32 毒見は入念に
倉庫に潜む危険と、謎の少年。
ルリアの一手が物語を動かします。
「パパ」と呼ばれた少年は、一瞬、青く澄んだ瞳が見開かれた。
「おやおや、お嬢ちゃん。人違いだよ。僕にこんな可愛い子はいないよ。……迷子かな?」
「で、殿……! い、いつの間にお子様が……!?」
少年はそう言いながら私をサッと抱き上げると、狼狽えて口をパクパクさせている従者を、一瞥する。
「テオ、どう考えたら僕に子供ができるんだい? 言ってみてごらん」
「あ、いや、まさかそうですよね。……ということは、刺客です。捕らえます!」
隣のブルーグレーの瞳と目が合う。神経質そうに頬を引きつらせて私を睨む。この子はちょっと頭が固いのかもしれないわ。私に刺客が務まると思っているのかしら。
私は思いっきり舌を出した。
「べぇ〜〜だ!」
「なっ、なんと……淑女らしからぬその顔は……!」
「テオ、いい加減にしろ」
私は少年の耳元に口を寄せ、囁いた。
「パパ、その倉庫、ドッカンするでしゅよ。さっき聞いたでしゅ」
少年は辺りを見回した。周囲に怪しい者はいない。……バレないといいけど。
私は少しドキドキした。
「誰に聞いたのかな?」
「あっちから出てきた人がお話ししてたでしゅ」
私は倉庫を指差した。少年はテオと呼ばれた従者と顔を見合わせた。
「行ったらだめでしゅ。ルリアに任せるでしゅ」
少年の頭上のポップアップは、まだ燦然と輝いている。危険はまだ回避できていなかった。私は袋の中から金貨焼きを1つ取り出した。
「これ、美味しいでしゅよ。1つあげましゅ。半分こずつするでしゅよ」
小さな手で半分に割ると、私はその片方を目の前の少年の口に放り込んだ。
「ダメです! 毒に違いありません。毒見を……!」
慌てて割り込んできた従者の口に、少年は私の手から残りの半分をさっと取り上げ、従者の口に放り込んだ。
「んっ、ぐっ……!」
「大丈夫でしゅよ。チョコ味でしゅ」
私が笑うと、少年の表情が、わずかに緩んだ。
「ありがとう。美味しいね。……けれど、君に任せるわけにはいかないよ。……違うかな?」
私はちょっと首を傾げた。倉庫の方はどうなっているかしら。襟元のボタンを押し、魔道具でウィズを呼び出した。
「ウィズ、まだ時間かかるでしゅか?」
『姫様、あと少しだ。……これ、すげぇな。王家の秘宝か何かってレベルだぜ!』
通信機からキラキラした弾んだ声が返ってきた。すごく嬉しそうだ。これなら大丈夫そうね。続けて、 私はもう一人の仲間にも呼びかけた。
「れお、入るでしゅよ。いいでしゅか?」
『……全員、殺っちまってもいいか?』
「だめでしゅ。首と胴を、おさらばさせないでしゅ」
『いちいち注文がうるさいな』
「れお?」
返事を待たず、レオンとの通信が切れてしまった。
「……絶対わざと切ったでしゅね」
私はもう一度、少年の頭上を確認した。ポップアップはだいぶ薄くなっている。首尾は上々といったところね。
「大丈夫そうでしゅ。行きましゅか」
ドロドロの現場を見られるかもしれない。レオン、皆を始末したりしてないよね? 少しは残しておいてくれるかな?
ワクワクしながら見上げると、興味深そうな瞳と目が合った。
「通信用の魔道具か。そんなものが開発されたとは聞いていないな。テオ、君は知っていたかい?」
「いいえ。そのようなものが開発されれば、1番にお耳に入るはずですが……」
「君は、どこでこれを手に入れたのかな?」
おお、これは売れるかもしれないわね。その前に特許とかあるのかしら。
「作りましゅた! オリジナルなので、まだ秘密でしゅ」
私は得意げに胸を張った。また金貨ジャラジャラの予感。えっへん!
「それより、中に行くでしゅ!」
いつの間にか、少年の頭上のポップアップは消えていた。
――安全確保ね!




