顔は、先程の照井と同じように、いつもとは少し異なっていた。
その雰囲気はまるで、出会って数日間しか経っていない時の諒のようで。
「悪いが、俺は死なないぞ」
その声は、冷たかった。
「生憎だが、俺には殺したい相手がいる。それを成し遂げるまでは、絶対に」
それは過去を踏みにじられ、全てを奪われた、復讐者の顔。
覚悟が決まってる、決まりすぎているその言葉に、星煌は少し恐怖を覚えた。
「俺は投降をしない。全てを賭けて、燃やし尽くす」
「成程。マスターと同じ、ですか。通りで死なないわけです」
( ……なんか、状況が二転三転しすぎじゃない?さっきまで照井さんの話してたのに……)
次々と移りゆく話題に、星煌はついて行くのに必死だった。
少し目を逸らしている間にまた戦闘が再開される。
「投降をしないのなら、無理やりにでも連れていくだけです」
「そうか、好きにしろ。俺に勝てるならな」
先より一層激しく響く金属音。
互いに目的を持ったのか、動きのキレが一段と良い気がする。
星煌はその背を伺い、なにか隙を探すことしか出来ない。
( 大人でもチャームは使えて、このままだと私たちは死んで、それで…… )
先程までの情報を整理する。どれもこの世界に来てからの常識であり、星煌にとっての違和感
( ってか、マスターって凜々さんのことでしょ? )
( その人にとって体を預けられる位信用してて、マスターって呼ぶくらいには、大切 )
星煌はふと考える。
なにかないか、この状況を変えられる方法。
凜々さんを使って何とかできないか、とも考えたが。あのバーサーカー状態では無理そうだ。
心の方がどうなってるのかも心配だ。彼女が負けるとは考えずらいが、傷を負っている可能性は十分にある。
「……いい?諒。もっかい言うけど、相手から見たら仲間なんだから、絶対に傷付けるなんてこと、しちゃダメだからね!」
( 何度言われなくても分かってるよ )諒は半分呆れながら「おー」と適当に返事をした。
( でも、このままずっと戦闘を継続してれば…… )
そうだ。仲間は心配だが、このままずっと続けばいつかは警察が来て、この件を解決してくれるはず。
このまま、何もせず。
いつも通りに出しゃばらず、じっとしてればよい。
だが、その前に死人が出たら?こちら側が、敗北するとしたら?
余計な思考が、星煌の善の精神を蝕む。
悪意を持たない善。その助けがお節介と呼ばれるのは、良くないことだと分かってはいた。
「じゃあ、……」
「私を連れてけばいい。江汐」
星煌は江汐に向かって叫ぶ。なよなよした先程までの態度とは違い、何かを決断したようだ。
「!」
江汐はその言葉に反応し、動きを止める。
( ……大人しく連れ去られる気か? )
諒は考える。今まで何をするにも消極的で、流れに合わせていた星煌が、ここまで大きく出るのは初めてだった。
「悪いけど、私はみんなみたいに強くないから、生き残れるなら、そっちを選ぶよ」
「あと、さっき凜々さん言ってたよね。『彼女を捕らえろ』って」
「とりあえず、私さえ拘束できれば、良いんだろ?」
そうつらつら言葉を述べて彼女はズカズカと戦闘中の江汐の背後に近づき、手錠を待つかのように手を差し出す。
「……ああ、武器捨てた方が良いのか」
慌てて腰のポーチから隠し持っていたナイフやトンカチを捨て、体を手で触って確認する。
「もっと近付いてあげる。ほら、何も無いでしょ?」
ズボンのポケットを裏返して見せる。
そして上に羽織っていた薄い半袖の上着を脱ぎ、何も隠し持っていないことを証明する。
「……そのようです。では、拘束を開始します」
そうして、江汐の冷たい手が星煌の腕に触れようとした、その瞬間だった。
「隙だらけだな」
彼はあっちへ顔を振り向かせたその後ろ姿にに水を被せ、
「やっと、油断したな」
ロボットは、シャットダウンをした。
彼が持っていたのは、スタンガン。
「ぐっ…………」
それを起動させ体に打ち込み、彼女の思考を停止させた。
江汐はその場に倒れ、意識を失った。
「やっぱり、ロボットは水に弱いんだな」
「……」
沈黙がこれでもかと響く。森にいるから、何も無い音は不安を与える要素になった。
だが、ある意味美しさとも言えるその静寂は、次の轟音に全てを持ってかれるのである。
「なにやってんの !?!?!?」
「え」
「『え』じゃない !!!!」
星煌は今世紀最大級の、いや、歴代で最大の大声を出す。
対して諒はいつもの顔でポカンとはてなマークを浮かべ、とても天才とは思えない雰囲気を醸し出す。
「いや、『私が囮になるから後ろから殺れ』的な意味だと思ったが……」
「違ったか?」
「そうだよ違ったよ!! 気絶させろなんて言ってないし!」
「いや、だって後ろ側に回り込んでたし……」
「それはボタンを確認するため!!」
「ってか、諒が『ひたすら耐える』とか言ったんじゃん!!」
そうだ。彼は星煌の『傷付けるな』という言葉を受け止めた。受け止めたので、傷を付けずに気絶をさせた。
「敵だからってそう簡単に殺して……いや死んでは無いけど!っ、いいとでも!?相手から見たら味方なんだよ!?」
星煌は大声を出しながら必死に弁明と説教を繰り返す。大声の出しすぎで後半は声が上擦っている。
「……なんか、すまん」
「いや別に良……良くはないけど!意思疎通ができなかった私の責任でもあるから……」
「はぁ。感情的過ぎたね、ごめん」
「いや……傷付けるのは、たしかに良くないな」
「うん……」
二人はなんだか気まづくなり、顔を背けながらそれぞれ落ち込んだ。
「はぁ、どうしよ。死んでないよね、これ」
「……とりあえず、縛っとくか」
「どっから出したの、それ……」
かくして、結局目的がハッキリしないまま一陣営の戦いが終了した。
「それで?」
彼女の身長と等しい程大きな大剣を、片手で持ち上げる。
目を細めて相手を品定めをする様は、普段の彼女からはは程遠かった。
「あなたは、悪なの?」
さあ、裁判を始めよう。
記録 : 記入 江汐 諒 星煌




