第7話 マーガレットの憂鬱 1
私の名前はマーガレット・マリトッツォ。貴族の家に生まれた19歳の女子だ。幼少期からお人形遊びやおしゃれよりも、武器を持って戦いごっこをするのが好きな女の子だった。
そんな私の性格は貴族社会では有名だったのかもしれない。王子であるオーランド様が冒険者を始めるときに、真っ先に仲間にならないかと声をかけられたんだよな。
しかし、はあ……。
今、服の仕立て屋に来ていてるんだが、オーランド様の悪い趣味が出ているというかなんというか……。まあ私も被害者なんだが……。
目の前にある姿見に自分の姿を映してみる。
いやぁ、実に意味の分からない格好をさせられていると思う。だって上がビキニだけだぞ。どう考えたって戦う格好じゃない。しかも、私、そんなにバストサイズが大きくないんだ。いったい私はそこらじゅうに何を見せつけているんだよって感じだよな……。こんなのひたすら恥ずかしいだけだ。
しかも、下はピチピチのショートパンツっていうね。脚は綺麗ってよく言ってもらえるけれど、決して自慢なわけじゃない。それにピチピチ過ぎてヒップラインがはっきりと分かってしまうのがな……。もう本当に恥ずかしすぎてたまらない。
正直、着替えたいけれど、服にスキルや加護が山盛りについているから着替えられないんだよな……。
おまけにリボンを2本プレゼントされて、それにもスキルがついているときたもんだ。私、リボンなんて付けたことのない女子だったのに、リボン2本でいったいどんな髪型ができるんだろうって頑張って考えたよ……。その結果、子供っぽいツーサイドアップの髪型をするようになってしまったんだ。普通の女の子はもうこの年齢では卒業しているような髪型の気がする……。本当に恥ずかしい……。
鏡に映る私の顔は銀髪のキリッとしたタイプの女子だ。ツーサイドアップの髪型を見るたびにこれじゃない感が凄い……。とはいえツインテールは幼すぎるし、おさげは似合わないし、ツーサイドアップが一番マシだったんだよな……。
はあーあ、私……、オーランド様について行って本当に大丈夫だったのだろうか。友人のアイネは上手くパーティーから抜けられたよな。
正直、私はオーランド様じゃなくてアイネの方について行きたかった。オーランド様は見抜けなかったようだが、アイネは魔法使いではなくて剣士の素質の方がはるかに強い。あれは相当な達人だぞ。共に全力で戦えたなら向かうところ敵なしだったと思う。オーランド様は実に惜しいことをしたものだと思うよ。
「はあーあ……。やっぱり髪型も服も似合ってないな……」
あまり鏡を見すぎると気が滅入るからやめにする。アイネ、元気にしているかな……。していたらいいな……。
お、新しくパーティーに加入した女性が着替え終わったようだ。
あの女性の名前はミモザ・ムーンガーデンだったか。ミモザはめちゃくちゃ恥ずかしそうにしながら試着室から出てきた。
ちなみに、ミモザは16歳で私より三つ年下だ。オーランド様と比べても一つ年下だな。髪は紫色でサイドテールの髪型をしている。瞳はパッチリ系で人なつっこそうだ。クール系の私とは全然違うタイプだと思う。彼女は王家に仕えるとある貴族から推薦があってパーティーメンバーに迎え入れたそうだ。
「あ、あのあのっ、オーランドさま……。その、これって戦う格好……なんですか?」
ミモザが着ている服はノースリーブのワンピースだ。ギリギリで乳輪が見えないように調整されたとしか思えないほどに、胸元が大胆に露出されている。スカート部分は裾が広がっているうえに丈が短いから、階段を上ればあっさりと下から中身が覗けてしまうと思う。いや、覗けるというかイヤでも丸見えになってしまうという感じだな。正直、戦う格好ではないだろう。
しかし、オーランド様はミモザの姿を見て満足そうにしていた。
