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無題/日記  作者: 岸 星煌
『その言葉の真偽と確かな芸術について』
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Log_11


side

「そういえば、自己紹介がまだだったね。よければ、"私"のことは江汐(えじお)って呼んで」



…… side /視線 江汐



「うん、えじお。いい名前」

「そうなの。私も、そう思ってる」

少しの和やかな会話。でもその空気は、過去の話で消し去ることになってしまう。


「私は、半(・)分(・)ロ(・)ボ(・)ッ(・)ト(・)なの。人造人間。アンドロイドとも言えるね」


「あ、だから線……」

そうだ、顔のこれは、ロボット側のパーツ。

私が操縦する。または操られる。そのための『印』


「だいぶ、昔の話だけどね。悪い研究員に捕まって、脳と、身体をいじられた」

今だって、彼女の体は半分が鉄の塊で、思考も半分奪われている。


「私が『神経痛』の才能を持ってたのをいいことに」


「『神経痛』……」

難しそうな顔をする。無理もない。唐突にこんな話をされて真顔でいられる人間の方が少ない。


「うん。ある程度、痛みには耐えられたから」




痛いことをされた。何回も。何回も何回も。

暗い冷たい手術室の中で、淡々と。まるで今の私のように、情など一切無くして。

お金がなかったのか麻酔も無しで何度も切られて。


なんの研究をしていたのかも分からない。ただ、私は外の人だったから。たまたま拾われて、そこに居ただけ。

基本は、手術台の上にしか居れない。でも、たまに『掃除だ』と言って廊下を歩くことも出来た。

……そこには、同じような手術や実験を繰り返される仲間しかいなかったけど。


そうして"私"が完成する頃には、何も感じなくなった。



詳しくは思い出せなかったし、思い出したくなかった。



「連れ出してくれた人がいたから、良かったんだけど。その人がいなかったら、私はきっと全身ロボットになってたよ」

目的も、意図も知らないけど。

軽減できる、とはいえ痛いのは嫌だったから、抵抗した。

だから、嫌いになった。


「……じゃあ、その人は命の恩人だね」

星煌が答える、傷を付けないよう、寄り添うように。

「はい。大切な、人なんです」


それは紛れもない、"私"の心(・)か(・)ら(・)の(・)、気持ちだった。



研究室が襲われた。

まあ、そうだろう。こんな極悪非道な実験、よく今までバレなかったものだ。


乱射される銃。抵抗する研究員。踏みにじられる被害者。

このまま私も死ぬのだと、思っていた。



だが、そうはならなかった。

九死に一生だ。人の目をくぐり抜け、私を、救いに来てくれた人がいた。

連れ出された、希望を見出した。優しく抱いてくれたその姿に、震えた。

右目から、痛み以外での涙が流れたのは初めてだった。


「学校にも、連れていってくれたんです。でも、周りは私を『気味悪い』と呼んで、それが嫌で、結局辞めちゃった」


まぁ、そんな本格的なイジメでは無い。

なにかする訳でもない。ただ、影でコソコソ。誰も近付かず、ただ逃げる。

先生も気付かなかった。傍から見れば、ただの一匹狼だったから。


俯いてしまう。星煌の顔を見るのが嫌だった。

一方的にこんな話をしたのは、嫌われたかったから。優しくされて、びっくりしたから。

『きもちわるい』そう、だから、こっちに寄り添って欲しくなかった。




でも、相手はそんなこと気にしなかった。なんでもないような口振りで言う。

「気にする人いるんだ。何がある訳でもないのに。世界は広いね」

「今恩人さんのこと話してる時、顔。すっごく、嬉しそうだったよ」


「え……」

顔を上げる、そこには、その時の私の顔を写したように、笑顔で、目を細める星煌が居た。


