51 石ころあげたらお供になりましゅ
私の診察を終えると、フィルナー医師は私の歯形が付いた指をさすりながら、「昨日の少年はどこですか?」とスーザンに聞いている。
やっぱり、ギン目当てだったんだわ。
「エドガー、帰るときには声を掛けるからゆっくり話してくるといい」
目の前の少年がフィルナー医師に手を挙げて合図する。
ふ~ん。で、あなたはどうするのかしらね?
少年は私の方へ近づいてくると私の目の前に手を差し出した。んっ? 何か欲しいのかしら? ベッドの上の私はあいにく何も持っていなかった。
「あの、今は何も持っていないでしゅ」
「何も持っていない?」
少年は意味が分からないように首を傾げた。
困ったわ。
ふと、横の棚を見る。そうだ、昨日沢山拾ってきたんだった。
私はベッドを降りると窓の下の籠の中を探る。一番小さいやつはどれかしらね。ごそごそやりながら、一番小さな卵型の石を一つ掴んで少年の手のひらにのせた。
「これは……」
「あげるでしゅよ。他に何もないでしゅ」
ずっと静かに控えていた従者の少年が口を挟んでくる。
「あっ、殿下。これは何かおねだりしたのと勘違いされていますね」
「テオ、君は壁だ。口を開くなと言ったと思うが……」
「でんか……?」
私が呟くと目の前の少年はニッコリとほほ笑んだ。
でんかとは? 電化製品じゃないよね? と言うことは王族?
「ありがとう」
目の前の少年は私の手を軽く握るとそっと自分の口元へもっていった。
見たことがある。王子様がやるやつだ。
「僕はジェラルドだよ」
「じぇらーど?」
私の頭の中には昨日食べそこなったアイスクリームが浮かんだ。美味しそうな名前だ。
今度はゆっくりと、噛んで含めるように発音をしてくれる。
「ジェ、ラ、ル、ド」
「じぇりー?」
今度はぷるるんと揺れる真っ赤なイチゴのゼリーが頭に浮かんだ。
「ぷっ!」
と、また壁になり切れないテオが吹き出して、ジェラルドの鋭い視線が飛ぶ。
「テオっ」
テオはその視線を避けるように横を向いた。
ジェラルドは大きなため息を1つついた。
「君はルリアだね。僕達は気が合うと思わないかい?」
首を傾げた。名前は美味しそうだけど、気が合うかどうかはわからない。
黙って首を振ると、壁際のテオがうつむきながら肩を震わせているのが気になった。
「アイス食べたいでしゅ」
私が言うとジェラルドはニッコリとほほ笑んだ。王子様スマイルだ。だまされちゃいけないやつだ。
「ルリアの朝食はまだかい?」
ジェラルドの言葉に頷いた。
「一緒に食べりゅ?」
ジェラルドは嬉しそうに笑う。
「いいね」
ジェラルドの言葉に、スーザンは慌てたように口を開いた。
「ご用意しますね。お嬢様は食堂に行かれますか?」
スーザンの言葉に頷いた。皆で食べるご飯は美味しいんだ。
後ろからレオンがサッと私を抱き上げた。
「れお?」
「まだ、熱が下がったばかりだ」
レオンはそれ以上何も言わずに歩き出した。護衛もなかなか大変なんだね。私たちの後をジェラルドたちがついてくる。
豪華じゃないいつもの食堂。長いテーブルがポンとある。良いのかな? お客様もここで……。チラッと後ろを振り返るけど、ジェラルドもテオも気にはしていないみたいだった。
私にはかぼちゃのスープとパンケーキ。パンケーキにはフルーツとアイスクリームが添えてあった。
ジェラルド達には採れたての野菜サラダ、ポテトサラダ、かぼちゃのスープ、オムレツ、ふわふわのパン。どれも美味しそう。デザートにはプリンもあった。
お肉は出てこなかったけど、まぁ、良しとしよう。
ジェラルドはスープを口にすると驚いたように声を上げた。
「えっ? これは美味い!」
隣でテオも感激したように呟いていた。
そうでしょう、そうでしょう。我が家のご飯は美味しいのよ。
「このパンは……」
ジェラルドはふわふわのパンを手にしたまま不思議そうにつぶやいた。
「殿下、王宮のご飯より美味しいんじゃありませんか?」
テオに言われたジェラルドも頷いた。
「ここのコックは凄いな」
へへへぇ、テッドが褒められちゃった。なんだか嬉しい。
「テッドはお料理が上手でしゅ」
胸を張って、そっくりかえらんばかりに答えた。
「ところで、ルリア、この石はどこで手に入れたのかな?」
食事も一息つくと、ジェラルドはさっきあげた石のことを聞いてくる。やっぱりお目が高いわ。この石は可愛いもの。
「ルリアのお庭で拾うんでしゅよ」
私は得意げに答えた。
「お庭? このお屋敷の?」
私は首を振った。
「ここはおとうしゃまのお庭でしゅ。ルリアにはルリアのお庭がありましゅ」
私はちょっと自慢げに言う。
「それはすごいね。ぜひ見てみたい」
興味深そうに瞳を輝かすジェラルドに、私は機嫌がよくなった。
「今度行きましゅ。一緒に行くでしゅか?」
「いいね。是非一緒に行こう」
私はちょっと考えた。馬の上でポイポイ投げられるのは、もう勘弁して欲しい。
「でも、馬車がいりましゅ」
馬車ならおやつも食べられるし、ゴロゴロとゆっくり寝られる。
「わかった。馬車はこちらで用意しよう」
やったぁ! 馬車ゲット! 心の中でガッツポーズをした。
「仕方ないから連れて行きましゅ」
仕方なさそうな感じを装ってみた。レオンがドアのところであきれた感じで立っていたのは見ないようにした。
馬車の方がいいんだからね。
本当にもうっ!




