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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『その言葉の真■と確かな芸術について』
13/21

Log_12

過去の光に照らされる。


その光、とても美しかった。海を走る電車?空と水面に浮かぶ桜?そんなありふれたものじゃなかった。

何物にも代えがたいそのキラメキは、ぼくの心を全て燃やした。


もしその本質が絶対悪であったとしても、ぼくは何も変わらないと思う。

ただ、そこに過去があった、存在するだけで、僕はまた魅了されてしまうのだろう。


ふと前を向いたら、逆光で何も見えなくなっていた。

過去(ひかり)には戻れない。

わかっていながらも、それを追い求めて、いまもこうやって彷徨っている。


その輝くひかりは禁忌であって、てにしたら次こそ燃えてしまうだろう。

そう、いって。暗いやみを見つめた。

あしはまだうごくのだから、すこしでもあらがわないと。



悪も善も、闇も光も、全ては美しさありきのものだ_│




19__年

当時の時空間調査委員会にて



「穹、こんなところにいたの」

「……どうしたの?叶御(かなみ)

いつまで経っても帰ってこない隣人を心配して、その少女は仕方なく迎えに行った。

森を抜けた公園でスケッチをしていた、メガネをかけた白髪の少年。

それと、迎えに来た少女。

少年のの名前は"照井穹"。

17歳にして最年長。チャームは『偽造』ここの委員長を任されている。

対してこちらの少女は、茶が混じった黒い長髪の、黄色い目をした同い年の子。


「『どうしたの?』じゃないよ!」

「いてっ」

「もうお昼だよ! 早く来ないと、お昼抜きになっちゃうからね!」

彼女__石原 叶御(イシハラ カナミ)のデコピンは中々の一撃だった。

その一撃を喰らったのでお腹いっぱいだよ、と冗談でも言えたから良かったが、そんなユーモアら持ち合わせていないので、大人しく、照井は仕方なくキャンバスを片付けて食事を摂取しに行く。

ここまで来るのに時間がかかるのに、わざわざ迎えに来てくれるのは彼女なりの優しさだろう。彼はそう思うことにした。


ガチャ。そう古びれた小さい校舎の玄関を開けたら、歓迎するかのように中から焼けた魚のいい香りが漂う。

「あ、穹先輩やっと来た」

「照井先輩遅いですよ! も〜」

それと同時に、後輩たちの声が聞こえて来る。その声形はは歓迎より呆れの方が近かった。

「あれ、待っててくれたんだ。先に食べてても良かったのに」

「あんたの為に待っててくれたんだから、ありがとう位言いなさいよ」

「そうだね、ありがとう。2人とも」

照井はそのように言って、靴を脱ぐ。

帰ってくるのが遅くても、ご飯が冷たくなっても、それでも、席に座って待っててくれていた二人。


直前まで読書していたのか、机には本が置いてある。その本の持ち主である少年『山菊 航(やまぎく わたる)』。チャームは『耐久』短い黒髪とは対照的に、まだ顔立ちに幼さが残る16歳の元気な子だ。

読んでいた本は、恐らく子供向けの童話辺りだろう。先日、「頭が良い人は本を読んでいるから買ってくる」と言って、ジャンル問わず本や漫画やらを大量に買ってきていたから。


その隣に座る少しチャラチャラした少女。先程の少年と同い年だ。

名前は『真江坂 加里(まえさか かり)』チャームは『記憶維持』となっている。

カチャカチャ弄っているガラケーにストラップを沢山つけて、ロングの茶髪を巻いている。それだけであり、そこまで派手なメイクをしているというわけではないが、照井目線では十分ギャルと言えるような子だった。


