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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第23話 スズメとカラス

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(一)一羽だけ鳴く

◆ 危険だが腹は減る


カラスが子育てをしているあいだも、スズメたちは朝になると庭へ来ていた。


巣の近くへ不用意に近づけば、カラスに警戒される。


それをスズメたちが知らないわけではない。


むしろ、よく知っている。


カラスは大きい。


くちばしも強い。


飛ぶ速さも、スズメとは違う。


まともに争えば、勝てる相手ではない。


だが、スズメにはスズメの強みがある。


体が小さい。


方向を変えるのが早い。


枝と枝の狭い隙間へ入れる。


相手が飛びかかってくると分かっていれば、攻撃をかわすこともできる。


不意打ちさえ受けなければ、逃げることは難しくない。


つまり、巣がどこにあるのか知っていることは、安全につながる。


どこからカラスが飛んでくるか。


どの木へ近づけば警戒されるか。


どの枝に親のカラスが止まっているか。


それが分かっていれば、先に備えられる。


ただし、巣の場所を知っているということは、同時にその場所が危険だと知っているということでもある。


そして困ったことに、うちの人間が食事をまく庭と、カラスの巣がある木は近かった。


近いといっても、真下ではない。


だが、カラスから見れば、十分に警戒する範囲である。


スズメが庭へ降りる。


食べ物をついばむ。


数が増える。


騒ぐ。


飛び回る。


その動きが巣の近くへ広がれば、カラスは黙って見ていない。


スズメたちも、それを理解している。


それでも朝になると来る。


なぜなら、食事が出るからである。


危険である。


だが、腹は減る。


近づきたくない。


だが、食べたい。


その葛藤が、朝からスズメの集団の中で起きていた。


◆ 今日はやめる?


シジミは窓辺に座り、庭の様子を見ていた。


まだ、うちの人間は眠っている。


庭の端にある低い木へ、三羽のスズメが止まっていた。


以前なら、家へ着くなりすぐに鳴き始める。


「飯!」


「はよう飯!」


「起きろ!」


いつもの声である。


だが、その日は少し静かだった。


三羽は声を抑え、カラスの巣がある木を見ている。


一羽目が言った。


「いる?」


二羽目が、木の上を見た。


「一羽いる」


三羽目も枝の間を確かめる。


「巣の近くにもいる」


一羽目が少し体を低くした。


「二羽ともいるじゃないか」


二羽目が答える。


「子どもいるんだから、そりゃいるだろ」


「じゃあ今日はやめる?」


三羽は黙った。


庭には、まだ食事が出ていない。


うちの人間が起きなければ、何も始まらない。


食事を得るには、まず鳴かなければならない。


だが、騒げばカラスに見つかる。


静かにしていれば安全。


しかし、静かにしていれば、うちの人間はいつまでも眠っている。


難しい問題である。


一羽目が言った。


「少しくらいなら平気じゃない?」


二羽目が答える。


「昨日、追われたの忘れたのか?」


「追われたけど、逃げられた」


「ぎりぎりだっただろ」


「でも逃げられた」


「それを平気とは言わない」


三羽目が庭を見下ろした。


「でも飯は欲しい」


その一言で、全員が黙った。


それが問題のすべてだった。


◆ 一度楽な方法を知ると


カラスは怖い。


だが、食事は欲しい。


危険を避けるだけなら、ここへ来なければよい。


近くには別の庭もある。


道端にも、小さな食べ物が落ちていることがある。


畑へ行けば虫もいる。


だが、この庭では、決まった時間に、うちの人間が食事をまく。


探す必要がない。


掘る必要もない。


人間が持ってくるのを待つだけでよい。


一度それを覚えると、自分で探すのが少し面倒になる。


人間にもよくある。


歩けば行ける場所でも、乗り物を使う。


作れば食べられるものでも、外から運ばせる。


少し手を伸ばせば取れるものでも、近くの者へ頼む。


一度楽な方法を知ると、それ以前の方法が急に不便に感じられる。


スズメたちも同じらしい。


食事はほかでも手に入る。


だが、この庭で食べたい。


◆ 一羽だけ鳴く


一羽目が提案した。


「一羽だけ鳴く」


二羽目が首を傾げる。


「誰が?」


一羽目は答えなかった。


三羽目が言う。


「言い出したやつが鳴けばいい」


「どうして?」


「言い出したから」


「それは関係ないだろ」


「じゃあ、みんなで少しずつ鳴く?」


二羽目が巣のある木を見る。


「みんなで鳴いたら、余計に見つかる」


「一羽なら見つからない?」


「たぶん見つかる」


「じゃあ同じじゃないか」


話が進まない。


シジミは窓辺から三羽を見ていた。


普段なら、考えるより先に鳴く。


食事を出せ。


早くしろ。


まだか。


それだけである。


だが、危険が近くにあると、さすがに慎重になるらしい。


別の木から、さらに二羽のスズメが飛んできた。


庭へは降りず、三羽の近くへ止まる。


「まだ飯出てないの?」


一羽目が答える。


「人間が起きてない」


「鳴けばいいだろ」


「カラスがいる」


新しく来た一羽が、巣のある木を見た。


ちょうどそのとき、枝の上で黒い影が動いた。


カラスがこちらを向く。


五羽のスズメは一斉に体を低くした。


「見た?」


「見てる」


「こっち見てる」


「まだ何もしてないぞ」


「でも見てる」


カラスは鳴かなかった。


ただ、スズメたちを見ている。


それだけで十分だった。


巣の近くへ来るな。


庭で騒ぐな。


妙な動きをするな。


無言でも意味は伝わる。


新しく来たもう一羽が言った。


「今日はほかで食べない?」


最初からいた三羽目が答える。


「ここまで来たのに?」


「来ただけだろ」


「朝早くから来た」


「飛んできただけじゃないか」


「飛ぶのも疲れる」


「ここにいて追われるほうが疲れるだろ」


正しい。


だが、スズメたちは動かない。


帰る決心もつかない。


鳴く勇気もない。


庭の木の上で、巣と家を交互に見ている。



※第23話「スズメとカラス」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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