63 た、たくましい……。
朝食の後はジェラルドにお洋服屋さんに連れてきてもらった。
飛影メンバーにお揃いのフリルのシャツとベストを作るんだ。
イメージは7人の小人さん。ちょうど7人いるからいいわよね。
さすがにとんがり帽子は止めとくことにした。お店の柱に寄りかかってこちらを見ているレオンの視線が冷たく刺さるから。
細身のパンツにブーツ。上着はロングコート。絶対にカッコ可愛いに違いないわ。
レオンは黒、ギンはチャコールグレー、ウィズはこげ茶、クーガはワインレッド、ジャックは深緑、ホルンは水色、ケルンは紺色で、襟と胸元、お袖にフリルをいっぱいつけるんだ。
シャツとお揃いの色のベストにたくさん内ポケットを付けて色々なものをしまえるようにしなくちゃ。この間ギンの懐には、たくさんの小物がぎっしりと入っていたもの。
ポケットの大きさや位置は個人で決めてもらう方がいいわね。
護衛についてきたレオンはスーザンみたいなため息をついていた。
スーザン病の感染力は強いらしい。
「タイやリボンはどうする?」
ジェラルドに言われて首を傾げた。そのへんになるとよくわからなかった。男の子のお洋服だし、貴族の服なんてさっぱりわからないもの。
「じぇりーはどう思うでしゅか?」
「あった方が、貴族っぽいな」
「ならそれでいくでしゅ」
全部決まると、持っていた革の袋から金貨を出す。
「これでたりましゅか?」
私が聞くとジェラルドが驚いたように頷いた。
「金貨で払うのか……。足りるんじゃないか?」
ジェラルドが護衛騎士の方を見ると、騎士は黙って頷いた。
どうもジェラルドは金貨でお支払いをしたことがないみたい。お坊ちゃまだものね。違った、殿下だった。
「ルリアはお金を持っているのか?」
私は興味深そうに革の袋を覗くジェラルドから、危険を感じて袋を隠した。
「ルリアのへそくりでしゅよ」
そう言うとしっかり封をしてカバンにしまった。
取られる前にしまわないとね。
「あげましぇんから」
ジト目でジェラルドを見た。今日は、うるさいテオがいないから良かったわ。
「ははは、取らないよ。でも、困ったときは借りるかな?」
ジェラルドは口の端を上げて、面白そうに私を見た。貸すならいいかもしれないわ。利息を取れるものね。
「利息が付きましゅよ」
私はにんまりと口角を上げる。
「ルリア、そんな難しいことをよく知っているね」
んっ? しまった! 前世の知恵なのよ。
「え~と、ご本に書いてあったでしゅ。狸の高利貸しとか……」
適当にそれっぽい題名を言ってごまかしてみた。ありそうだよね。何故かギルドマスターの顔が思い浮かぶ。
やってそう……。
ジェラルドは眉根を寄せながら「狸の高利貸しか……。教育に良くなさそうな本だな」と呟いた。
顔をあげて王子様スマイルを私に向ける。
「ルリアの本は今度僕が選んであげるよ」
「うん」
有無を言わせない笑顔に私はただニッコリと頷いた。今、教育ママの片鱗を感じたんだけど……。
まっ、本は好きだからいいわ。どんな本を選んでくれるのかな?
ちょっと楽しみ。本棚を見ると、その人のことがわかるっていうしね。
「じぇりーの本棚見てみたいでしゅ」
「僕の? 僕はいつも王宮の図書館で読むことが多いかな。本がたくさんあるから今度連れて行ってあげるよ」
わぁお~! 王宮の図書館! 素敵な響きだわ。どんなところなんだろう?
「行くでしゅ。これから行きましゅ!」
私は立ち上がるとジェラルドの腕を引っ張った。レオンはめんどくさそうに柱から移動する。
「仕方ないな」
ジェラルドはポケットの懐中時計を取り出して時間を確認した。
「よし、今日は特別だよ」
ジェラルドの言葉に頷いた。思い立ったが吉日って、昔から言うのよね。
お店の前では私達を待っていた騎士が慌てて馬車のドアを開けてくれる。
馬車に乗ろうとして、向こう側を歩いているスーザンが目に入った。買い出しに来たのかな?
「スーザン」って手を振ろうとしたら、誰かに引っ張られてスーザンの姿が消えた。
「えっ!?」
一瞬ポップアップが出た気がする。まずいんじゃない……?
