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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『その言葉の真■と確かな芸術について』
14/21

Log_13

愛しい人がいた。

その人はただ一つの事だけに必死で、自分の道を進む、勇気のある人だった。

発言には人を想う気持ちが伝わってきて、優しく微笑む顔が、好きだった。


叶うならば、その隣に。


憎しいやつがいる。

そいつは一つの事しか見えてなく、周りなんて気にしない、自己中心的なやつだ。

発言にはやんわり嘘が含まれて、嘘をつく時に出す顔が、飄々としてて嫌いだ。


願うことなら、そいつを遠くに。



一匹の蝶 羽ばたき そして、抱擁_│



「『明日、準備が出来たら来てくれ』

……とは、確かに言ったが」

「なにか悪かったか?」

悪びれなくやって来た一匹の蝶。

そしてその後ろにいる、"半ロボット"と"傀儡"

「本当に来るやつがあるか……少しだけ待ってろ、上がれ」

眼鏡を掛けている方の星煌は発言を後悔しながら、三人を家へ上げる。


部屋の中は、思ったより整理がされていた。

家自体はそこまで大きくないものの、ミニマリストなのか何も無い空間が沢山ある。

いつもは玄関で会話していた凜々だったが、中までは入ったことがなかった。

「適当にソファーにでも座れ。私は少し準備をする」

彼女はそう言って自室に入ってしまった。


取り残された三人。立ち尽くす訳にもいかない。

「……だそうだ。お言葉に甘えて座ろう、『蒼穹』『江汐』」

「「はい、『先生』『恩人さん』」」

せっかく許可が出されたのだから、使わないのは帰って失礼だ。

呼ばれた二人は大人しく着席する。

だが、そのうちの一人が声をあげる。

「でも、先生。あの人、本当に大丈夫なんですか?」

彼女の名前は『蒼穹』

凜々に拾われた一人であり、人生の大半を先生こと凜々、そして江汐の二人と過ごしている。

「だって、あの人が……」

蒼穹は俯きながら意見を述べる。

人生の師に反論はあまりしたくなかったのか、少しの躊躇いもある。

「大丈夫だ。

少なくとも、私たちの敵では無い」

下を向いた頭に手を乗せ撫でる。

不安そうなその顔は一瞬で恥じらいに変わり、最後には納得した顔で頷く。

「はい、先生」



「そうだ。星煌は、人を傷付けるやつではないからな。少なくとも、自分の手では」

熱い、出来たてのお茶が出される。

「――!」

凜々は反射的にナイフを抜き取り二人の前へ出る。

先程まで気配も何もなかったはずなのに、唐突に現れた人影。

「……そんなに警戒されるとは。まあ、良いことではあるな」

突然現れた男は人数分のお茶を配り終え、パッパと手を払う。

「警戒しなくても、ここは家だ。

それに俺はただの居候であり、従者で、それと同時にただの校正だ」

随分大正風な衣装を身にまとった人物は、緊張など一切していない様子で向かいの椅子に腰を掛ける。


「むしろ、俺は星煌の味方なんだから、お前達の協力者でもある。そうだろう?」

「……無礼だったな。失礼した」

そう言ってナイフをしまう。

「さっきも言っただろう?警戒するのは良いことだ。気にする事はない」

相手はこれ以上教えることはないとスマートフォンに顔を向けてしまう。

よく見れば、その顔立ちは随分と整っている。世間一般的に見れば、アイドルをやっていてもおかしくはない。

本当にお茶を配りに来ただけのようだ。

「警戒しなくても、何も入ってないよ」


「……そのようだ、頂こう」

その言葉に嘘はない。


彼女の能力『看破』は、人の発言にしか効果がない。

例えば、壺を売りつけて来るやつの嘘は見抜けるが、壺だけを見てその効果が嘘かホントかを見破ることはできない。

そして、『看破』の使い方の一つとして『嘘』が分かるというものがある。

相手の発言が耳に入る時、過剰なノイズが入る。

そして、その発言が嘘だと『視える』のだ。嘘をついた時、凜々視点での空間が少しだけ歪む。それでも判別可能だ。


出されたばかりの熱いお茶を、口につけた。

『嘘』とは便利だ。

都合のいいことを全て丸め込めて……

真実を、全部隠せて……

……



数十年前


「っ、はぁ、くそ……」

「なんだ、この場所は……歩きにくい」

先輩達が居なくなって、1年程経った。


私は日々を生きるのに精一杯だった。金を稼いで、場所を転々として、復讐のための準備をして……

他のことに気を使う余裕は、なかった。

そして、私はある派閥を設立した。

『再生』という名前の。

