31 パパ! おいていかないで!
広場で見かけた2人の少年――その違和感が物語を動かす。
ルリアの“勘”が、またしても面倒ごとを引き寄せる予感。
少年たちは、明らかに浮いていた。
王都の広場に溶け込もうとしているのに、溶け込めていない。
動きは自然。服装も冒険者風。なのに、空気が違う。
(……なにかしら。あの2人)
私はレオンに抱えられたまま、チョコ味の金貨焼きをかじりながら、じっと観察する。
2人とも、まだ若い。せいぜい13、4歳くらい。
それなのに、視線の動きが大人だ。
人の流れ。路地。屋台の位置。
まるで、何かを探している――というより、
(……誰かに、見られていないか、確認してる?)
そう。
探す、よりも、“警戒”している動き。
そして、私の視界の端で。
ピコン……と鳴りそうで、鳴らない。
1人の少年の頭の上。
ポップアップが、出そうで、出ない。
――ん。気になる。おトイレ行きたいのに出ないなんてイヤかも。
ポップアップが壊れたのかしら?
「れお」
私はレオンのマントをくいっと引っ張った。
「あの2人、なんか変でしゅ」
レオンはちらりと少年たちを見る。
その瞬間、空気がわずかに張りつめた。
「……勘がいいな……あいつら、素人じゃないな。動きが洗練されている」
やっぱり!
(ほら! ルリアの名探偵力、冴えているわ!)
2人のうち、背の少し高い方が、さりげなく位置を変えた。
もう1人を、半歩かばうような動き。
「すごいでしゅ。守ってますね。小さいのに」
私が感心したように言うと、レオンは呆れた目を向ける。
(……今の、私のことバカにした? それとも自分が褒められたいの? どっち!?)
「れおも、小さいのに凄いでしゅ」
とりあえずおべっかを言っておく。すると頭に拳が下りてきた。
「いっ、痛いでしゅよ! れお!」
「追うんだろ。行くぞ。無駄口叩くな」
その時。
2人が、ほぼ同時に視線を向けた。
向こう側の通り。魔法が動く気配がした。この真昼間に……
――カイトたちが「怪しい」と言っていた、あの方向。
(やっぱり!)
私は、レオンの袖をぐいぐい引っ張った。
「あっちでしゅ! たぶん、あっちで何かありましゅ!」
「お前は本当に、面倒ごとを嗅ぎつけるな」
そう言いながらも、レオンは私の指した方向へと足を向けた。
少年たちも、同じ方向へ。
距離は、少しずつ縮まる。
狭い通りに入った瞬間、周囲の空気が変わった。
賑やかな広場の喧騒が、嘘みたいに遠のく。
石造りの壁。細い路地。
視線が届きにくい、死角の多い場所。
(……あ、ここ、イヤな感じ)
私の背中に、ぞわっとした感覚が走る。
その時、前方で少年たちが立ち止まった。
低い声。
「……やっぱりだ。ここから先、気配が増えてる」
従者らしき少年が、小さく呟く。
「今日は、動きがおかしいな」
もう1人――落ち着いた目をした少年が、そう答えた。
その声には、年齢に似合わない重さがあった。
(この子……ただの冒険者じゃないわ)
私は、なぜか胸が少しだけ、きゅっとした。
大人みたいな顔。でも、背丈はまだ子供。
無理してる顔だ。
そのとき、
目の前が、一瞬だけ、ちらりと歪んだ。
まるで、別の景色が、重なったみたいに。
暗い倉庫。
倒れた人影。
ざわめきと、きつく鼻につく、鉄みたいな匂い。
胸の奥が、ひゅっと冷たくなる。
でも次の瞬間には、何事もなかったみたいに、景色は元に戻っていた。
(……また)
その瞬間。ピコンと気配が跳ねた。
やっと出てきたポップアップ。
(今決まったばかり……? だから遅れたのかも)
『倉庫、爆発、致命傷』
それを見た途端、血の気が引いた。
誰かが証拠隠滅のために爆発物を仕掛けたんだわ。
これって、ドロドロの結末でよくあるやつだわ。口封じの爆発よ!
だめよ、倉庫へ行ったら巻き込まれちゃうわ。
「れお、倉庫は爆発するから危ないでしゅ。あの子たちも危険でしゅ」
レオンは腕を組んでしばらく考える。
「時間的猶予はどのくらいあるか、わかるか?」
今までの経験からすると、すぐじゃない。すぐの時のポップアップならもっと前から出ているはずだ。今出てきたってことは、今決まったばかり?
「1時間は……あると思うけど、わからないでしゅ」
「それだけあれば、制圧できるな。とりあえず空いている奴全員呼べ」
私は、魔道具のボタンを押すと、「全員集合!」と声をかけた。これだけで位置も分かるらしい。凄いわね。この世界で科学が進まないわけが分かった気がする。いらないものね。
そして私は一番大事なことをする。
レオンの腕から降りると、目の前の少年の足元に縋りつく。
「パパ! おいていかないで!」
精一杯大きな声で泣き叫んだ。




