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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第8話 ジジ様は何も変わっていない

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(一)ジジ様が出る

◆ ジジ様が出る


今日は金〇ロードショーの日である。


うちの人間は、朝から何度もテレビの前を通るたびに番組表を確認していた。


朝、肩へ落ちた髪をまとめながら一度。


昼、飲み物を取りに来たついでに一度。


夕方、薄い色の部屋着へ着替えてから、もう一度。


放送される内容が、そのたびに変わるとは思えない。


一度確認すれば十分である。


それでも、うちの人間は画面に表示された題名を見るたび、満足そうにうなずいていた。


別に見るものなど、毎週同じようなものだろう。


人間が走ったり、怒鳴ったり、食べたり、誰かの秘密を暴いたりする。


たまに動物が出てきても、人間の都合に合わせて妙な声を当てられている。


猫なら妙に偉そうな話し方。


犬なら元気で単純な話し方。


小さな動物なら、なぜか語尾まで幼くなる。


人間は動物の言葉が分からないくせに、どのように話すかだけは勝手に決める。


だが、今日は違う。


あのジジ様が出る。


シジミは夕方から、テレビの正面にある一番見やすい場所を確保していた。


いつもなら、うちの人間が座る長椅子の真ん中である。


背もたれにもたれる必要はない。


画面までの距離もよい。


横から光が入ることもなく、音も正面から聞こえる。


番組を見るには、最も適した場所だ。


◆ 先に座った者の場所


うちの人間がやってきて、シジミを見る。


手には温かい飲み物を持ち、もう片方の腕には菓子の袋を抱えていた。


「そこ、私の場所なんだけど」


何を言っているのだろう。


先に座った者の場所である。


人間は毎日のように椅子や机や家に名前をつけ、自分のものだと主張する。


だが、実際にそこを使っている者がいるなら、いまはその者の場所だ。


それくらいも分からないのだから、人間の所有という考え方はずいぶんと雑である。


うちの人間は長椅子の前に立ち、シジミを見下ろした。


シジミも見上げる。


どちらも動かない。


うちの人間は少し首を傾けた。


髪が肩から滑り、頬へかかる。


指でそれを耳へかけながら、もう一度言った。


「少しくらい詰めてくれてもいいんじゃない?」


詰める理由がない。


シジミはすでに、必要な広さしか使っていない。


丸くなれば、もう少し狭くはできる。


だが、これからジジ様を見るのである。


前足をそろえ、姿勢を正し、いつでも画面へ集中できる状態にしておきたい。


長い時間、体を縮め続けるのは落ち着かない。


うちの人間はしばらくシジミと見つめ合ったあと、諦めて端に座った。


正しい判断である。


テーブルの上には、飲み物と菓子が置かれた。


飲み物からは甘い匂いがする。


菓子は袋を開けるたび、乾いた音を立てた。


二時間ほど絵の動く箱を見るだけなのに、なぜ食料まで用意する必要があるのかは分からない。


狩りをするわけでもない。


縄張りを守るわけでもない。


ただ座っているだけで腹が減るとは、人間の体はずいぶん燃費が悪いらしい。


しかも、うちの人間は夕食を食べたばかりである。


食事のあとに菓子を食べ、それを夜食ではなく別のものとして扱う。


人間は食べ物へ名前をつけることで、食べた回数まで少なく見せられると思っているのだろうか。


やがて、聞き慣れた音楽が流れ始めた。


うちの人間が少し姿勢を正す。


膝へかけていた薄い布を整え、飲み物を手の届く位置へ置く。


シジミも前足をそろえ、画面へ向き直った。


◆ 同じ黒猫ではない


そして、ジジ様が現れた。


黒く美しい毛並み。


無駄のない体つき。


暗い場所でも目立つ、鋭く輝く目。


何より、魔女の横にいながら、少しも媚びた様子がない。


今日もかっこいい。


うちの人間が、画面とシジミを見比べた。


「シジミと同じ黒猫だね」


同じではない。


たしかに毛の色は近い。


だが、耳の形も、目の色も、体格も違う。


尻尾の動かし方にも個性がある。


座るときの前足の位置も違う。


歩くときに体重を置く場所も違う。


鳴く前に耳を動かす癖も違う。


猫同士なら、一目見れば別の猫だと分かる。


人間は自分たちのことなら、髪型が違う、服が違う、顔が違うと細かく見分ける。


うちの人間など、髪の長さが少し変わっただけで、気づかなかった相手について何日も不満を言う。


前髪を切った。


毛先を整えた。


色が少し変わった。


猫から見れば、どれもほとんど同じである。


それでも人間同士には、重要な違いらしい。


そのくせ、猫になると毛の色だけで同じにする。


黒い猫を二匹見れば、似ていると言う。


白い猫を二匹見ても、似ていると言う。


模様があれば、今度は模様だけを見る。


それで猫を理解したつもりになっている。


とはいえ、ジジ様と同じ黒猫だと言われること自体は、悪い気はしない。


シジミは少しだけ胸を張った。


うちの人間がそれを見て、頭を撫でる。


指先から、淡い甘い匂いがした。


「シジミもかわいいよ」


だから、比べるところが違う。


ジジ様がかっこいいという話をしている。


かわいいかどうかではない。


人間は猫について褒める言葉を、ほとんどかわいいしか持っていない。


賢くてもかわいい。


強くてもかわいい。


険しい顔でもかわいい。


失敗してもかわいい。


怒っていてもかわいい。


どれほど違う姿を見せても、最後には同じ言葉へ押し込める。


便利ではあるが、ずいぶん雑である。



※第8話「ジジ様は何も変わっていない」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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