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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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39/42

38 3時のおやつはカステラです。


 新しいおじさんはウォルフといいます。

 ……でも、どう見てもカステラ屋には似合わない。


 いつも背筋をピンと伸ばし、礼儀正しいその姿には、武士みたいだ。絶対に似合わないカステラ屋の前に文句も言わず立ち、お客様に頭を下げている。用心棒兼番頭さんだ。


 縁日で焼きそば焼いてる方が、よっぽど似合うわ。そんなことを考えていると、向こうからギルドマスターがやってきた。


 ギルドマスターはウォルフを見ると少し驚いたような顔をした。そうよね。暁組のナンバー2が、カステラ屋の番頭なんて。


 様子を聞きに来たギルドマスターに「女の子と少年しかいないので、用心棒を雇ったんです」と言ったら、呆れた顔をされた。


 そうよね。ギルドマスターは知っているのよ。皆が凄腕の暗殺者だってことをね。おまけに用心棒は『いぶし銀のウォルフ』だものね。


 私は何も知らない顔をした。帰り際にギルドマスターがそっと私に耳打ちする。「まさかとは思うが……死体なんぞ隠してないだろうな?」


 な、なんてことを言うんですか。

 墓地に死体は増やしていないし、私がそんな事をするはずがないでしょ。思いっきり、あっかんべぇ~をしておいた。


 なんて失礼な人ですかね。ふんっ!


 ギルドマスターを見送っていると、目の前にカステラの空き袋が風に吹かれて飛んできた。

 お店の周りにポイ捨てされたゴミを見つけ、私は頬を膨らませた。


 「これじゃ『カステラ・ゴミ屋』になっちゃいましゅ!」


 そうよ、前世でも、ポイ捨てとゴミは大きな社会問題になっていた。特に旅行者の多い地域では問題が多いのよね。


 お掃除する人も楽しくないとダメよね。某テーマパークのお掃除の人が頭に浮かんだ。


 私は、すぐにギルドマスターからせしめた高級な紙とペンで、大きな張り紙をホルンに書かせてお店の前に貼ってもらった。


 【急募】

  お掃除係パフォーマー

 ・街をピカピカにするお仕事です。

 ・**『特技(芸)』**がない人は不採用。

 ・お給料は相談。美味しいカステラの端っこ付き。



      ♢      ♢      ♢


 翌朝、暁組の構成員だった男の1人が、震える足で店の前を通りかかった。この間の襲撃失敗以来、影の視線に怯え、組に帰れず、野宿していた。


 「……掃除係? 芸……? よくわからねえが、ここにいればあの『影』には殺されねえはずだ!」


 男は周囲をキョロキョロと見回すと、他の連中に知られまいと、


 ——ガバッ!

 張り紙を破り取った。


 「へへっ、これでこの仕事は俺様のもの……」

 「……おい。自分だけ助かろうなんて、いい度胸じゃねえか」


 背後から聞こえた低い声に、男の心臓が跳ねた。振り返ると、そこには自分と同じようにボロボロになった残りの19人が、虚無の目で、ずらりと並んでいた。


 「お、お前ら……いつから……」

 「張り紙が出た瞬間から全員見てたよ。お前が破るのもな」

 「ぜ、全員で……行けばいいだろう」

 「まあな」


 そう言うとみんなで目配せをする。


 20人全員、影に怯えて帰る場所を失っていた。

 だからこそ、張り紙は——唯一の救い、に見えたのだ。


 その日、20人の男たちが、カステラ屋の前に整列した。


 店から出た私は、クッションを高く積み上げた椅子に座った。その横には、元上司のウォルフが冷徹な目で、逃げ場を塞ぐように立っている。


 「では、試験を始めましゅ。お掃除しながら、お客様を笑顔にする芸を見せてくだしゃい!」


 男たちはパニックに陥った。人を脅す芸なら知っているが、笑わせる芸など持ち合わせていない。


 1人目: 雑巾がけをしながら、筋肉をピクピクさせてリズムを刻む。


 2人目: 必死に掃除をしながら、ナイフをジャグリング(ただし包丁)。


 3人目: 地面を掃きながら、裏声で「うさぎさん」の真似をする(地獄絵図)。


 私は厳しい目で「めっ!」と指を突きつけた。


 「笑顔が足りないでしゅ!」

 「めっ!」

 「 もっとキラキラしてくだしゃい!」

 ダメ出しを連発した。


 結局、20人全員がダメダメだった。でも……全員、必死だった。


 「次はいないでしゅか?」

 「……仕方ないでしゅね。まとめて面倒を見てあげましゅ。今日からあなたたちは『カステラ・クリーナーズ20』でしゅ!」


 私の宣言とともに、過酷な特訓が始まった。


 「いいでしゅか? ほうきは『魔法の杖』でしゅ! 」

 「ワン、ツー! 」

 「ワン、ツー!」


 私の鼻歌に合わせて、大男たちがほうきを連結させ、1列に並んで足を高く上げる。


 「ううっ、筋肉が……」

 「笑顔だ! 笑顔を作れ! お嬢に『めっ!』されるぞ!」


 そして数日後、ついに、その時が来た。


 午前10時。

 最近ゴミが増えたと、不満が出始めた頃。


 カステラ屋の前から、軽快な足音が響いた。


 ザッ、ザッ、ザッ!


 「「「お客様、おはようございますっ!!」」」

 「お歌、スタートでしゅ」

 

 「ほうきを振って〜♪ ピカピカにして〜♪ 3時のおやつは〜カステラでしゅ〜♪」


 いかつい男たちが、一糸乱れぬ動きでほうきを振り回し、足をピンと跳ね上げるラインダンス。

 足が揃いすぎていて、軍隊より揃っている。気づけば、道行く子供たちが目を輝かせて手を叩いていた。


 「みなしゃん! キラキラしてくだしゃい!!」


 「「「はいっ!!!」」」


 20人の大男が、

 満面の笑顔で——

 キラキラポーズを決める。


 完璧に。


 街中の人々が足を止め、口をあんぐりと開けて見守る中、男たちは踊りながら四方に散り、ゴミ1つ見逃さぬ速さでお掃除を開始した。


 「……何、今の?」

 「凄いわ……道が、鏡みたいに光ってる……!」


 私は店先でミルクティーを飲みながら、満足げに頷いた。


 「ふふん。これで街はピカピカ、

 次の準備も捗りましゅね」


 私は静かに呟いた。お前はまた何か企んでいるのかと、レオンが冷たい視線を投げているが、どこ吹く風だ。


 ——それを見つめる、小さな影が2人。


 ギルドの店内から、外を見つめる少年が2人。いつぞやの倉庫で遭遇した少年と同じようにマントのフードを深くかぶっていた。


 「……見つけた」


 2人の視線の先では、3歳の幼女が、ミルクティーを飲みながら——

 20人の元ゴロツキを踊らせている。


 「やっぱり……噂は本当だったな」


 もう1人は、静かに頷いた。



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