「ほら! その顔、ロボットなんかじゃできないよ」


うんうん、と顔を動かす。それは、そうかもしれなかったけど、でも……


「今の話聞かされて、嫌じゃないの?」

「この顔が、機械が、嫌いじゃないの?」


みんなそうだった。

恩人さんとその██以外は、みんな顔を顰めた。嫌った、遠ざかった。置いていった。


いつも、その背を見てた。



「うん、気にしない。顔なんて、ただのパーツじゃん。むしろ、私中身で人を判断するから。江汐の事、もっと知れて良かったよ」


嘘だ。そんなこと、そんなこと……、


「……じゃあ、中身が、世界のようにコロコロ景色を変えたら、どうです?」

「"私"が、次の日には違う"私"になってて……」

反論する。言い訳をして、して……、


「それは、そういう人じゃん。

私だって、気分によって態度違うし」

「形が変わっても、全部を好きになって。

結局は一緒にいちゃうんだよね」


……


「そういう、ものなの?」


都合のいい、返事を期待する。

嫌われたかった心は、いつの間にか同調を望んでいて。


「うん! そういうもの」


彼女は、本当に、気にして無さそうに笑いかけた。

その笑顔は、少し下手くそで。

恩人の、██を思い出した。


全部が即答で、本心で、優しいもの。

彼女はきっと、そういう人なんだ。


「ありがとう」


今度は、正面を向いて、顔を見て。


「"私"は、きっとそう感じてる」


それが、どんな感情かは、わからなかった。昔なら、理解できたと思う。


でも、相手は、そうである事を願うように

「ありがとう。私も、同じこと思ってるよ」

そう、言葉をかけてくれた。


感情は、半分薄れたけど。

感情という情報は知ってる。だから、述べる。

それに適した言葉を、感想を。




きっと、次会うときは出来ない。

私たちは…………。



side 星煌


( ……まあ、結局私が勝手にそう思っててただけなんだよね )

嬉しそうな江汐の顔を見て、私は一安心した。相手の機嫌を損ねないことが、初対面において最も重要なことだ。



まあ元気になってくれて何よりだと、そんな会話に浸っていたら、の時。

ブーブーと、スマホから通知が来る。

「『穴が来た。お前もはやくこい』」


「あごめん! 結局、道はわかるんだよね!?」

「連絡があって、私帰らなきゃ!!」

慌てて席を立つ。そういえば、穴とかあったわ。

て、いうか。


結局水飲んでないじゃん!



「うん。ありがとうね、話聞いてくれて」

でも相手は、そんなことは気にしていない。


「全然。次会うときは、ハイタッチができるくらい、仲良くなれた気がするよ」

「ふふ、今の言葉、忘れないでちょうたい」


「もちろん!」

そんな冗談を言い合えるほど、にはね。

鞄を背負い、スマホをポケットに入れる。

靴を整えて、ズボンに付いた木屑を払う。

「またね、江汐!」

そう、声をかけた。もちろん、笑顔で。

遅刻しないように、走り出す。


「えぇ、元気で」

遠くなるそのシルエットに、手を振る。

すぐ前を向いてしまったから、振り返してくれたかは分からないけど。


そして私は後悔する。

一つ、

江汐と連絡先でも交換すればよかったこと。そうしたら、偶然に期待しなくてもまた会える。


二つ、

ロボットならきっと私の道がわかるはず。

なら迷子の私を案内して貰えばよかった!!!!




――数十分後 午後 14 : 00


「まだ、間に合いますか!?」

駆け込みアウトする。見ればちょうど残りの一匹を駆除し終えたところで、どこからどう見ても遅刻だった。


「わかるだろ?遅刻だ、バカ」

走りの疲れでゲホゲホ息を荒らげてる私に情けをかけず、追い打ちのデコピンをかましてくる。


「諒はこう言ってるけど、心配してたからね! 悪い人に捕まってたらどうしよう〜って!」

「あ!!! もちろん、私も!」

「んな事言ってないだろ……」

心は心配してくれている!優しい!