二人は早くしろ 遅いと文句を並べて待っている。文句の内容は至極真っ当なものであり、先輩に呼び捨てができるほど親密な関係というのは、喜ばしいことである。


そうしてリビングのフローリングに足を置く。床に置こうとしたキャンバスをひょいと持ち上げられる。


「食事は揃って食べないと、美味しさがマイナスされちゃいますよ、先輩」

持ち上げたキャンバスを自分の物のように大切に抱えて、彼女は笑いかける。丁寧な言葉使いなのに、その笑顔は年相応のままだった。

唯一玄関まで迎えに来てくれた、同年代と比べたら少し背が高めな女の子。

『華澤 凜々』半年遅れで入ってきた、15歳の少女。

荒野に咲く一輪。その印象 性格ににふさわしく、美しく長い黒髪を、下の方で緩く一つに結っている。


「そうだね。マイナスが積み重なる前に、早く食べちゃおうか」

再び手に渡ってきたキャンバスを立てかけ、今度こそ椅子に座わる。やはり、同じ木製であっても切り株より椅子の方が座り心地は良い。

「まてよ?マイナスがもっと積み重なったらプラスになるのでは……」

「う〜ん残念だけど、それは×じゃなくて+かな。航」

米を扇風機で乾かそうとしているこのおバカにツッコんでくれるのは、もう叶御だけになっていた。

前はもっと、みんな反応していた。だが、それがアクセル全開ではなく平常運転なことに気づいてしまったので、みんな面倒になって(あきらめて)しまって、そのペースに合わせることしか出来ないのだ。


「お水、お持ちしましたよ」

「お!ありがと、りりっち!気が利くね」

でも、その比率こそが美しくもあった。

他人の感情や行動を正確に読み取るのは難しい。だからこそ、それが重なった一種の奇跡。"日常"は、こうして観察してピンで留めるのにはふさわしい芸術だ。


手を合わせる、その当たり前の行為でも、なにか変化が起きること、彼はずっと『未来』に期待して。


「「いただきます」」


食器の音色が響く。


照井を含む五人は、時空間調査委員会……いや、当時はまだ名前が『敵対生物調査委員会』だったな。


緊急で招集された。


内容は『怪物退治』だ。

『穴』が発見された当初は、指導者が直々に対処に赴いていたが、指導者曰く


「私よりも優れた人材がいる。それは私が見つけるから問題は無い。それに私も暇じゃない」 との事なので、彼等が派遣された。

"仕方なく"


と、いうのも。

最初は全国に向けて『腕っ節が強いやつ集合!』『高時給!』と明るく発信していたが、その当初はチャームがが発見されてまだ数年しか経っておらず、連盟どころか本人ですらまだ扱いに戸惑っている時期だった。


……つまり、あまりにも人が集まらなさすぎた。

そんな中、指導者が直々に選びぬいたこの5名が招集されたのだ。半強制的に。


断ることもできた。だが、そうはしなかった。

命が懸かったとしても、彼 彼女らは二つ返事でOKをした。

それ相応な理由。命を落とすのに相応しい、魅力的な条件があったのだ。


そんな条件はさておき。

そうして声がかかったのが、最初に紹介したあの四人だった。

今は互いに面倒を見あって仲良くなっているが、最初はなかなか反りが合わなかった。方向性の違いというやつだ。


協調性ゼロで目を離したらいつの間にか消えている穹。

三度の敵より睡眠。前線に一切出ない加里。

怒っていなくてもすぐに手が出る叶御。

そして、そんな中唯一頑張ってた真面目な航。


化け物退治しろと指示されたのはいい。訓練もしてくれて実践も見せてもらった。

だが、(やり方や性格が性にあわない)

……と、全員が思っていた。


戦闘の時だけでも一致団結しないと厳しい状況で、皆単独行動をしていた。

最低限のことをこなせればいい。馴れ合うつもりはない。

だが、そんな彼らが協力し始めるようになったのは、航の怪我からだった。


ある日の、怪物退治にて。


「ちょっと!?大丈夫?!」

「腕を少し切っただけだ。まぁ、少し痛むけど。大丈夫だよ、この程度は」

腕を斬られた航に包帯を持って駆け寄る叶御。

その人形の敵は珍しく、武器を保有していた。

今までは名前も付かないような知性のない敵ばかりだったが、その敵はなんだか違かった。

最終的に撤退させることには成功させたが、少しの損害があった。

もうボロボロになった鉄剣だったが、対象に傷を与えるのには十分な威力だった。右腕から流れる血を見れば一目瞭然だ。


「……」

叶御は無言で止血、消毒……保護を完璧にこなしていく。

「…………あの、包帯多いかもです」

グルグル巻かれていく包帯。彼の少し焼けた肌の上に、網状の白が重なる。


彼 彼女らの"共通点"

どうして、選ばれた?



