30 通信状況が悪いようでしゅ
何気ない広場で、物語はそっと動き始めます。
姫様の直感が示す先に、思わぬ影が揺れています。
「まずはリサーチからでしゅ」
「リサーチ?」
リクが不思議そうな顔をした。まだみんなには、馴染みのない言葉だわ。
「えっと……」
指示を出そうと周りを見渡すと、食堂の片隅で片付けをしているウィズとホルンが目に入る。
たまたま今日の当番だったのが運のつきね。私はニヤリと笑って、2人を手招きした。
「ウィズ、ホルン。指示に従うでしゅよ」
いきなり指名された2人は、きょとんとした顔でこちらを見る。
「2人とも、これはスタンプ案件でしゅからね。特別ボーナスでしゅ。働き次第で増えるでしゅよ」
私がそう告げると、2人は現金なもので、パッと顔を輝かせてこちらへやってきた。
私はカイトに、ホルンとウィズへ事情を説明するように促す。面倒な説明は、他人に任せる主義なの。
「姫様、これからどうします?」
ウィズが真剣な顔で私に聞く。背後ではホルンがレオンに何か小声で話していた。
「もちろん、どこの誰かを調べましゅ。
家族構成、いつどこで会うのか……徹底的に調べるのでしゅ!」
そこが一番重要なのよね。決定的な「不倫の現場」を押さえなくてはいけないから。
「とりあえず、カイト、リク、ソラの3人は、ハンカチを『わざと』落とす人を重点的にチェックしてくだしゃい。必ず2人1組で回って、残りの1人は連絡係でしゅ」
ふふふ……これであとは情報が上がってくるのを待つだけだわ。
「待てよ。通信用の魔道具を作ったから、離れてても声が聞こえる。これをそれぞれ耳にかけてくれ」
そう言うと、ウィズがポケットから何やら取り出した。イヤホンみたいな形のイヤーカフ。それをみんなに手渡していくとウィズ自身はもう一つのパーツをピンブローチのように襟元へ留めた。
(ウィズは魔道具作りが趣味だと言っていたけれど、これ、商売にできそうだわ……)
私の頭の中では、捕らぬ狸の皮算用。早速、頭の中の電卓がパチパチと鳴り始める。
まさに金貨がジャラジャラと降ってくる音だわ。ふふふ……。
またしても頬の筋肉が緩んでしまった、その時。
「いっ、痛いでしゅよ!」
いつの間にか、隣にいたレオンに頬をつねられていた。
「顔がだらしない。帰るぞ」
そう言うと、レオンはまたしても私をひょいとつまみ上げた。
「もっと、優しくするのでしゅよー!」
私は空中で足をバタつかせ、ふてくされた顔のまま帰宅することになった。
せっかく楽しい妄想に浸っていたのに! もうっ!
***
お屋敷に帰ると、早速ウィズを呼びつけて、さっきの魔道具を一式もらった。少年たちには、夜は危ないから動かないよう指示を出しておいた。
「姫様。俺たちも入っていいかな」
食堂に入ってきたジャックとケルンが言う。
「俺たち、平和すぎてうずうずしちまってさ。腕が鈍りそうなんだ」
ああ、わかる気がする。
他人の恋路が気になるお年頃なのね。
もちろんみんなで覗きに行きましょう。
「夜は、飛影のメンバーで見張るでしゅ。いいでしゅか。成果を上げるでしゅよ」
自分で言っておいてなんだけど、誰かに頼まれたわけでもない。あくまで趣味ですから。
いつの間にか、飛影のメンバー全員で見張りのシフトが組まれていた。
明日は私も現場に行くんだ。
レオンに連れて行ってもらおう。
楽しみでしゅ。
***
次の日の午後、レオンと王都の真ん中にある広場にやってきた。
ところどころに屋台が出ていて、昼も過ぎたこの時間は人も少ない。
広場には、ゆったりとした時間が流れていた。
「カイトたちが見たのは、向こう側の通りだぞ」
レオンが胡散臭そうな視線を私に向けてきた。
「お前は遊びに来ただけだろう」
そんな呆れたような視線を向けてくる。
確かにそうなのかもしれないけど、うちの飛影のメンバーは皆優秀だから、私は報告を待っていればいいんだ。
でも、この広場が気になったの。
ただのカン。
広場が私を呼んでいる……そんな気がした。
スパイ映画では、街のポストにチョークで印をつけたりする。
小さい頃に読んだ「アリババと40人の盗賊」の話でも、家のドアに印をつけていた。
だから、落書きをする人は怪しいと思うんだ。
袋に入ったチョコ味の金貨焼きを食べながら歩いていると、気になる2人連れを見つけた。
お揃いのカーキ色のマントを深く被っていて、前世のゲームで見た冒険者みたいだった。まだ若そうな少年たちは、何かを探すように辺りを見回している。
何が気になるって、1人の少年の頭上にポップアップが出そうで出ないの。
チラチラしているっていうか……見ているこっちがイライラしちゃうんだけど。
もうっ!
放っておけないわ。
私はレオンの袖を引っ張り、少年たちの方へ向かった。




