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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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36 墓地だからって死体は増やさないでね!


 どのくらい走ったんだろうか。


 私はレオンにひょいと抱えられながら、王都の街並みを眼下に、ぴょんぴょんと屋根の上を行く。後ろから魔道具を片手にウィズが追ってくる。


 「どうだ、このマジックブーツは。結構速いだろう」


 ウィズは走りながら器用に足を上げて、キラキラと魔石のついたブーツを見せながら、自慢げに私たちの顔を窺った。


 「魔力の無駄遣いだ」


 すげなくレオンに言われて、ウィズがちょっとしゅんとした。


 「まっ、改良の余地はあるな。で、どこに行くんだ」

 「墓地だ」

 「へぇ~、この時間からの墓地なんて、事件のにおいしかしないな」


 ウィズに言われて初めて気が付いた。もう、辺りは暗くなっている。夏でもないのに肝試しの雰囲気だわ。さっさと帰りたい。


 「すぐ、帰るでしゅ。お腹すいたでしゅ」


 思い出したとたんに、私のお腹が”ぐうっ”と鳴った。


 街の郊外に出て小高い丘を駆け上がると、眼下に広大な墓地が広がっていた。地平線に残るぼんやりとした一筋の明かりが、無数に立ち並ぶ墓石のシルエットを不気味に浮かび上がらせている。


 その薄暗い静寂の中で、一箇所だけ異様な気配が渦巻いていた。チカッ、チカッと、暗がりの中で火花のような光が何度も弾けている。剣がぶつかり合う光だろうか。遠目からでも、無数の黒い影が一点に群がっているのが分かった。


 私はその方向を指さした。


 「あそこに行くでしゅよ。皆、戦闘態勢でお願いしましゅ」


 「やっちまって良いのか?」と、クーガが言う。


 「久しぶりだな、腕が鳴るぜ」と、ジャックが腕をまくった。


 2人とも、なんだか楽しそうだ。


 なんか違う。楽しみに来たわけじゃないんだ。普通、緊張しない?


 「ここなら大きいやつ使ってもいいな」


 ウィズもぶつぶつ言っていた。


 もしかして、私、人選間違えた?


 ……いや、それよりも。


 あれ、助けないとまずい。


 「殺しちゃダメです。懲らしめるだけですからね。どこかちょんぱしたら、いけませんでしゅよ」

 

 いくら墓地だからって、死体は増やしたくない。


 一気に丘を駆け下りて墓地に足を踏み入れると、今度は激しい剣戟けんげきの音と、下品な男たちの怒声がはっきりと聞こえてきた。


 「へっ、いつまで保つかな!」

 「大人しくくたばれや!」


  群がる影の隙間から、一瞬だけ剣を振るう腕が見えた。


 腕が赤く染まっているのに、その動きはぶれていない。


 応戦する荒い息遣いも聞こえる。


 多勢に無勢で一方的に追い詰められているのは明らかだった。


 「レオン、どうするでしゅか!?」


 私が焦って見上げると、レオンは面白くもなさそうに鼻を鳴らした。


 「数に頼っているだけだな。あの程度の太刀筋なら、お前たちで充分だろう」

 「ああ、ちょっと食後の運動だな」


 ジャックが言えば、3人は頷くと、あっという間に私の目の前から消えた。


 影ってすごい。


 レオンは姿をはっきり見もしないのに、剣の音だけで相手の技量が分かるんだ。それも凄い。


 私を降ろすとレオンは、先ほどとは打って変わって、ゆっくりと歩いていく。さすがに疲れたのかしらね。そんなことを考えていると 前方でボン、と乾いた音が弾けた。


 夜空に上がった光が、一瞬だけ墓地を昼のように照らす。


 「終わったな」


 レオンが小さくつぶやいた。


 えっ、もう? 


 あれが、終わりの合図なのかしら。


 ……となると、レオンがゆっくり歩いていたのはわざと?

 ――まさか……私に血生臭い戦闘を見せないため?


 ううん、ないない。


 私は心の中で即座に突っ込んだ。あの戦闘狂が、そこまで気が利くとは思えなかった。


 ゆっくりと歩くレオンの背中を追いかけて進むと、石像の立ち並ぶ開けた場所に出た。


 そこには先ほどまで威勢よく怒声を上げていた20人もの男たちが、全員、両手両足をきつく拘束されて地面に転がっていた。


 だが、その何人かは――すでに剣を折られていた。


 力でねじ伏せたような、そんな折れ方だった。


 そして、その奥――。

 立派な石像に寄りかかるようにして、一人の男が座り込んでいる。


 (あっ……!)


