64 本は読むだけじゃないでしゅ
「レオン、ちょっといいか」
ホルンに呼び止められて、店の脇に行った。
「姫様があんなに泣きじゃくるのは珍しい。いけ好かない銀髪のせいか?」
「いや」
短く答えると、ホルンはそれ以上聞かずに、ルリアのところへ戻った。
『れおっ!!』
俺の頭の中には、さっきの切羽詰まったようなルリアの呼び声がこだましていた。
あんな風に呼ばれたのは初めてだった。スーザンがさらわれそうになったのはわかったが、ルリアが、あんなに悲痛な声を出す方が堪える。
ごろつきどもは、農村から嫁探しに来た連中だった。
あっけなく捕まえると、スーザンは、「買い物する前で良かったわ」とケロッとしていた。ルリアが見ていたことなど気付きもせず、「忙しいからまたあとで」と、市場に消えていく。その後ろ姿がやけに逞しく見えた。
助けなくてもよかったんじゃないか? 嫁の貰い手があったんだから。
ルリアには口が裂けても言えない。
泣きじゃくるルリアを見ると胸が痛んだ。いつもの人を食ったような、冷めた物言いからは想像もつかない。
ただの幼子なんだと、思い知った。
これから王宮か……。
王宮には同じ里出身の影が勤めている。
里では、さんざん指導という名のしごきを受けた。特に俺のことは念入りに可愛がってくれたように思う。
また少し、遊んでやるか。
この間、屋敷で出会った時に『先輩の腕も落ちましたね』と言ってやったら、むきになっていた。
俺は口角を上げる。
なんだか胸の中がモヤモヤするから、暇つぶしにはちょうどいい。
ストレス解消してくるか。
♢ ♢ ♢
私はジェラルドに連れられて、王宮図書館にやってきた。
レオンは王宮に着くや否や、「ちょっと見回りをしてくる」と、意味ありげにニヤリと笑った。
これから面白いことでも待っていそうなその雰囲気に、知り合いでもいるのかな? と思った。
あっという間にレオンが消えた空間を見つめた。
レオンに図書館は似合わないものね。だいたい、レオンが本を読んでいる姿なんて想像できなかった。
だからって、そんなにすぐにいなくならなくてもいいのに。私がため息をつくとジェラルドが頭を撫でてくれた。
「僕が案内するよ」
そう言って微笑む。人好きのする王子様スマイル。板についているんだね。
王宮の外れに建つ王宮図書館は、王族と許可を得た者だけしか入れない特別な場所らしい。そんなところに3歳児を連れてきていいのかしら? ジェラルド!
案の定受付で、『12歳以下は立ち入り禁止』と書いてあった。私が指さすとジェラルドが「ああ、あれね」と短く言う。
「ルリアは12歳でしゅ」
受付の事務官に胸を張って言うと、事務官は目を見開いて固まった。
12歳に見えないかな? 普通より、ちょっと背が低いだけなんだけど……。
あっ、ジェラルドに抱きかかえられている時点でアウト?
私は急いでジェラルドにおろしてもらうように身じろぎをする。
「12歳だから一人で歩けるでしゅ」
私が言うとジェラルドが笑った。
「大丈夫だよ。僕と一緒だからね」
「でも……」
目の前で固まっている事務官の人を指さした。すると事務官は、はっ、と我に返った。
「す、すみません。まさかここに書いてあることを読まれるとは思わなかったので……」
そういうこと? あらあら、見た目で判断したのね。小さいからって、侮るなかれ!
「ルリア、背は小さいけど、ちゃんと読めましゅ。12歳なんで」
12歳を逐一強調した。
「はっ、かしこまりました。ご自由にご覧ください」
お辞儀をして私達が通り過ぎると、事務官はもう私達には聞こえないかと思ったのか、「絵本なんて置いてないけどなぁ~、どうせすぐに帰るんだろう」と呟きながら、受付に時間を記入していた。
しっかりと、聞こえているんだからね。絵本は別に好きで読んでいるわけじゃないしね。この世界のリサーチよ。
中に入ると、3階分はありそうな吹き抜けになっていて、ドーム型の天井には月と星々の絵が描かれていた。
前世で見たプラネタリウムみたいだわ。
落ち着いたこげ茶でまとめられた館内は、中央の階段を上ると左右に分かれている。
これだけ広いのに、人はほとんどいなくて、静寂に包まれていた。
本のページをめくる音だけが微かにあたりに響いている。
思わず声を落としてジェラルドに話しかけた。
「じぇりーの読む本はどれでしゅか?」
「ああ、僕の読む本だね」
ジェラルドはそう言うとちょっと段差を下りて、半地下みたいになっている部屋に行く。そこには分厚い本がたくさん並んでいた。
わぁ~~!
分厚い本が大好きなの。読むだけでなく、重石にもなって重宝するのよね。
私が顔を輝かせていると、
「ルリアはどんな本が好きなの?」
と、ジェラルドが聞いてきた。
「分厚い本がしゅき」
「厚い本が好きなの?」
私は大きく頷いた。
「色々使えて便利でしゅ」
「使う? 読むんじゃなくて?」
「読むんでしゅ。読んでいない時も役に立ちましゅ」
私はいかに分厚い本が役に立つのかを説明した。
「踏み台にもなるし、お子様の椅子にもなりましゅ。押し花だって作れるんでしゅよ」
私が言うと、ジェラルドは声を出して笑った。
笑い声が、吹き抜けの館内に響き渡って、受付の事務官が飛んできた。
思わず私はジェラルドを指さした。私じゃないからね。
ジェラルドは慌てて口に手をやり肩をすくめた。
私は人差し指を立てると、自分の唇にちょんと当てた。
「じぇりー、シーッでしゅ」
めっ! でしゅからね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
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来週の水曜日、11日は更新をお休みします。次回は14日土曜日に更新しますので、楽しみにしていてくださいね。