……血の着いた服でベッタリしてくる。まあ、そろそろ衣替えの季節だから。長袖とはお別れだから、別にいいか……


いや、むしろ生きて帰ってきたことを褒めて欲しい。

言い訳を始める。心の中で。

自宅の登録もしてないマップと睨めっこして、ついでに穴の場所まで見つけて自力で来たんだ。

遅刻でマイナス50点でも合計1000点は固く取れるだろ。


「……写真、取れなかったな……」

帰り道、そう嘆く。

照井さんに写真を任せたが、撮り終えた際に間違ってデータを消してしまった、らしい。


――夜 23 : 00

自室にて



今日はとても色々あって、疲れた。

帰宅後のシャワーは格別で、夜ご飯もするする入った。

歯磨きを終えた歯はミントの味がして、夜ご飯はもう記憶しか残ってないが。


残念がりながら布団に横になる。まぶたが重い。すぐにでも眠れそうだ。


みんなに江汐のことを話したら、『お喋りが原因で遅刻か』と怒られた。

心以外。

なんでか知らないが、仲良くするのは"いいこと"だ!!って、褒められたけど。


……目を閉じて、記憶を思い出す。

そういえば、あの子は『観測』で見た子じゃなかったな。

その画。森は確かに一致していたが、その他が全く違った空も曇りだし。

江汐は、黒髪とは真逆の白髪だった。

あぁ、でも髪の長さは似てるかも。


(もう一回観測したら、前のと同時間の観測できるかな……)


…………いやめんどくさいな。

こういうのって、なんの代償があるか分からないから、今日はやめておこう。


ゴロン、と毛布を被り横になる。

考察を言い訳に、すぐに深い眠りについた。





side 星煌


うん、賢明な判断だ。

「まあ、何がある訳でもないんだけど」

なんてことを言いながら『観測』を終える。


私には結果(それ)が見えないから、あんまり使いすぎてもこっちが合わせれなくなって困っちゃうんだ。

要点を一つずつ、机に貼られた付箋にメモする。


あぁそうだ。補足もしてあげよう

何故、朝星煌はあんなことをした?

何故、昼にあの子を助けた?


指を空に指しながら答える。


正義感に駆られたわけではない。単なる善の精神?いや。そんな大層なものではない。


「そ(・)う(・)い(・)う(・)気(・)分(・)だ(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)」

それだけだ。拍子抜けした?期待外れ?

そういう人間もいるんだ。


"行動原理" なんてない。いい感じに相手に合わせて、して欲しそうなことをするだけ。

まぁ、相手に気遣いすぎるのも、良くないけど。


そう、ノートにサラサラ書いていたら

コンコン、玄関をノックされる。


「今いいか」


最近知り合った声は、静かな夜によく響く。

まあ、それでも声がよく通る方だけどね。


「うん、鍵開けたからどうぞ」

まあ、開けたのは私じゃないけど。


そうして入ってきた……


ああ、みんなにも分かりやすいようにしてあげる。

"サイドテール"で、"オレンジのインナー"が入った茶髪気味の女。

前髪で隠れた左目は、何かがあったのか?と連想させる。深堀る気はないけど。



「もうそろそろ、やるべきだと思ってな」

「部下が教えてくれたんだ。目標の敵組織と接触した、と」

彼女は中に入る。そして丁寧に話し始める。

「なんだか楽しそうだった。何を話したは知らないが、情報は漏れていないだろう」


そう話終えると同時に、姿勢をそちらに向ける。このチェアは座り心地が良く、立つ気は到底ない。


「引くつもりは、ない?」

問いかける。

それは何十回もした、覚悟について。

相手は答える。


「あぁ、翻(・)す(・)も(・)の(・)。生(・)き(・)残(・)っ(・)た(・)も(・)の(・)として、責務を果たさなければ」


何十回聞いても揺らぎない信念で。



現れている左目は、燃えるような赤だった。





記録 : 記入 星煌

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