これも復讐のための一つだった。正直、復讐だけなら一人でもどうとでもなるが、戦闘以外の人手が欲しかった。

メンバーは私一人、活動内容は……


殺しの依頼を、受けた。


お金を稼ぐ手段。それは人を殺すこと。

いわゆる、殺し屋を受け持っていた。

依頼者から嘘偽りなく教えてもらい、納得のいくものだったら受ける。

ただし、一つでも嘘をついたら、その時点で帰ってもらっている。


私は、『悪』だけを殺すことに執念していた。


表は幸せな世界だ。才能が溢れて、様々な活動で溢れて……

だが、裏はそういかない。

人目につかない場所での戦闘。荒れる路地。

そういった奴らがたまるスポットが、国を回ると意外とある。

まあ、当たり前ではある。

心が荒んでる奴らは、闘争を求めるものだ。

そういった場所はやがて、平和な人は誰も近付かなくなった。



草の生い茂った道を歩く。

昨日は雨が降っていたからか、道がぬかるんで歩きずらい。


こういう時、親が生きていたらなと思う。

委員会に入るより前、事故で親が死んだ。


……"事故"という設定になっている。


父親は普通の会社員で、母は家政婦をしていた。兄弟はいなかったが、その分家族仲は良い方であり、普通の日々を過ごしていた。


それは、普通の朝だった。

いつも、母が父を車で会社に送る。だが、その日は少し違かった。

信号無視した車が、横から突っ込んできたのだ。

父は車をもろに受け止め、身体が四方八方に曲がったまま死亡。母も頭の打ちどころが悪く、病院に運ばれてすぐに心臓が止まった。

それだけなら、事故だ。ただ相手が信号を無視しただけの、まあ、よくある事故だ。


信号を無視したそいつは、会社の先輩だった。

「ほんとうに申し訳ない。私を裁いてください」と。彼は法廷で語った。


ここで、私の才能が開花した。


彼の言葉全てにノイズがかかり、悲しむ表情は悦を模した表情にしか見えなくて。

これは、確実に故意だ。絶対に、殺したくて殺したんだ。

なにか恨みがあるのかまでは分からないが、そいつは確実に私怨を持って、轢き殺した。

私は言葉をこぼした。

「そいつは嘘をついている」

小さな声で、反論した。

「違う、違うよ……絶対に、わざとなんだ」

だが、その言葉が裁判官に届くことはなかった。


金を積んでいた。

判決は、"懲役一年"

人を二人も殺しておいて、たかが一年。


言葉が出なかった。許せなかった。

でも、何かをする権利なんて、私にはなかった。所詮、死んだ親の娘。

涙なんて、出なかった。泣くくらいなら、この怒りをぶつけたかったから。


後日、死んだ金で診断をした。

そうしたら、『看破』と言われた。人の嘘がわかるのだと。

あぁ、あの時、もっとちゃんと言えていたら。叫んでいれば。

叫んでも、きっと信用しては貰えないだろうけど。

あるいは、もっと早くチャームが分かっていれば。

私は、後悔した。



その一週間後、私の元に指導者から手紙が届いた。とある委員会に入って欲しい、と。




「……道を間違えたか?」

本当は小さな館に着くはずだった。

依頼内容は、とある舘の主人を殺して欲しいと。

そいつはとある会社の社長で、社員から意味もなく金を巻き上げ、少しミスをするだけで給料を減らすやつだと。

私は納得した。こいつは、いかなる理由があろうと悪であると。

そして、貰った小さな地図が一つ。しっかりと見ても、道を間違えてるようには見えない。


だが、彼女が着いたのはとある倉庫。

蔵と呼んでもふさわしい程古めかしく、傷や苔で溢れかえっている。

手で触ったら、今にも崩れ落ちそうだった。


鍵はかかっていなかった。随分と不用心だ。

ギギ、と重い扉を両手で開ける。


「――!」

「大丈夫か!?」

灯りをつけずとも目に飛び込んできた人影。

足は鎖で繋がれ、腕には傷跡が付き、体には鞭のような跡もある。

まだ幼い少女だ。見ただけでは分からないが、まだ小学生程度の。


急いで駆け寄って身体を揺さぶる。

こんな所で一生を終えてたら、と想像するだけで冷や汗が出る。

「ぅ……?」

閉じられていた目が開く。体温は低いが、死んではいないようだ。

「……?だれですか?つぎの公演の……?」

「誰でもいい。今解いてやる」

死んでいないことに安堵し、そう言って鎖をナイフで無理やり断ち切る。

枷は帰ってから溶かせばいい。とりあえず、動ければそれで……


ガシャン

「あ、ありがとうございます……?」

その少女は不思議そうにこちらを見つめ、そこを動こうとしない。

「……どうした、外に出ないのか?」

「おそとに?まだ、公演のじかんじゃないよ」

「……」

(公演?その時間じゃなきゃ、外に出ないのか?)

