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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第21話 カラスの子育て

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(一)十分に怪しい

◆ 巣は勝手に出来上がらない


春が終わるころになると、家の近くでカラスが子育てを始める。


巣そのものは、春の初めから作っていた。


高い木の上へ、細い枝を何度も運んでいたので、シジミは知っている。


最初は一本。


次に二本。


少し曲がった枝。


短い枝。


どこかの人間が捨てた細い針金まで運んでいた。


カラスは空を飛べる。


そのため、人間はカラスが何でも簡単にできると思っているらしい。


だが、巣は勝手に出来上がるわけではない。


枝を探す。


くちばしで持つ。


高い場所まで運ぶ。


すでに置いた枝の間へ差し込む。


形が悪ければ抜き、別の場所へ置き直す。


一度運んだものが地面へ落ちることもある。


そのたびに、また拾いに降りる。


人間が家を作るほど大がかりではないが、カラスにとっては十分な仕事である。


うちの人間も、カラスが枝を運んでいるところを何度か見ていた。


窓辺に立ち、肩へ落ちた栗色の髪を耳へかけながら言う。


「巣を作ってるのかな」


作っている。


あれだけ何度も同じ木へ枝を運んでいるのだから、それ以外には考えにくい。


カラスが枝集めを趣味にしていると思ったのだろうか。


うちの人間は、巣のある木を見上げた。


「赤ちゃん、生まれるといいね」


そのときは、ずいぶん楽しそうだった。


カラスが枝を運べば、頑張っている。


巣ができれば、かわいい。


子が生まれれば、うれしい。


そこまではよい。


問題は、そのあとである。


◆ 子育て中のカラス


子育て中のカラスは気性が荒い。


正確には、普段より警戒心が強くなる。


近くを通る者。


巣を見上げる者。


足を止める者。


木へ近づく者。


自分たちの子へ危害を加える可能性があるものを、すべて注意深く見る。


必要だと判断すれば、鳴いて警告する。


近くを飛ぶ。


頭の上をかすめる。


それでも離れなければ、さらに強く追い払うこともある。


それはカラスが乱暴だからではない。


巣の中に、逃げられない子がいるからである。


大人のカラスなら、自分で飛べる。


危険が来れば距離を取れる。


高い場所へ逃げられる。


だが、子は違う。


まだ飛べない。


飛べるようになったばかりでも、うまく逃げられない。


巣の近くから動けない。


だから親が守る。


守らなければ、子が危険にさらされる。


当たり前のことである。


◆ 争う必要があるか


シジミは、カラスに負けるとは思っていない。


地面の上なら、動きの細かさはこちらが上である。


木や塀の上へ移れば、逃げ道も多い。


爪もある。


歯もある。


相手の動きを見て避けることもできる。


一羽を相手にするだけなら、どうにもならないとは思わない。


だが、だから近づくという話にはならない。


勝てるかもしれないことと、争う必要があることは別である。


怪我をすれば困る。


目を狙われれば危険である。


カラスにも仲間がいる。


一羽を避けても、別の一羽が後ろから来るかもしれない。


何より、わが子を守ろうとする動物の怖さを、シジミは知っている。


普段は逃げる動物でも、子がいれば逃げないことがある。


自分より大きな相手へも向かっていく。


傷つくことより、子を守ることを優先する。


そのときの動物は、強いか弱いかだけでは動かない。


追い払うまで諦めない。


シジミは、そのような相手へ不用意に近づいたりはしない。


巣のある木の近くは通らない。


どうしても通る必要があるなら、可能なかぎり距離を取る。


木を見上げない。


立ち止まらない。


カラスのほうへ体を向けない。


尾を大きく振らない。


毛を逆立てない。


敵意がないことを示しながら、静かに通り過ぎる。


相手の子に用はない。


縄張りを奪うつもりもない。


ただ道を通るだけである。


それが伝われば、カラスも必要以上には追ってこない。


動物同士なら、相手が何をしようとしているかを体の動きから読む。


見る。


近づく。


立ち止まる。


背を向ける。


距離を取る。


それぞれに意味がある。


◆ 十分に怪しい


ところが、うちの人間はそこらへんがまったく分かっていない。


巣が作られていた木の下を、いつもどおり通る。


しかも、カラスが鳴けば上を見る。


巣がありそうな場所を探す。


足を止める。


「あの辺かな」


などと言いながら、枝の間を見続ける。


カラスからすれば、十分に怪しい。


自分たちの巣の近くへ来た。


立ち止まった。


巣を見上げた。


子のいる場所を探している。


敵意があると思われても仕方がない。


その日も、うちの人間は何も考えずに巣の近くを歩いていた。


仕事へ行くときよりもゆったりした服装で、栗色の髪を低い位置でまとめている。


片手には小さな買い物袋。


もう片方の手には、絵の光る板を持っていた。


歩きながら見るものではない。


前を見たほうがよい。


シジミは少し離れた塀の上を歩いていた。


巣のある木へ近づくにつれ、カラスの声が聞こえてくる。


「来たぞ」


一羽が高い枝から、こちらを見ていた。


もう一羽は巣の近くにいる。


「下に人間」


「黒い猫もいる」


カラスはシジミのことも見ている。


当然である。


猫は木へ登れる。


鳥の子を狙うこともある。


カラスから見れば、人間よりも警戒すべき相手かもしれない。


シジミは塀の上で歩く位置を変えた。


巣のある木から、さらに離れる。


顔も向けない。


歩く速さも変えない。


気づいていないふりをするのではない。


そちらへ近づくつもりがないと示している。


枝の上のカラスが、シジミを見た。


「黒い猫、離れた」


巣の近くにいたカラスが答える。


「ならいい」


話が早い。



※第21話「カラスの子育て」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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