でも読めなかった……。
私が青くなって立ち止まっていると、ジェラルドが私の顔を覗き込んだ。
「ルリア?」
違う、ジェラルドじゃだめだ。レオンはどこ?
周りを見渡してレオンの姿を見つけると、一言叫んだ。
「れおっ!!」
私の悲鳴に近い声を聞いた瞬間、レオンが風のように姿を消した。
「ルリア!? どうした?」
ジェラルドが私を抱き上げた。ジェラルドの真剣な瞳と目が合った。
私は知らないうちにガタガタと震えていた。
「じぇりー、ス、スーザンが……」
「スーザンが連れ去られた? ということか?」
私は頷いた。ポップアップが出ていた。危険ということだわ。
「向こうに行ったの。路地の方」
震える手で私が指さすとジェラルドは私を抱きなおした。
「行ってみるか?」
私が頷けば、ジェラルドについている護衛が前に立ちはだかった。
「殿下、危険です」
「お前達もついてくるんだ。それならいいだろう」
ジェラルドは私を抱いたまま、私の指さした路地に向かった。誰の頭上にもポップアップは出ていない。大丈夫、一生懸命自分に言い聞かせた。
頼りなさそうなジェラルドが、なんだか頼れる存在に思えた。きっと、今だけだ。
薄暗い路地には誰もいなかった。路地の脇に買い物籠が転がっている。護衛騎士が散らばった中身と籠を拾い集めてくれた。
スーザンの持っていた籠だわ。見覚えのあるその籠に、泣きそうになった。
「スーザンのでしゅ……」
「ここにいてもしょうがない。王宮へ行こう」
私は首を振った。王宮なんて、何の役にも立たない。カステラ屋に行かなきゃ。皆がいるもの。
「カステラ屋に行くでしゅ」
ジェラルドは驚いたように目を見開いたけど、そのまま一緒にカステラ屋まで連れて行ってくれた。
ケルンやホルンの顔を見ると、いっぱい涙があふれてきて、言葉にならなかった。
「ス、スーザン……が……れおっ……」
泣きじゃくる私の背中を、ジェラルドが困ったようにポンポンとしてくれる。
「ひっ、ひっ……く……」
言葉の出ない私に代わり、ジェラルドが皆に説明をしてくれた。
「レオンが行ったなら、スーザンの心配はいらないな」
ケルンが安心したように言う。
えっ……そうなの?
「いやぁ~、奴ら、まずいやつをかどわかしましたね」
ホルンが気の毒そうに呟いた。どういうこと?
誰も心配じゃないの? 薄情じゃない!
私がジェラルドの胸から顔をあげると、いつの間にか呼ばれたギンが冷たいタオルを私の目の上に当ててくれた。
「あ~あ、姫様、こんなに泣いちゃって。レオンがいれば大丈夫ですよ」
「心配なのは、相手の方だな。どこまで切り刻むことやら」
ジャックがナイフを片手に言う。
切り刻む? 何を……? まさか、人間……。
「みじん切り……」
思ったことを呟くと、どこからともなくレオンが現れた。
「みじん切りが良かったか?」
えっ!?
「れおっ! スーザンは?」
「連れてこようと思ったが、買い物の途中で、テッドと待ち合わせているからと、断られた」
……スーザン。
「……そうなの?」
私の言葉にレオンが黙って頷いた。
スーザン、買い物は大事だけど……。
「ま、待ち合わせ……でしゅか」
あっけにとられる私に、ケルンとホルンが「ほらね」と肩をすくめた。
「それで、は、犯人は……」
生きているんだろうか……。急に犯人が気の毒になってきた。
「騎士団に引き渡した。ちょうど見回りに来ていたウォルフに頼んでおいた」
「あ~、しょうでしゅか……」
ウォルフは、いつもめんどくさい役を押し付けられているのか?
ケロッとしているレオンを見ていると、なんだかすご~く、損した気分。
私の涙を返してほしい……。
ほっぺを膨らませてうつむいていると、ジェラルドが頭を撫でてくれる。
「じゃあ、図書館に行こうか?」
「んっ? 図書館!?」
忘れていた!
目を輝かせてジェラルドを見る。
「ほら、泣いたカラスがもう笑った」
そう言って澄んだ青い瞳を優しく和ませた。




