40 夢の中で食べそこなった朝!
目が覚めると、昨日までの重たい感じが嘘みたいに消えていた。
ベッドから起き上がるとお腹がぐぅっと鳴る。そういえば、昨日の夜ご飯……呼ばれなかった気がする。
……もしかして。
私、冷遇されているの!?
お夕飯に呼ばれないのはキツイ。美味しくご飯を食べるのが私の信条なのに……。
もう、テッドに文句を言わなきゃ。今度から美味しい料理のレシピは教えないからって脅したらいいかしら?
そんなことを考えていると、スーザンが部屋に入ってきた。
「お嬢様。ご気分はいかがですか?」
めずらしくスーザンが優しく声をかけてくれた。
いつもなら「朝ですよ!」と勢いよくカーテンを開けるのに、今日はやけに静かだ。
んっ? 何か心境の変化でもあったのかな?
「お腹しゅいた」
私が言うと、スーザンはニッコリとほほ笑んで「すぐにお持ちしますね」だって。
食堂に行くんじゃないの? スーザンはいったいどうしたのかしら? 熱でもあるんじゃない?
「お熱あるの?」
私が聞くと、スーザンは自分の額ではなく、私の額に手を当てた。そっちじゃないってば。
「ちがう、スーザンよ」
私が言うと、スーザンは不思議そうな顔をした。
「私に熱はありませんよ」
そっけなくそう言うと、そそくさとかぼちゃのパンツを私に渡す。
「お食事は、まだお部屋ですからね」
お部屋でご飯? なぜ?
やっぱり、誰かが私を陥れようとしているのかしら……部屋から出さないつもりとか?
……陰謀の香りがするわ!
もんもんとそんなことを考えていると、テッドが部屋に朝食を運んできた。
そうよ、昨日お夕飯をくれなかった。食べ物の恨みは恐ろしいのよ! 私はちょっとジト目でテッドをにらんでしまった。
テッドは私の方をチラチラと気にしながら、朝食のスープをよそってくれた。私の視線が刺さるのね。
プ~ンと優しいコンソメの香りが鼻をくすぐる。一口飲むと、ささくれた心がじんわりほどけていく。
「美味しい。お替りありゅ?」
私が聞くとテッドは嬉しそうにうなずく。
「お嬢様、お聞きしたいのですが、ハンバーガーとはどのようなものですか?」
「ハンバーガー?」
ん? ハンバーガー?
この世界にもあるのかしら?
「どこでそれを聞いたんでしゅか?」
テッドは不思議そうに私を見た。
「昨日、お嬢様が食べたいとおっしゃっていたと、ジャックのやつが言ってまして」
ああ、そういうことね。昨日、熱に浮かされて夢で見た事を思い出した。ハンバーガー食べそこなったんだわ。
それを思い出した途端、無性にハンバーガーが食べたくなった。フライドポテトだって久しく食べていない。
——そうよ。
その瞬間、頭の中で何かが繋がった。
カステラ屋さんの隣で、ハンバーガーも売ればいいのよ!
さっそくベッドを抜け出して、テッドと一緒に厨房へ向かう。
テッドはまだ不思議そうな顔をしている。
「お嬢様、お熱は下がったとはいえ、無理は……」
「大丈夫でしゅ! それより、お肉! まぁるいパン!」
私の勢いに押され、厨房にいた見習いのジャックとウィズも慌てて食材を用意し始めた。
「いいでしゅか、お肉は細かく叩いて、まぁるく平べったくするんでしゅ。つなぎに卵とパン粉を少し入れて……そう、それでしゅ!」
テッドは見事な手際で牛肉をミンチにし、パティの形に整えていく。
「これを、熱した鉄板で焼くのでしゅ!」
「鉄板で、ですか。よし……」
ジュウウウウッ!
肉が鉄板に触れた瞬間、暴力的なまでに食欲をそそる香りが厨房に弾けた。
牛肉の脂が焼ける匂いに、ジャックとウィズの喉が、同時に鳴った。
「すごい匂いです……」
「裏返して! 焦げちゃダメでしゅ!」
「はいっ!」
テッドがパティを見事にひっくり返すと、表面にはカリッとした焦げ目がついていて、中からは肉汁が溢れ出している。
「パンも半分に切って、少しだけ焼くんでしゅ。そこに、お野菜と、お肉をドーン! でしゅ!」
仕上げに、赤いトマトのソースをたっぷりとかけて、上のパンで挟む。
「こ、これが……ハンバーガー?」
テッドが信じられないという顔で、完成したばかりのそれを皿に乗せた。
「テッド、食べてみてくだしゃい!」
「私がですか!? しかし、これはお嬢様が……」
「毒見でしゅ」
テッドは一瞬ためらい——やがて覚悟を決めたように、ハンバーガーにかぶりついた。
サクッ、ジュワァァァ……。
「!!」
普段は無表情のテッドが、まるで子どものように目を輝かせた。
「……っ」
言葉にならない息が、わずかに漏れた。
「……美味い」
それは、テッドが初めて見せる顔だった。
ジャックとウィズもよだれを拭っている。
ふふん。現代のファーストフードの王様をなめちゃいけないわ。
「これを、カステラ屋さんの隣で売るんでしゅ!」
「売れます! 絶対に大流行りしますよ、お嬢様!」
——こうして、ハンバーガーが完成した。
あとはウォルフとあの20人のクリーナーズに、お店を任せるだけだわ!
カステラ屋の隣にハンバーガー屋。
完全に時代を先取りしているでしゅ!
私って天才かもしれないでしゅ!
……って、いけない。
興奮しすぎて、また心の中まで完全に3歳児になっていたわ。中身はいい年の大人なのに。
コホン、と心の中で咳払いをして誤魔化すけれど、
レオンの冷たい視線が、突き刺さった気がした。
……気のせいよね。きっと。




