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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第22話 ハムスター

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(二)増えてないね

◆ 猫、近い


シジミは棚の下へ座り、箱の中を見上げた。


ハムスターはこちらに気づいている。


小さな鼻が、さらに細かく動く。


匂いで猫だと分かったらしい。


木くずの奥へ少し下がる。


「猫」


小さな声が聞こえた。


「近い」


ハムスターの言葉は、鳥より遅い。


ただし声が小さい。


意味は単純である。


危険。


大きい。


見られている。


近づくな。


その程度だ。


シジミは動かなかった。


捕まえるつもりはない。


箱へ前足をかけることもしない。


ただ、どのような動物か見ているだけである。


うちの人間が、シジミの視線に気づいた。


「シジミ、じーっと見てるけど、食べ物じゃないからね?」


食べ物とは思っていない。


現時点では。


ハムスターが食べられる生き物かどうかだけなら、おそらく食べられる。


猫より小さい。


動く。


外にいれば、獲物として見る猫もいるだろう。


だが、今のハムスターは、うちの人間が知人から預かったものである。


箱ごと大切に運ばれてきた。


食事の量や水の替え方まで紙へ書かれている。


うちの人間が何度も様子を確認している。


明らかに大切にされているものだ。


そういうものを優先的に食料とみなす道理はない。


非効率である。


食べれば一度は腹が満たされるかもしれない。


だが、そのあとが面倒だ。


うちの人間は騒ぐ。


知人へ謝る。


病院へ連れていかれる可能性もある。


箱へ近づくことを、今後さらに厳しく止められる。


食事の量まで減らされるかもしれない。


何より、普段の食事は決まった時間に出る。


わざわざ大切にされている小動物を狙い、大きな問題を起こす必要がない。


目の前の一口だけを見て、あとで起きることを考えないのは人間のすることである。


猫は、もっと先を見る。


◆ お友達ではない


うちの人間は、シジミが動かないのを見て、箱の前へ回り込んだ。


「狙っちゃ駄目だよ」


狙っていない。


「お友達だからね」


友達でもない。


今日初めて会った。


相手はシジミを警戒している。


シジミも、ハムスターのことをまだ何も知らない。


同じ家の中にいるだけで友達になるなら、棚や椅子とも友達にならなければならない。


人間は、二匹の動物を同じ場所へ置くと、すぐに仲良くなってほしがる。


猫と犬。


猫と鳥。


猫とハムスター。


種類の違う者が並んでいれば、


「仲良し」


という話にしたがる。


相手がどう思っているかは、あまり考えない。


うちの人間は、ハムスターへ向かって言った。


「怖くないよ。シジミは優しいから」


勝手に性質を決めないでほしい。


シジミは必要のないことをしないだけである。


優しいから襲わないのではない。


襲う利点がないから襲わない。


その違いは大きい。


だが、ハムスターには人間の言葉がよく分からない。


相変わらず木くずの中から、シジミを見ている。


「猫、まだいる」


いる。


ここはシジミの家でもある。


ハムスターのほうが、一時的に来ている。


相手が不安になるからといって、シジミが家を出る理由はない。


ただし、近くに居続ける必要もない。


シジミは棚の下から離れ、長椅子へ移動した。


うちの人間が、安心したように笑う。


「よかった。興味なくなったみたい」


なくなったわけではない。


確認が終わっただけである。


小さい。


警戒心が強い。


木くずへ潜る。


箱の外へは出られない。


人間が大切にしている。


現時点で必要な情報は得た。


いつまでも見続ける理由がない。


◆ ここ、変わらない


その夜。


家の中が静かになると、箱の中から音が聞こえ始めた。


昼間は木くずの中にいたハムスターが動き出したらしい。


食事を運ぶ音。


何かをかじる音。


そして、輪が回る音。


からからからから。


少し止まる。


また、からからからから。


うちの人間は寝台の上で目を開けた。


「思ったより音するなあ」


夜に動くと、紙に書かれていたはずだ。


輪を回すことも知っていた。


それでも、実際に音がすると驚く。


人間は、知っていることと想像できていることが同じではないらしい。


シジミは寝台の足元で耳を動かした。


ハムスターは走っている。


「走る」


「まだ走る」


「ここ、変わらない」


本人も、少し不思議に思っているようだった。


どれだけ走っても景色が変わらない。


それでも、また走る。


止まる。


食事を食べる。


また走る。


うちの人間が布団の中でつぶやく。


「元気だなあ」


昼間眠っていたからである。


人間が起きている時間に眠り、人間が眠る時間に動く。


それだけだ。


うちの人間は少し寝返りを打った。


輪の音が続く。


からからからから。


「もう少し静かに走れないのかな」


走るための輪に、静かさを求めている。


昼間に眠るハムスターを見て、


「全然動かない」


と言い。


夜に動き始めれば、


「音がする」


と言う。


どちらなら満足するのだろう。


ハムスターは、人間の生活時間へ合わせるために預けられたわけではない。


一時的にこの家へ来ただけである。


普段どおりに暮らしている。


うちの人間が、勝手に自分の都合と比べているだけだ。


◆ 増えてないね


翌朝。


うちの人間は眠そうな顔で起きた。


栗色の髪が頬へかかっている。


箱の前へ行き、中をのぞいた。


ハムスターは木くずの中で眠っていた。


「夜はあんなに元気だったのに」


夜に元気だったから、今は眠っている。


不思議ではない。


うちの人間は、食事の皿を確認した。


「結構減ってる」


食べたのである。


水も確認する。


「水も飲んでる」


飲んだのである。


輪を見る。


「いっぱい走ったねえ」


見ていたはずだ。


一つ一つ確認しなければ、安心できないらしい。


そして、箱の中をしばらく見つめたあと、うちの人間が言った。


「増えてないね」


増えない。


一晩で何が起きると思っていたのだろう。


ハムスターは一匹のままである。


体が二つに分かれた様子もない。


木くずの下に、もう一匹隠しているわけでもない。


うちの人間は、本当に少し安心したようだった。


一匹しかいないハムスターが一匹のままであることを確認し、安心する。


自分で考えた心配に、自分で疲れている。


シジミは長椅子から、その様子を見ていた。



※第22話「ハムスター」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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