(そもそも監禁の目的は?だれが、何のために……)


「君、名前は?」

幼い少女の手を握る。詳しいことを聞くのには、信頼関係を得てからだ。

「なまえ、?『おい』って呼ばれてます」

「……」

想像していたが、理解はしたくなかった。

閉じ込められて、時間が来たら外に引っ張りだされて……

この子は、きっと私が連れ出さなければいけない。こんな狭いところに、閉じ込めては置けない。

そう、心の中で覚悟を決めた。


「あぁ、それとも、ショーのなまえですか?」

少女は少しだけ笑みを浮かべる。

「わたしは、『綱渡り師の巻層雲』です」

「あ、でもわたし達みたいな見習いは、チルドレンって呼ばれるんです!」

少女は嬉しそうにその名を口にし、手を胸にやりその名を噛み締める


「もしかして、わたしのファンの人ですか?うれしいなぁ」

"綱渡り"

ここから連想されるショー、舞台。

この子はサーカス劇団に所属しているのであろう。

よく見れば、顔に傷は付いていない。

いや、不自然な程に整えられている。

髪もそうだ、綺麗な青髪は美しいロングストレートに整えられている。

……


「なんで、こんな所に居るんだい?」

「?なんでっていわれても……ここでくらすのが、あたりまえでしょ?」

少女は、この現状を何一つ疑っていない。

「ごはんもあるし、おみずもくばられるし、」

「みんなはいそがしいって、ショーのじゅんびがある、っていってぜんぜんこっちにこないけど……」


それもそうだ。彼女はここで暮らすのが生まれてからずっと当たり前だったから。

みんなも同じ生活をしていて、大人になったら外に出れるのだと思っていたから。

痛くても、苦しくても、それが普通。だって、彼女は声援という最高のご褒美を貰っているから。これ以上の幸福を、知らないから。


「……」


凜々は悩んだ。

この子は、幸せそうだ。

笑顔を振りまいて、一本の糸の上で白鳥のように羽ばたいて、花火のような、歓声を浴びて。

この子を外の世界に連れ出したら、その笑顔が消えてしまうかもしれない。

ならいっそ、このまま、操り人形で……




「ねぇ、チルドレン」

「なぁに、おねぇさん」

身体の傷とは対照的に、その瞳は純真無垢だ。

「大きくなっても、まだ劇をやりたいかい?」

「うん!わたしはね、そのためにうまれてきんだ!えらいひとがいってたよ!」

もしかしたら、将来別にやりたいことが出来るかもしれない。……それともこの子は、ずっと笑顔の花を咲かせるのかな。



「じゃあ、一緒に」

もう一度、手を握る。


「お姉さんと一緒に、居てくれない?」

「私のための、サーカスをして欲しいんだ」


「……なんで?おねぇさん、わたしのぶたい、みたいの?」

「うん。『君のファンだから、特等席で、目の前で、君の事を見たいんだ』」

耳鳴りがする。視界が歪む。

嘘をつく。そうでないと、連れ出せない。


「……いいよ!わたし、にんきものだね!」

その子は、一番の笑顔を見せた。

ゆっくり抱きしめる。

もしかしたら、この選択は間違っているのかもしれない。

それでも、私は。

この子の体に傷が増えるのを、もう想像したく無かったんだ。


静かな夜。一人は姿を消し、もう一人は役目を果たす。



そこから、殺し屋は辞めた。

『悪』を殺すより、『善』を救うほうが性に合ってるから。

悪い組織があれば、そこから被害者を救い出す。ついでに資金も貰っていく。

殺しはしない。ただ、生きて欲しいと、願うだけ。

蒼穹に勉強を教え、孤児院に顔を出し、訓練をする。

復讐の炎は優しさの花に燃え移ることを恐れ、徐々に弱まりつつあった。



「じゃあ、この中でかえるのは、りんごさんってこと?」

「そうだ。蒼穹、よくできたな」

優しく頭を撫でる。

身体の傷は徐々に無くなってきた。少し跡がところもあるが、傷がこれ以上増えることはないだろう。昨日転んで擦りむいた足を除いて。

蒼穹もこの生活に馴染んできた。裕福とは言えないし、学校にも通わせてあげられないが、食べて寝て沢山遊ぶその姿は、前よりも楽しそうに見えた。


「えへへ、蒼穹150円いっぱい手に入れるね!」

そう笑う顔は、青い、冷たい髪に相応しくない程の温かさだった。




数年後


