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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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62 何か怪しいでしゅ


 目覚めると、なんだか頭が重かった。


 あれっ? 二日酔いかしら……。


 ぼーっと考えてみる。ううん、まだお酒が飲めないんだった。


 ――確かギンの毒を嗅いだんだわ。


 「お嬢様、お目覚めですか? 薬湯を置きますね」


 スーザンがそう言って生姜の香りがするお茶を置いてくれた。


 「ギンはどこでしゅか?」


 まさか、とんずらしていないわよね? やらかしたと思って、雲隠れしているかもしれないわ。


 スーザンはだまって、部屋の隅を指さした。ギンが丸くなって寝ていた。ギンがなぜ部屋の隅に?


 「ギン、どうしたでしゅか?」

 「お嬢様が目覚めるまで心配だそうです」


 気持ちよさそうにグースカ寝ている。とても心配しているようには見えなかった。


 「んっ? 寝てるだけでしゅよね?」


 人に毒を盛っておいて、グースカ寝ているなんてね。


 スーザンはつかつかとギンに寄っていき、思いっきり蹴りを入れた。


 「お嬢様がお目覚めです」


 冷たい声で言い放つ。


 「へっ?」


 ス、スーザンって、そういうキャラだった?


 「うわっ! 驚いた!」


 しっぽを踏まれた猫みたいに、ギンが飛び起きた。


 あら、ギンはもう少し、警戒しながら寝た方がいいんじゃない? 影でしょう!?


 「あっ、姫様、気分はどうですか?」


 私と目が合うと、ベッドに駆け寄ってきた。


 「昨日の毒は、強力でしゅ」


 袋をちょっと覗いただけで、意識が飛んだものね。恨めしげにギンを睨んだ。自分が悪いんだけど、この際それは棚にあげておきます。


 「ああ、あれは毒じゃないんですよ。香なんで」

 「……香?」

 「ええ、以前ちょっと需要があった、媚薬効果のある香で。あっ、姫様には難しいですよね」


 ええっ! 媚薬!? もちろん知っています。


 媚薬っていえばあれでしょう!


 誘惑の香りよね。まさか、ギンが持っているなんて、想像もしなかったけどね。


 思わず目が輝いてしまう。


 「知っているでしゅ。植物図鑑に載ってましゅ」

 「へっ? 媚薬が植物図鑑に……ですか?」

 「違いましゅ。愛についてでしゅよ! ギンは何を言ってるんでしゅか」


 私が問い詰めるとギンは「姫様の読んでいる植物図鑑っていつも持っている本だよな? あれに愛なんて書いてあったか?」と、眉間にしわを寄せながら、ぶつぶつと呟いた。


 「ギンは知らないのでしゅか? 甘い香りで誘って、ハエをパクって食べちゃう植物がいるでしゅよ!」

 「ああ、そっちか! 近いけど違うような……あれが、愛か……?」


 ギンはまたぶつくさ言い始めた。もうっ! 早く聞きたいのに。


 「詳しく、聞きたいでしゅ!」


 私はしびれを切らしてギンをせっついた。


 「ああ、詳しくですか……えっ?」


 そう、何に使うのか知りたい。ギンはハニートラップを仕掛けるのかしら?


 「わかりましゅ。ハニートラップでしゅよね」


 私は大きく頷いた。向こうでかぼちゃのパンツを手にしているスーザンには聞こえないように声を潜める。


 「あっ、いや、ハニートラップ!?」


 ギンが慌てたように周囲を見回した。


 「大丈夫。秘密は守りましゅ」


 私が人差し指を口に当ててシーって言うと、ギンは困ったように眉尻を下げた。


 「あの香は、ちょっと試作品で作っただけですから」


 試作? 私はその言葉にピンときた。


 最近こそこそと打ち合わせしているギンとフィルナー医師のことね。怪しさ満点よね。


 もしかしてあの慇懃無礼(いんぎんぶれい)なフィルナー医師の依頼……。


 ありえます。彼ならやりかねないわ。


 あの眼鏡を上げるしぐさといい、絶対にむっつりスケベなタイプだとみたわ。


 「儲かるでしゅか?」


 私が言うと、ギンは目を丸くした。私には、なんだか小判が降ってくる予感がするのよ。


 「お嬢様、回診にいらっしゃいました」


 スーザンの声がする。いつの間に部屋から出て行ったのかしら……。


 しかも、回診?