それは、"絶対的な自信"

あるいは、"チャームを扱う力"


他人と協力し合う?善の精神?そういったものはない。


ただ、()()()()()()()()()()と。

その優から溢れ出る自信。そしてプライド。あるいは、カリスマ性。

ある者は言った。

「私がこの世の生物の中で一番世界について詳しい」

実際、彼女の記憶力は凄まじいものだった。顔も名前も、風景ですら、彼女の目には全て収まってしまう。

またある者は主張する。

「俺より根気のあるやつなんて、中々居ないよ」

彼の頭はお世辞にも頭が良いとは言えない。だが、彼は人一倍探究心が強い。彼は零を一にするんじゃない。一を百に伸ばすのが得意なのだ。



そして、「自称、一番"指導者"にふさわしいとする女」が言う。


「大丈夫だよ、この程度は、ですって?」

キツく包帯を縛る。止血をしすぎて血が止まりそうだ。血管を流れる血が。

「私が監督しているんだから、怪我など許されない」

それは、"他者をまとめあげる力"


「今後、一切の怪我を許さない。事前の作戦会議、そして反省、鍛錬を怠らずに」

叶御は高らかに宣言する。目付きは他人を躾ける時の目だ。

航は『それを待っていた!』と顔に出るほどの笑顔を示し、穹は「おー」と反応する。


加里はあからさまに嫌な顔をする。

「えーめんどくさ……」

『勝手に怪我したのはそっちじゃん……』とぶつくさ言いながらネイルを弄る。

「僕は賛成かな。新しいインスピレーションが湧くかもしれないし。協力も、悪くないかもね」

予想外な意見だった。思わず加里は顔を顰める。

この男、戦闘以外では朝昼夜食全てに顔を出さず、何をしているのかと思ったら美術館に行って、帰ってきたら天井から吊るされているランプに絵を描き始める、トンチンカンなやつだ。

