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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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61 毒でしゅ……。


 「ううっ……さぶっ」


 執務室に一緒にいたテオが体を震わせた。


 「殿下」


 誰もいないはずの空間から、影が声を掛けて来る。いつものことだが、慣れないな。


 「奴が来たか、お前は席をはずせ」


 短く言うと影は消える。


 「殿下?」


 テオが不思議そうな顔をして僕の顔を窺う。


 「テオ、今日はもうお終いだ。ご苦労様」


 テオは何か言いたそうにしながらも、この部屋を後にした。


 僕は壁に向かって声を掛ける。


 「レオン、いるんだろ?」


 壁から影が形をなして、レオンが現れた。さっき、僕が話したいと言ったから律儀にも来てくれた、なんてことはなさそうだった。


 殺気を纏った空気が部屋を支配する。


 「お前は、何をする気だ」


 レオンの低く冷たい声が静かに響いた。


 ここは王宮の奥、王族の執務室だ。こんなところにやすやす来ることなんて、普通は出来ない。


 さっきの影がレオンに抵抗していたら、僕達は貴重な影という手駒を1つ失っていただろう。こんな奴が、僅か3歳の子供のために奔走しているとはな。

 

 「君達は、あの子を守る」

 「だから、なんだ」


 僕は窓の外に目をやる。


 「僕も、あの子を守ろう。君達が物理的に守るなら、僕は環境を整えよう。今回のような事態も、以前のような事態も、二度と起こさせない」


 レオンに視線を向けた。君達は守れなかったのだから。レオンは僕から視線を外して遠くへ目をやった。


 「お前は、守れると?」


 僕はレオンを見据えたまま頷いた。


 「君達に出来ないことを、僕はする。本来あるべき姿、高位貴族の令嬢としてのルリアを守ろう」


 僕は一つ息を吐いた。落ち着こう。さっきまで一緒にいた奴だ。


 「そんなものを本人が望まなければ?」


 眉一つ動かさずレオンが言葉を放つ。


 「無理強いをするつもりはない。ただ、あの子はまだ幼い。決めるのはまだ先の話だ」


 聡い子だ。僕も、レオンも、それはわかっている。それでもまだたったの3歳なのだ。


 「わかった。その言葉に相違はないな?」

 「ああ」

 「違えれば貴様の明日は拝めない」


 その鋭い眼差しに、背筋を冷たい物が走った。


 本気だ。


 暗殺という言葉が脳裏に浮かんだ。


 暗殺者と一対一で対峙するなど初めてだった。


 「誓う。あの子を守ると」


 黙ってうなずくとレオンは何処かへ消えた。


 部屋の温度が戻ってくる。ホッとして息をつく。あの子はいつもあんな奴らと暮らしているのか……。


 ため息しか出ない。凄いな。そのうちあの圧に慣れるのだろうか?


 手元の書類を確認する。王弟夫妻、子供なし。大公殿下で、王都のそばにエルディオン領を持つ。


 ルリアの保護先としては有力だが、後は相性だな。


 そんなことを考えながら窓の外に目をやる。


 まだ3歳だ。保護者は必要だ。




      ♢      ♢      ♢



 「ギン、クーガとウィズを呼んでくだしゃい」

 

 私は2人に聞きたかった。成敗するって、どういうことなのかを。逃げちゃいけないよね。ちゃんと向き合わなきゃ。


 「2人はちょっと、所用があるみたいなんですが……」


 所用って?


 「すぐ来ないとダメでしゅ。ルリアが死にそうだっていうでしゅ」


 前世で、よくお祖父ちゃんが孫を呼ぶのに使っていたのを思い出した。何回もは使えないけど1回ぐらいなら効き目があるはずだ。


 「嘘はつけません」


 ギンが真面目な顔をして私に言う。


 私に会いたくないんだわ。私は悪い奴なんだわ……。


 頭の中にイケメンに愛想つかされた3歳児が浮かんだ。


 なんだかすごく悲しくなって、ギンに八つ当たりしたくなった。


 「ギン、毒を頂戴。飲むでしゅ」


 私が言うとギンは驚いたように固まった。あんぐりと口を開けている。役に立たない。今のうちにボディーチェックよ。ギンなら何かしら持っていると思うものね。


 上着のボタンをはずして懐を探る。なんだか硬いものがいっぱい手に触れた。いろいろ持っているじゃない。装備も万全って感じよね。


 「ぐっへっ!」


 ペタペタと両手でギンのボディーチェックをしていると、ギンが変な声を出して生き返った。私はその間にギンのポケットから怪しい粉の入った袋を取り出した。何の毒かしら……。


 「姫様、それはダメだ!」


 中を覗いた途端、頭がくらくらする。これは強力な毒薬ね。


 「わ、たし、死ぬでしゅ……」


 倒れそうになるのを後ろから誰かが支えてくれた。


 「ギン、これはなんだ」


 低く冷たいレオンの声がした。


 「媚薬効果のある香だ」

 「幼児に害は?」

 「しばらく動けないぐらいだと思う。レオン、今、解毒するから、姫様見てて」

 「ああ、わかった」


 ぼんやりとした意識の中で2人の話を聞いていた。香? なんだかよくわからなかった。


 「れお、わ、たし……、クーガとウィズにお話……が」

 「わかった、連れて来る」


 最後に、レオンの声が聞こえ、私の意識は暗転した。


 額に冷たい物を感じて目を開けると心配そうにのぞき込んでいるギンと目が合った。


 「ギン、毒殺したでしゅ」

 

 ギンは慌てて首を振る。


 「姫様、毒殺だなんて物騒な……。何を言うんですか……」


 んっ? ギンはよく毒殺って言っていなかった?


 「毒殺はダメでしゅか?」

 「ダメに決まってます!」


 ギンは力強く叫んだ。


 「ダメなんでしゅね。覚えておきましゅ」


 ギンは嬉しそうに頷く。


 「姫様、気分は? クーガとウィズが来てますよ」

 「クーガとウィズ?」


 なんだったっけ? 2人の顔を見ると胸がチクッとした。


 「えっと……?」


 ぼうっとした頭で考える。でも、頭が働かなくて思い出せなかった。


 きっと、忘れたかったことなんだわ。


 「ボロ着ているって、言っていなかったか?」


 クーガがボソッと言うと目をそらした。


 んっ? 怪しい……。


 皆がボロを着ているだなんて、私がそんなひどいことを言うはずがないわよね?


 「そうだよ、みすぼらしい恰好とか言っていた」


 私が首を傾げていると、ウィズが言う。


 それを聞いて思い出したの! お洋服が立派な方がいいんだった!


 「みんなのお洋服を作るでしゅよ!」


 私は元気よく起き上がると、クラっとしてふらついた。


 あっ……。目をぎゅってつぶると、ドサッと誰かの上に落ちる。目を開けるとクーガと目が合った。


 「急に起きたら危ないよ」


 クーガに抱きかかえられてベッドにあげてもらう。


 「ギンの毒は強烈でしゅ……」

 「「ギン!!!」」


 クーガとウィズがギンを引っ張って部屋から出て行った。


 んっ? 皆、急にどうしたの? ドアのところにレオンが寄りかかっていた。


 「お騒がせな奴だな」


 レオンはベッドに来ると、ポンと私の頭に手を置いた。


 「少し寝てろ」


 お布団をかけると、ポンポンと優しく背中を叩いてくれた。


 なんだか安心して、いつの間にか夢の中へ入っていった。


 皆に、素敵なお洋服作るんだ……。




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