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無題/日記  作者: 岸 星煌
一章『その言葉の真■と確かな芸術について』
12/21

Log_11

蛹を脱ぐ。


過去の私は、誰にも知られていない。

新しくなった自分に、周りの人間は気付いていない。


ずっと、ずっと冬眠していたから。

過去の人は、目覚めた時にはみんないなくなっていたから、記憶しているのは、私だけだった。

私だけ。

復讐をする権利がある。


春の陽気が通り過ぎる。

最後はいつも、からになった自分と、寒さだけが残る。



完全変態_│



――朝 10:05頃 裏手にて


「ほら、封鎖されてるだろ?」

「……ほんとだ」

「やっぱり、別の場所じゃない?私も、こんなところ来たことないよ……」

心と諒、三人で昨日の公園まで歩いて来た。

そこにはやはり昨日の記憶の通りボロボロの公園があった、が。

諒が言った通り、確かに黄色いテープでガッチリ立ち入り禁止にされていて、誰にも入られないよう厳重になっている。

昨日見たはずのブランコも壊れていて、そこには最初から何も無かったように見える。


「う〜ん、でも『観測』でも確かにここだったんだよな……」

「あ、何?昨日の話ってお前のチャームで見たやつも含んでたの?」

「あぁ、それじゃないの。ごめん言ってなかったか

照井さんとはまた別のやつ……一人でコソ練してた時に観たの」

昨日起きた出来事。

彼女は確かに不思議な霊と友達になり、背後霊を手に入れた。今朝も起きたら枕元に居た。

「特に何も無かったよ……でも、記憶と同じ景色が、確かに来たんだよね」

彼女が観た未来と同じ場所で、未来の予定は調和された。

何一つ間違えていない。しっかりと正しいルートを辿っている。

「まぁ、でも『観測』の性能は発揮されたって事でしょ!! ちゃんとできてるじゃん!」

そう言って心は自分がしたかのように誇り始める。

星煌の背中をバシバシ叩いて、笑顔を見せる。少々横暴だが、それは友特有のじゃれ合いだから、気にする必要も無い。


「まぁ、そうだな。細かい所はまだ分からないが、未来視なんざできるなら上等だろ」

そんな二人を横目に、腕を組んでしっかりと考える諒。

( 私の能力、ちゃんと見られてた。格付けされてた?、怖…… )

星煌は内心怯えながらそれでも「わーい」と喜ぶ。

マジで使えないゴミみたいな才能もあるのかな、と少し気になったが、それはその人達に可哀想だ、と星煌は己の好奇心を否定する。


「そんなことより! ほら、早く行こうよ〜」

用事を済まし終わった途端、心が我先にと手招きをして先頭に立っていた。


そう、今日は街の方に買い物する予定だ。

先日、心に誘われた星煌はもちろんやることなど無いので二つ返事でOKを出した。

……珍しく、諒もその誘いに乗った。これは心も『いっつも断られるのに!!』と驚くほどである。

いつもは半分家に引きこもっているのに。理由は本人しか知り得ないが、まあそういう気分だったのだろう。

二人は手招きの通り後に着いていく。


肝心の買い物に行く理由。

まず一つは、星煌の夏服がない事。最初こちらの世界に来る時……その前に家まで戻って生活用品を全てカバンに詰め込んだのだが、流石に全ては入れられなかった、ので買う。ちょっとしたオシャレも込めて。