そんな男から"協力"なんて単語が飛び出るのは無いと思っていた三人は少しの驚きとぎこちなさ見せる。


「俺はなるべくそうしたいけど……」

そう言った航先の目線はに加里へ向く。

航だけと言わず、加里を除く全員の熱い目線が集中していた。虫眼鏡を通したら燃え上がりそうな程に。

「この時点で、三対一だよ?」


視線を浴びた者は絶句する。

そして、覚悟を決めて前へ反論していく。

「……まだ一とは決まってないでしょ!?四体零の可能性もあるでしょ!!」

加里は、諦めが早い方だった。


そんなこんなで少なかった会話を重ねるうちに、固まっていた仲を徐々に解していったのだ。


実際、指導者の鑑識眼は素晴らしいものだ。『他者を見据える力』がずば抜けている。

だからあいつらなら協力し合えると、判断したのだろうね。


そんな中。

数ヶ月後に新しく声がかかって入ってきたのが

この子、樺澤 凜々。

真面目で他人に優しい。奉仕精神もあってなんでもやる。

戦闘経験は乏しいなんて言うものの、最初は四人だってそうだった。

末っ子のように可愛がり、後輩として厳しく指導し、仲間となって食事をする。

増えた仲間を成長した彼 彼女ら拒むことはなかった。

むしろ、正義感を携えたヒーロー気分だ。新生した委員会メンバーは秘密裏に敵を打ち倒していった。なんて文を付け加えれば完璧だ。


「ちょっと、野菜食べなさいよ加里」

「え〜レタスなんてドレッシングの味に頼ってるだけの雑魚じゃん」

だらんと頬ずえをついて野菜をフォークで弄る加里。


「俺が食おうか?」

「おっサンキュー。毎回思うけど、航が野菜食えるの意外だよな」

「昔に努力したからな」

思わぬ救世主。まあほぼ毎回こうなのだが。叶御も双方合意の上でなら……と自分を納得させている。


「すご〜い。じゃあ僕のも食べてもらおうかな」

「遠慮しちゃダメだよ〜」と生野菜だけではなく味噌汁に浮かんだ人参すらも分け与えていく穹。

「ちょっと!?勝手にひょいひょい他人の皿に乗せるんじゃない!クルトンだけ残すんじゃないわよアンタ!」

ついに抑えきれなくなった叶御が牙を剥く。


「ふふっ……

凜々ちゃんは、……?」

「わ、私は自分で食べますよ!」

ギギ、と首を曲げこちらを凝視する視線にNOとは言えなくなってしまう。そんな恐怖を植え付けなくとも彼女は自分で食べることを選ぶと思うが。


音が、途切れることを知らない。

みんな、楽しそうだ。

『日常』を目に記しながら穹は思う。


やはり、自然は良いものだ。自分で作ったものではなく、流れが、人が、美しくさせる。


鍛錬で男子以上に模擬戦闘に盛り上がっている叶御と加里。

加里におすすめされたゲームをクリアするまで徹夜をしていた生真面目な凜々と航

一回絵について語ったら「穹ってそんな喋れるんだな」って航に言われたっけ……



そうして進む、普通の、イレギュラーも何も無い日常。

まだ結成して半年程度。あと数年は、このままずっと居られると、全員が思っていた。



そんな日常が壊れたのは、すぐだった。

それは、いつも通りだったはずの、ただの一日の出来事。



「なんか、おかしいよね、こいつら?!」

剣同士が混じって鉄の音を響かせる。

この日は今まで戦ってきた敵より、数も、規模も大きかった。

後衛部隊は弓を構え、前衛は命惜しまず突撃してくる。

既に連盟に支援要請の連絡は送ってあるが、返事は「それまで耐えろ」の一文のみ。


「……耐えるしかないよ」

少しでも油断したら命が危うい状況。

今は二手にわかれ、穹と叶御で前線に出て道を作り、加里と航で残った敵を殲滅、そして戦闘にまだ苦手意識のある凜々をサポートする。


一体一体確実に処理をしていく。押すのではなく、相殺する。以前の状態だったら連携なんか出来ずにやられていたと思えば、彼女のなした功績は大きいものだ。


体力も限界に近い。今はなんとか耐えられてるとはいえ、離れている三人も安全かどうか分からない。


そんな中、明らかに『知性』を持った敵が叶御に急接近する。

それは、依然航に傷を遺した、人型の敵だった。

以前とは違い、新品になった鉄の剣を大きく振るう。間一髪で避けたが、そのひと振りを見るだけで力の差は歴然だと思い知らされる。

右腕を掠め、髪が切れる。


そうしてよろけた足元を、掬われる。

「危ない!かなっ、み……」



指導者は一つだけ、間違えたことをした。いや、見誤っていた。

それは照井の()()()()()()



彼は周りの人間との価値観が少し違った。

もちろん、彼は自然を美しいと感じるし、人間も愛している。

だが、違うのはそこではない。

何にでもは「美」を見出さない。

彼が美しいと感じるのは、あくまでも自然な美しさだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


風が流れる音は好きだが、人が作った音にはそれほど良さを見い出せない。

子供が頑張って作ったポスターも、色使いが下手くそだなと思うだけ。

改善しようと、美術館に何度も足を運んだ。

だが、人が言語化してしまった。価値観をつけてしまった。その当たり前になってしまった、値段をつけてしまった美しさに、反吐が出た。

彼は『人間』という存在が好きなだけで、個としての興味はない。


彼は、"芯が通った根っからの芸術家"なのだ。


彼は助けるのを、足を踏み出すのを"躊躇った"

