第9話 イーストロックの街の冒険者ギルド
私ことアイネと、教会で新しい名前をもらった王女様のホイップの二人で、冒険者ギルドへとやって来た。
さあ、ここから私たちの新しい冒険が始まるよ。前のパーティーでは追放されちゃって泣いちゃったけれど、今回はそうはならないように頑張るんるん。
石造りのおしゃれな宿みたいな建物に入って行く。ここはイーストロックの街の冒険者ギルドだ。
中に入ると意外にも清潔な香りがふわっと広がった気がした。ここ、掃除が行き届いているね。清潔感あふれる内装も心地が良い。ここは素敵な冒険者ギルドだなって思った。
冒険者ギルドって街によってはスタッフさんも冒険者さんも男性ばっかりで、いっぱい汚れていたり、酒瓶がそのへんに転がりまくっていたりとか、そういう近づきがたいところもあるんだよね。そういうところに比べたら、ここはもの凄く良い環境を作れていると思う。
私とホイップは受付の女性のところへと歩いて行った。受付さんは褐色肌で髪の毛の量が凄く多い感じの人だった。あとやたらニコニコしていて人なつっこい印象かな。
私がその受付さんに声をかける。
「こんにちは。あのー、私たち、王都の冒険者ギルドの紹介でやってきたんですけど」
「こんにちはー。わあ、王都からいらしたんですねー。大歓迎ですよー。うちは今すっごく人手不足なものでー」
見た目の年齢は25歳くらいだけど、私よりも幼い感じのしゃべり方をする女性だった。
「これ、紹介状です」
「お預かり致しますー。ギルドマスターに見てもらいますので、空いているお席でお待ちくださいー」
「あ、それ、ギルドマスター宛ではなくて、受付のメリッサ・ザッハトルテさんっていう人に宛てられた紹介状です」
「え? 私ですかー?」
「あなたがメリッサさんなんですか?」
受付さんが「はいー。私がメリッサですー」と返事をしながら紹介状の裏面を確認した。
「あらあらー、同期の子からのお手紙だったんですねー。拝見させて頂きますねー」
メリッサさんがちょっとうきうきした表情で紹介状の封を開ける。そして中に入っていた手紙をさっそく読み始めた。
けっこうな長文だったようで、しばらく待った後――。メリッサさんは真面目な顔を私たちに見せていた。
「なるほどー……。複雑なご事情があるお二人だったんですねー。でも、大丈夫ですよー。安心してくださいー。この街の冒険者ギルドはあなたたちを温かく迎えますー。ようこそ、イーストロックの街の冒険者ギルドへー。Fランクからのスタートになりますけど、一緒に頑張っていきましょうねー」
ああ、良かった。王都の受付さんが紹介してくれただけあって、メリッサさんはとても良い人のようだった。
メリッサさんは紹介状の内容をギルドマスターにも読んでもらって、その後すぐに紹介状を焼却処分しておいてくれるそうだ。それなら外部に情報は何も漏れないだろうね。少し安心した。
メリッサさんが私たちに関する事務手続きをしてくれる。私については活動する街の変更手続きを、ホイップに関しては完全に新規登録だった。ホイップは名前を変える前まではBランクの冒険者だったんだけどね。名前を変えて別人としての人生を歩むんだからしょうがないよね。ホイップはFランクからまた頑張るわって言っていた。
でも、メリッサさんはにっこりとして私たちを安心させてくれた。
「大丈夫ですよー。アイネちゃんもホイップちゃんも実力と実績がありますからー、またすぐに高ランクにいけると思いますよー」
そうでありたいなって思う。Fランク冒険者だと受けられる仕事に限りがあるからね。どうしても収入の面でしんどいことになってしまうし。
「はい、以上で事務手続きは終了ですー。他には何かありますかー? あ、明日のお仕事をとっておきますー? うちは人手不足なので、お昼を過ぎても良さそうなお仕事がたくさん残ってるんですよー」
「お仕事、ほしいです。ぜひ、良いのがあれば」
「わっ、やる気満々って感じですねー。とても頼もしいですー」
「実はお金が全然なくて……」
「切実すぎる理由、頂いちゃいましたー。それじゃあ、お金がしっかりと入ってくるお仕事がよさそうですねー。えーと、たとえば、これとかどうですかー?」