 私は息を呑んだ。間違いない。さっき見た、私の夢に出てきたあの男の人だ。

 慌てて頭上を確認するが、不吉を知らせるポップアップは出ていない。


 (生きているみたいだわ。間に合ったのね。良かった……!)


 私がほっと胸をなでおろしていると、ひょっこりとウィズが石像の陰から顔を出した。


 「姫様。終わったよ。こいつら、たった1人を20人で囲むなんて、よほど腕に自信がないんだね」

 「レオン、こいつら、このままでいいか」


 ジャックがレオンに聞いてきた。


 ふふふ……なぜかいたずら心が湧いたの。


 「ジャック。全員からズボンのベルトを没収しましゅ」

 「はぁ? ベルト?」


 ジャックが怪訝な顔をする。


 「そんなもん要らねえぞ」


 クーガもめんどくさそうに答えた。


 「いいから。それから、カステラ焼きを1個ずつお口に突っ込んであげてくだしゃい」

 「ますますわけわかんねぇ。何でだ?」

 「試食でしゅよ。後日、ベルトを取りにお店へ来たら、カステラ焼きを買わせるんでしゅ」


 私はクーガとジャックに、万が一の時用に取っておいた非常食の袋を渡した。


 「両手が縛られてるから、しっかりお口に入れてあげてくだしゃいね」


 私がドヤ顔で指示を出すと、石像に寄りかかっていた、いぶし銀の男の人が「くくっ」と吹き出した。


 「お嬢……そりゃいいな」


 夢で見た時と同じ声だった。

 低いバリトンボイスがお腹に響く。素敵。


 「はっ、どこがだ」

 「両手両足使えねえんだ。ズボンはずり落ちたままだぜ。いいざまだな」


 クーガの疑問に答えるように、男の人は笑いを噛み殺しながら言った。


 レオンがこつんと私の頭に拳を落とした。


 「お前なぁ~」


 あきれた声を出す。でも、それを聞いたクーガたちはノリノリでベルトを回収して、お口に試食のカステラ焼きを放り込んだ。


 「これが、アメとムチでしゅ」


 私が自信満々に言うとみんなが首を振った。


 「「「違う!」」」


 ――!? そうかな……?


 まっいいか。


 「それより、大丈夫でしゅか?」

 「ああ、助かった。手間かけたな」

 「いやいや、うちの者たちの運動不足解消にちょうど良かったでしゅよ」

 「姫様。準備運動にもならなかったっす。もうちょい強い方がいいっすね」


 ジャックがおどけた様に言ってきた。


 男の人のそばに寄ると、私はカステラ焼きを1つ手渡した。チーズ味だ。


 (……この人、離しちゃいけない気がする)


 「これあげましゅ。うちに来るでしゅよ」


 この男の人を夢に見たんだ。今までにそんなことはなかった。きっと何か意味があると思うんだ。でも今日は疲れたから明日でいいと思う。とりあえずご飯が食べたい。


 男の人は、ぽんと差し出されたカステラと、私の顔を交互に見つめた。

 そして、周囲を見渡す。凄腕の暗殺者のような男たちが、文句も言わずに敵の口にカステラを突っ込んでいる異様な光景。それを指示したのが、目の前にいる膝丈ほどの幼女なのだと理解する。


 「……くくっ、あっはははは!」


 突然、男の人が腹の底から笑い出した。ひとしきり笑うと、右手を差し出す私の手を、大きな掌でそっと包み込んだ。


 「……ちいせぇな」


 男は、どこか愛おしむように小さく呟き、ほっと息をついた。その瞳には、得体の知れない大物を見るような熱がこもっていた。


 「縁は大切にしろと、昔、親父さんに叩き込まれた。こんな小さな恩人に助けられた義理、忘れちゃいけねえな」


 自分自身に言い聞かせるように、男は背後の石像を見上げた。


 「親父さんの前に誓おう。この底知れねえお嬢に……ウォルフが、仁義を尽くそう」


 ――その言葉に、どこか“懐かしさ”が混じっている気がした。


 男の人はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、ウォルフとして静かに頭を下げる。

 その背中には、どこか決意のような影が差していた。


 私のお腹が『ぐう~っ』となった。あっ! お夕飯まだだった。


 ポンと温かい手が私の頭に降りてきて顔を上げるとレオンが私を抱き上げた。


 「先に行く」


 短く言うとその場を去る。レオンの腕の中で、私はただ安心していた。


 この男の忠誠が、どんな未来を連れてくるのか――


 その時の私は、まだ知らない。




 



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