52 お客様?
ジェラルドが乗ってきた馬車は豪華な黒い馬車。中の椅子はビロード張りで、ふわふわのクッションが置いてあった。
「凄いでしゅ」
快適な馬車の旅を想像してニンマリすると、レオンが不機嫌そうに馬車を一瞥した。どうしたのかな?
「れおっ?」
「目立ちすぎる。馬のほうがいい」
そう言うとジェラルドに視線を移した。
「僕は馬でも構わないが、ルリアはどうかな?」
ジェラルドがチラッと私を見る。
「馬車に乗りましゅ」
私はサッサと馬車によじ登った。
「お邪魔するよ」
私の後から、ジェラルドとテオも乗り込んできた。大きな袋を抱えたギンもやってくる。
「ギン、それはなあに?」
「ああ、グーにやるりんごですよ」
「りんご?」
「クーガが言うにはりんごを食べるとお肌が綺麗になるらしいです」
「そうなの?」
グーの緑色の鱗を思い浮かべた。つやつやするのかな?
「グーっていうのは誰かな?」
ジェラルドが不思議そうに聞く。
「お留守番兼守衛さんでしゅ」
「お留守番がいるんだね」
私は大きく頷いた。お留守番しかできないけどね。ちゃんとハンバーガーも2個持った。一緒に食べるんだ。
御者台にはホルンとケルンが並んで座る。レオンが手を挙げて合図すると出発だ。
またみんなで遠足気分。
最近は「カステラ屋」も「ハンバーガー屋」も『めっ!組』と『ひよこ組』にすっかりお任せだ。なんたって、ウォルフが目を光らせているから、順調に回っていた。ホルンとケルンが1日いなくたってどうってことはなかった。
私の頭の中には金貨がジャラジャラ降ってくる。
「ふふふ……」
知らないうちに悪い笑みが出てしまう。
「何を考えているの? 楽しそうだね」
青い瞳がいつの間にか探るように私を見つめていた。
「えっとぉ~入園料とろうかな……」
「ひどいなぁ。そんなことを言うと、馬車の貸出代金もらおうかな?」
ジェラルドは口角を上げる。
ま、まずい。馬車の中を見渡す。天井までビロード張りで内側の取っ手や窓枠は金色だ。
外装は真っ黒なのに……。
これは手が込んでいるから高そうだわ。どう考えても入園料の方が安い。見るのはあの太っちょのトカゲみたいな竜だけだもの。
「えっと~」
目が空中をさまよった。
助けを求めてギンに目をやると、ギンは隣でりんごの入った紙袋を抱えてうつらうつらしている。役に立たないわ。俯いた私の頭にポンと手が乗った。
「冗談だよ」
ジェラルドは私の頭を撫でた。
この人は扱いにくいかもしれない。油断も隙も無い。気をつけなきゃ。
馬車がガタンと大きく揺れると、速度を落として進んで行く。前にも来たことのある、愛を語る丘の上だ。勝手に名前を付けただけで、ここで夜景を見るのよね。
「ギン、休憩だ」
外からジャックが声を掛けてきた。
もう休憩するの? 少し早い気がした。
馬車の外に出ると、レオンが指示を飛ばしていた。ジェラルドに何か話しかけている。
いつの間に、そんな仲になったのかしら。気の置けないって言うか、気軽に話せるって言うか……。私の視線を感じたのかレオンがこっちに来る。
「この先に客が来ているから、挨拶に行ってくる」
「客……?」
レオンたらいつの間に待ち合わせしてたのかしら?
「ウィズ、ギン、ホルンとクーガが残れ。後は行くぞ」
そう言うと3人はあっという間に消えた。
「ギンちょっと」
クーガはギンを連れていく。2人で馬に水をやるみたいだ。ホルンは馬車の車輪を点検していた。
「姫様、悪いけど、ここから出ないで」
ウィズがそう言いながら木の周りに枝で円を書く。私とジェラルドとテオがそこにシートを敷いて座った。
「すぐ終わると思うよ」
「何が?」
私が聞くとウィズは珍しくニヤリと笑う。こんな顔も出来るんだ。
影の里にいたときの暗殺者の顔だ。
「何人ぐらい来ている?」
感情のない声でジェラルドが聞いた。
「30人ぐらいかな」
客が30人も? この間はネズミって言ってたけどネズミと客は違うのかしら……。
「えっ? 騎士団を呼んだ方がいいです」
ウィズの言葉にテオが慌てたように言う。
私は首を傾げた。誰の頭上にもポップアップは出ていない。
まさか、出し忘れたって言うこともないと思う。危険はないはずだわ。
「お茶の子さいさいでしゅよ」
私が得意げに言う。レオン達に任せておけば大丈夫。
「お茶の子?」
ジェラルドがそう言えば、テオが呆れた顔をする。
「殿下、3歳児です。まともに相手をしたところで……」
私は手に持っていた、おやつのカステラ焼きをテオめがけて投げると、思いっきり舌を出す。
あっかんべぇ~~
「姫様。お茶が入りましたよ」
ギンがお茶を入れてくれた。
「気が利きましゅね」
私が言うとギンは嬉しそうに笑った。
ギンの入れてくれたミルクティーをすすりながら丘の上でのんびりとしていると、ピクニックに来たみたいな気分。頬に当たる風は穏やかで優しい。
向こうの空には大きな雲が出ている。それを眺めながら、ふと、不安になった。
レオン達はだいじょうぶなのかな? 私だけのんびりしていていいのかな?
「ギン、ご挨拶はもう終わった? れおは、まだでしゅか?」
私の言葉にギンも向こうの空を見上げた。
その時、ひゅうっと音がして青い煙が上がった。発煙筒だ。花火みたいだわ。
「終わったみたいですね」
そう言って片目をつぶった。
ギンの言葉に大きく息を1つついた。いつの間にか緊張していたみたい。
レオン達が強いのは知っているけど、やっぱり心配にはなっちゃう。皆には元気でいて欲しいもの。
「3人でか……」
ジェラルドの言葉にテオも驚いたように声を上げる。
「殿下、早すぎます。きっと退却したんですよ!」
私とギンはあきれて顔を見合わせた。
……。




