45 遭遇?
「グゥゲェ!」
叫び声と同時にしりもちをついた。グゥゲェ?
目が合ったのは若草色の大きなふとっちょトカゲだ。向こうも驚いてしりもちをついていた。
トカゲって肉食? ワニだと肉食だけどこのふとっちょはどうなんだろう?
私がおそるおそる右手を上げる。
「は、は~い」
するとトカゲも左手を上げた。鏡みたいだ。真似しているのかな?
今度は右足を上げてみた。すると、トカゲも左足を上げる。
真似っ子だわ。
私はそっと立ち上がった。
ぴょんと跳ねてみると、トカゲは立ち上がると、ぴょんぴょんと跳ねる。
違うから。ぴょんは1回だけだから。
私は指を一本立てて首を振った。それから1回ぴょんと跳ねる。すると今度は1回だけぴょんと跳ねた。
あらっ、よく分かるわね。この子は頭が良いかも。
ふふふ……まるでイルカのトレーナーになった気分だわ。
「あなたおりこうさんでしゅね。はいご褒美」
気分が良くなった私は、カバンからカステラ焼きを1個出すとトカゲの前にポイッと投げた。トカゲは長い舌を伸ばすと上手に受け止めてペロッと食べた。
調子に乗って、3回回ってワンを教える。トカゲは自分のしっぽを追いかけるように回ると「グワーッオ」と言って赤い炎を出した。
「凄いでしゅ。炎も出せるんでしゅね」
私は嬉しくなって、とっておきのチーズバーガーもあげた。
これには大喜びでぴょんぴょんとバク転まで披露してくれる。
「ブラボー!」
大きな拍手をしてあげた。
「なにしてる」
冷たく響き渡る声がして、向こうの茂みからレオンが現れた。
トカゲは驚いて私の後ろにサッと身を隠す。
ちょっと、人を盾にするのは良くないと思うんだけど……。私は貼り付けた笑顔で落ちてきた穴を指さした。
「お、落ちたでしゅよ。痛いでしゅ」
そう言うと屈んで足をさすってみた。
レオンは冷たい声で、
「ずいぶんと、はしゃいでいたように見えた」と呟いた。
見てたんかい。早く言ってよ。私はひきつった笑顔を浮かべると、話題を変えることにする。これ以上突っ込まれるのはまずいものね。スーザンのため息が聞こえてきそうだわ。
「みんなは?」
私がとぼけて聞くと、レオンは私の後ろを興味深そうに見ていた。
「そろそろ来るだろう。その生き物はなんだ?」
「トカゲさんでしゅ」
あら、レオンはトカゲを知らないのかしら? まだまだ子供ね。
「トカゲか……?」
レオンが眉根を寄せて考えていた。
「姫様~! 大丈夫でしたか~?」
遠くの方から声がして、ギンとクーガ、ホルンがものすごいスピードでこちらに駆けて来るのが見えた。
「お薬ありますから、どこかけがはないですか?」
ギンはそう言うとそばに寄るなり、いきなり私を持ち上げて逆さまにする。
「ちょっ、ちょっと。たしゅけて~」
「大丈夫そうですね」
ギンはそう言うと元に戻してぎゅってしてくれた。
待って、逆さまにする意味あるの!
「すりむいたでしゅ」
私はそう言って両掌をギンの目の前に持っていった。滑り落ちたときに擦りむいたんだ。
ヒリヒリしているんだから……。
ちゃんとケガしているんだからね。もうっ!
ギンが「それは大変です」と言ってお薬を塗ってくれる。
よしよし。
「姫様、後ろにいるのは……」
クーガが私の後ろを指した。
「ちょっと、太めのトカゲさんでしゅ。お友達になりましゅた」
友達って言うか餌付けしただけだけどね。ふふふ……。
「これ、トカゲ……か?」
クーガも不思議そうに考え込んでいた。
「炎も出すでしゅ」
私が自慢げに言うと、トカゲも嬉しそうにぴょんと跳ねた。
「炎? それって竜じゃないですか」
クーガの目が輝く。
「竜?」
この世界には竜がいるの?
しかも小さくない? タツノオトシゴ的なのかしら?
サイズも見かけも、トカゲと変わらないし。なんなら前世、動物園で見たワニの方が大きかったんだけど……。
「いやぁ、まじか!」
クーガに見つめられて竜は私の後ろに、ぴとっと張り付いた。
「大丈夫。クーガは食べないと思うよ」
私はそう言いながら竜の頭を撫でてあげた。
「姫様、竜に何かあげましたか?」
あげたらだめだったのかな? 目が空中をさまよった。
「えっ、えーと」
「どうせ、カステラ焼きとハンバーガーぐらいだろう」
レオンはそう言うとサッと私を抱き上げた。
ギンは白いお花を見ていた。何のお花なのかな?
「戻るぞ」
「えっ? ここで遊ぼうよ」
「こいつの親がいるかもしれない」
親がいる?
「この子は子供でしゅか?」
「生後7日経っているかなぁ? たぶんそのぐらいかと」
クーガの言葉に驚いた。7日でもうあんなに賢いんだ。確かに竜のお家を邪魔したらいけないものね。私は竜に手を振った。
ギンは白い花を摘むとカバンに入れていた。後で何のお花か聞いてみよう。
「れお、誰か来たでしゅか?」
さっきの侵入者はどうなったんだろう?不思議に思って聞くとレオンは口角を上げた。
「たっぷりと、お礼をしておいたから、もう来れないだろう」
お礼……?
レオンの瞳にはもう何も映っていなかった。
これはかなりこてんぱにやったってことだわ。詳しく聞かない方がいいこともあるのよね。
私はそっとご冥福をお祈りした。
……なぁむ~
――合掌。




