35 スタンプカードは強し
『ばいがえしでしゅ』
と書いた紙を、いつものように(2回目)食堂の壁に貼ると、みんなを集めた。
今回はカステラ屋が壊されたので、皆も殺気立っていた。
ガタッ、と大きな音を立てて椅子を引いたのはクーガだ。皆次々と席に着く。
「姫様、俺達にかかれば一発ですぜ」
そう言って、首を掻き切るジェスチャーをするのはジャック。
「毒ガスを撒きましょう」
ギンが静かに呟く。
「一発ドカンで消滅がいい」
手元でカチャカチャ魔道具をいじりながらウィズが言う。
いやいや、物騒だわ。そんなことをしたら、王都が大騒ぎで、私達、指名手配になるじゃない。
この年でお縄はきついわ。3歳なのに気分はおばあさんよ。
もっと、こう、なんていうかぎゃふんって言わせたい!
「まずは、状況を把握するでしゅよ」
「――でも、ただじゃ済ませないでしゅ」
「ちゃんと、“いやな思い”を思い出すくらいにしてあげるでしゅよ」
私は皆に、情報を集めるように言うと、後はホルンに任せた。若い人たちでどうぞ、っていう”あれ”だ。
お見合いじゃないって? そんなことを言ったって、そろそろお腹もすいたし眠い。
こういう時ほど、トップはどっしり構えているもの。
ボスは部下に任せるって決まってるの。めんどくさいわけじゃないんだからね。
心の中で言い訳をしながら、スーザンに「今日のお夕飯はなあに?」と聞いてサッサと食堂を後にした。
ゆっくり、ミルクティー飲みながらおやつも食べたい。今日は忙しかったんだ。
お部屋に戻って、ベッドにダイブする。ふかふかのベッドの上を転げまわれば、いつの間にか眠くなった。
そう、私はまだ3歳なの、そんなに難しい事は考えなくていいんだ。
うつらうつらしながら夢の世界へと旅立っていった。
***
ひんやりとした空気が辺りを包み、私ははっとして顔を上げた。
んっ? 寝たような気がするけど、ここは夢の中?
目を凝らせば、向こうで一人の男の人がお墓の前で拝んでいた。大きな石像が建てられた立派なお墓。何故お墓かと思うかって? 周りにはたくさんの石があって、映画で見た外人墓地に似ていたから。それに石像の前にはお花がいくつもあったから。
お墓の前にたたずむ男の人からは、静かながら大きなオーラを感じる。まるで人生を語っているかのようなその背中に、圧倒された。幾千もの山を越えてきたかのような力強さがあり、鍛え抜かれた戦士の様なその姿。短く刈られた髪の毛に白いものが混じっていた。
渋くってカッコイイ。
ロマンスグレーっていうのかしら。女の子がみんな好きになりそう。あ~お顔を見たい!
そう思った時に、ぴこん、と気配がはねた。頭上に現れるポップアップ。
でも、背筋に冷たいものが走り、サッと血の気が引く。
夢よね? これは夢だわ。その自覚があるのに、ポップアップだけは妙に現実味を帯びていた。
しかも、見ようと思うのに気配だけで、内容がよく見えない。
回りこみたいのに、足が動かなくて前へ進めなかった。声をかけたいのに声が出ない。
うっ、う~ん……うっ、う~ん……。
「お嬢様。お夕飯ですよ」
遠くでスーザンの呼ぶ声が聞こえる。でも、起きたいのに、目が開けられない。寝返りを打ちたいのに動けなかった。
「どうした?」
その時、低く静かな声がして、すっと身体を持ち上げられた。
聞きなれた声に安どして、金縛りが解けたように、はぁっ、と深く息を吐いた。
「れ、れお……?」
やっと瞼を持ち上げると、真っ直ぐに私をのぞき込む、深淵のような青い瞳と目が合った。
「うなされていた」
「お嬢様。汗びっしょりですよ」
スーザンが慌てたようにタオルを持って来て、私の額をぬぐった。
今見た夢が、鮮明に頭に残っていた。
ポップアップが出ていた。嫌な予感がする。
――見なきゃいけなかったのに。
ちゃんと読めなかった。どうしよう……。
私が思考の渦に沈んでいると、レオンがそっと私の前髪をかき上げた。スーザンが汗を拭いてくれる。
そうよ、しっかりしなくちゃ。とにかく、こういう時は考えていてもしょうがない。行動を起こさなきゃ。
夢で見たのはお墓だった。ポップアップは出ていた――でも、何が起きるかまでは読めなかった。だから、自分の目で確かめるしかない。
前世で学んだの。後悔先に立たず? だったかしら……。
「れお、お墓参りがしたい」
レオンがいぶかしげな顔で私を見る。
「――さっきの人、“まだ終わってない”って顔してたの」
「お嬢様? 怖い夢でも見ましたか? お参りするなら神殿の方が良いですよ」
スーザンが着替えのかぼちゃパンツを手にしながら笑顔で言う。お墓じゃ余計に怖くなりますよ、とぶつくさ言っていた。
「お墓が良いの。れお、連れてって」
レオンは何も言わずに外出用のマントを私に向けて放り投げた。マントがばさっと私の頭にかかる。
「誰か連れていくか?」
短くそう言うと、マントを羽織った私を抱き上げた。
見えたのはお墓だ。襲われるとしたら、何だろう? 戦闘には詳しくなかった。
「れお、強そうなのを2、3人でいいでしゅ。通信機もね」
すると、レオンがピュッと指笛を鳴らした。
「お嬢様お夕飯は……」
スーザンが言い終わる前に、バルコニーから外へ出ていた。スーザンの声が遠くなる。
「帰ったらたべるの」
眼下に広がるお屋敷に手を振った。
「レオン、食事中に呼び出すなよ」
「ウィズも後から来る。あいつ食べるの遅いからな」
声のする方を見れば、いつの間にか、隣にジャックとクーガが並走していた。
「ス、スタンプ案件でしゅ」
レオンの懐で私が呟くと、2人の瞳がキラッと光った。
「マジかよ。やったな」
そういってジャックとクーガが顔を見合わせてから拳を突き合わせている。
スタンプカードよ、お前は強かった!