二つ目は、連盟の方も活動拠点(もとい仕事場)に住むなんて想定してなかったのか、生活必需品があまりに少なすぎたため。

過去のメンバーと思わしき人物が持ち込んできた古い用品しかないため、先生のへそくりを借りて、ついでに新しくするのだ。


普通一話目にやることを、今更ながら星煌達は行う。そんなのなくても何とかなってはいたが、星煌が来たことによって変わる権利を得た。


過去のものになった公園を後に、三人は目的地に向かう。

「あそこ、新しくカフェできたんだよ?お昼に食べよ!」

「いいね、カフェで食事だなんて、オシャレだ。値段は?」

「星煌お前、すぐそれ聞くよな……」

特別なことは何もしていないのに、すっかり友達になってしまった三人。


出会ってもう数十日。

だが、星煌のよそよそしい態度はいつの間にかふてぶてしくなって。自分の意見も増えた。

心はいっつも出かけていて、家にいなかった。でも最近は、ずっと家にいることもある。みんなと、お喋りをして。

諒は寡黙で表情を変えなかったのに。

最近は二人の面倒を焼いて、雑な態度も多少改善されている。シュッとした目も、少し柔らかくなることが増えた。


そんなに仲が良かったのか、と疑問に思うのは無駄だ。

彼らにとって友とは、自然にできるものだ。

「友達になってください」なんて言葉の儀式はいらない。

それに、毎日顔を見合せて話をしているんだ。友達じゃない方が不自然だろう?


――ショッピングモール 10:30


「凄い。このモール、結構デカイね」

「でしょ!? ここら辺田舎だから立地はあるんだ!」

「建てたのはお前じゃないだろ。何誇らしげにしてるんだ」

三人は様々なリアクションをして店内へと足を踏み入れる。星煌は詳しくないため二人の後をついて行く形になっているが、会話はちゃんと出来ていた。

心がボケ、諒がツッコム。星煌はそんなボケという火に油を注いだり注がなかったり。

実にいいバランスだ。奇数なことを除けば。



そうして三人はふらふらと色んな所にに寄りながら任務を遂行する。



「みてみて、あの服かわいい〜!」

「……いいんじゃないか?」

「うわ、見てよ。あれオシャレじゃない?」

星煌がジャケットを指さす。

「……なんで俺に聞くんだよ。お前らで話せ」

諒は自分から二人を引き離す。意地悪な子達はその対応にキャッキャと笑った。


「どれがいい?色」

私陶器のやつと言いながら、星煌が色とりどりなコップを指さす。

食器はあまり使わないが、少しはあってもいいだろう。

「う〜ん……やっぱり、個性的な方が分かりやすいよね!」

心は謎のマスコットキャラクターが描かれたプラスチックのコップを手に取ってカゴに入れる。

「……これでいい」

諒は一番最初に目に付いた、シンプルで透明なガラスのコップを手に取ってそのままレジに向かった。


「見て、楽器店だよ。30万位のトランペットでも買う?」

「え!! 私フルートやりたい!!」

「貴重な資金をなんだと思ってるんだ……」

そんなに金があると思うなよ、冗談を言った星煌は諒に小突かれた。



「……今度から、私が作るから」

一階のスーパー。比較的安売りされている野菜を手に取ってカートを進める。

「毎日外食だなんて、金はいいけど健康が心配だよ」

星煌は思う。私が居た世界より比較的物価が安いな、と。

今日は、2025年5月29日。

ガソリンの値段は120円代で、消費税も5%。

とても生きやすいと思う。

この世界には特殊な才能を持った人がいる。という点を除けば、不自然な程、元の世界と何ら変わりのないただの日本だった。

一つ12円のもやしをカゴに入れながら、星煌はこの世界の"日常"生活の生きやすさを噛み締めた。


「え! 作ってくれるの!? 私カレー食べたい!!」

「いいよ。簡単なものだったら、作れるからさ。毎日三食はムリかもだけど」

カレーの具に何を入れたいか話している前の二人を見ながら諒は思う。

( これじゃ、まるで家族だな )

ただの仕事仲間から、ただの友達に。その次は、一緒に暮らす家族に……

……


「カレーのお肉は、ひき肉がいちばん美味しいからね」

喋らない諒を気にしたのか、星煌はいつの間にかこちらに目線を合わせている。

( 少し前までは、あんなに縮こまってた癖に )