とある実験組織の派閥に、連盟が突入するらしい。

なにやら子供を使ったチャームの違法実験をしているのがバレ、解体されるらしい。



連盟はああ見えて、手段を選ばない奴らだ。

指導者の意思に従う。それさえ達成できればあとはどうでも良い。

委員会は街の治安を守るための責務があるが、まとまりが取れていない。

どちらも公務員なのに、なんとも秩序に欠けている。


信用が出来なかった。だから隙をついて、中に入った。

ここも、悪に抑圧されている善がいるかもしれないと、考えたから。

そして、その善を助けるような奴らではないと、知っていたから。


建物が半分倒壊したところで、一気に奥に入る。

階段を下り、厳重そうな扉を倒れた職員から奪ったキーで開ける。


足音が響く。上からは、乱闘中なのか銃や悲鳴が溢れかえる。


入ったそこは、一面が白い部屋。

中心にある手術台の上にいたのは、半身が制御装置に繋がれた、白髪の女子。

「大丈夫か!?」

急いで駆け寄って体を揺さぶる。意識がないようだ。


「おい、ここの奥……まだ…………」

「っ……!人が来たか」

装置を無理やり取り外し、気づかれる前に抱えて走り出す。

見た目に反して重かった。恐らく、体に金属部分があるからだろう。

非常口を通って白い部屋から外に飛び出す。

道中、連盟の人間に出くわしたが、別の人間を追っていたのか、それともサボりか、こちらには目もくれなかった。

だが、それ幸い。特に道中危険もなく帰ってこれた。


「っ、はぁ……はっ、ごめん……君しか、救えなかった」

玄関前で項垂れる。

未だに目を覚まさまない、その子供。

きっと、他にも被害者はいたはず。

一人じゃ、少ししか救えない。

分かってるが、他の子を想像するだけで、自分の無力で胸がいっぱいになる。


「それは違いますよ、先生」

「一人でも救えたことに、嬉しがるべきです」

ドアが開いた。

「私も、そうでしたから」

「蒼穹……

華澤凜々は、あまりにも、優しすぎる。

復讐なんて、きっとするべきではない。今まで通り、優しくいてくれたら、なんて蒼穹は願う。

けど、それはきっと無駄なのだろう。

復讐することが、彼女の優しさでもあるから。


子供が、目を覚ます。

「……あれ、わた、し…………」

「!!良かった、生きていて……」

凜々は安堵し、冷たい体を抱きしめる。

金属部分が肌に触れ、その冷たさを一層際立たせる。

「これからは、一緒に暮らそう」

その身体を、温めたかったから。


今までは、人を救っては施設に入れていた。

人を増やす訳にもいかないし、ここよりも良い環境だからだ。

蒼穹にも提案したが、断られた。『一緒に居たいです』とかわいいわがままを言われてしまったので、こちらも無理に押し付けるのは野暮だと思った。

だけど、この子は、江汐はなんだか一緒にいなければならない気がして。


三人家族になった。

蒼穹も妹が一人増え、頼もしくなった。

江汐はこう見えて好奇心が旺盛で、知ってることでも知らないことでも、全て離そうとする。

凜々は相変わらず忙しい。人を助けるために各地を回り、毎日が旅行の日々だった。


良い、日々だった。

山奥の、小さな村を助けた。廃れていた街を復興させ、住人に感謝された時のあの気持ちは、嘘偽りなくて心地よかった。


蒼穹と江汐が初めて喧嘩をした時、凜々はどうしたらいいのか分からず、二人よりも泣いた。

そのお陰で、二人は仲直りをすることができた。


そんな素敵な日々。

成長する、子供たち。

この子達を、自分の復讐のために利用しているのが、申し訳なくて。

自分に、罰を与えたかった。



熱いお茶を飲み干した。


「ふむ……」

と言って隣の江汐も真似をする。彼女は痛みに鈍いが、ダメージは残るのでやめて欲しい。実際、このお茶はかなり熱い。

蒼穹は頑張って飲もうとしているが、かなり熱いのか器さえ持てていない。


「待たせたな、準備が出来た」

「……茶が出されたばっかりだったか、もう少しゆっくりしてから行くか?」

扉が開いたと思ったらすぐに閉まりかける。

そんな気遣いなど、今は不要だった。

「いや、大丈夫だ」

「そうかい?じゃあ、行こうか」

席を立ったと同時に、彼女の自室のドアが閉まる。しっかりと鍵をかけ、その鍵をしまう。