 噂をすればなんとやらだよね。また来たの?


 「ルリア、入るよ」


 ジェラルドの声がしたかと思うと、彼がフィルナー医師を引き連れて入ってきた。フィルナー医師はベッドの横のギンを見ると嬉しそうに目を細めた。


 絶対に私はだしに使われているだけよねと確信した。


 「昨日、倒れたと聞きました」


 フィルナー医師はカバンを置いて私の額を触った。


 レディに、いきなり失礼じゃない? もともと気に入らないフィルナー医師だし。32歳の私がむくっと顔を出した。


 ちゃんと、『失礼してお熱を測ります』とか言わないと、煩いおばさんにはセクハラって言われるからね。大体、倒れていないし、ちょっと寝てただけだもん。私は頬を膨らませた。


 「お熱はありませんな、お口を開けてください」


 フィルナー医師は用心深く自分の指を隠すと、私の頬に手を当てた。これは前のことを絶対に根に持っているわ。私は固く口を閉じると、ぷいっと横を向いた。


 「エドガー、嫌われたね」


 ジェラルドがおかしそうに口角を上げた。


 「仕方ありませんね。では、ちょっと、チクッとしますが、我慢してください」


 フィルナー医師はそう言うと私の頬から手を放した。


 えっ? まさか、注射じゃないわよね?


 私は身の危険を感じて慌ててあんぐりと大きな口を開けた。フィルナー医師は片眉を上げると、顔色を変えずに私の喉の奥を覗いた。


 「風邪の症状はありませんな」

 「倒れてないでしゅ」


 私が言うとフィルナー医師は眼鏡をちょっと直した。


 「吐き気はありますか?」


 私は首を振った。


 「頭痛は?」


 ちょっと、頭が重いかな? 黙っているとフィルナー医師は私の目の下を指で下げた。


 「貧血もなさそうですな。倒れる前に何かされたことは?」


 首をかしげた。ギンの持っていた袋を覗いたぐらいだ。


 「う~ん、毒?」

 「毒!?」


 ジェラルドが声を上げた。


 「ギンが袋を持っていたから、のぞいたのでしゅ」


 君が頼んだ媚薬だよね。


 私は目を細めてフィルナー医師をみた。知らない振りしちゃってね。やだやだ。


 「ああ、それでですか。薬の入っている袋を覗いたんですね。微量でも幼児には毒になりますから。ところで何の薬か聞きましたか?」


 う~ん。ここで、言っていいのかな? 媚薬効果の香……。


 私の目は空中をさまよった。


 「あの、血流を良くするのと安眠効果のある香ですが、まだ試作段階で、失敗作みたいでした」


 ギンが上手い言い訳をした。


 「幼児には少量でも危険ですから、手の届くところには置かないように」


 フィルナー医師も上手くギンに口裏を合わせていた。怪しいよね。頼んだんじゃないの? 君が……。


 私は少し飽きて、話題を変えた。これ以上フィルナー医師に付き合っていてもねぇ……。


 ギンに何を頼んでいるのか、後でこっそり、ジェラルドに言いつけちゃおうっと。


 「じぇりーは朝ごはん食べたんでしゅか?」


 私が聞くとジェラルドは首を振った。


 「まだだよ、また、ご相伴願えるかな?」


 そう言うとジェラルドはにっこりと笑った。王子様スマイルだよ。


 そうだ、みんなのお洋服を作るんだわ。でも、どうやって作るんだろう? この世界の仕組みが今一つ分からなかった。


 「じぇりー、一緒に食べるでしゅよ。後ね、お洋服をどうやって作るのか知りたいでしゅ」

 「えっと、それは皆の服のこと?」


 私は大きく頷いた。


 「フリルつけるでしゅ」


 私が言うとジェラルドが笑った。


 「そりゃあ、いいな」

 「お嬢様、フリルは嫌だって言ってませんでしたか?」


 スーザンがよけいな口を挟んだ。自分の服には嫌だけど、皆のには必要だよね。


 「フリルが嫌なの?」


 ジェラルドに聞かれて首を傾げた。


 「セクシーなのがしゅき」


 私が言うとみんながギョッとした顔をした。


 安心して、セクシーなのは、自分の服だけだから。


 ギンにはセクシーな服は着せないわ。網タイツのギンを想像すると、地引網に引っかかった、カメにしか見えないものね。


 ギンにハニートラップは、まだ早いと思うの。



 

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