54 テオはグーちゃんと暮らすでしゅ
ジェラルドはお昼を食べ終わると壁に描かれている絵を興味深そうに眺めていた。
そうそう、あそこだわ。この間私が落ちたところは。そこに丁度、ジェラルドが立っていた。
私はトコトコとジェラルドのそばに行くと、指で壁の石をそっとなぞる。ああ、やっぱり風の流れを感じた。ちらっと、ジェラルドを横目で見ると、目で壁画を追っていた。
ジェラルドは驚くかしら? 私はちょっと口角を上げる。向こう側に立っているレオンが私を一瞥した。
んっ? 今、目が合ったかしら……。
レオンはこの間いなかったもの、知らないはずだわ。
私はジェラルドに話しかけた。
「じぇりー、そこの壁ちょっと、押してみて」
私が言うとジェラルドは「おやっ?」というように首を傾げながら、片手で壁を押した。
「これがどうかしたか?」
ジェラルドは自分の手のひらを見る。
う~ん、びくともしない。やっぱり、ちょっと違うのよね。
もうちょっと右だったかしら……。私は首を傾げた。
「もう少し、右を押してみて」
「こうかな?」
ん~、やっぱり動かないわね。
「違うでしゅ」
私は少し、頬を膨らませた。
ジェラルドの隣に立つ。背の高さが違うからかな?
「こうでしゅ。ここが、ちょっと動くでしゅよ」
ごつごつした石に両手を当てて体重を掛ければ、カタンと音がした。
ここだわ! ビンゴね!
でも私は体重をかけすぎたのか、そのまま前のめりになった。ぽっかりと開いた穴に吸い込まれそうになる。
「きゃぁっ!」
叫び声をあげた途端、誰かが私の足首を掴んだ。
そのまま逆さまにつるし上げられると、不機嫌そうなレオンと目が合った。
「学ばないやつだな」
レオンに言われてぎゅうっと両手を握った。
頭から落ちていった滑り台がよみがえる。
ぶるっと身を震わせた。もうあれはごめんだ。
「うわっ、ここか。この間姫様が落ちたのは……」
ギンの声がする。
「姫様じゃなきゃ、通れないな」
クーガが穴を覗いていた。
ジェラルドはちょっと横目で私を見る。う、疑われている……。
「まさか、殿下を落とそうとしたんじゃ」
ジェラルドの横でテオが騒いでいた。落とすつもりはないけど、びっくりするかなとは思った。
「お花が綺麗だったから……」
レオンに下におろしてもらうと、私はジェラルドからそっと目をそらす。
「あ、あの花は希少な花ですよ!」
ギンが目を輝かせながら話し出す。
「きれいな水と柔らかい光が差すところじゃなきゃ咲かないんです」
「ああ、あそこは水が湧き出ていたからな」
ホルンも頷いた。
「この洞窟の下に行けるのか?」
ジェラルドが興味をひかれたように聞いてきた。
「グーちゃんのお家がありましゅよ」
私は、この間のことを思い出して、得意げに答えた。
結構、急な崖だった。影達は難なく行けたけどジェラルド達はどうなんだろう?
「じぇりーにはまだ無理でしゅね」
「殿下に向かって、失礼な」
テオがいきり立って赤い顔をしている。
「テオにも無理でしゅね」
テオの顔がますます赤くなった。鼻から火を噴きそうだわ。
「殿下、行きましょう!」
テオはそう言うと、みんなで行こうと勝手に先頭を歩きだした。結構な崖を下ったように思う。
あれっ? あの崖を降りられるのかな?
行きより帰りかな? 問題は……。
私はレオンに摘まみ上げられた。
レオンが私を抱いたままさっさと先を歩き、その後ろで、ウィズが所々にロープを張っていく。
ジェラルド達の為なんだわ。親切ね。グーちゃんは背中にある小さな羽をパタパタさせながらついてくる。グーちゃんは慣れているみたい。
そんなことをレオンの腕の中で考えながら洞窟の中を降りて、あっという間に、この間の草むらまでやってきた。
「しんがりは?」
「クーガです」
レオンの言葉にジャックが答えた。
時間がかかりそうね。私はグーちゃんに新たな芸を仕込むことにした。
「3回転するでしゅよ」
見本をジャックにやってもらう。
体操選手みたいにクルクル回るのよ!
いつかオリンピックで見た技を教えることにした。グーちゃんは身体能力が良いのか、羽が生えているのが良いのか、色々な技を覚えていく。
「次は月面宙返りよ」
そのうち、私の掛け声とともに飛び上がってクルクルッと回る。
そのたびにポケットからカステラ焼きを出してはあげた。
しばらくするとケルンと一緒にジェラルドが現れた。
草むらに着くとゴロンと横になる。疲れたのね。ところで、いつも横にいたテオは? 諦めたのかしら……。
トコトコっとジェラルドの横に行くと私もゴロンと横になった。
グーちゃんは今度はジャックに影の訓練をさせられていた。グーちゃんも、結構な体力だ。
「テオは? 帰ったでしゅか?」
「いや、そのうち現れるだろう」
ジェラルドはグーちゃんの訓練を横目で見ながら「あんなこともするのか……」と呟いた。
もう帰ろうかと思った頃、お腹に縄を巻かれたテオがクーガに引きずられるようにやってきた。
「ご苦労様でしゅ」
私の言葉にクーガは額の汗をぬぐった。
「えらい訓練だぜ、うるさいし、のろいし、帰りは代わってくださいよ」
そう言うとケルンに目をやった。
ケルンが目をそらす。
テオ、君はここでグーちゃんと暮らすのが良いと思う。
グーちゃんを見ると、嫌そうに顔を背けた。
あれっ?
心が読めるのかな?
グーちゃんは……。
「テオはここに置いて行けばよい」
ジェラルドの言葉にテオは泣いた。
「殿下ぁ~」
「ぷうっ!」
情けないその姿に思わず噴き出した。両手で口を押さえながらジェラルドを見ると、彼もテオから目を外し、遠くを見ていた。
ジェラルドはテオを見ないことにしている……。
気の毒なテオ。