だって、ここで動いてしまえば、守ってしまえば、彼にとって新しい、"初めての"、『人が死ぬ光景』を見ることが叶わなかったから。


彼女を美しいと、思えるかもしれないから。


「て、照井……」

彼女は助けを欲するようにこちらを見つめる。抑えた腕からは血が滴り落ち、死への恐怖で足が震えている。


でも照井は立ち止まった。

持っていたカメラを起動して、ベストショットを撮ろうとした。



…………


「 … … …… あ 」


剣が静寂を与える。

貫かれる、彼女の心臓。


それは生を止める絶対的な理であり、死そのものであり、もしかしたら……『運命』だったのかもしれない。


血が放物線を描いて吹き出る。手から剣が抜け落ちる。自然と口から血が溢れる。

顔が、絶望に落ちる。


黄金比を描いたそれは、これまでにない一番の、輝きだった。


「は、はは……」

頬がにやけて止まらない。顔が火照る。シャッターを切るのすら忘れそうになった。

もしかしたら、凄くブレてるかもしれない。

怪物は満足したかのように去っていく。この際、その怪物が何処へ行くかなんて、敵が向かってきてるかなんてどうでもよかった。


この溢れて止まらない涙はきっと、感動したから。

こんな死体(作品)、もう二度と見れないかもしれないという悲しみもあるかもしれないけど。


もう言葉を発さない彼女を見て、

「ありがとう」

「素敵な、作品だったよ」

感謝の意を述べた。



……あぁ、もう冷たくなってしまった。

先程の、刺された瞬間のあの躍動感の方が、感動できたかもな。

弱者と強者。自然界においてのヒエラルキーの図として展示をしたい。実にわかりやすい図だ。


もうそれに、興味はない。


評価された後の作品は、飾られるだけ。

飾られる、それこそが芸術家にとっては生き甲斐だ。

だが、生憎この作品は古くなってしまった。古い方が価値を見いだせる?残念。それの観客ももう居ない。存在の意味がそもそもないのだよ。


だから、適当に穴に放り込んだ。まだ閉まっていなかったし、

まぁ、言い訳するのにもちょうど良かったから。

幸い、と言える。叶御を刺した奴が引率をしていたのか、その後敵が攻めてくることはなかった。


殺人罪関与で手が重く動かなくなったとしても、それはそれで彼にとってはまた一つの芸術への道だ。


あの瞬間を思い出す。

持ち上がった口角は、戻すのに中々時間がかかってしまった。



「穹!「先輩!」」

三人が慌てて近寄ってくる。


「良かった……無事で」

「今回の敵は中々に手強かったけど……倒すなんて、そんな実力どこで隠し持ってたんです?」

三人は安心しきった表情でいつのペースへと戻る。だいぶ緊張していたようだ。

「叶御先輩は、また後処理ですか?」

あぁ、叶御が亡くなったなんて、考えてないんだ。

そんな思考回路も、なんだか美しかった。



「もう、帰ってこないんだ」

落ち着いて、話す。直前に人が居なくなったのに、酷く冷静だった。

いや、もしかしたらずっと、冷静だったから…………


「敵にやられて。『助けに行こうとしたけど、間に合わなかったんだ。敵に連れ去られた』」

二人は目を見開く。その顔は失望や唖然よりも絶望に近かった。

唇を震わす。次の言葉は、予想できたけど、少し違かった。



「『嘘だ』」


そんな二人の後ろから飛び出した、まだ幼い声。

言葉が、切り捨てられる。

凜々はナイフをひと振りして、ショルダーに仕舞う。


凜々のチャームは、『看破』だ。

対象の『嘘』を見抜く。

一言で表すなら、照井の『偽造』とは相性が最悪だった。


「その言葉には、嘘が含まれていますよね。

残念ながら、叶御先輩が亡くなったのは事実。でも、あなた助けようとしませんでしたよね」


……

照井と凜々は冷静だ。頭を回転させて、相手をどう言いくるめるか、どうやって真実を吐き出させるかを考えている。


だが、周りの仲間は冷静になんてなれない。

「どうして、「なんで、なんで見殺しにたんだ」」

真っ先に飛び込んできたのは、今まで聞いたことがなかった航の怒り声。

凜々のチャームの事はみんな知っている。そして、凜々がそんな嘘をつく性格ではないということも。

拳を震わせて、今にも掴みかかってきそうな顔でこちらを睨む。

対して今まで強気だった加里は体を震わせて、理解できないという顔で、諦めがいい癖にこちらに縋ってくる。


「……見殺しじゃないよ。『見ることすら叶わなかったからね』」

「『それも嘘だな』」

また、ひと振り。中々に手強い相手だ。


だが、今まで嘘をついてきた年数が違う。少なくとも、視野の広さでいえば彼の方が一枚上手だった。

