44 鉱山、おまけつき?
レオンが素早く私を抱き上げた。
全員が四方に散り警戒態勢を取った。
私は皆の頭上を確認するけど誰一人としてポップアップは出ていなかった。ほっと胸をなでおろす。命の危険はなさそうだ。
レオンの腕から降りるとシートの方へトコトコと歩いて行く。
「スープ飲むでしゅ」
石の上にちょこんと座りながら言うと、レオンが呆れたように私を見た。
「姫様、危険ですよ」
ケルンの言葉に首を振る。
「大丈夫。夜襲はないでしゅ」
私の言葉に皆が顔を見合わせた。
「お告げか……」
誰かが呟いた。
「お告げだな」
皆がそれぞれ呟くとシートに戻ってくる。レオン以外は……。
「れお、スープのむ」
レオンは私の誘いを無視して、鋭い視線を周りに配っていた。
その時ウィズの持っている魔道具が光る。
「レオン」
「侵入者か」
レオンの言葉にウィズが頷いた。
「ギンとホルンはルリアの警護に残れ。後は行くぞ」
レオンがそう言うが早いか、あっという間に消えていく。目の前のクーガを除いて。
残るのはギンとホルンだけ……じゃない?
「クーガはいかないでしゅか?」
「スープ飲んでから行きます。ちょっと奥も気になるし……」
洞窟の奥へ目をやるとクーガはそう言った。それからクーガはカップから、ずずずっ~とスープをすすった。
奥って……。さっきの音かしら?
洞窟の中は音が響くって言うから、小さな音も大きく聞こえただけかもしれないわね。心配し過ぎよ。
「パンも食べるでしゅよ」
私はパンを取ってあげた。
それに、入り口の方は、どう考えても4人も行けば大丈夫な気がした。皆優秀な影達だから。
「みんなで先に全部食べちゃうでしゅ」
私の言葉に皆で頷く。
「姫様の言うとおりだな」
ホルンが言えばギンがデザートに持ってきたアップルパイを切ってくれた。
クオ~ン……
んっ? また何か聞こえた?
クーガの顔を見る。何かを思い出すように眉間にしわを寄せていた。
「動物の声に聞こえますね」
ギンが興味深そうに洞窟の奥へ目を向けた。
「どうも気になるな。行ってみるか」
クーガがそう言うと立ち上がった。
「みんなが戻るまで待つんだ」
ホルンが低く呟いた。いつも穏やかなホルンにしては珍しかった。
「ホルン? 何かあるの?」
私が聞くとホルンは洞窟の壁を指した。
「古い壁画がある。ここは古代の遺跡に違いないから、慎重にした方がいい」
ホルンの指した壁には、よく見れば、確かに黒い石で書いたような絵が描いてあった。
壁画なの?
「罠とかありそうだな」
ギンの呟きにクーガが顔を輝かせた。
わぁお~。
遺跡に罠!
なんて素敵なの! まさに映画の世界じゃない! ワクワクが止まらない。
つまり、映画のような罠がいっぱいあるんだわ。見たい!
「奥に、行くでしゅよ!」
私の言葉にホルンはしまったというように頭に手をやった。
「食べたら行きましょう」
ホルンが仕方なさそうに言うと、クーガとギンが目を輝かせた。
大きな口でアップルパイをほおばる。ギンが火の始末をしている。お茶を飲んでから私は立ち上がった。
もう皆食事は済んだみたいだ。早っ。
ホルンが石を積んでいる。なんだろう?
「姫様、暗号です。レオン達への伝言になります」
ギンがそっと教えてくれた。暗号なんだ。
「先鋒はクーガ、しんがりは俺、ギンはルリアを頼む」
ホルンの言葉にギンとクーガが頷いている。一応作戦会議をしている。こういう所はきちんとしているんだね。
その間に私は洞窟の中を見て回っていた。
ホルンの言う壁画ってこれなのかな? 明かりを向けると、墨で描いたような絵がぼんやりと浮かんだ。
壁を指で撫でていると、隙間から風を感じた。空気が流れているんだわ。
ここから隙間風が入ってくるのかしら? 石壁をなぞりながら、出っ張りに少し力を入れてみる。
「あれ、これ動く?」
なにげなく両手を付けて押してみたら、そのまま、壁がストンと開いて、身体が向こう側へ落ちていく。
「きゃっ!」
短い悲鳴をあげたけどそのまま私は壁の中を下へ頭から滑り落ちていった。前世でも滑り台を逆さまに滑り降りるのは苦手だった。
きゃぁ~! むなしく声だけが響いている。
ああ、こういうの、映画で見たことがある。
下には大抵たくさんの蛇がいたりするんだ。蛇じゃなきゃムカデだったり……。
お願いだからどっちも出てこないで。このままじゃその中に頭から突っ込むじゃない!
上の方で「あれっ? 姫様?」って誰かの声が聞こえたけど、『ここよ!』って叫んでも、ああ~聞こえないわよね~~!
きゃぁ~~!
レオンのおばかぁ~~~~!
レオンに責任があるわけじゃないけど、誰かのせいにしたかった。
原因他人説!
きゃぁ~~! お願い、誰か気づいて、助けて!
真っ暗な穴の中、下の方がほのかに明るかった。どうやらあそこが出口みたい。私はぎゅうっと目をつむった。
ま、魔法が使えたらいいのに……。
無駄な努力だとは思ったけど、イメージだけはしてみる。こうふわっと落ちる感じでね。
ええい、ままよ~!
ぽふっと衝撃が来て、ぎゅっと手を握る。手に触るのは草みたいだった。長くてにょろにょろしたものに囲まれていたらどうしよう。
おそるおそる目を開けてみれば一面の草。
……洞窟の地下だよね……ここは?
草地の中で向こう側には、一面の白い花?
どこからか地上の光がスポットライトのようにあたっていて、その下に白い花が咲いていた。
さらさらと、小川のせせらぎのような音も聞こえる。
きれい……。
ここなら、皆が探してくれるまで、待っていてもいいかも。
起き上がろうとして気が付いた。
んっ? 湿った感覚がふくらはぎに……?
何かが足元にいる。
蛇みたいなニョロっとしたものでなめられていることに……。
そういえば、さっき動物の鳴き声がしたかもしれない。
背筋が一気に寒くなり、心臓が早鐘を打つ。
もしかして、今、味見されたとか……。
見たいけど、見たくない。
振り返るべきか、このまま死んだふりをするべきか……。
悩むこと3秒。
私は恐る恐る振り返った。
金色のビー玉みたいな瞳と目が合った。
ぎゃぁ~~!




