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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第23話 スズメとカラス

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(二)覚悟を決めて鳴く

◆ 欲の問題


シジミは少し感心した。


普段は騒がしいが、危険を理解していないわけではない。


カラスがいる。


巣がある。


近づけば追われる。


そこまでは正しく分かっている。


ただし、正しく分かっていることと、正しい行動を選べることは別である。


うちの人間も、


夜更かしをすれば朝つらい。


使えば金は減る。


食べすぎれば苦しくなる。


買えば物が増える。


すべて知っている。


知っていながら、同じことを繰り返す。


スズメも、危険だと知りながら、食事のために来る。


知能の問題ではない。


欲の問題である。


しばらくすると、六羽目のスズメが飛んできた。


枝へ止まるなり、家へ向かって大きく鳴く。


「飯!」


ほかの五羽が一斉にそちらを見た。


「馬鹿!」


「静かにしろ!」


「カラスいるぞ!」


六羽目は巣のある木を見た。


「あ」


今さら気づいたらしい。


カラスが羽を少し広げた。


スズメたちが身構える。


だが、カラスは飛ばない。


まだ警告の段階である。


六羽目が声を落とした。


「いるなら先に言えよ」


最初から見れば分かる。


巣のある木も。


枝に止まっているカラスも。


何も確認せず鳴いたのは、自分である。


それでも、ほかのスズメへ文句を言う。


人間に似ている。


自分が前を見ずにぶつかれば、


「そこに置かないで」


と言う。


自分が忘れれば、


「言ってくれればよかったのに」


と言う。


失敗したあとで、周囲が防いでくれなかったことを問題にする。


◆ 人間だけに聞こえる声


六羽目の声で、家の中から小さな物音がした。


寝台の上で、うちの人間が動いたらしい。


スズメたちが一斉に家を見る。


「起きた?」


「今動いた」


「もう一回鳴けば出てくる」


「でもカラスがいる」


「小さく鳴く?」


「小さかったら人間が起きない」


また同じ問題へ戻った。


食事を出させるには、大きく鳴く必要がある。


大きく鳴けば、カラスにも聞こえる。


人間だけに聞こえ、カラスには聞こえない声があればよい。


だが、そんな都合のよい声はない。


一羽目が言った。


「寝床の近くへ行く?」


以前、スズメたちは、うちの人間を早く起こす場所を見つけていた。


庭側の窓より、寝床に近い窓の前で騒いだほうが反応が早い。


家の中の間取りを理解したわけではない。


ただ、そこで鳴くと起きるのが早いことを覚えた。


二羽目が巣のある木との位置を見比べる。


「そっちのほうが巣に近い」


「じゃあ駄目だ」


「でも早く起きる」


「カラスにも早く見つかる」


「でも飯も早い」


「追われたら食べられないだろ」


スズメの集団は、完全に二つへ分かれ始めた。


安全を優先する者。


食事を優先する者。


別の場所へ行こうとする者。


少しくらい危険でも平気だと言う者。


自分は速く飛べるから問題ないと言う者。


誰かが先に鳴けば、自分も鳴くと言う者。


どの集団にも、自分から始めたくはないが、ほかの者が始めれば参加する者がいる。


◆ これだけいれば平気


七羽目と八羽目が飛んできた。


数が増える。


数が増えるほど、一羽あたりの危険は減るように思える。


カラスが追える相手は、一度に一羽か二羽である。


全員が別の方向へ逃げれば、自分が狙われない可能性は高い。


だが、食事の取り分は減る。


仲間が増えることは、安全でもあり、競争でもある。


七羽目が言った。


「これだけいれば平気だろ」


二羽目が答える。


「何が?」


「カラス」


「誰かは追われるぞ」


「でも全員じゃない」


「お前が追われるかもしれない」


七羽目は黙った。


自分以外の誰かが追われるときには平気に思える。


自分が追われる可能性を言われると、急に危険に感じる。


その点も人間に似ている。


遠くで起きる危険は小さく見える。


自分の近くへ来ると、急に大きな問題になる。


八羽目が家へ向かって、小さく鳴いた。


「飯」


小さすぎる。


うちの人間は起きない。


スズメたちも、それが分かったらしい。


「聞こえてない」


「もっと大きく」


「でもカラスが」


「さっきからずっと見られてるんだから、同じじゃない?」


たしかに、すでにカラスには気づかれている。


静かにしていても、庭の木へ八羽も集まっていれば目立つ。


それなら鳴いても同じだという考えである。


危険を避けられないなら、目的を達成したほうがよい。


少し乱暴だが、筋は通っている。


◆ 覚悟を決めて鳴く


一羽目が覚悟を決めた。


家へ向かって大きく鳴く。


「飯!」


ほかのスズメたちも続いた。


「はよう飯!」


「起きろ!」


「腹減った!」


一斉に鳴き始める。


庭が急に騒がしくなった。


巣のある木から、カラスの低い声が響く。


「静かにしろ!」


スズメたちが一瞬黙る。


だが、すぐに一羽が小さく言った。


「飯は?」


別の一羽が答える。


「まだ」


「じゃあ鳴かないと」


「でも怒ってる」


「怒られても飯は出ないぞ」


「鳴いても追われたら食べられないぞ」


再び葛藤が始まる。


そのとき、寝床に近い窓の内側で、布が少し動いた。


うちの人間が起きたらしい。


スズメたちが騒ぐ。


「起きた!」


「人間動いた!」


「もう少し!」


「飯!」


声が大きくなる。


カラスも鳴く。


「巣の近くで騒ぐな!」


スズメが鳴く。


「飯!」


カラスが鳴く。


「離れろ!」


スズメが鳴く。


「はよう!」


庭の上を、いくつもの声が飛び交う。


うちの人間が寝台から起き上がった。


栗色の髪を片手で押さえ、眠そうな顔で窓を開ける。


「今日も朝からにぎやかだなあ」


にぎやかという言葉だけなら間違っていない。


だが、中身はずいぶん穏やかではない。


スズメは食事を要求している。


カラスは巣へ近づくなと警告している。


スズメ同士では、危険を避けるか、食事を優先するかで言い争っている。


それを、うちの人間は鳥たちが朝の挨拶を交わしているように聞いている。


「のどかだねえ」


どこがだろう。


巣を守る親。


食事を求める集団。


互いに相手の動きを警戒している。


少なくとも、全員が落ち着いている朝ではない。



※第23話「スズメとカラス」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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