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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第21話 カラスの子育て

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(三)近づかずに見守る

◆ 気をつけるべきは誰か


うちの人間は安全なところまで来ると、深く息を吐いた。


「びっくりした」


驚く理由はなかった。


最初から鳴いて警告されていた。


近くを飛ぶ前にも、何度も離れろと言われていた。


カラスは突然襲ってきたわけではない。


うちの人間が警告を理解できなかっただけである。


うちの人間は乱れた髪を手で整えた。


「シジミも気をつけないと駄目だよ。カラスって猫も襲うんだから」


知っている。


だから最初から距離を取っていた。


気をつける必要があるのは、うちの人間のほうである。


シジミは巣のある場所を知っていた。


カラスが子育て中であることも知っていた。


近づけば警戒されることも分かっていた。


一方、うちの人間は巣があると知りながら、わざわざ近づいた。


カラスの声を聞きながら、木を見上げた。


手まで持ち上げた。


追い払われたあとで、


「気性が荒い」


と文句を言う。


そして、何もしていないシジミへ気をつけろと言う。


人間は自分が失敗すると、近くにいる者へ注意をすることがある。


自分が転びそうになったあとで、


「足元に気をつけて」


と言う。


自分が忘れ物をしたあとで、


「忘れ物ない?」


と聞く。


自分がカラスへ近づいて追われたあとで、猫へ気をつけろと言う。


覚えたことをすぐ他者へ教えたくなるのだろう。


まず、自分で覚えたほうがよい。


◆ 別の道


その日の帰り道。


うちの人間は、また巣のある木の近くへ向かおうとした。


同じ道で帰れば、そこを通ることになる。


シジミは少し手前で、別の細い道へ入った。


遠回りにはなる。


だが、カラスの巣からは十分に離れられる。


うちの人間が足を止めた。


「シジミ、そっちじゃないよ」


そちらでよい。


巣の前を通らずに帰れる。


シジミはそのまま進んだ。


うちの人間は少し迷ったあと、あとからついてきた。


「今日はこっちから帰りたいの?」


今日だけではない。


子育てが終わるまでは、こちらのほうがよい。


うちの人間は、シジミが気まぐれに道を変えたと思っているようだった。


だが、理由はある。


少し距離が長くても、安全な道を選ぶ。


争わなくてよい相手とは争わない。


子を守っている親の近くへ、興味だけで近づかない。


人間より知能が低いと言われる猫でも、その程度は考える。


◆ ようやく学習した


翌日。


うちの人間は一人で外へ出た。


シジミは窓辺から、その姿を見ていた。


昨日と同じ方向へ歩いていく。


途中で、巣のある木へ続く道と、遠回りになる細い道に分かれる。


うちの人間は一度立ち止まった。


昨日カラスに追われたことを思い出したらしい。


少し考えたあと、細い道へ入った。


ようやく学習したようである。


シジミは少し感心した。


人間も、経験から学ぶことはある。


ただし、帰ってきたうちの人間は、こう言った。


「今日はカラスがいない道を通ってきた。あの辺のカラス、怖いから」


まだ少し違う。


あの辺のカラスが、特別に怖いわけではない。


今は子育て中だから、巣の近くを警戒している。


子が育ち、その場所を離れれば、同じカラスでも追ってこなくなるだろう。


いつでも。


どこでも。


誰にでも。


理由なく襲うわけではない。


状況によって行動が変わる。


動物として、普通のことである。


うちの人間だって、普段は穏やかである。


だが、シジミの食事を知らない者が勝手に持っていこうとすれば、怒るだろう。


家へ知らない人間が入ってくれば、警戒する。


大切にしているものへ手を伸ばされれば、止めようとする。


そのとき、相手から、


「人間って気性が荒い」


と言われたら、納得しないはずだ。


理由があると言うだろう。


勝手に入ってきた。


大切なものへ触れた。


守ろうとしただけ。


カラスも同じである。


だが、人間は自分の行動には理由があり、動物の行動は種類の性質だと思う。


自分が怒れば、怒らせた相手が悪い。


カラスが怒れば、カラスは気性が荒い。


ずいぶん自分たちに都合がよい。


◆ 近づかずに見守る


数日後。


うちの人間は窓から、巣のある木を遠くに眺めていた。


カラスが一羽、木の上を飛んでいる。


うちの人間は言った。


「赤ちゃん、無事に育ってるのかな」


追い払われても、子のことは気になるらしい。


それなら、近づかずに見守ればよい。


カラスが守っているのだから、任せておけばよい。


何でも自分の目で確認する必要はない。


人間は動物をかわいいと思うと、近くで見たがる。


子がいれば、さらに近づきたがる。


写真を撮る。


声をかける。


触れそうなら触ろうとする。


自分には悪意がないから、相手も怖がらないと思っている。


だが、悪意があるかどうかは、近づかれる側には分からない。


子育て中の親が、知らない者の善意を信じる必要もない。


距離を取る。


邪魔をしない。


見守る。


それも、相手を大切にする方法である。


うちの人間は窓の向こうを見ながら、少し考えた。


「子どもを守ってたんだもんね」


ようやく気づいたらしい。


シジミは窓辺で目を細めた。


「だから、あんなに怒ってたのか」


最初から、そうである。


カラスだから気性が荒いのではない。


親だから、子を守っていた。


理解するまでに何度か追われる必要はあったが、分かったなら悪くない。


うちの人間は、遠くの木を見ながら続けた。


「でも、やっぱり怖いなあ」


怖いのなら、近づかなければよい。


それも最初から分かっている。


シジミは猫語でつぶやく。


「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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