メリッサさんが受付のテーブルに笑顔で一枚の紙を置いてくれた。そこにはお仕事の内容が書かれていて、けっこう良い報酬が出るって書かれていた。その内容は「睡眠花を集めよう」だ。Fランクのお仕事だし、危険度の低い採取系のお仕事になってしまうのはしょうがないか。
私はしっかりとお仕事の内容を読ませてもらった。
「んー、お仕事の内容も報酬もいいんですけど……。ホイップ、どうですか?」
私はホイップを見た。ホイップは困ったような表情だった。
「そうね……。このお仕事一つだけだと、二人分の宿代と食事代にはならないわね。他にも私たちにできそうな仕事はないかしら」
「あっ、宿なら大丈夫ですよー。うちのギルドの上の階は冒険者が寝泊まりできますのでー。そちらをご利用くださいー。4階は女性限定なのでお金が貯まるまでは遠慮なく暮らしてくださいー」
「え、でも、お金がかかるのでは?」
メリッサさんがホイップに顔を近づけてきた。他の人に聞かれないようにするためだろう。
「うふふふ、お二人はとっても可愛いらしいので、サービスで無料にしておきますよー。その代わり、いっぱいお仕事をしてくださいねー」
「わあ、嬉しい。ありがとう、本当に助かるわ。メリッサ」
宿代が無料なのは本当に助かる。サービスしてもらった分、しっかりと働いて返そうと思うよ。
これで冒険者ギルドで今日やるべきことは全て終わった。私たちはメリッサさんにお礼を言って、さっそく4階の部屋に行ってみることにした。鍵は受け取り済みだ。
受付を離れて二人で階段の方へと歩いて行く。しかし、階段に着く前に、横から男の人の軽そうな声に呼び止められてしまった。
「よお、可愛いお嬢ちゃんたち、ヒック、新人さんかーい?」
横を向いてみたら、上半身が裸で身体に大きな傷跡がいくつもある男性が立っていた。頑丈そうな長ズボンはところどころ破れていて、ブーツは大きくて重たそうだった。武器は大きな剣を背負っている。短髪で無精髭、暗い目をした男性だ。年齢は30代後半かなぁ。もしかしたら40歳を越えているかもしれない。
うわぁ、酔っ払いに絡まれてしまったようだ。お酒の瓶を目の前で煽り始めたよ。美味しそうにゴクゴク飲んでいる。
ホイップの方がその酔っ払いに近かったので、返事はホイップがした。
「ええ、私たちは新人よ。これからこの冒険者ギルドにお世話になるわ。よろしくね」
「おう、ヒック、よろしくな。このあたりは、ヒック、人手不足の影響か、強いモンスターが増えてるし、活発に行動してたりするから、じゅうぶん気をつけな。ヒック」
「情報、ありがとう。それじゃあ」
「ああ、待て待て。もう一個アドバイスがあるんだよ」
何かしら、とホイップが足を止めた。
「新人潰しがちらほら起きてるらしいんだ。だから、お嬢ちゃんたちも気をつけな。身ぐるみ剥がされたりとか、どこかに連れ去られたりするらしいぜ」
「ご忠告ありがとう。でも平気よ」
「お? その理由は?」
「私たち、強いから」
ホイップが強そうな女のオーラを発した。私も負けじと胸を張って眉をキリッとしてみた。少しは強そうにできただろうか。
酔っ払った男性は「へへへっ」っと笑うと、何やら楽しそうにした。
「いいねえ。若いやつはそれくらい威勢がよくないとな。お嬢ちゃんたちなら大丈夫そうだ。余計な助言、悪かったな。ヒック。そいじゃーな」
ひょいと軽く手をあげて、酔っ払った男性は去って行った。今のはなんだったのだろうか。ただの親切だろうか。それとも酔って絡みにきただけか。何にしてもあっさりと引いたのはよく分からないなって思った。
「ろくな男じゃないわね」
「え、どうしてですか?」
「私とアイネの身体をジロジロと見ていたからよ」
「はあ……。男の人ってみんなそうじゃないですか? 特に酔っ払いなんてみんなそうですよ」
「それもそっか」
ホイップが私の胸やお腹に視線を向ける。そして心配そうな顔をした。
「ねえ、やっぱり違う服を着ない?」
「着たいですけど着ないです……。だってこの服は性能が高すぎますから」
着替えられるのなら着替えたいですよ、そりゃあね。でも、この服の替えになるような服は私には買えないんだ。だから、恥ずかしくても我慢をするしかないんだよね。