すっかり素になった、その目に。少し眩しくなって、笑ってしまった。

「俺はなんでもいいから」と、新しくなった日常に言葉を返した。


―― 昼 12:45


「これ、すっごい美味しい!」

横文字の並んだ外国の料理を食べながら心は言う。

無事に用事を終えた三人は、昼食に先程話していたカフェに来た。

カフェでの食事なので、お世辞にも値段はリーズナブルとは言えないが、歩き回ったあとの手軽に食べられるご飯としては最適だった。

「ほんと?私も美味しいと思う。良かったよ」

「最近は同じものしか食ってなかったからな、新鮮だ」

「……まぁ、いつも宅配で飯を食ってるのは大分凄いからね」

三人は食事の手を止めることなく、ちゃんと会話もしながら談笑を続ける。

三人が歩き回って手にした戦利品は、

服と、タオルとぬいぐるみと……日用品に趣味のもの。あと、電子レンジ。

あぁ、もちろん、持つのは諒だ。

貴重な男手が一人しかいないので、大体の荷物は彼に任せている。

心もいつも大剣を振り回しているので筋力はあるが、『紙の箱はオシャレじゃない!』と、買った服の紙袋だけを持っている。大量に。


あぁ、あと忘れてはいけないのが一つ。

「リボン、サイズが合って良かった」

三人のシャツに新しく巻き付かれていたアクセサリー。

首周りに細いリボンが手結びで巻かれている。心はかわいくリボンにし、星煌は適当に固結び。

諒の胸元にはスコットタイ。

星煌からの贈り物。彼女の残っていたバイト代を使って買ったものだ。


『出会って数十日の仲間に贈り物をするのは変では?』

と思うかもしれないが、彼女にとって贈り物とは、"仲良くなった後にする感謝の気持ち"ではなく、"これから仲良くしてください"。と、スタートラインを踏み出すためのものだ。

要は物で釣っている、と考えてもらっていい。


「うん! どっか飛び出したと思ったら、『はいこれ』って急に渡された時はびっくりしたけどね!」

それでも貰った人間は喜んでいるのだから、それでいい。

何度も写真を撮ってsnsに乗せている。それほど"相手が物をくれるほどの関係になった"嬉しかったのか、はたまた"物をくれた"という事実が嬉しかったのか。

どちらかは分からないし詮索する余地もないと星煌は考えていたが、まあ大抵は後者だろう、と「急いでたからね、仕方ないよ」水を飲み干した。


諒は貰ったタイをちらっと見たと思ったらすぐに目線を戻したり、位置が少しズレたら元の位置に素早く戻して……嬉しいのか嬉しくないのか、よく分からない行動を繰り返していた。

でも、貰った時に「ありがとう」と、彼は言っていた。それだけの言葉で、星煌は贈ってよかった、と思えるのだ。


満たされた腹、それとすっかり空になった食器を後に、彼等は帰路に足を踏み入れた。

先生のお土産に買った、黒猫のマグカップにお代を払いながら。



そして、エスカレーターと一緒に下って一階に着いた時のことだ。


「お嬢さん」

声は低いが、女の人だ。

話しかけられた人。星煌は足を止めて振り返ったあとに『私?』を意味するジェスチャーで自分を指さす。

前を歩いていた二人も星煌が立ち止まった事に気付いたのか、こちらを振り返る。

声とは対照的に背は高かった。そうは思って無かった星煌は少し顔を上げて目線を合わせた。その先には、



私は、私達はこの人を知っている。



そこには、彼女の『観測』で見えたひと。

先生と一緒だった、サイドテールの女の人だ。


「少し、いいかい?道案内を頼みたくてね」

揺れる髪飾りと共に、柔らかい声で依頼内容を話す依頼人。

人が沢山いる中で、選ばれた星煌。周りには彼女より目立って話しかけやすそうな人なんて沢山いるのに、なぜだか彼女が選ばれた。


偶然か、運命か?

