第8話 マーガレットの憂鬱 2
王都からすぐ近くにある天空の塔と呼ばれるダンジョンへとやってきた。
ここは全100階層だそうで、この国で最難関のダンジョンと言われている。もしもここを踏破することができれば300年ぶりのSランク冒険者に認定されるのだそうな。
オーランド様が後ろを歩く私とミモザを振り返った。
「さあ、マーガレット、ミモザ、天空の塔の踏破を目指して頑張るぞ」
オーランド様はやる気に満ちた表情をしていた。
「足手まといだったアイネがいなくなったんだ。僕らはどんどん上の階へと進んでいけるはずだ。さっそく僕らの転移上限である50階層へと転位しよう。そして今日は絶対に僕らの最高記録である53階層を越えるぞ。二人とも準備はできているな」
私は小さく手をあげた。
「あ、あの、ミモザは加入したばかりです。とりあえず今日は連携確認ということで、30階層くらいから始めませんか?」
「マーガレット、きみは何を言っているんだ。連携に慣れるためにも、より厳しい環境に身を置くべきだろう。さあ、転位魔法陣に乗るんだ」
オーランド様は堂々と転位魔法陣に乗ってしまった。続いてミモザが若い女の子らしく可愛く歩いて乗る。最後に私が真っ暗な表情で転位魔法陣に乗っかった。
ふう……。私の人生、今日までかもしれないな……。
私たちは50階層へと転位した。この天空の塔は攻略したことのある階層までは自由に転位ができる。ただし、転位できる先は10階層ごとだから、たとえば52階層とかには転位できなくて、50階層に転位するしかないんだよな。
50階層への転位を終えて、石のブロックで囲まれた場所に出る。もうどこからモンスターに襲われるか分からない。トラップだって待ち構えているだろう。注意して進んで行かないとな。
「僕が先行する。二人とも遅れずについてきてくれ」
返事をするとすぐに、オーランド様が前へ前へと進んで行ってしまった。最初の曲がり角を曲がったところで、もうモンスターと出くわしてしまったぞ。
敵は二本足で立つハリネズミのようなモンスターだった。背がオーランド様よりも高くて迫力があるな。
「よし、いくぞっ!」
オーランド様が剣を抜いて走り出す。ハリネズミの可愛い瞳がギロリと鋭いものに変わった。
「くらえっ、僕の剣をっ! んんん? なんだ。僕の身体が重たいぞ。何か呪いでもかけられたのか?」
たしかにオーランド様の動きはいつもよりも鈍かった。
まあでも、それはそのはずだ。だっていつもなら、戦闘開始のタイミングでアイネが身体能力強化の魔法を無詠唱で山盛りにかけていたんだからな。それがない今は、オーランド様は本来の実力しか出せていない状態だ。そしてオーランド様の本来の実力はあんなものだ。
「うわあああああああああああああっ」
ハリネズミの短い手にパンチをされて、オーランド様は思いきり顔面をぶん殴られていた。情けない感じに尻餅をついてしまう。
オーランド様が隙だらけなのを見ると、ハリネズミは丸まってオーランド様に向かって転がっていった。
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!」
あああっ、オーランド様がハリネズミの針で串刺しになってしまったー。これはもう撤退か……? 撤退するよな。撤退するしかないと思う。しょうがない。撤退しよう。あ、いや、まだだった。
「って、そう簡単にやられるかああああああああああっ! うおりゃあああああああああああっ!」
オーランド様が立ち上がりジャンプをして、硬い靴の裏を使った両足キックでハリネズミを遠くに蹴っ飛ばしていた。
さすがはオーランド様だ。無駄にしぶとい。打たれ強さはかなりのものがあるな。
いや、オーランド様が身につけている籠手や胸当ての性能が良すぎるだけかもしれないか。なにせオーランド様の身につけている鎧や服は、私やミモザの服と同じく超高級品だからな。つまり、良いスキルや加護が山盛りなんだ。そのおかげかたいしたダメージはまだ受けてはいないようだった。
まあしっかりと出血はダバダバしているけどな。そのうち自動で治癒されるだろう。
「くっ、トゲトゲネズミ野郎め。僕に恥をかかせやがって。見てろよ。今、僕のとっておきの必殺技でお前を倒してやるからなっ」
私はミモザを見た。ミモザはぽかーんとした表情で観戦していた。頼りない王子様だなーとか思っているのかもしれないな。
「ミモザ、オーランド様に身体能力強化系の魔法をかけてもらえるか」
「あっ、はいっ、分かりました。それではいきますよ。スイート♪ スイート♪ ミラクルマジック♪ あの者の攻撃力を強化したまえ♪ ぐぐーんとね♪ 攻撃力強化魔法【アタックブースト】!」
や、やたら可愛らしい詠唱だな……。詠唱ってそういうのでいいんだっけ。アイネは無詠唱で魔法を使っていたから私は普通をよく知らなかったな。
ミモザの杖から魔法が発せられ、オーランド様の身体に赤色の光が纏った。しっかりと攻撃力強化ができたようだった。
オーランド様が感動していた。
「おおっ、こ、これが魔法による強化か! アイネからもこれがほしかった!」
いや、山盛りにかけてましたよ。あなたが気がついていなかっただけです。
オーランド様が勝ち誇った態度でハリネズミのモンスターを見ている。
「これならいけるっ。あいつに必ず勝てるぞっ」
オーランド様が剣を大きく振りかぶる。その剣が強い光りを発し始めた。あ、あれは、オーランド様のとっておきの必殺技だ。
「くらえーっ。僕の必殺技、アルティメットスラーーーーーーッシュ!」
ハリネズミのモンスターがカウンターでパンチを入れようとしてくる。しかし、オーランド様の剣技が勝ってハリネズミに大ダメージを与えていた。勝負を決したのはリーチの差だったな。
ハリネズミがたまらず仰向けに倒れる。
しかし、倒しきれなかったようだ。ハリネズミがくるんと丸まってしまった。ああされては倒すのは困難になってしまうな。なにせハリネズミの針はオーランド様の剣よりも長いからだ。つまり、どうやっても剣でボディを斬ることができないわけだ。
「ああっ、ずるいぞっ。ちゃんと僕に無様に倒されろっ!」
「……。……。……」
ハリネズミはどうしようか必死に考えたのだろう。そして――、コロコロコロとどこかへと転がって逃げてしまった。
「ま、待てーっ。ちゃんと決着をつけさせろーっ」
しかし、ハリネズミは戻ってくることはなかった。
やれやれ、という感じで私は肩をすくめるようにしてミモザの方を見た。
「とまあ、こんな感じのパーティーだ。仲良くしてくれたら嬉しい」
「あ、はい。こちらこそです。なんだか愉快な仲間たちって感じですね」
「ははは、かもしれないな」
この後も私たちは50階層の攻略にとても苦戦してしまった。ミモザはしっかりと働いてくれてはいたが、やはりというかアイネには遠く及ばない魔法使いという感じだった。
オーランド様がアイネの優秀さに気がつくのは、果たしていつの頃になるのだろうか。そこに気がついてくれるまでは、きっと冒険に苦労するだろうなぁ。そんなことを考えながら、私は憂鬱な気分で冒険を進めるのだった。