「……校正。今日はお留守番だ。着いてこようとするな」

「え!?なんで!!」

玄関へ向かう四人に、さりげなく着いてきている先程の男。

「当たり前だろ今日は大事な日なんだから」

「えーーーやだやだなんでなんで」

男は駄々をこねる。成人しているのに、星煌の肩を揺らす姿は、なんともみっともない。

はぁ、と星煌は大きくため息をつく。

その手を肩から引き離し、相手を突っ放す。


「……お前は隠し玉だ。

なんかあったら呼ぶから、大人しくしてろ」

「……!!はい!」

その一言で、あんなに激しかったわがままは一瞬で治まり、大人しく居間へと戻って行った。


かくして、謎の一悶着があった後。

「……あぁ、そうだ」

ドアを開ける前に、星煌が振り返る。

その目は先程よりも真剣で、レンズ越しでもしっかりと伝わった。

「もう一回だけ、聞いておく」

「お前じゃない。お二人さんにだ」

星煌がドアに寄りかかる。納得のいく答えでなければ、通すつもりはないのだろう。


「覚悟は、できてるか?」


シンプルな一言。だが、相手の気持ちを測るのなんて、それで十分だった。


二人が一歩踏み出す。

「もちろん。私は、どこまでもついて行きます」

「はい。私は、命令に従うだけです」

その瞳は燃えると表現するより、光るの方が正しいだろう。


「……うん、まあそうだろうね」

その返答は、期待通り。以下でも以上でもない。そして、予想通りでもある。

変なことを聞いてしまった、と星煌は思う。

そんなこと、分かりきっていたのに。


今度こそ、ドアノブに手をかける。

「じゃあ、行こう」

「『時空間調査委員会』をぶっ壊しにね」



ドアが開いた。

彼女だけが起動できる、魔法のドアが。




同時空 同時間

時空間調査委員会にて



「なんで来て、一ヶ月ちょっとで、こんな目に遭わんと、いけん?」

ゼェゼェと息を吐くことしか出来ない星煌。

「口を動かすなら足を動かせ。ほら、そんなんじゃ死ぬぞ」

それに対して容赦なく追い討ちをかける諒。

「一般人が戦闘経験あると思うな!!」

そして、一人で勝手に木を伐採している心。


庭先で定期的に行われている訓練。又は星煌の体力付けと、諒と心の暇つぶし。

自分の生死をかけているのだから、真面目にやるが、それはそうとしてとてもきつい。

体力がある訳でも筋力が特別ある訳でもないのだから、怪物退治なんてしたくない。諒と心が全部やれば良いと星煌は思っているが、二人いわく「サボりは先生だけでいい」とのこと。


「ほら、よそ見するな」

「うわ!? 不意打ちすんな!」

ガキン、剣が交わる。

本物ではない、本当に切れはしない剣だが、重量がある為当たったら普通に痛い。

「口が荒いぞ、上品にしろ」

「は〜? うるせぇ〜!」

痛いのは嫌だと、そして相手に一発食らわせてやろうと意気込んだ星煌が大きく振りかぶり、一歩踏み出す。

その、踏み出した瞬間。



ドアが開く。



「は?」

その足は、異空間へと繋がり、

剣を持っている右手は、ドアから覗く手にに引っ張られた。


暗闇に潜り込む。

空中に反射する硝子の先に、自分の顔が見えたような気がした。



「……え、めっちゃ見たことある場所だ……」

足を踏み終えた先に着いたのは、拠点の庭先、から少し離れた場所。数分歩けば着く場所だ。

突然の出来事に恐怖を覚えたが、見慣れた場所なら大丈夫だな、と安堵を覚える。

それでも一応剣を握りしめたまま、辺りを見渡す。

( そもそも、拠点の近くなんだからすぐ誰か来るはず…… )


ガサ、と茂みから物音がしたので、後ろを振り返って見えた人影は、いつもと違った人だった。

「昨日振りかな、岸 星煌」

一匹の蝶が、星に向かって羽ばたく。


そこには、昨日あった人物が、そこにいた。


「樺澤、凜々さん……でしたっけ。間違ってたら、すみませんね」




記録:凜々 記入:星煌

Q 委員会メンバーを動物に例えると?

A 心→犬 圧倒的レトリバー 諒→キツネ 怖いけど怖くないから 先生→猫 めっちゃ猫 もはや猫本人 星煌→ハムスター がめついから

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