「……彼女が看破したのは、『俺が見殺しにした』という部分のみ」

「"叶御が連れ去られた"という件に関しては、彼女は『嘘だ』と言っていない」


「っ――!!」

その発言に嘘はない。それもそのはずだ。彼女が先ほどした発言は、『助けようとしなかった』という一文のみ。

焦りから生じた、少しのミスだった。

故に、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ほら、ここの穴だよ」

「探しに行きたきゃ、行けばいいよ」

照井の嘘に世界が肯定するかのように、穴はまだ閉じられていなかった。


「待ってください!叶御先輩はもう――」

凜々が叫ぼうと無駄だった。二人には、先程の発言がほとんど耳に入っていないのだろう。


一人は、その者を助けるために。

もう一人は、あるはずもない希望に縋って。

二人はどこに繋がってるかも分からない場所へ迷わず飛び込んだ。



照井穹の勝ちだ。凜々には見破られてしまうが、二人の目撃者を隠蔽することができた。

しばらく、風の音が響く。その音に耳を澄ませ、照井は上機嫌に笑みを浮かべる。

良いインスピレーションが湧いたのか、空中に指を動かして、作品のイメージをしている。


そして、数分後。

穴が閉じると同時に、凜々が背を向け、足が動き出す。

「凜々ちゃんは、行かなかったね、なんで?」

「……行くわけ、ないだろ」

それは、彼女が変わった合図。

先程まで冷静だった凜々も、手を震わせた。それが怒りであるか悲しみであるのか、照井には理解できなかった。

可愛らしかった顔には血がベッタリと付き、いつも笑っていたその笑顔は眉間に寄った皺と憎しみに変わって。


「なんで、助けなかったんですか」

「……その芸術を、一目観たかったからだよ」

「……」


凜々はその回答を飲み込む。

そして、先程問に答えを返す。

「ここに残って、お前を殺す役目があるからな」

こちらに睨みつけられたその目は腫れていた。流しきってしまった涙は、顔に傷を残して。


「はは、ありがとう」


歩む方向は逆だ。

彼女は暗い森の方向に行ってしまったが、きっとその道は光そのものだろう。

対して私は、ここから離れようとしない。


彼女の、顔を見て。

怒りを溢れさせたその表情は、火があった。

燃え上がるその感情。

例えるなら、マンホールの上だけに存在しない雪かのような。

それを見て、彼女のことを初めて、"美しい"だなんて思ってしまった。


彼女は血にまみれた、お揃いのシュシュを手に取って、去っていった。


たしかに、"美しい"とは感じた。

だが、あぁ。やっぱり"理解"はできない。

どうして、そんな悲しい目をするのだろう。

どうして、そんな怖い顔でこちらを睨みつけるのだろう。


『美しい』とは?

それは、人によって違う。

僕は、自然を美しいと思う。

人工で作った美しさが自然現象に勝ることはなく、何もせずただ流れていく風、押し出される海。それこそが美しいと。

でも、認識を改められた。

人が、人間が、あれほど美しい芸術が作れるのだ、と。


あの時見た、あの、目を、脳を焦がすような身体、目線、血飛沫。


体を貫かれたその瞬間に写し出された、苦痛に満ちたあの、顔を!


あれこそが、『美しい』

『生』の真髄だ、と。


『自然』とは?

我々が関与しないことによって成立する、芸術の祖であり、完全体。


『生きる』ことは美しい

そうだ

『生命』それは全てにおいて美しく、尊い存在だ

例えそれが『朽ちる』時であっても。




照井が向かった先は、自宅と呼ぶにもふさわしかった拠点。

本やゲーム機が乱雑に置かれ、昨日の夕飯のあまりも冷蔵庫に入ったまま。ここは何一つ変わってない、日常だった。


彼にはキャンバスがないと、溢れるこの気持ちを吐き出すことが、出来ないから。


壁に掛かったままの新品のキャンバスを手に取り、また事故現場に向かう。

あの時の再現は、きっとできない。

だから、彼がもっと美しさを感じるには、それを超えるしかないのだ。


切り株に座り、その日に思いを馳せる。


その日から、次のメンバーが入ることが無くなったその委員会は、名前が『時空間調査委員会』に。

所属している人間は、顧問の照井空一人だけとなった。



記録:穹 記入:星煌

Q.スローガンって何?

A.チャーム発動に必要な台詞。定型文ではなく、その人の気分次第で内容は変えられる。

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