60 お部屋が寒いでしゅ
「えっ……!?」
「おわわっ……!?」
クーガとウィズの慌てたような声が聞こえる。
「どうした」
低く冷たい声がして、部屋の温度が下がる。顔をあげるとレオンが壁に寄りかかっていた。
レオンの声を聞くと、張りつめていたものが切れて、また胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
「れおっ、わ、わたし……成敗され……る……」
収まったはずの涙が止まらない。リクのケガが私のせい? イケメン侍らす3歳? 頭の中でいろいろなことがぐるぐると巡っていた。
「うっ……」
それだけ言うとジェラルドの胸にまた顔をうずめた。
「ルリア、大丈夫だ。それじゃあ、誤解を招く」
ますます部屋の温度が下がり、焦ったようなジェラルドの声がする。
「誰が、ルリアを成敗すると?」
レオンの声が聞こえた。横目で見ると、クーガとウィズがポカンとして首を振っているのが目に入る。
「俺、クーガとウィズが言っていたの聞いたぜ」
ギンが言うとホルンとケルンが頷いた。
「「俺達が姫様を成敗するなんてありえないだろう!」」
クーガとウィズが叫ぶ。
ひゅんっ、ひゅんっと、何かが飛ぶ音がして顔をあげると、クーガがナイフを払っていた。
「レオン、あぶねぇ、何するんだ!」
「お前が言わないなら、身体に聞いてやる」
身体に聞く!?
そうよ、まさしくそれだわ! レオン、あなたは朝帰りだよね? ううん。朝はとっくに過ぎている。
レオン、まさか、誰かの身体に何かを聞いていたんじゃないの!?
「れお、朝帰りでしゅ。いい人出来たんでしゅか?」
私が呟くと、ひゅん、という音がやんだ。
お店の中が一瞬静まり返った。
「ハニートラップはレオンか!」
ウィズがパンと手を叩くと、目を輝かせて私の顔を見る。
そうなのね。レオンがひっかかったのか……。
聞きたい! 是非、詳しく聞きたいわ! いつの間にか私の涙は引っ込んでいた。
「れお、ひっかかったでしゅか?」
「はぁっ?」
あきれたような声が聞こえた。一気に部屋の空気が氷点下になる。
ぶるっ、と震えた。
「さぶい……」
私は、ジェラルドにぴとっとくっついた。
「ルリア、とにかく屋敷に戻ろう。レオン、君に話がある」
ジェラルドはそう言うと私を抱いたまま立ち上がった。
お屋敷に戻ると、スーザンが駆け寄ってきた。
「お嬢様?」
「大丈夫だ」
部屋に入るとジェラルドがスーザンを下がらせた。
「レオン、ルリアは公爵令嬢だ」
「ああ、それが?」
「普通なら、この年齢で街をうろうろはしない。荷馬車に乗ることもない」
ジェラルドの言っていることがよくわからなかった。私はやりたいようにやっているだけだもの。
「だめ、でしゅか?」
「ダメだ。公爵家の馬車は荷馬車ではない」
「でも、他に馬車がなかったでしゅ……」
私は首を傾げた。馬に乗せてもらった方が良かったのか?
「レオン、君にならわかるだろう?」
「今回のことは、そこに原因があると?」
レオンの言葉にジェラルドは頷いた。
「ルリア、君はお屋敷でおとなしくしているべきだ」
ジェラルドの言葉に首を振った。そんなのつまらない。私は自由が好きなんだもの!
「いやでしゅ」
ジェラルドはため息をついた。
「この家を出る覚悟はあるか?」
青い瞳が真剣に私を見つめた。この家に未練はないけど、でもどこへ? 自由が制限されるのは嫌なの。それに、皆で住める家が良いもの。この間のお金が少し残っているから、どこかに家を買う?
「お家、買いましゅか?」
ジェラルドは笑いながら首を振った。
「ルリア、そういうことじゃないんだ。僕に任せてくれるかな?」
ジェラルドに言われて私は深く考えもしないで頷いた。悪い人じゃないよね。今日もずっと私の相手してくれたし……。
「私、成敗されない?」
「大丈夫だ。皆、君を守っているから」
ジェラルドはそう言うと微笑んだ。
ジェラルドが帰ると、スーザンが今日あったことをジャックから聞いて飛んできた。
それから貴族や街の人について、色々と教えてくれた。
つまり、街では私が公爵令嬢だとは思われていないため、3歳なのに生意気だと思われているらしい。
その原因というのが、いつも荷馬車に乗っているし、豪華なフリフリの服を着ていないこと。お連れがみすぼらしい少年達やウォルフだからということなんだって。
本来、公爵令嬢のお付きは、侍女たちや、立派な服を着た騎士みたいだった。そうか、レオン達の衣装が豪華じゃなかったんだわ!
フリフリの服を着るのは趣味じゃない。でも……見るのはいいかもしれないわ。イケメン少年達に今度はフリフリの服を着せたい!
「豪華な衣装をつくりましゅ!」
私はそう言うと目を輝かせた。
「そこじゃない」
壁に寄りかかって、私達の話を聞いていたレオンが不機嫌そうに口を挟んだ。私の方に来ると人差し指を私のおでこに当てた。
「お前はろくなことを考えない。しばらくおとなしくしてるんだ。いいな」
レオンは有無を言わせない口調で冷たく言い放つと、シュンとその場から消えていった。
影って、便利だけど、言うだけ言っていなくなるのはずるい気がした。
夜は静かに更けていった。
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