「もちろん戦う格好さ」
本当かなぁ……。
「きみが戦うために仕立てた、きみ専用の戦闘服だ。どうだ。動きやすいだろう?」
「動きやすいと言いますか、必要なところに布地が少な過ぎてあまりにも恥ずかし過ぎると言いますか……」
「恥ずかしい? 何を言っているんだ、きみは。今のきみは世界中の誰よりも美しいぞ」
それ、私のときにも言ったし、アイネのときにも言ったな……。オーランド様の中で世界中の誰よりも美しい女性は少なくとも3人目ということになる。
「ミモザ、きみはこれから王子のいるパーティーメンバーになるのだから、ちゃんと華のある格好をしなくてはダメだ」
「おっしゃることはなんとなく分かるのですが……。これでは夜のお店の仕事着という感じにしか見えないような」
「大丈夫さ。ちゃんと魔法使いの格好に見えるから。な、そうだろ。仕立て屋」
初老のおとなしそうな紳士が一瞬戸惑った。
「は、はい、王子様のおっしゃる通りでございます」
彼はオーランド様をおだてることに決めたようだ。仕立て屋のプライドとして、心の中では全然違うことを考えていそうな間があったな。まあそこは追求すまい。
仕立て屋の言葉を聞いてオーランド様は満足そうだった。あれ、なぜか私に視線を向けてくるぞ。
「マーガレット、きみから見たらどうだ?」
「えっ、私?」
急に話を振られるとは思わなかったな。えーと、えーと……、そ、そうだなぁ……。同じ女子としてはミモザの味方をしてあげたいところなんだが……。
ううう……、ミモザがすがってくる仔犬のような眼差しを私に向けてくる。しかし、すまん。私のような貴族の家の者は、こういう無駄なところで王子に逆らうことはできないんだ。
「わ、私も、ミモザはとっても立派な魔法使いに見えますよ。いやー、魔女服が似合っていて凄くうらやましいなー。あはは、あははははっ」
オーランド様は満足そうににっこりした。ふう、ご機嫌は取れたようだな。しかし、ミモザはショックを受けてしまっていた。
「がーん……、マーガレットさーん、おしゃれのセンスがズレてますよーっ」
ああーっ、心に突き刺さるなーっ、その言葉ーっ。
「き、気持ちは分かる。ミモザの気持ちは痛いほどに分かるんだが……。よ、よく見てみろ。私はもっと凄い格好をしているんだぞ。ビキニだ、ビキニ。海に行くわけでもないのにビキニを着ているんだよ……。このビキニの紐が斬られただけでおっぱいがポロリとしてしまうんだぞ。毎日ひやひやなんてものじゃない。それに比べたらミモザの服は可愛い格好だろ。な?」
「そ、その格好、ご趣味だと思っていました……」
あ、急に同情の眼差しを向けてくれるようになった。
「こ、これから私たちは同志だよ。仲良くしような、ミモザ……」
「はい、マーガレットさん……」
「ま、そのうちその格好に慣れるさ。私がそうだったみたいにな……」
慣れるというか、私はいろいろと諦めたって感じだったけれども……。
「マーガレットさんの目に哀愁が漂っています……」
「ミモザもそのうち同じような目になる日が来るさ」
「来ていいんでしょうか、それ……」
私たちが会話をしている間にオーランド様が満足気に支払いを済ませてしまった。相変わらず耳を疑いたくなるような金額だった。大豪邸を買えるような金額だ。いっそこの服を売って冒険者を引退して、実家でのんびり暮らすのもありじゃないかとすら思えてくる。
いつかそうやってこのパーティーから抜けようかな。私はそんな日が来るのを夢見ながら、オーランド様の背中について行き仕立て屋を出た。
どんよりと暗い曇り空が広がっている。スカッと晴れていてほしかったな。
ミモザが加入してから今日が初めての冒険だ。アイネがいないから私は不安でたまらないが、オーランド様はうっきうきの様子だった。それが私をますます不安にさせるのだった。