それとも、そういう未来だったのか。



「私も詳しくはないんですが、大丈夫ですか?」

特に変わったところがない。安全だと判断した星煌はその誘いに乗っかる。それに、困っているなら助けないといけないのは、人間に授けられた唯一の優しさだから。


「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、助かるよ

ここら辺に来るのは久しぶりで、改装工事があったなんて知らなかった」

そう言って彼女は取り出したパンフレットで店名を指さす。場所は、本屋だった。

「昔は、もっと小さいモールだったのに。いつの間にか、店が増えててね」

「へぇ、そうなんですね。たしかに、今はたくさんのお店が入ってますし、分かんなくなっちゃいますね」


裏に書かれた地図からその場所を探す。

「あ、ここですよ」

指をさした場所、三階の小さな本屋。

「三階の……こっちから見て、このエスカレーターを登ったら右側を真っ直ぐ歩けば着くはずです、着いていきましょうか?」

「いや、不要だ。助かったよ、ありがとう」

そう言って彼女はポケットにパンフレットを折りたたんで入れ、星煌に感謝を述べた。


「あぁ、自己紹介を忘れていたね」

また、いずれ会う人物。

「私の名前は"樺澤 凜々(からさわ りり)"だ。」


そのことを、彼女は知らないはず。

いや、もしかしたらこの時点で、また会う算段を立てていたのかもしれない。


「道案内をどうもありがとう。"岸 星煌"」

手を振る暇もなく、そう言って彼女は去ってゆく。

背の高いその姿でも人混みには勝てず、すぐにわからなくなってしまった。


一つおかしな点がある。

「あいつ、なんで星煌の名前知ってるんだ?」

すぐ隣に居た諒は疑問に思う。

丁寧に自己紹介までされたら、流石にわかる。

岸 星煌 その名の入手ルートが不明だった。

(知り合いから聞いた?いや、ここら辺に来たのは久しぶりと言っていたな……なら、どうやって?

そういう『チャーム』だったら、俺らの名前もわかるはず。隣で付き添っていたから、わざわざ星煌の名前だけ呼ぶなんてことはないはず。)

何らかの意図があるのか、諒考え込む。

そもそも星煌はまだここに来て日がそこまで経っていないし、周りと交流がそこまである訳でもない。仮に誰かが名前を漏らしたとしても、この姿では分からないはず……


「確かに。有名人なのかな?私」

当の本人は真剣に考えてくれている諒の心情なんて知るはずもない。なんなら全く気にして無さそうだ。

「知らぬ間に暗躍してた!?」

その隣の人間も気付いてなかったのか、変な考察まで立てている。

「バレちゃったか〜」なんてボケ散らかしている二人、今度は諒がその後に着いて行く形になった。


( 観測した時は、先生もいた )

( いつかまた、会うんだな )

先程の記憶より『観測』で見た情報の方が鮮明に思い出せる。

ズームインはできないが、それでも、そっちの方が、脳に残ったのだ。


三人は再び歩き出す。

些細なトラブルなんて気にせず思い出さず

今度こそ、帰路に着いた。





「今日、お前に会ったぞ」

「私に……って、あぁアレ?」

「あぁ。お前とそっくりだと聞いたから、どんなひねくれたやつなんだと思ったら、普通の子だったよ」

「そりゃぁ、上っ面だけ見たら誰だってそう思うわな」

日記に細工していた手を止める。

彼女の方向音痴は、どうしたって治ることはないらしい。

「で、どうすんの?」

「あぁ、すぐにでも始められるなら、そうしたい」

「わかった。じゃあ準備が出来たら来てくれ。明日でもいいぞ?いつでも受け付けてるからな」


サイドテールが揺れた。

その顔は、この日を待っていたと言わんばかりの、復讐に燃えた

笑みだった。


記録 記入: 星煌

Q みんなの使用武器は?

A 心 なんかすんげーデケー大剣(錆びついてる)

諒 なんか銃とかナイフとか剣とか盾とか

照井さん 知らん 戦ってる姿を見たことない

私 あとトンカチとか投げたりする

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